2010年12月  更新



 第百七十一回 点鐘散歩会




   京都   本法寺


 日蓮宗本山 叡昌山本法寺は日親上人の開創で、永享八年に建立された。日親上人は将軍足利義教に立正治国論を献じ平和の招来を直言したが、これがまた将軍の忌諱に触れ獄舎に投ぜられたという。紆余曲折を経て天正十五年、第十世日通上人は寺領千石の寄進と光悦の父光二の私財を投じて再建、伽藍は厳然として 日蓮宗門の一大偉観を呈することとなる。その後大火に何度もみまわれながら、信徒の再建の悲願は結実され今日の本法寺に至っている。
 本寺には 本阿弥光悦作の「巴の庭」や長谷川等伯筆の「涅槃図」が大切に保存されている。


 
   

   本法寺多宝塔           光悦作  巴の庭           光悦垣


        

                    参加の一行   撮影 恵美子





  ひとり一句


   複製のねはんに複製の合掌           清水すみれ

   読み解いてみれば石ひとつで足りる       たむらあきこ

   二番の扉から雲上へあがれます         森田 律子

   金曜をうすくのばして敷きつめる         西田 雅子

   かたわらに等伯がいて冬がいて          中野 六助

   ただ黒く黒くあいさつしてくれる          徳永 政二

   全部散るまでは黙っているつもり         北村 幸子

   白象のウォーンウォーンと哭く真冬        内田真理子

   悟りなら黒い袋に詰めてある            本多 洋子

   涅槃図の月は湿ったままでした          八上 桐子

   石二つ並べて答まだ出ない            笠嶋恵美子

   説教を聞きなさい人間になりなさい        安土 理恵

   松のくねりを言うてはならぬのかえ常夜燈    辻 嬉久子


   三つ巴の庭に切り込む実南天          小林満寿夫

   足裏に色気の匂う涅槃図よ            岩根 彰子

   つくばいが冬日の寂をためている         八木 侑子

   青空も落葉も雲も十二月              北原 照子












 

 



                           2010年11月 更新






  第百七十回  点鐘散歩会







  尼崎 近松記念公園から広済寺へ


          


   

      広済寺 山門         近松門左衛門の墓      公園の入り口付近







 秋から冬へ季節が一足飛びに変わり始めた11月2日、一行16人は、JR尼崎駅から、バスで近松記念公園へ。広い公園内の片隅にあるこじんまりした近松記念会館を訪れた。

 公園には小川のせせらぎや池、あづまやが配置されていて回遊式日本庭園になっている。公園のすぐ隣りには近松門左衛門の菩提寺である広済寺があり、大きなモチの樹の下にひっそりと近松門左衛門の墓所があった。

 広済寺の開山にあたって近松門左衛門が深いかかわりを持っていたことは「広済寺開山講中列名縁起」に書かれていると言う。

 当時、本堂裏には「近松部屋」という六畳二間と奥座敷のある建物があり、近松はここで数々の浄瑠璃本の執筆をしたらしい。したがって近松記念館には広済寺に残された近松ゆかりの数々の遺品が陳列されている。例えば近松が使っていたといわれる矢立や版木、建物の一部である木の段梯子など。係員の丁寧な説明を聞きながら、鉛筆はしきりに句箋を走らせていた。





   ひとり一句



   鳥の声になるまで水を見てなさい     八上 桐子

   やっぱりと思う やっぱりから落ちる    徳永 政二

   何もかも終わって人形のまぶた      北村 幸子

   ほっぺたの力を抜いて見上げてる     森田 律子

   さらさらと死ぬ約束が書いてある      峯 裕見子

   近松の赤がどこにも見えません       松田 俊彦

   日溜りの丸い背中はみんな猫        畑山 美幸

   最後には小さな石を握りたい        高橋ふでこ

   マンホールの蓋 近松を濡らす雨      墨 作二郎

   冥土から戻って来ない段梯子        笠嶋恵美子

   近松の墓フランスパンになっている     八木 侑子

   影は立ち上がる 梅川も立ち上がる     前田芙巳代

   自転車が考えごとをして木陰         本多 洋子

   母のこと近松のこと秋の風           中村せつこ

   梅川の像を横切る未来行き飛行機      北原 照子

   逃げていくつかもうとするまた逃げる     今井 和子






   













