点鐘散歩会は昨年、最近4年間の成果を纏めて一冊の本を刊行しました。大変好評でありました。

お蔭さまで月一回の散歩会も2008年末で150回を越えました。
以後も新しい参加者があり、本年も頑張って良い企画を立てたいと思っております。

この欄は、毎月その成果を皆さんに問うページになっています。
楽しみにご覧頂きたいとおもいます。

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 2009年

 外に出て川柳

       

      外に出て川柳


                          2009年12月  更新


第百五十九回  点鐘散歩会


    ぶつ げ じ     ろく   おう   いん
    
仏牙寺   鹿王院




 鹿王院は足利三代将軍義満が延命祈願のために建てた禅寺で、京都十刹第五といわれている名刹である。小さな山門には、義満の筆で「覚雄山」と書かれた扁額があり、山門から中門までの参道には苔の緑と名残の紅葉の紅が鮮やかな彩どりを添えていた。
 枯山水の広々とした庭を囲むように、舎利殿・客殿・本堂があり、いかにも禅寺らしい静かな佇まいである。見上げると雲間に嵐山の稜線も垣間見られ、逝く秋の京都を存分に満喫する事が出来た。


    


        




 ひとり一句


   庭というネジのゆるんでゆく時間      北村 幸子

   枯れてゆく途中もすべて見てもらう     畑山 美幸

   マスクをとって紅葉吐き出す         小池 正博

   倒木の切り口表情筋である         岩根 彰子

   人間の臭い拒んでいる土塀         八上 桐子

   石になるスケジュール表を渡される     中野 六助

   まだ少しバケツの横が空いている      徳永 政二

   三叉路を頭の中に持っている        高橋ふでこ

   軒下をぬって嵐電やせ細る         清水すみれ

   一本は筋を通して立ち枯れる        笠嶋恵美子

   涅槃図に生の重さと死の重さ        元永 宣子

   闇には闇の思いがあって眼を閉じる    前田芙巳代

   散歩からはみ出しているから私       藤井 孝作

   渡り廊下のその先にあるかくし部屋     平井 玲子

   お風呂屋さんのけむり四角い木の匂い   墨 作二郎

   五円玉になるのは間違いない紅葉     小林満寿夫

   南天の実の赫々と身の始末         内田真理子

   曇天の一部になってゆく煙          八木 侑子

   十大弟子のひとりが沈みきっている     本多 洋子

   問いかけてみると喋ってくれる石       出口ようこ

   熊笹がもう正月の顔をする           田中 博造

   南天は血の色実の房は怨念          安土 理恵


   手のひらにふふんと赤い紅葉         北原 照子









  次回 2010年1月の散歩会

  日 時 2010年1月11日 祝日 月
  行く先 奈良 春日大社
  集 合 近鉄奈良駅 噴水広場 10時
  句会場 奈良文化会館 1時より

 

  次々回 2月散歩会

  日 時  2010年2月3日  水
  行く先  千本釈迦堂
  集合   大宮 市バス乗り場  10時
        京都在住の人は 10時半ころ 釈迦堂現地にて
  句会場  ラボール 京都 1時より

  

















                           2009年11月  更新



 第百五十八回   点鐘散歩会



 クリムト、シーレウィーン世紀末展

            於 サントリーミュージアム



 借景に大阪港をまるごと抱えたようなサントリーミュージアムがここに来て閉館を迎えるという。海に臨んだ素敵な美術館であったが惜しまれてならない。

 今回本展では、ウイーンミュージアムのコレクションの中から、そのハイライトともいえるクリムト、シーレをはじめハンス・マカルト、カール・モルやコロ・モーザーらの作品約120点が公開された。

 19世紀末のウィーンでは、新しい芸術を目指そうとする芸術家達の熱意が渦巻き、いわゆるウィーン分離派を中心に絵画・建築・デザイン・工芸など各分野の交流がなされ、独創的な表現がウィーンに活気をもたらせていた。

 なかでも、金色に輝く画面に妖しく魅惑的な女性美を描き出すクリムト、生と死を見つめ人間の内面を抉り出すエゴン・シーレはこの時代のウィーンを代表する作家といえる。

 大きなガラス越しに大阪港を一望できる一角にはちょっと休憩できるベンチや椅子が置いてあって句箋にエンピツを走らせるにちょうど良かった。


 


