2009年 1月 更新
2009年12月 更新
ベランダの蟹サボテン
業平を誘う 本多 洋子
逝く秋の動く歩道に立ち止まる
蔦紅葉ひとひらガレに進ぜよう
噴水は冬の入り口 エゴンシーレ
口紅もささずに冬の映画館
流星を受けて痛みの奔る胸
哀しみは此処 冬眠の赤蛙
侘助の白を見つめたりしない
寂しくて写楽の後についてゆく
冬の鴉に冬の電柱 死の知らせ
キリンにはマフラー 縞馬にはブーツ
白地図に赤いポストと現在地
業平を誘って吊り橋を渡る
よもつひらさか解体新書散らばれり
イザナミに桃の缶詰 柿のへた
耳塚に耳 櫛塚にへび苺
地獄草子の真ん中へんに鳥の羽
捨て犬が居たあたりから救急車
大雨警報サンチョパンサは出て行った
2009年11月 更新
我が家のミニシクラメン
近詠 クレヨンのあした 本多 洋子
ふつふつと泡 ふつふつと河童伝説
折れたっていいのよクレヨンのあした
座敷童子が落としていった赤い華
虚も実も呑み込む秋の河馬の口
森の出口でキリンのマフラーを拾う
押せ押せと写楽が両手振っている
俗物か否か 女郎花の黄色
三センチ足りないピノキオの鼻
前衛派ですか フォックスフェイスですか
実石榴は痛みをさらけ出している
紅葉狩に行こう行こうと乾いた馬
ドストエフスキーが沈む秋の図書館
痴情かな女郎花の黄 ミモザの黄
卵黄をかきまぜている老いた画家
よもつひらさか女は桃の木をゆする
2009年10月 更新
近詠 句会作品 本多 洋子
時間を下さい てにをは を乾かせます
厳重にこころの柵 言葉の柵
訳あって手乗りの鳥が戻らない
鉄分が足りない晩秋のキリン
「みみ はな のど」萩がこぼれている医院
断ち切った糸がときどき疼き出す
哄笑は曼珠沙華から柩から
チャイムを押したのは こおろぎ
たて糸は知性 よこ糸は感性
水葬か風葬か 八ッ場ダムの骨
戻らないように小鳥の切手貼る
風鐸銅鐸かすかに届く秋のメロディ
赤トンボが引っ張っている一輪車
廃線を戻って行ったキリギリス
濡れている 蚯蚓が鳴いた跡らしい
昼の月ブログは留守にしています
2009年9月 更新
近詠作品より
ブルーゾーン 本多 洋子
ラマダン断食 真っ赤っかの夕陽
銃口を横切る秋蝶の黄色
耳栓が欲しい赤耳亀の耳
ジャッカルが覗く秋のベランダ
断片を集める蝶の孤独死
成層圏を泳ぐ白魚の背骨
ブルーゾーンに居る整形のみみず
結果次第でひまわりを引っこ抜く
羞恥心 断熱材を用意する
黒煙を上げる致死量の河童
タミフルを飲んでひょうたん島に行く
耳朶の後ろにバッカスを隠す
大向日葵の真っ正面で懺悔する
幻影を呼ぶマクベスの青葉闇
楼蘭の王女が目覚めるまで待とう
2009年 8月更新
今年の月下美人
皆既日食 本多 洋子
夏色のコントが洩れる食器棚
水羊羹二皿 織部焼の皿
アマリリス 肩の力を抜きなさい
なめらかなプリンの匙と夏の海
鴉はからす 象にはゾウの皆既日食
すこし恥ずかしげに日蝕のひまわり
線香花火 少女の指に風がある
大道の朱夏な女のたますだれ
それそれと呼び込む南京たますだれ
出し抜いた河童の皿が乾いている
モナリザはおとこの小骨抜くらしい
段差には困りきってるやじろべえ
薄紙で包むか 銀紙にするか
暑中見舞い 大きな西瓜描いてある
義理ひとつ果し夕立があがる
2009年7月 更新
堺市大泉緑地にて
当季句会作品より 本多 洋子
梅雨半ば少し狂ったおもちゃ箱
憎しみも妬みも買ってアマリリス
葛餅を亡母と分けて紛らわす
