2011年12月  更新



 第百八十三回

  
点鐘散歩会 点鐘散歩会


    
春日若宮 おん祭り


 春日大社の摂社である若宮の御祭神は天押雲根命で、平安時代から水徳の神と仰がれていた。長承年間には大雨洪水飢饉が相次ぎ、疫病も蔓延したので、時の関白藤原忠通公が若宮の御霊威にすがり、壮麗な神殿を建てて祭礼を奉仕した。それがおん祭りの始まりといわれている。

 祭礼は毎年、12月15日から18日まで4日間にわたり行なわれ、中でも17日は遷幸の儀・暁祭・お渡り式・お旅所祭とまるまる一日24時間にわたって祀りがとり行われる。

 散歩会の一行は正午から行なわれるお渡り式を中心に見学した。お渡り式というのは、若宮さまの御旅所に参勤する行列で、巫女さんやお稚児さんが馬に乗ってお渡りをする。行列には、さまざまな時代の衣装をつけた人々が参加して、まさしく華やかな時代行列である。一の鳥居をくぐった辺りに「影向の松(ようごうのまつ)」と言うのがあって、その前で猿楽や舞楽や流鏑馬やいろいろな芸能が奉納されるという。

 句会を開く時間の関係で、催しを最後まで見ることは出来なかったが、賑やかな時代の装束を目の当たりにして、晴れやかな一日であった。


  

         




   
ひとり一句



   武器持つか楽器を持つか決めなさい    清水すみれ

   引き寄せてみたらなぁんだ神様か      中野 六助

   神主がぞろぞろ海の色になる         北川アキラ

   眼裏といういちばん遠いところ         八上 桐子

   時代小説になって眠っている         森田 律子

   鹿が噛んでいる12月のゆっくり        北村 幸子

   風といる風にならないようにして        徳永 政二

   御旅所に神の疲れが置いてある        本多 洋子

   のぼりにはそれぞれルビをつけてます    八木 侑子

   松から松へ飛ぶとき詩を落とす        小池 正博

   指定席は冬色 鹿につつかれて       墨 作二郎

   奈良は今コーティングしておん祭り     中村せつこ

   市女笠 女に重い枷があり          笠嶋恵美子


   人間の言葉に鹿のしらんぷり         瀬渡 良子

   松ぼっくり来たか来たかと転げだし      北原 照子

   冬の朝烏帽子の君とバッタリと        谷口  文






















                           2011年11月  更新


  第百八十二回

   点鐘散歩会 点鐘散歩会


     万博記念公園内
          
みんぱく
        
民族博物館へ





 国立民族間博物館・通称 「民博(みんぱく)」は大阪府吹田市の万博記念公園内にある。

 館内の展示は地域展示と通文化展示に大きく分かれている。地域展示ではオセアニア、アメリカ、ヨーロッパ、アフリカ、日本を含むアジア各地域に分かれ、オセアニアから東回りに世界を一周するようになっている。通文化展示は地域、民族毎に分けての展示ではなく、音楽と言語など世界の民族文化を通じて概観する展示である。


 この博物館では、諸民族の生活を知る衣食住などの生活用具をはじめとする標本やテープ・フイルム・映像文献など様々な資料や文献が保管され整理され、一部公開されている。当日は特別展示として「アイヌのくらし」展があった。