 ひとり一句


   男座れば一匹の骸骨            松田 俊彦

   抱擁のたびに鱗が落ちてゆく        清水すみれ

   鞄もちましたか秋を入れましたか      中野 六助

   額縁をほどくと大阪港になる        畑山 美幸

   昨日のひらめきくもの巣に引っかかる   今井 和子

   いっぽんの線になるまで抱き合う      八上 桐子

   舌を出しても誰にも届かない        前田芙巳代

   キリストだったり青い夢だったり       森田 律子

   海に叫んだらいいわ黄金の舌で      吉岡とみえ

   分度器の影絵 港は晴れている       墨 作二郎

   遠くとはこんなところにある 遠い      徳永 政二

   メルヘンのお尻は夢から覚めている     北村 幸子

   液体から固体にもどる人の列         野口  裕

   仮面舞踏会から戻って来ない小鳥     笠嶋恵美子

   哀しみは両手を組んだあたりから      本多 洋子

   工房は前頭葉のあるあたり          小池 正博

   青い桃つぶさないよう肩をかす        桜  風子

   二枚目の舌が下から誘う           北原 照子

   エゴンシーレはっきり声が聞こえたわ    柴本ばっは

   チャージして海 チャージしてクリムト    中村゛せつこ

   あばらまで見せてガラクタになった僕    平井 玲子

   観覧車風もドラマも乗せている        松本あや子

   ゴールドの歓喜天神 鱗雲          藤井 孝作















  10月度の点鐘散歩会は台風のため中止になりました。
  残念なことでした。





                         2009年9月 更新









第百五十七回  点鐘散歩会


お初天神(露天神)
        から大融寺へ

          


 9月の声を聞いたばかりの4日、大阪の玄関口である梅田は曽根崎新地のお初天神と、扇町にある大融寺の散策に出かけた。

 露天神は1057年に描かれた「難波の古図」にも書かれているほどの古社であるが、それが通称「お初天神」と呼ばれるようになったのは、ここ露天神の森が、凄惨な心中の現場となってからである。

 堂島新地の遊女初と内本町の醤油商平野屋の手代徳兵衛が心中したのは元禄6年の4月7日。人形浄瑠璃の竹本座はただちに近松門左衛門に執筆を依頼して、浄瑠璃「曽根崎心中」として、事件から一ヵ月後の5月7日に、竹本座での初演にこぎつけている。

 現在はビルの谷間に埋没しそうなお初天神ではあるが、当日は骨董市の開かれる日でもあり、狭い境内は古着や古書を並べる商人でごったがえしていた。境内の隅には お初徳兵衛の二人が手を携えているブロンズ像もあり、当時を偲ぶよすがとなっている。槿が初秋の風に揺れていた。

 街中を徒歩十五分ほどで、大融寺に着く。ここは821年、弘法大師が嵯峨天皇の勅願によって創建されたと言われている。新西国三十三所霊地の一番札所。綺麗に整地された広い境内には本堂・大師堂・不動堂・護摩堂・宝塔があり、庭の片隅には芭蕉の句碑

   しら菊の 目に立て見る 塵もなし     翁

がある。

 また、境内の西北隅には九輪の塔があり、大阪城落城のおり秀頼と共に自刃した淀君の遺骨が祀られている。


 


   
   お初天神通り            ブロンズ お初徳兵衛

       
 
     恋の成就の絵馬            骨董市のギャマンや壷

                                           
    