                            2010年10月  更新




  第百六十九回

        点鐘散歩会


     大阪市立科学館

                 プラネタリウム

 
   

  科学館正面のディスプレイ     科学館 全貌       展示・ 太陽系の説明


 北区中之島にある大阪市立科学館。その昔四ツ橋にあった電気科学館といえば懐かしむ人も沢山おられる事と思う。今は建物も近代的になり、「科学でひらこう地球のあした」をテーマに最新の技術を誇る展示がなされている。

 プラネタリウムは地下ホールで上映され、専門のスタッフがその日の夜空に見える大阪の星や星座について説明してくれる。

 展示場は四階に「宇宙とその発見」、三階には「身近な化学」、二階は「おやこで科学」一階で「電気とエネルギー」に分かれていて、誰でも解りやすく楽しめるように展示説明されている。




  ひとり一句


   大阪をぐにゅっとすれば星になる        徳永 政二

   秋空へぐいぐい伸びている四角         墨 作二郎

   言いそびれ山羊座の角にひっかかる      北村 幸子

   ランプがついている間は私です         森田 律子

   今夜は星の炊き込みご飯にしょう        畑山 美幸

   私の魚座は首のだるいとこ            瀬尾 照一

   秋へ入るひとつも釦ない服で           八上 桐子

   化合物でしたか僕のくらいとこ          中野 六助

   チケットをもがれてペガサスになった      赤松ますみ

   つまらん事言うな言うなとほうき星        中村せつこ

   私を見つめる まばたきしない星         本多 洋子

   眠っている間に星になっていた          笠嶋恵美子

   エンピツと何度もくぐる銀河系           岩根 彰子

   八十一が81の顔覗く                田頭 良子

   




















                           2010年 9月 更新




第百六十八回  

    点鐘散歩会



  京都   錦市場から六角堂



 秋の気配にはまだまだ程遠い今年の九月。京都は河原町に十時に集合した一行は、先ず錦天神に参拝して西へ。錦市場を物色しながら 六角堂までを散策した。

 錦市場は中央区のほぼ中ほど。錦小路のうち寺町通りから高倉通りの間の商店街を言う。約400年の歴史があり、京都市民からは「にしき」という愛称で呼ばれ親しまれている。かっては京の台所として地元の市民で賑わったらしいが、現在では観光客や修学旅行生や外人の姿も見られ観光の名所である。

 両側に賑々しく並んだ商店には、魚や京野菜などの生鮮食材や乾物・漬物・おばんざいなどの加工食品も扱っている。

 買い物や作句をしながら商店街を抜け、六角堂に到着。

六角堂、寺号は、紫雲山頂法寺。「ろっかくさん」の名称で京のひとびとから親しまれている。聖徳太子建立の堂。太子沐浴の池跡もある。



   

     錦天神           カラフルなアーケード            漬物店

      
    