  
  紅葉は始まったばかり     みんぱく 入り口       バラ園を背に太陽の塔





  ひとり一句


   遠く遠く誰のものでもないカヌー     北村 幸子

   よこ軸に風たて軸に秋の空        中野 六助

   生姜飴ですねためらい傷ですね     森田 律子

   体温になるまで仮面はずせない     笠嶋恵美子

   海を拝んだ空を拝んだそんな顔     徳永 政二

   猫バスが来そうで秋の手を挙げる    峯 裕見子

   すっーと死者が集まる七並べ       川田由紀子


   わからないことを書道にしてしまう     北村 幸子

   見せましょうゆっくり穴に入るとこ     高橋ふでこ

   少年の指を忘れていない弦        八上 桐子

   人間の匂いを壷に入れておく       本多 洋子

   タクシーも来んしラクダにしませんか   芳賀 博子

   次の世へ渡る仮面をさがしつつ      今井 和子

   塔も息子もおっさんになりました      柴本ばっは

   少し余白があってアイヌの抒情詩は    墨 作二郎

   左手が冬をかくしたままで冬        高橋ふでこ

   お祭りで埋まった頃に戻りたい       藤井 孝作

   椅子の背もたれ逃亡を果す         前田芙巳代

   言語まで奪われていた植民地       松岡  篤

   ギィーコギィーコとサトウキビのシナリオ  北原 照子

   悠々と時を忘れているラクダ        瀬渡 良子

















                          2011年10月 更新



  第百八十一回


  点鐘散歩会  点鐘散歩会




   養源院から智積院へ


 養源院は、京都の三十三間堂の筋向いに位置する。
豊臣秀吉の側室 淀殿が父浅井長政の追善のために建立したお寺。養源院は長政の法名である。その後火災にあって消失したが、淀殿の妹お江(徳川秀忠の妻)が伏見城の遺構を用いて再興した。伏見城落城の際に自刀した鳥居元忠等の血で染められた廊下の板を天井にはり、供養したと言われている。これが血天井と言われるものである。血の跡は今も黒々と生々しく残っている。この本堂の襖や杉戸には俵屋宗達の筆で、自刀した武士たちの霊を慰めるため象や獅子や麒麟の絵が描かれている。以来徳川家の菩提所となり歴代将軍の位牌を祀っている。

 智積院は、真言宗智山派三千ヵ寺の総菩提所。大書院東側の名勝庭園は桃山時代に造られ利休好みの庭として有名。また長谷川等伯とその弟子たちによって描かれた「楓図」「松に立葵図」や等伯の長男久蔵の作とされる「桜図」など桃山時代を代表する貴重な障壁画が保存されている。



 

   養源院の狛犬         色づき始めた紅葉         宗達の杉戸の象
          

           今盛りの金木犀         智積院・利休好みの庭


  ひとり一句


   ちょうどいい位に庭をゆるませる       内田真理子

   古井戸のポンプ旧かな汲みあげる      八上 桐子

   済んだこと忘れたころよさるすべり      松田 俊彦

   石ひとつなだめきれずにいる小雨      北村 幸子

   宗達の噛みつきそうな波頭          柴本ばっは

   秋草の乱れには鍵が要るでしょう      辻 嬉久子

   白萩のうしろに間違えて並ぶ         畑山 美幸

   ストールをくるっと巻いてある京都      峯 裕見子

   キュッキュッと昔をほどく音がする       森田 律子

   さらさらと少し触れ合う少し離れる       今井 和子

   秋色に染まる頃にはおりません        笠嶋恵美子

   調味料なんかいらない血天井         小林満寿夫

   ゆるい坂ゆるく男を赦せそう          前田芙巳代

   獅子は八方にらみ裸電球ゆらいでいない  墨 作二郎

   一本の傘の内側 傘の外側          徳永 政二

   聞いてません黙って庭を見ています     藤井 孝作

   ひたすらに闇の出口を探ってる        八木 侑子

   イマジンが聴こえてる墨絵の大桜      岩根 彰子

   僧侶の列しずしずと雨はしとしと        北原 照子

   秋なのにしみの消えない白い壁       久恒 邦子

   戦国の世の無常が天井に           松岡  篤

   血の廊下まっ逆さまに見せられる       本多 洋子

























                           2011年9月  更新




  第百八十回

     点鐘散歩会


  堺 山口家住宅から妙国寺へ


 今回は大阪府の南に位置する堺市を訪れる。先ずは天王寺から阪堺電車に乗って上町台地を堺へ向かう。この電車は一両で走る「ちんちん電車」。利用者が少なくなってその存続が危ぶまれたが、文化的歴史的意義から、地元の強い要望で、現在も懐かしい姿を見せてくれている。ちんちん電車が走るのは大阪でもここだけ。沿線の綾之町駅で下車。徒歩三分ほどで山口家住宅につく。ここは、江戸時代初期の数少ない町家のひとつ。堺の町家歴史館として国の重要文化財にも指定されている。