大融寺  淀君の墓 九輪塔     芭蕉翁の句碑






   ひとり一句



   葉の裏は少し昔を考える           徳永 政二

   情死っていいな裏側っていいな       中野 六助

   ひっきりなしにすれ違う少年期        森田 律子

   首ひとつ抱えて空へ揚羽蝶          内田真理子

   なつかしさは光すぎてはいけません     北村 幸子

   古井戸の深さを誰も明かさない        松田 俊彦

   こう行ってこう行ってこう 恋ね        吉岡とみえ

   影を売る手元を見ないのが礼儀       高橋 章代

   捨て猫の耳ひらひらと曽根崎界隈      墨 作二郎

   ブロンズの重ねた指があたたかい      八上 桐子

   横丁にこんな昔がかくれてる         八木 侑子

   張りついた影を剥がしている残暑      笠嶋恵美子

   観覧車の真下のわたし見えますか     柴本ばっは

   人形と歩いた覚えありました         久恒 邦子

   添いとげるつもり こおろぎ鳴いている   本多 洋子

   骨董市恋をゲットの秋日和          松本あや子

   通りゃんせビルの細道ホテル街       安土 理恵

   淀君に青モミジの吐息             北原 照子
















                        2009年8月   更新






第百五十六回   点鐘散歩会


       奈良競輪








 8月に入って ようやく近畿地方も梅雨明け宣言があった。
散歩会は奈良競輪場を訪れる。これまでも琵琶湖競艇や阪神競馬場を訪ねたことはあった。何でも見てやろう・・そして何でも川柳にしてしまおうというタフな意気込みの散歩会である。

 奈良競輪は近鉄線 平城駅からなら徒歩で、西大寺駅からなら無料の送迎バスが出ている。送迎バスで南門まで、そして場内に入る。入場料は無料。あちらこちらに車券売り場があり、マークカードの投票カウンターがある。

 何の予備知識もないので、それぞれ会場に来ているオジサン達に教えてもらったりして、1・2レースは見ることにする。

 バンク(自転車の走るコース)は333mと比較的小さいそうだ。バンク全体が観客席に囲まれていて、中央すり鉢状の底の辺りには噴水用のプールが二つ並んでいる。

 バンクには走るためのさまざまな工夫がなされているらしく、走路全体が平らでなく、内側に傾斜している。ここの最大カントは約33度と大きいらしく、打鐘後のスピード感と興奮は他場の追随を許さないという。

 カラフルな選手のユニフォームは車番ごとに色分けされていて枠ごとの赤や緑・黄色のシャツやレーサーパンツを穿いている。

 選手たちの動きには、いろいろの駆け引きがあるらしいが、初めての観戦では、まばたきをする間の 一瞬の勝負でしかなかった。


 


     


          

 



 ひとり一句



 
  競輪場の半分以上雲である          徳永 政二

   異界からこぽっと抜けて出る素足       北村 幸子

   負けそうな人は大きい声を出す        本多 洋子

   暑かったけれど友だちふえました       安土 理恵

   蟻だったことを忘れておりました        岩田多佳子

   あちこちに翼が落ちているバンク       中野 六助

   ファンファーレすこうし人の死に慣れる   前田芙巳代

   ワタシココデナニヲシテイル奈良競輪    峯 裕見子

   炎え尽きる前に大きく息をする        笠嶋恵美子

   人を探すにちょうど良いまばら        辻 嬉久子

   さまざまな色のお尻を見せている      福尾 圭司

   まくれまくれパノラマになる雲になる    森田 律子

   みささぎに風青田の青も風である      墨 作二郎

   炎天に勝負の赤が翔んでいく        中村せつこ

   にんげんの太ももという可能性        八上 桐子

   にこにこと勝てるつもりのバスに乗る     松田 俊彦

   一瞬に抜き去る技を見てしまう        八木 侑子

   汗くさい男と勝負の椅子にいる        今井 和子

   カンカンカン鳴るは地獄の入り口か     出口ようこ






















                         
2009年7月 更新







   第百五十五回 

      
点鐘散歩会




  明治製菓 大阪工場 見学





  「チョコレートは明治♪」のコマーシャルでお馴染みの明治製菓大阪工場を見学した。事前に予約を取ってあるので、受付の守衛さんの許可を得て、案内のうぐいす嬢を先頭に見学のコースへと導かれる。

 先ずは談話室でビデオを観ながら、明治製菓の歴史と事業内容について簡単な説明を受ける。創業以来すでに90年、チョコレートやカールなどお馴染みの菓子類は勿論、薬や健康食品に至るまで巾広い事業内容が報告される。
一応製造工程などの説明を受けた後、きのこ山のチョコレートの製造を見学する。勿論ガラス越しにしか見られないが、廊下を歩くにもエアーシャワーの洗礼を受けるなど徹底した衛生管理である。

 工場内は企業秘密を守るため、メモを取る事も写真撮影も一切お断り。吟行会の一行としては、句箋に鉛筆を走らせることも出来ず、不自由を強いられた。

 



                                                 
      