                六角堂             無縁地蔵など



  ひとり一句

   性根などないから葱は葱のまま          清水すみれ

   晒一反たたんでからがおもしろい         峯 裕見子

   九月になったら九月をすすぐ洗面器       内田真理子

   さみしさはもうすぐ入荷いたします         中野 六助

   いらっしゃいませが昆布になっている       徳永 政二

   試食していると水たまりになった          小林満寿夫

   包丁はみんな私に向いている           松田 俊彦

   五重塔はロッカーにございます           森田 律子

   独りにはひとりの暮らし卸し金            前田芙巳代

   かなかなかな長い夢かなするめかな        八上 桐子

   六角堂の十六羅漢を六で割る           辻 嬉久子

   鹿ヶ谷かぼちゃわがまま通しきる          北村 幸子

   焼肝の串をつまんでいた豊次           墨 作二郎

   干柿干し芋わたしも横に並ばせる         岩根 彰子

   知らないぞ晩夏のサナギしらないぞ        石田 柊馬

   夏バテや上目使いのどじょうが居て        本多 洋子

   七味屋のすり鉢になる評論家           安土 理恵

   異邦人足袋屋でサイズ聞いている        八木 侑子

   加茂茄子の睨みをきかす錦市場         神野 節子

   片陰を歩けば辿り着けますか           笠嶋恵美子

   京野菜べっぴんさんで高こおすえ        北原 照子













                           2010年8月 更新




第百六十七回

    点鐘散歩会



    総本山 四天王寺

四天王寺(してんのうじ)は大阪市天王寺区にある寺院。聖徳太子の建立七大寺の一つとされている。山号は荒陵山(あらはかさん)、本尊は救世観音菩薩(くせかんのんぼさつ)である。今から1400年前 推古天皇元年に建立された。
 その伽藍配置は「四天王寺式伽藍配置」といわれ、南から北へ向かって、中門・五重塔・金堂・講堂を一直線に並べ、それを回廊が囲む形式で、日本では最も古い建築様式の一つとされている。その源流は中国や朝鮮半島に見られ、6ー7世紀の大陸の様式を今日に伝える貴重な存在とされている。
 広大な境内には日本三大鳥居とされる石の鳥居・布袋堂・北鐘堂・亀の池・六時堂・亀井堂・本坊庭園など散在している。
 8月9日から13日まではお盆の時期とあって折からその準備に追われる様子も見受けられた。



        
           布袋堂                 亀遊嶋弁天堂
   

        亀の池              伽藍の回廊             石の鳥居



 ひとり一句


   入道雲から水なすが落ちてくる      小池 正博

   それはもう済んだことやし女やし      峯 裕見子

   冗談にしては黄色が足りません      森田 律子

   コーヒーをサハラ砂漠に流し込む     中村せつこ

   手をあわす人とあちこちさわる人      徳永 政二

   経を読むいちにちいちじくのいちにち   辻 嬉久子

   視野の中横切ったのは壁の馬       清水すみれ

   凭れたら凭れかえしてくる仁王       前田芙巳代

   蓮ひらく息を大きくとめている        本多 洋子

   亀のいる池は亀の色になる         畑山 美幸

   みほとけはこっちゴミ箱はあっち      中野 六助

   蝉シャンシャンいちじく二百三十円     瀬尾 照一

   弱法師の杖から先が汗になる        墨 作二郎

   ゴーンゴ―ン大きいものが降りてくる    北村 幸子

   一切を聞かずに通す仁王像        元永 宣子

   僧には僧の色気があって寺の中      田頭 良子

   正方形このすばらしい聖徳太子      小林満寿夫

   何をつかもう螺旋階段のぼってる     今井 和子

   じゅんぐりと仏をおがむ蝉しぐれ      笠嶋恵美子

   声明を煽る蝉声やけっぱち        八木 侑子

   飛天像移転 迷子になった今日      北原 照子















                          2010年7月 更新






  第百六十六回

          点鐘散歩会




  ボストン美術館展  於・京都市美術館

                    西洋画の巨匠たち



 ボストン美術館は、1870年に設立されたアメリカで最も古い美術館の一つである。今回はその中でも、ヨーロッパの絵画部門から、16世紀から17世紀にかけての西洋絵画の巨匠の傑作80点を選んで展示されている。それもテーマ別に、「宗教」「肖像」「静物」「風景」「日常」といった具合に配列されていて、時代や国を越えた巨匠たちの共通点やつながりがよく解る。ハイライトは印象派の代表モネの名作11点だった。