 中に入ると、広い土間に面して畳の部屋が三室も並び、土間には太い梁の壮大な空間がある。

 山口家から妙国寺に至るまでの徒歩二十分程の間には、十指に余る寺々が並ぶいわゆる寺町で、与謝野晶子にゆかりの覚応寺・本願寺堺別院などに立ち寄りながら妙国寺に着く。

 ここは蘇鉄の寺とも呼ばれ、樹齢千年あまりの蘇鉄が堂々と繁っている。信長がこの蘇鉄を、安土城に移植してみたが、日夜妙国寺に帰ろうと泣いたので怒ってその蘇鉄を切りつけてしまったという。蘇鉄はやむなく妙国寺に返され、この地で蘇生を果し、今に至ったと伝えられている。

 慶応四年にはここで堺事件が起きたのは有名。フランス軍と土佐藩士が衝突した例の殺傷事件である。土佐藩士十一名がここで切腹を果している。

 家康や秀吉を慰めたという庭園をじっくり見ながら句作に励んだ。


  

  ちんちん電車             町家の表通り              説明板

         

        覚応寺 与謝野晶子の歌碑         妙国寺の蘇鉄



 
 ひとり一句


   家康と秀吉がいる蒸し暑さ           峯 裕見子

   掃除きらい料理きらいこんな大きい家きらい 柴本ばっは

   ブランコになるか木霊に戻るか 梁      清水すみれ

   土間抜けて裏に出るしかない煙        中野 六助

   さむらいの墓のあたりで汗を拭く        墨 作二郎

   ここからがいいとみんなになっている     徳永 政二

   駅の名をひとつ覚えて帰ります        笠嶋恵美子

   ちんちん電車どぜうも金魚も乗ってくる    本多 洋子

   雨雲はムーンウォークでやってきた      森田 律子

   空洞に恨み節など詰めておく          岩崎千佐子

   くけ糸の始末を誰に頼みましょう        内田真理子

   シュロは緑でお寺は赤で            北川アキラ

   天王寺のいっしょくたにまみれている     畑山 美幸

   踏み石を外して海へ出てみよう        藤井 孝作

   もっくりと太陽抱いている蘇鉄         八木 侑子

   語り部の貌して壷が置いてある        神野 節子

   よそものですごじゃごじゃと阪堺電車     北原 照子

   艱難に耐えてそてつの長い旅         瀬渡 良子




















                             
2011年8月 更新



 第百七十九回

   点鐘散歩会


    京都市美術館


  
 フェルメールからの手紙展


 門外不出といわれるアムステルダム国立美術館所蔵の「手紙を読む青衣の女」が修復後、初公開されて日本に上陸。今京都市美術館で展示されている。今回はそれと「手紙を書くおんな」と「手紙を書く女と召使」の3点が、フェルメール珠玉の3作品と名打って一堂に会していた。

 今回の展示は17世紀のオランダの風俗画の中で、特に手紙によるコミュニケーションを中心に取り上げ、さまざまな場面でのコミュニケーションのあり方を提示したテーマ展になっている。

 フェルメールの作品は3点のみであったが、当時のオランダの風俗画を様々なコミュニケーションのあり方という観点から四章に分類して興味深く展示されていた。

 第一章では、人々のやりとり・・しぐさ、視線、表情。
 第二章では、家族の絆、家族の空間。
 第三章では、職業上・学術的なコミュニケーション。
 第四章では、手紙を通したコミュニケーション。
で、フェルメールはこの第四章に分類されていたことになる。