      カールおじさん     と     その仲間たち
           
              談話室にて







  ひとり一句



   板チョコがうまく割れないから無口      峯 裕見子

   後戻りできない線に載せられる        内田真理子

   ふふふふと自分に戻る袋菓子         森田 律子

   おしまいに人間味をつけられる        中野 六助

   エアーシャワーきっと昨日は落ちたわね   北原 照子

   ふわふわになったあんたは見たくない    北村 幸子

   ひとくちサイズのしあわせよく売れる     西田 雅子

   どういうかたちで水にたどりつくかだ     松田 俊彦

   まちがっていると思っているカール      徳永 政二

   敵か味方か私を囲む甘いもの         出口ようこ

   ロボットのミス拾っている人間         八木 侑子

   マイケルの死よ板チョコは過去形に     墨 作二郎

   うかうかとお菓子の家で昼寝する       中林 典子

   まずは飴90年のコマーシャル         岩根 彰子

   エアーシャワー心の傷に突きあたる      桜  風子

   ほんとうかしらあなたがカカオの花なんて   今井 和子

   マカデミアンナッツの激しい風便り      辻 嬉久子

   監視カメラに残っていた昨日の顔       平井 玲子

   白桃の汚れをそっと拭いてやる        笠嶋恵美子

   哀しみの極みコンベアーのきわみ      前田芙巳代

   マーブルなわたしに戻る梅雨晴れ間     本多 洋子


   



















                         
 2009年 6月 更新





第百五十四回 点鐘散歩会






 龍谷山 本願寺  西本願寺




 本願寺は、浄土真宗本願寺派の本山。正式には龍谷山本願寺と言い、通称西本願寺「お西さん」として親しまれている。

 浄土真宗は、鎌倉時代中期に親鸞聖人によって開かれた。師である法然上人の念仏の教えに帰依したが、念仏弾圧によって越後に流罪となったことは有名。以後中興の祖である蓮如上人によって教線は拡大され、さらに顕如上人によって現在の堀川六条に本願寺の寺基が定められた。

 現在は平成二十三年から修業される親鸞聖人七五〇回遠忌にむけて、御影堂などの修復工事が十年をかけて着々と進められ、この程 見事にその全姿を拝観出来ることとなった。

 阿弥陀堂・御影堂ともにどっしりとした雄大な景観は、心を豊かにしてくれる不思議な力が宿っているようにも思われた。

 たまたま檀家さんの法事の日に出合わしたりすれば、飛雲閣のある庭のエリアにも入らせて頂けたりする。




      阿弥陀堂全景         御影堂門    

        庭の保存樹・大銀杏       阿弥陀堂内部 燭灯
             

     渡り廊下           飛雲閣
  

             国宝 唐門            扉の獅子
           

      





 ひとり一句



   百人はたっぷり泣ける大柱        中野 六助

   戻れると信じて靴を持ってゆく       峯 裕見子

   六月のひとりは杖をついている      徳永 政二

   仏壇の奥でうがいの音がする       川田由紀子

   木の股の木の股の木の股の浄土     辻 嬉久子

   念仏のつづき にんげんのつづき     前田芙巳代

   あの奥のあの真黒を信じなさい      北村 幸子

   次の世をまずはおさえてから帰る     内田真理子

   心の奥のこんなところに釘隠し       本多 洋子

   風呂敷をほどいてみれば本願寺      西田 雅子

   決断がつくと天井が高い           森田 律子

   門番のように銀杏は立ちつくす       墨 作二郎

   大クレーン浄土真宗吊り上げる       南野 勝彦

   魂よりもちょっと早めに帰ります       岩田多佳子

   今日明日の間で蝋燭揺れている      笠嶋恵美子

   魂にひびかせている鉦の音         今井 和子

   素浪人になりましたので阿弥陀堂     小林満寿夫

   じゃりじゃりと昨日のぐちを捨ててゆく    北原 照子

   廻廊の仏の風がやわらかい         八木 侑子

   時々は散歩に出たい西本願寺       岩根 彰子

   念仏の一歩先ゆく天変地異         平井 玲子

   唐門の獅子に噛ませる赤い指        八上 桐子
 

   














                             2009年5月  更新



第百五十三回  点鐘散歩会


   奈良町界隈


 奈良町(ならまち)というのは、現在の奈良市街地の南に広がる伝統建築群地域を指して言う。一帯には江戸・明治・昭和前期の町屋が当時の面影をそのまま残し保存されている。