笹百合に送る再会の手紙
談笑はあじさい寺の艶話
半音を落として君に逢いに行く
頂点に立つと孤独な鬼になる
右のポケットに買い言葉が溜まる
訃報はしる マイケルを買いにゆく
ビーバーのダム湖 アニメな梅雨の中
蛇苺 やぶへびいちご君の恋
哄笑や鉄砲百合の背後から
冤罪が晴れた ひまわりになった
梔子の白 裏切ったことがある
透明になるまで過去を炙りだす
椅子取りゲーム優しい鬼が残される
手を洗う 少うし恩を売ったので
色鉛筆軽いジョークを飛ばしたな
姉三六角 梅雨が明けたら本調子
逆光の河口に父の背ながある
2009年6月 更新
最近の句会作品より 本多 洋子
湧水で洗いなおしている記憶
真っ青な記憶と海の砂時計
斜め後ろに鉄砲百合の首がある
写楽大首 タミフルを飲んでいる
向日葵はきっと夜明けの傀儡師
切り岸に重い男の靴がある
耳底に女の武器を積んでおく
いりくんだ所は避ける太郎冠者
雨女 乾いた恋がしたくなる
迷路から時々洩れるオノマトペ
ガラスの金魚 空を泳いでから破片
日常に飽いてこわれた水中花
満月のために裏木戸を開ける
五位鷺の首は哲学的である
連れもってマスクを買いに鬼買いに
恋を落とした人は連絡して下さい
2009年 5月 更新
黒い猫 本多 洋子
星に通じる深ぁい穴を探している
泣き笑い出来るチンドン屋の主役
ブーメラン岬の春を知り尽くす
消える時には五月の空のしゃぼん玉
出合いがしらに真っ赤な天敵
飛び出し注意 鹿にも鹿の通り道
それは主役で竹久夢二の黒い猫
朗報がありそう 河口まで急ぐ
トマトケチャップふいに真昼の鳩時計
エッシャーの廊下で春を奪われる
若葉風 化粧櫓は虚のかたち
合鍵の鈴が鳴らない小糠雨
葉桜をまわって廃品回収車
学校には振鈴 次郎物語
蛇か鬼か 後ろに回って最初はグウ
三遍まわったところで嘘は見抜かれる
最近の句会吟より
2009年4月 更新
臼杵の石仏 臼杵の石仏 本多 洋子
石仏の息に合わせる春の風
よく来たと膝を寄せ来る石仏け
花冷えの仏けの首の深い傷
大日如来 蝶の行方を追うまぶた
磨崖仏 さくらの彩に染まる頬
血脈は怒涛のように左耳
右耳は花のこころを聴きとめる
彫り深き目尻の先に光るもの
ここに居て寂しくないか童子仏
せいたか童子菜の花の黄を摘みに行け
石仏の朱のくちびるに触れる風
鎮めよと春のこころを諭される
2009年3月 更新
大阪城の梅林
最近の句会作品より 本多 洋子
泣けそうで焚き火に背なを向けている
日記に挟んだキリンのことは忘れない
エッシャーの廊下に落ちていた記憶
紙ヒコ−キは黄砂に埋もれ 忘れている
陰暦のここら辺りで穴を出る
カレンダーに冬の出口を書き入れる
街角の似顔絵描きは猫である
冬の蚊はとうとう結界を越えた
春の紐やんわり結ぶことにする
二月尽 黄不動はなお無口なり
菜種梅雨 積木の家を見に行こう
いつかは握る キリンの首と象の鼻
三人官女のひとりが約束を破る
夜の雛 掟を破ることがある
春のうつ 紙人形の手を濡らす
2009年2月 更新
アルルカンの笛 本多 洋子
バオバブの木よりも遠く鳴るケーナ
森深くコロボックルが鳴らす笛
オカリナは青い楽譜を追いかける
マンボウも春のケーナに聞き惚れる
雫する真冬の石を抱いている
石舞台 卑弥呼の笛が落ちている
亀が鳴くまで土笛を吹いている
アルルカンの笛ピカソにはピカソの青
G線上を渡っていった青揚げ羽
雫するのはキリンの首か合歓の木か