  ひとり一句

   風の吹く窓辺で「ノン」という手紙     峯 裕見子

   返信にこちらの雲を送ります        清水すみれ


   スカートの中は壊れている電車      小林満寿夫

   天窓からそっと帰ってゆきました      太田のり子

   すこしずつ青で黄色でオランダで     墨 作二郎

   笑うので少し揺らしてくれますか      徳永 政二

   物語は終った青を脱ぎなさい        中野 六助

   ゆっくりと犬が動けばフェルメール     石田 柊馬

   眠る兵士 女はあきらめが早い       下谷 憲子

   押しピンの数を数えているホテル      辻 嬉久子

   光から影引いている許される        中村せつこ

   絵の中へ手紙の中へ戻らねば       西田 雅子

   終焉はラピスラズリの青になる       本多 洋子

   重いことはみんな額縁の裏側        森田 律子

   真ん中のビオラがどうも牽制球       岩根 彰子

   青衣の女はコレステロールの薬も飲む   畑山 美幸

   体臭はレモン 息遣いは山椒        久恒 邦子

   あの頃と同じ麦わら帽子です        平井 玲子

   羽根ペンを削るあなたを刺すために    谷口  文

   落書きをせずにしっかり書きなさい     八木 侑子

   いまおでこからことば引き出しているの   山田ゆみ葉

   はじめましてはるかとおいくにの青     道家えい子

   顔のない男が立っている真昼        笠嶋恵美子

   スポンジに青が浸透して行くような     神野 節子

   レターラックからメールでお返事       北原 照子

   ウルトラマンブルー海の青か空なのか   山下怜依子

   抽斗に溜まり始めた愛の色         瀬渡 良子
   


















                         2011年7月 更新




  第百七十八回

   
点鐘散歩会

   

   
史跡 今城塚古墳・古代歴史館

今城塚古墳(いましろづかこふん)は大阪府高槻市郡家新町(ぐんげしんまち)にある。6 世紀前半では最大級の前方後円墳。学術的には継体天皇の真の陵墓といわれている。西向きの墳丘の周囲には二重の濠がめぐり、総長約350m・総幅約340mもあり、日本最大の家形埴輪や精緻な武人埴輪が発見されている。中でも日本最大級の埴輪祭祀場や墳丘内石積み、石室基盤工など当時としては最先端の土木技術が発見されている。

 古代歴史観では三島古墳群の概要や古墳作りの工夫を、ジオラマ模型や映像を通じて解説されている。広大な今城公園内では祭祀に使われた様々なハニワ・(家・人物・動物)などが再現され並べられていた。



  

          



  ひとり一句


   スコップの先にコツンと天皇家        清水すみれ

   目も鼻も口も排水孔である           内田真理子

   欲しいのは日傘と傘をさす右手       中野 六助

   空を見る剥がしてみたいものがある     徳永 政二

   土と土と土でやさしくしてあげる        北村 幸子

   石を積む夜が崩れてこないよう        八上 桐子

   女人埴輪は手を上げている洗濯日和    墨 作二郎

   風が来て君のことばを運び去る        峯 裕見子

   夏雲をゆっくり食べている古墳        本多 洋子

   二列目の六番目からしずくする        森田 律子

   もう少しすると埴輪が笑います         笠嶋恵美子

   振り向かされたのはイケメンの埴輪      神野 節子

   たましいがすとんと落ちる埴輪の瞳      平井 玲子

   ほだされてお馬は埴輪になりました      藤井 孝作

   首のない巫女の埴輪の抱くものは       八木 侑子

   断層の叫び積み重なってアスファルト     北原 照子



















                           2011年6月 更新




第百七十七回
   
    
点鐘散歩会




   宝塚

     手塚治虫記念館 ブッタ展


  

   記念館外観          火の鳥モニュメント          入場券        




 手塚治虫は、5歳から24歳までの多感な青春時代を宝塚で過ごした。
宝塚市立手塚治虫記念館は、この宝塚の街で育まれた手塚治虫の精神である「自然への愛と生命の尊さ」を基本テーマに、氏の偉業を広く後世に伝え、未来を担う青少年に夢と希望を与える施設として、1994年に開館されたものである。
 外観はヨーロッパの古城をイメージし、吹き抜けの屋根はガラス製の地球をシンボルにしている。館内には数多くの手塚マンガが再現されており、治虫のゆかりの品々も並べられている。今回はことに、映画公開記念として「手塚治虫のブッタ展〜限りなく広がる創造力〜」が開催されていた。