 江戸時代には元興寺境内周辺に様々な産業 たとえば筆、墨、蚊帳、酒、醤油などを扱う店が勃興し、商工業都市として町は大いに発展した。

 第二次世界大戦でも戦災は免れたため、戦後も奈良旧市街地として栄え、1990年には「奈良町都市景観形成地区」の指定を受けている。

 今回は先ず世界遺産の指定を受けている元興寺を訪れ、奈良時代の由緒ある建築や石仏に触れてから、旧市街地を思い思いに散策した。




  

 元興寺・極楽坊         奈良時代の屋根瓦        奈良町資料館

  

 身代り猿を吊るした町屋       庚申堂        格子の家内部のかまど






  ひとり一句



   茶がゆの話からたいらな時間になる    峯 裕見子

   新しくなった入れなくなった         森田 律子

   古都ひらく新緑というパスワード       八上 桐子

   猿沢の亀が転んだ音だろう          松田 俊彦

   奈良というだけで茶色になっている     北村 幸子

   ありがたさに他人の靴を履いている     田頭 良子

   鹿のまわりに青がしたたる          たむらあきこ

   くずれたい人とくずれたい瓦         徳永 政二

   身代り猿よタミフルは足りてるか       本多 洋子

   思いには思いで返す石仏群         前田芙巳代

   ふわふわの角だなぬくい卵だな       笠嶋恵美子

   奈良格子覗けば明る過ぎる庭        墨 作二郎

   おいでやすならまちふきん蚊帳のれん   平井 玲子






















                              2009年 4月 更新




第百五十二回  点鐘散歩会



      無鄰庵




 地下鉄蹴上駅からインクラインの線路沿いに琵琶湖疎水に向かって、今を盛りの桜の下を思いおもいに散策する。20分ほどで、疎水の直ぐ傍のひっそりした無鄰庵に着く。

 無鄰庵は明治大正の元老山県有朋が京都に建てた別荘である。その名は隣家のない静かな場所ということで名付けられたという。有朋自ら設計監督。疎水の水を取り入れた池泉廻遊式庭は、造園家小川治兵衛の作庭したもの。

 建物は木造二階建ての母屋と茶室、それから洋館の三棟からなる。洋館には狩野派の花鳥図の障壁画や花鳥文様の格天井それに当時の椅子やテーブルなどがそのまま残されている。ここで日露開戦直前のわが国外交方針を決める、いわゆる「無鄰庵会議」が開かれた。





        


               






 ひとり一句



 それは遠くの桜の下にいる家族          徳永 政二

 輪郭を崩してしまうまで撫でる           八上 桐子

 春風に噛まれてしまいなさったか         芳賀 博子

 社会派になって桜に立ち向かう          平井 玲子

 ゆっくりと自分に溺れだすさくら         たむらあきこ

 冬が恋しくて折れている光             岩田多佳子

 こんなところに忘れていた かかと         吉岡とみえ

 桜見る副作用には気をつける           南野 勝彦

 零れゆく時間のかたち さくらさくら        本多 洋子

 行きどまりの水と話してみたりする         峯 裕見子

 波うったガラスのような人なのよ          森田 律子

 そのうちに散るそのうちにと言う桜         墨 作二郎

 隧道を抜けてあの世へ帰ります          笠嶋恵美子

 生きている時の桜の葉の匂い           矢島玖美子

 ちっちゃい滝三つの春を光らせる         八木 侑子

 内緒ごとはもう済んだかと木瓜           北原 照子
























                        2009年3月  更新




第百五十一回 点鐘散歩会


   酬恩庵  一休寺





 京都府・京田辺市の甘南備山の麓、木津川のほとりに一休寺はある。元弘年間の兵火で焼けてしまった妙勝禅寺を、一休禅師が再建したと言われている。こよなくこの地を愛し晩年はこの地を定住の場と定めて、大徳寺の住職となった時もここから通われたという。88歳の高齢で入寂された。

 総門を潜ると、石垣・石段・石畳が禅寺特有の静けさで眼前に広がる。宗純王廟の前から本堂へ杉苔の庭が美しい。方丈の庭には十六羅漢になぞらえて大小の石が置かれ、大きな蘇鉄が奥でこの庭を支配するようにでんと構えていた。




         

                