  
 オーヴェールの家々 ゴッホ    馬鈴薯植え  ミレー    積みわら(日没) モネ  





  ひとり一句




   蝉が啼く七月六日の絵の具箱         墨 作二郎

   顔はもう消えてしまっている水辺        峯 裕見子

   てのひらの杭を永遠から抜こう         内田真理子

   人間の首の重さを確かめる           中野 六助

   うつむいているのに楽しくなってくる      清水すみれ

   神様にもらった神様に返した          森田 律子

   どうしても青い音しか出ぬギター        久恒 邦子

   しばらくは風だと思うことにする         徳永 政二

   白桃は割れるしラ・フランスは逃げるし     辻 嬉久子

   まだ人の一部キリストのかかと          北村 幸子

   両肩に光をのせて動けない           八上 桐子

   肖像画の洋服 虫干しをしよう         畑山 美幸

   いろいろな人の絵の具を見て回る       筒井 祥文

   セザンヌ万歳 空調が効き過ぎる       小林満寿夫

   桃は歪で消費税はどうなるの          前田芙巳代

   ブラックの桃には疵がついている        本多 洋子

   点描の海点描の丘 独り             藤井 孝作

   四隅から運命の根が生えている        高橋ふでこ

   半分の桃で充分足りてます           神野 節子

   ビザなしでひょいとボストンまで行った     笠嶋恵美子

   父の首かも知れぬ私の首かもしれぬやがて  今井 和子

   美しい鎖骨は必ずピカソを棄てる        岩根 彰子

   哀しみに黒いマントはぬれている        八木 侑子

   君思う悲しき君の足音を待つ          北原 照子

















                           
2010年6月 更新





 第百六十五回


          
点鐘散歩会



      奈良
        
唐招提寺


 今は、遷都千三百年という事もあって、奈良はどことも観光客で大賑わい。私達が訪れた6月7日、唐招提寺の御影堂では鑑真和上像と東山魁夷の襖絵の公開の日に重なって平素は静かな境内もまるで都会なみの賑わいであった。

 唐招提寺は南都六宗のひとつである律宗の総本山。開山は唐僧鑑真和上。大唐国揚州大明寺の高僧であったが授戒の師として来朝。754年東大寺に到着するまで12年間、5回に及ぶ難航海の末、奈良に到着したがその時はすでに失明していたという話はあまりにも有名。

 伽藍の金堂・講堂・鼓楼はすべて国宝。なかでも金堂の正面の八本の太い円柱はエンタシスとしてこの建物の一番のみどころとなっている。金堂内中央には盧舎那仏向かって右に薬師如来左に千手観音の巨像が安置されている。廬舎那仏・薬師・観音の三尊の組み合わせは他に類がなく、天下三戒壇を表しているとする説もある。




  


            





  ひとり一句



  これだけの人を隠している緑        北村 幸子

  ひとふでに含ます森のようなもの      中野 六助

  千手観音その暗がりと明るさと       墨 作二郎

  どの水も濁って楽に生きている       清水すみれ

  千本の一本にわたくしの痛み        太田のりこ

  鬼瓦の鼻は過呼吸気味である       岩根 彰子

  たぐってゆけば雲たぐりよせれば風     森田 律子

  六月の闇 千本の手が重い         本多 洋子

  竹を割っている内閣総崩れ          福尾 圭司

  甍の話はもうしたくないツバメ        畑山 美幸

  またひとり屋根のかたちになっている    徳永 政二

  お供えの野菜は疲れ切っている       安土 理恵

  二〇%オフ 和上のストラップ         松田 俊彦

  ここにいるみんななにかを失って       八上 桐子

  重いもの背負って六月の甍          中村せつこ

  手のひらが塩からいままねむってる     高橋ふでこ

  米粒をいっぱい食べる盧舎那仏       小林満寿夫

  おとといを水に流して青もみじ         笠嶋恵美子

  マチュピチュをみた戒壇をみましたよ     藤井 孝作
      つ
  あとを追ければ吉村さんちのつばくらめ    内田真理子

  くちた塀に火をともしてるざくろの朱      八木 侑子

  奈良行きが遅れています 迷子です     北原 照子

















                            2010年5月 更新




  第百六十四回
               点鐘散歩会



 水上バス アクアライナー 乗船



 淀屋橋水上バス乗り場を十時二十分に乗船。あらかじめ団体の予約を取っておいたので、23名まとまった指定席。船はご自慢のおおきなガラス張り。あいにくポチポチと雨もようであったが快適にスタート。船は先ず栴檀木橋・難波橋・天神橋をくぐり、造幣局の今はもう葉桜を横目に桜ノ宮OAP港に立ち寄ってすぐUターン。大川から寝屋川にはいってビルの林立するビジネスパークを通り大阪城港に寄る。旧砲兵工廠の煉瓦建造物などに戦争の傷痕をみる。船内のガイドは大阪の歴史をカイツマンデ話してくれるが、皆は作句に懸命。帰りは八軒屋浜船着場に寄ってもとの淀屋橋乗船場まで約一時間のコースで戻る。
 中之島バラ園でゆとりの時間を散策。食事は中央公会堂レストランのオムライスが好評であった。