  ひとり一句



  手塚治虫が机の上に置く夕陽          徳永 政二

  ねえアトム地球を少し持ち上げて        川田由紀子

  桜並木が振り分ける娘役・男役         畑山 美幸

  からっぽの引き出し雨の音つめる        八上 桐子

  好きか嫌いか二列目の蝶の羽          森田 律子

  火の鳥の翼を借りて逢いに行く          笠嶋恵美子

  葉脈の迷路で遊ぶてんとう虫           道家えいこ

  好きな漫画の好きな世界を生きたから      墨 作二郎

  ある時はアトムの顔になるブッタ         本多 洋子

  ピラフほおばるたちまち青葉浄土かな      夕  凪子

  みんなからブッタひとりからシッダルタ      藤井 孝作

  どうしようもなく二面体になっている        八木 侑子

  人それぞれに仏陀の世界入り込む        元永 宣子

  火の鳥よブッタの心の空を飛ぶ          北原 照子



















                          2011年5月 更新




  第百七十六回

      点鐘散歩会


      史跡 重要文化財

             適    塾




  適塾は、蘭学者・医者として周知の緒形洪庵が江戸後期に 大阪の船場に開いた蘭学の私塾で、正式には適々斎塾と言う。緒方洪庵の号「適々斎」がその名の由来である。幕末から明治維新にかけて活躍した多くの人材を輩出して、現在の大阪大学と慶応義塾大学の源流の一つとなったことで有名。

 昭和39年に国の重要文化財として指定されている。適塾は江戸末期の遺構として当時の船場町屋の姿を伝える貴重なものである。

 玄関を入ると教室・休憩室・土間中庭を挟んで台所応接室・客座敷家族部屋などがあり、急な箱階段を登って二階にあがる。二階にはヅーフ部屋・女中部屋・塾生の大部屋があり、当時の蘭学医学書・辞典・解体新書などの資料が展示されていた。適塾をめぐる人々のなかには橋本左内・大村益次郎・福沢諭吉など有名人が続出。それぞれの業績などが紹介されていた。


 建物の周辺には 中之島公園があり明治期の洋風建築である赤い煉瓦造りの中央公会堂が今も現役で残っている。句会はその公会堂の一室で行なった。

 中之島公園の尖端にある薔薇園は今まさに満開の時期。様々に咲き競う香りの中を自由に散策・吟行の清々しい一日であった。





   
          




  ひとり一句




  ここからは五月出口になっている        徳永 政二

  大阪弁でまくし立ててる放置自転車      岩根 彰子

  バラの赤まだ約束が返せない          清水すみれ

  板の間のひんやり母の居たところ        中野 六助

  一人ずつ降りてくださいこの世です       八上 桐子

  理髪屋の軒が昔に傾いて            八木 侑子

  すぐそこのように歴史が前に出る        たむらあきこ

  横書でオランダ縦書きで大阪          本多 洋子

  男心は面倒なのだ 重いのだ          前田芙巳代

  夕闇は怖いだろうな古い家            安土 理恵

  ひなびた風に逢う大阪のまんなか        今井 和子

  栴檀の木の橋渡る解体新書           笠嶋恵美子

  水音は五月のたしか昔のたしか         墨 作二郎

  がたろうが昔いたとはこの川に          田頭 良子

  少年の色だった楠の若葉             柴本ばっは

  ひと跨ぎ出来そう階段の高さ           神野 節子

  中之島にスワン薄ピンクの吐息         北原 照子

  

















                           2011年4月 更新

   第百七十五回
 

      
点鐘散歩会



   奈良氷室神社から依水園へ




 奈良国立博物館のすぐ近くに 氷室神社というちいさな神社があります。
ここには樹齢400年というしだれ桜があって、奈良で一番先に開花します。それを合図のように奈良中の桜が咲き始めると言われています。

 ここでは平安京の昔から氷の神さまをお祭していて、毎年五月には献氷祭が行なわれるという謂れのある神社でもあります。

 この神社のしだれ桜の満開に出会うのは余程運がいいと言われています。今年の春は低温の日が続いたので、私たちが訪れた四月六日にはそれは見事なしだれ桜に逢うことが出来ました。