                     宗純王廟







  ひとり一句



 結局は蘇鉄に言い負かされている       峯 裕見子

 枯山水の砂 体温をもてあます         墨 作二郎

 ちょっと待って斑入り椿が呼び止める      平井 玲子

 髑髏面ころりと春の底を見る           本多 洋子

 草光るごめんあなたの名を知らぬ        松田 俊彦

 さっき居た春を昼から見失う           南野 勝彦

 腑に落ちぬ言葉の沈む手水鉢         内田真理子

 生きとうないね納豆菌の五〇〇歳       北田ただよし

 くんにゃりと松を曲げたり泣かせたり       北村 幸子

 やわらかな場所はいつでも濡れている     八上 桐子

 考えていたら陽があたってきた          吉岡とみえ

 わたくしの心に降りないで下さい        たむらあきこ

 まだ少し冬が残っている石と           徳永 政二

 この橋を渡ってごらん楽になる          笠嶋恵美子

 浴室の前をもつれて歩くなり           辻 嬉久子

 一番若い一休さんを覗き込む          森田 律子

 のどやかな春の波です手水鉢          八木 侑子

 枯れ急ぐ椿がとんち問うてきた          北原 照子

 これからは素顔で通す花頭窓          岩根 彰子

 エゴンシーレの自画像と私かも知れぬ蘇鉄   今井 和子

 一休さん今恋していますおかしいね       小林満寿夫

 のぞくだけですよ ちょっとだけですよ      西澤 知子

   
















                         2009年 2月  更新





  長浜 盆梅展


盆梅展が開催されている慶雲館は、明治20年豪商浅見又蔵氏が建てた長浜の迎賓館です。盆梅は長浜市が管理していて樹齢四百年を越える古木や、高さ三メートル近い巨木もあります。今年は第58回目を迎えました。

梅には「不老」とか「さざれ石」などと命名されています。五分咲きのもの満開のものそれぞれに見応えがありました。

盆梅展を出てから、北国街道沿いに、長浜の町をそぞろ歩いて、曳山博物館で句会を開きました。




         


               


             





   ひとり一句


 
  盆梅のみんな付けてる迷子札        内田真理子

   ガラスから女房を剥がし連れ戻す      峯 裕見子

   まだ冬の雨を残している駅舎         北村 幸子

   小梅が好きだな冬の海だから        小林満寿夫

   ちょっとだけですが明日になっている    徳永 政二

   異次元の袋の中はあたたかい        岩田多佳子

   二階から降りて二階を見に戻る        墨 作二郎

   雪吊りの縄目に春がひっかかる       前田芙巳代

   湖の底から梅が匂いだす           笠嶋恵美子

   雪吊りの松 春の雫を光らせて        今井 和子

   ばあさまの殺し文句のみやげもの       北原 照子

   待ち合わせ場所に戻ってきた雀        平井 玲子

   梅いちりん麒麟の首を支配する        本多 洋子

   死ぬ時も愛する時も梅匂う           元永 宣子

   梅は満開 鼻先が冷たい            森田 律子



















                         2009年一月度 更新



 

 京都市動物園



  京都市動物園は明治36年に開園され、日本で二番目に古い歴史があると言われています。平成15年にすでに百周年を迎えています。

 東山山麓に位置し、南側には琵琶湖疎水が流れていて風光明媚な所です。しかも近くには平安神宮や京都市美術館があって文化的にもすばらしい環境にあります。

 動物園の規模は小さいのですが、動物たちと身近に触れ合えるよう色々工夫もされています。とにかく アットホームな動物園ではありました。


                    
          

               






  ひとり一句



  空という静かなものが落ちている      徳永 政二

  からだ中ふかく忘れた痕がある       八上 桐子

  かなしみを象の背中のしわに見た     松田 俊彦

  キリンの首をお伽話が下りてくる      前田芙巳代
  
  橘も桜も年をとりました            笠嶋恵美子

  まあいいか虎も昼寝をしているし      森田 律子

  よかったなあ亀で十分楽しいや       北村 幸子

  草食と肉食に分けいい天気         峯 裕見子

  ナイヤガラの滝ですかいやおみくじです  瀬尾 照一

  なんべんも声かけたのにアシカは岩    墨 作二郎

  天辺に立ちサルは何にも見えてない    元永 宣子

  二階の窓に淋しいキリンの眸がうつる    今井 和子

  飛ぶことを忘れてからの地平線       大橋あけみ

  雄叫びは冬のオバマかライオンか      本多 洋子

  「オオカミが来るゾ」と百万べん言うた    岩田多佳子