   

      ポスターより          淀屋橋界隈           中央公会堂


             

         中之島公園のバラ園      薔薇は色とりどりのの見ごろ






  ひとり一句





   どこをどう流れてこんな色になる       畑山 美幸

   うねるものあって宥めるものあって     中野 六助

   大阪の痒いところに舟は着く        八上 桐子

   優しさに傾く舟になっている         清水すみれ

   溜め息の深いところも夏である       森田 律子

   老いてゆくこだわりのある赤レンガ     北村 幸子

   寝屋川揺れて大根百本届きます      太田のり子

   昼時もビジネス街は真四角ね        八木 侑子

   バラの庭さみしいことは横におく       松田 俊彦

   トンネルは不思議戦争は敗けました     前田芙巳代

   大阪の靴は悩んでいるようだ         徳永 政二

   淀屋橋あたりが濡れる米朝ばなし      墨 作二郎

   雨の日のバラ重たくて重たくて        柴本ばっは

   ビニール袋が泳ぐ造幣局の裏        北原 照子

   橋をくぐって橋をくぐってまた橋で      安土 理恵

   大正の匂いさせてる赤煉瓦          藤井 孝作

   右腕はすでに川面にのまれてる       高橋ふでこ

   日銀がとっても暗い中之島          本多 洋子

   橋の名をひとつ憶えて帰ります        笠嶋恵美子

   ハイテクで水までうごく楽しさに        さくら風子

   のど飴をとかしています乗船場        瀬尾 照一

   残像の迷路は行ったり来たりして       川上千寿枝

   人の世は川の流れに浮かぶ舟        長浦 泰子








   






                           2010年4月  更新






  第百六十三回 点鐘散歩会


          京都 山科 毘沙門堂


  
   

          





 毘沙門堂は天台宗五箇室門跡の一つ。正しくは護法山出雲寺と言う。江戸時代に復興された際にご本尊に毘沙門天を拝したことから、通称毘沙門堂と呼ばれている。
 本堂に併設されている霊殿の天井には龍が描かれ、目の向きや顔が見る角度により変化すると言われている。境内の奥には回遊式庭園があり、亀石や座禅石を配置した名園である。

 曇天で花冷えの一日ではあったが、桜は丁度満開。近くを流れる疎水のぐるりには菜の花とさくらが競演して爽やかなシンフォニーを奏でていた。





  ひとり一句



   かあさんは桜になってから無口        峯 裕見子

   ひっぱってみたい空から垂れる紐      高橋ふでこ

   手に届く鈴があるから振ってみる       清水すみれ

   一日が山の高さになっている         徳永 政二

   まっすぐはすこし怖くて竹林          八上 桐子

   スリッパが全部逆むく花ぐもり         久恒 邦子

   なつかしい桜だ溺れかけている        森田 律子


   老人の部屋で桜がうずくまる          本多 洋子

   菜の花に指切りしない白い蝶         平井 玲子

   花びらになろう5キロ程減らそう        畑山 美幸

   ねじれねじれて中尾彬になる古木      中野 六助

   雲になる少し手前を浮いている        北村 幸子

   桜から逃れて独り座禅石            笠嶋恵美子


   頬づえをついて小鳥になっている       内田真理子

   骨密度ふと考える枝垂れの踵         岩根 彰子

   ここでこけたら蒲田行進曲           安土 理恵

   應挙の鯉にピシャンとたたかれてさくら    今井 和子

   水音の石庭スリッパあっち向き         墨 作二郎

   もうちょっと登ってみよう春だから        山口 一雄

   草子洗い小町になっている桜          小林満寿夫

   好ましい方へと枝垂れのつぶやき        藤井 孝作

   風がないから桜のおしゃべり           中村せつこ

   弁天さまにゆるゆるになっている         八木 侑子

   人並は蛇行さくら並木は真すぐに        北原 照子


   さびしがりやの桜とゆうるり手をつなぐ      神野 節子

   