 次にそこから 五分ばかり歩いたところにある依水園を訪れました。ここは池泉回遊式庭園で国の名勝に指定されています。若草山や東大寺の南大門などを借景とした広大な庭園です。




  

          






 ひとり一句


   ゆっくりと歩くとみんな春になる          徳永 政二

   濁り水むかしばなしが終わらない        清水すみれ

   哲学を捨てて真面目になる水車         中野 六助

   全身で今年も咲いていいですか         八上 桐子

   ふと私 桜だったか鹿だったか          小野 善江

   もくれんの見てはいけないような白        北村 幸子

   サインはVそう言って頂ければ桜         小林満寿夫

   灯籠は神々の親指である             福尾 圭司

   「あ」と「ん」の間に浮いているこの世       丸本うらら

   弟を攫われたのはこのあたり           笠嶋恵美子

   若草山はなだらかでいいよなあ          畑山 美幸


   追いかけていたのは水の影だった        本多 洋子

   狛犬さんの尻尾 しだれ桜の尻尾        墨 作二郎

   やわらかに春を編んでる水車小屋        八木 侑子

   妄想に妄想かさね花の下             田中 女里

   本当ですか夜桜が匂うって            道家えい子


   落ち椿ここは立ち入り禁止です          北原 照子











 

     
次回 散歩会

    日 時 平成23年5月13日 金

    行く先 淀屋橋  適塾

    集 合 中之島 中央公会堂前 10時

    句会場 中央公会堂 1時より



   
こぞってご参加下さい。結果はこの欄にて報告いたします。









                       
 2011年3月  更新






 第百七十四回  

     点鐘散歩会






   
京都   等持院


  等持院は足利将軍家の菩提寺。尊氏が等持寺の別院として、夢窓国師を開山として創建したものである。山門から砂利道の参道をぬけると正面に立派な庫裏があり、右手に方丈がある。方丈の広縁は鴬張りである。渡り廊下の向こうに霊光殿があって歴代足利将軍の木像がずらりと並べられている。庭園は衣笠山を借景として西に芙蓉池、北に茶室を配した池泉回遊式に造られている。庭には早くも馬酔木が可憐な花の房をつけ、侘助の桃色がみどりの苔に静かに散らかっていた。ふいに時雨が来て春の浅さが身にしみた。




  

         

           足利尊氏の墓            庭園の心字池






 ひとり一句




   三月のこれが上半身である          徳永 政二

   将軍様だから絶滅危惧種だから       石田 柊馬

   箱書きの箱の中身は胃かいよう       内田真理子

   梅に似たものがあふれている電車      北村 幸子


   さあどうぞと冬が忘れていった椅子      中野 六助

   省三は緑になった青かった          藤井 孝作

   さざんかの下をくぐればまっぴるま      峯 裕見子

   あの子が欲しいこの子はいらぬ竹囲い    岩根 彰子

   順路からはずれて風を聞いている      笠嶋恵美子

   木の橋をくぐるとやわらかい水に       本多 洋子

   なーんにも答えないからきれいな目     小林満寿夫

   椿かな夢窓国師の欠伸かな          筒井 祥文

   今春を泡立てているところです         西田 雅子

   あしたには忘れてくれる白い梅        八上 桐子

   転んだら転んだ先で生きている        前田芙巳代

   人と人の間に梅がいてくれる          畑山 美幸

   コップからこぼれる等持院からこぼれる    墨 作二郎

   凍結部切り離したら春である          森田 律子

   春はまだ土の中だと言う景色          今井 和子

   蓬莱島の少しいけずな枯れた枝        北原 照子


   
  


















                          2011年2月  更新





 
第百七十三回

  点鐘散歩会


    京都嵐山 

          時雨殿    小倉百人一首の殿堂


 
  藤原定家が百人一首を選んだ地、小倉山の麓・嵐山の渡月橋の近くに時雨殿は位置している。財団法人小倉百人一首文化財団が2006年一月に設立開館したものである。

 館内では、デジタル映像技術や携帯端末などハイテク機能を使用した新しい百人一首を体験することが出来る。一階床面には液晶ディスプレイが70枚も敷きつめられており、上に立ってかるたや京都の空中散歩が出来るようになっている。二階は資料展示とかるた競技用の大広間になっており、普段は百人一首の詠み人の姫君や僧侶など等身大の人形が配置されている。