   











                         2010年3月 更新




  第百六十二回  点鐘散歩会



  
    人形寺  宝鏡寺



  
 庭に実る橘            人形塚          皇女和宮の像





 宝鏡寺は臨済宗の尼門跡寺院で人形寺として有名。本尊は聖観世音菩薩でこの菩薩像は魚網にかかり引き上げられたと伝えられ、膝の上に小さな宝鏡を持った珍しい姿をしていたため、寺名を宝鏡寺と名付けられた。

足利氏の庇護によって禅宗尼寺五山の第一位におかれ栄えた寺院。代々皇室との関係の深い尼寺。

 書院には円山応挙の杉戸絵や日野富子の木像もある。境内庭園は、椿やイロハモミジ・伊勢撫子の花などで有名。和宮内親王が幼少の頃遊ばれた鶴亀の庭もある。代々の尼門跡が愛用された人形や遊戯具が多数所蔵されていて、通称人形寺とも呼ばれている。






  ひとり一句

   からっぽの手文庫正解だと思う         吉岡とみえ

   ひとりずついなくなったら春だろう        高橋ふでこ

   生きているひとはしゃがんで下さいね      辻 嬉久子

   間違えたとこまで戻る春の靴           八上 桐子

   人形に話しかけたりするからよ          徳永 政二

   人形の寺 耳かきが欲しくなる          墨 作二郎

   まだうまく鳴けない春をつれて行く        北村 幸子

   男雛からメール春が遅れます          森田 律子

   引目鉤鼻マスカラなんて知らないわ       峯 裕見子

   祈りびな まだ内定がきていない         松田 俊彦

   乳房ある鳩と分別ある石と            中野 六助

   とても冷えるのでお雛様になる          小林満寿夫

   人形の泪で塚が乾かない             本多 洋子

   人間を捨てる人形を捨てる            藤井 孝作

   伏見人形ええ按配に汚れてる          畑山 美幸

   歳は忘れておたけさんおとらさん        筒井 祥文

   鶯のふんで染み抜きする女雛          笠嶋恵美子

   どれほどの悲しみなのか伊勢撫子        安土 理恵

   タクシーで行った賢い方の勝ち         田頭 良子

   何も言えなくて伊勢撫子の幻想         平井 玲子

   桃咲いている おひなさまとひなたぼこ     北原 照子

   







                            2010年2月 更新



 第百六十一回  点鐘散歩会



  瑞応山 大報恩寺

            千本釈迦堂



 二月三日節分の日、京都は千本釈迦堂へ足を運んだ。春とは名のみの朝から風花の舞う寒い一日。午後からは 恒例の節分会があると言うので本堂や境内はその準備で忙し気であった。

千本釈迦堂は、鎌倉時代初期(1227年)義空によって創建された。国宝のこの本堂には、おかめにまつわる伝説がある。

 建立に際して大工の棟梁である高次が、代わりのない柱の寸法を切り誤ってしまい困っていたところ、妻のおかめがご本尊にお祈りをした結果、枡組を用いたらどうかというお告げをいただいて、無事竣工させることが出来た。おかめは上棟の前に命果ててしまったので、義空は高次の妻の冥福を祈って塚を立てたという。これが今もおかめ塚と呼ばれ親しまれている。

 千本釈迦堂の本堂が京洛の最古の国宝建造物として、幾多の戦火・戦乱を免れたのも、このおかめの功徳であったと言い伝えられている。

 境内には大きなおかめの像があり今も手厚く祀られている。本堂横の霊宝殿には快慶作の十大弟子像や六観音像など数々の重要文化財が展示されており、本堂の裏側には、この日、おかめ人形展も特別に展示されていた。


  
  
参道から山門へ         国宝本堂 縁          おかめ人形




 
  ひとり一句



   ありったけの仏を置いてなお不安     清水すみれ

   東軍か西軍か 蕎麦かうどんか      中野 六助

   冬の芽をキュッと束ねて逢いにゆく    森田 律子

   あれからずっと笑い続けているおかめ  松田 俊彦

   老木は無口に手足からませる       藤木 孝作

   もう一度会うため春の水になる       八上 桐子

   笑いたいスリッパだけがありました     徳永 政二

   千体仏も胎内仏も妖しかり         前田芙巳代

   やがて手は森に育ってゆくきざし     内田真理子

   この分では今夜おかめにうなされる    本多 洋子

   十大弟子が勝手なことを言いだした    平井 玲子

   一、二本何もしてない手もあろう      北村 幸子

   応仁の乱からずっと癒えぬ傷       笠嶋恵美子

   あま酒をぷるぷるぷると飲むおかめさん 岩根 彰子

   釈迦堂のにこにこしてる鬼瓦        出口ようこ

   如意輪の思案も尽きて酒支度       筒井 祥文

   賽銭の音どんがらり冬をころげて      辻 嬉久子

   お多福の面 甘酒を吹きながら      墨 作二郎

   人ごみに落ちつきのない股関節     久恒 邦子

   千本は途方にくれてしまいけり       神野 節子

   ちょっとお酒はいってます鬼になります  小林満寿夫

   気持よく毒気の抜けるおかめ面      八木 侑子

   仏様ずらり節分の鬼廻れ右         北原 照子

   お手洗いの赤い矢印 急がせる      安土 理恵

   おかあちゃんうち千本へ来てますねん  柴本ばっは














                           
 2010年 1月  更新






     本年も点鐘散歩会をよろしくお願い申し上げます。





   第百六十回 
    点鐘散歩会

    奈良 春日大社



 2010年第一回の点鐘散歩会は、1月11日 成人の日に、奈良は春日大社に初詣ということにいたしました。

 寒波も少し和らいで薄日のさすほど良い散歩会日和で、成人式の晴着もそこここに見られました。。

 春日大社は、平城京に遷都された710年に、藤原不比等が、藤原氏の氏神である鹿島神を春日の御蓋山に遷して祀り、春日神と称したのに始まります。平安時代初期には官祭が行なわれるようになり、賀茂神社の葵祭、石清水八幡宮の石清水祭とともに三勅祭の一つとされています。

 明治4年に春日神社に改称し、昭和21年に現在の春日大社に改称されました。



  
  
 参道の春日灯籠           本殿               吊り灯籠


                






 ひとり一句


   ついてきた鹿にさびしいものをやる     北村 幸子

   灯籠にあきたら石になるつもり        中野 六助

   捨てながら歩くにちょうどよい長さ      八上 桐子

   行きずりの鹿と歩巾のあってから      清水すみれ

   生きているみんな背中を持っている     徳永 政二

   金柑かひとりものかでもめている       峯 裕見子

   この先をどう曲がろうと火をはらむ      笠嶋恵美子

   錯覚のなかで仔鹿を生みました       たむらあきこ

   厄年を通過してゆく人力車           赤松ますみ

   燃えやすい枯木になって生きている     松田 俊彦

   若草山に帽子かぶせてあげましょう      畑山 美幸

   アドレスは灯籠@鹿               中村せつこ

   裏道にくわしい人について行く         安土 理恵

   神木の根っこに埋めておきました       森田 律子

   雄鹿が歩く私の運命線             中林 典子

   鹿の目のやさしさ冬日のやさしさ        出口ようこ

   木もれ陽をあびて進まない歩巾        神野 節子

   曇天をめくり明日を思う鹿            八木 侑子

   大厄はとうに過ぎたが肩のこり         櫻  風子

   掟やぶりの鹿進入禁止のブイ倒す      北原 照子

   角鹿の威厳に水の音がする          墨 作二郎

   鹿の瞳に映るわたしの過去未来        本多 洋子



   











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点鐘散歩会は本年1月で第160回目を迎えます。
月一回づつ欠かさず行なっておりますので、もう13年を経過したことになります。川柳の吟行句会というのは大変めずらしいと思われるのですが、それがまた新鮮で、最近は若い参加者がどんどん増えて活気を呈しております。

この欄では 参加者のひとり一句を掲載して その雰囲気を味わって頂きたいと思っております。

外に出て川柳

外に出て川柳