 会館全体は滑るような廊下と大きなガラス板で包囲されていて、すぐ近くの小倉山や大堰川が目の前に広がり展望は抜群である。
 一行は三々五々集まってはかるたに興じたり、作句に励んだりしていた。





          

                 





  ひとり一句




   老女にはきなこまぶして座らせる       峯 裕見子

   木の高さだけがほんとうでした冬       徳永 政二

   空中からおてつきの足ぬっと出る       西田 雅子

   舟をひっぱっている梅二輪          森田 律子

   ふるえないように小鳥をとまらせる       北村 幸子

   踏んづけたところが闇になっている      中野 六助

   毛羽立ってきている二月の先っぽ       八上 桐子

   罪を重ねて罪のひとつと老いてゆく      前田芙巳代


   三枚めにはさむ枝折戸のひびき        内田真理子

   柚子の黄は清少納言だと思う         本多 洋子

   立春や十二単を脱がされる          川田由紀子

   柿は居残り冬から春の身の上話        墨 作二郎

   下の句もおおかた忘れかるたの角      畑山 美幸
 
   恋うたの貼りまぜ屏風春になる        笠嶋恵美子

   ハイテクを知るも知らぬも小倉殿       藤井 孝作


   川の流れについてくるのよ手打ちそば    辻 嬉久子

   パネル押す小野小町のツイッター       北原 照子

   残像はデジタルお喋りは続く          前中 知栄

   四方八方鼻濁音に囲まれる          岩根 彰子


   

   











                           2011年1月 更新



  第百七十二回

         点鐘散歩会



  奈良 興福寺宝物館から

        国立博物館内 仏像館へ


 成人の日も済み、鏡開きも済んでお正月気分も少しは抜けた13日、新年第一回の点鐘散歩会は奈良興福寺から出発した。
 近鉄奈良駅から国立博物館までは、興福寺の境内を通り抜ける。
時間もたっぷりある事なので、途中国宝館と東金堂にも立ち寄ることにした。2010年に国宝館はすっかりリニュアルされて、仏像を間近に拝観できるようにガラスケースを外した露出展示になっていた。
 展示されている仏像は粒よりの国宝ばかり。憧れの阿修羅像も程よい照明のもと、八部衆の仲間たちと静かに佇んでいた。十大弟子の乾漆立像やユーモアたっぷりの天燈鬼や龍燈鬼もこころ行くまで鑑賞できた。国宝館ですっかり時間を取ってしまった一行。博物館まで足を延ばせたのは数人にとどまった。いずれにしても奈良の仏像を満喫するまでじっくり味合うことが出来たのは良かった。



  



  ひとり一句


 水匂うことばの要らぬあたりまで           峯 裕見子

 救ってくれそうな中指の微妙             北村 幸子

 青い青い真ん中音がするようだ           徳永 政二

 さりげなくうつむく時は鹿である           森田 律子

 吽になかなか辿り着けない              畑山 美幸

 水かきがないので君を掬えない           笠嶋恵美子

 千年を欠片さがしている欠片             八上 桐子

 哀しくて悲しくて千手観音の手元          前田芙巳代

 疼くのは厳冬の阿修羅の指              本多 洋子

 水晶玉 奈良の都の写し絵の            北原 照子

 如来の手のひらの生命線につづく         今井 和子

 遠い恋ひっぱるアルカイックスマイル        八木 侑子

 龍燈鬼腕組み踏ん張って未来志向        墨 作二郎

  

春日若宮おん祭りのお旅所

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外に出て川柳を創ってみませんか?

川柳の吟行句会です。月に一回は行なっています。

点鐘散歩会は、2010年末までにすでに百七十回を数えました。

本年も頑張って近畿圏の各地を訪れてみたいと思っております。

ふるってご参加くださいますようお待ちしております。

外に出て川柳




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