ピカソの皿              本多 洋子




  ミネタウロスの精気を貰う旅に出る

  闘牛の活気 ピカソの皿割れる

  牛の尻尾に振り回される冬の蝿

  柔らかいものを絞って春を待つ

  浮雲にのるか仔牛の瞳を抱くか

  風に吹かれる 冬たんぽぽも牛糞も

  春遠し 牛には牛の背番号

  赤牛・黒牛 国境に風がある

  牛の背に止る 海峡越える蝶

  牛の歩幅を数えて花の種を撒く

  牛の角撓めてからの自己嫌悪

  流れ小町も牛車も消えていた冬野






     2009年 1月   更新


                           2009年12月 更新




     ベランダの蟹サボテン






   業平を誘う       本多 洋子



   逝く秋の動く歩道に立ち止まる

   蔦紅葉ひとひらガレに進ぜよう

   噴水は冬の入り口 エゴンシーレ

   口紅もささずに冬の映画館

   流星を受けて痛みの奔る胸

   哀しみは此処 冬眠の赤蛙

   侘助の白を見つめたりしない

   寂しくて写楽の後についてゆく

   冬の鴉に冬の電柱 死の知らせ

   キリンにはマフラー 縞馬にはブーツ

   白地図に赤いポストと現在地

   業平を誘って吊り橋を渡る

   よもつひらさか解体新書散らばれり

   イザナミに桃の缶詰 柿のへた

   耳塚に耳 櫛塚にへび苺

   地獄草子の真ん中へんに鳥の羽

   捨て犬が居たあたりから救急車

   大雨警報サンチョパンサは出て行った


   

   
   


























                         2009年11月  更新



    
  我が家のミニシクラメン





  近詠  クレヨンのあした       本多 洋子



   ふつふつと泡 ふつふつと河童伝説

   折れたっていいのよクレヨンのあした

   座敷童子が落としていった赤い華

   虚も実も呑み込む秋の河馬の口

   森の出口でキリンのマフラーを拾う

   押せ押せと写楽が両手振っている

   俗物か否か 女郎花の黄色

   三センチ足りないピノキオの鼻

   前衛派ですか フォックスフェイスですか

   実石榴は痛みをさらけ出している

   紅葉狩に行こう行こうと乾いた馬

   ドストエフスキーが沈む秋の図書館

   痴情かな女郎花の黄 ミモザの黄

   卵黄をかきまぜている老いた画家

   よもつひらさか女は桃の木をゆする

   


















                          2009年10月 更新






       




 近詠 句会作品         本多 洋子




   時間を下さい てにをは を乾かせます

   厳重にこころの柵 言葉の柵

   訳あって手乗りの鳥が戻らない

   鉄分が足りない晩秋のキリン

   「みみ はな のど」萩がこぼれている医院

   断ち切った糸がときどき疼き出す

   哄笑は曼珠沙華から柩から

   チャイムを押したのは こおろぎ

   たて糸は知性 よこ糸は感性

   水葬か風葬か 八ッ場ダムの骨

   戻らないように小鳥の切手貼る

   風鐸銅鐸かすかに届く秋のメロディ

   赤トンボが引っ張っている一輪車

   廃線を戻って行ったキリギリス

   濡れている 蚯蚓が鳴いた跡らしい

   昼の月ブログは留守にしています




















                          2009年9月 更新




 近詠作品より          

                        



   ブルーゾーン       本多 洋子


   ラマダン断食 真っ赤っかの夕陽

   銃口を横切る秋蝶の黄色

   耳栓が欲しい赤耳亀の耳

   ジャッカルが覗く秋のベランダ

   断片を集める蝶の孤独死

   成層圏を泳ぐ白魚の背骨

   ブルーゾーンに居る整形のみみず

   結果次第でひまわりを引っこ抜く

   羞恥心 断熱材を用意する

   黒煙を上げる致死量の河童

   タミフルを飲んでひょうたん島に行く

   耳朶の後ろにバッカスを隠す

   大向日葵の真っ正面で懺悔する

   幻影を呼ぶマクベスの青葉闇

   楼蘭の王女が目覚めるまで待とう
















                         2009年 8月更新






                          
                              今年の月下美人




  皆既日食          本多 洋子


   夏色のコントが洩れる食器棚

   水羊羹二皿 織部焼の皿

   アマリリス 肩の力を抜きなさい

   なめらかなプリンの匙と夏の海

   鴉はからす 象にはゾウの皆既日食

   すこし恥ずかしげに日蝕のひまわり

   線香花火 少女の指に風がある

   大道の朱夏な女のたますだれ

   それそれと呼び込む南京たますだれ

   出し抜いた河童の皿が乾いている

   モナリザはおとこの小骨抜くらしい

   段差には困りきってるやじろべえ

   薄紙で包むか 銀紙にするか

   暑中見舞い 大きな西瓜描いてある

   義理ひとつ果し夕立があがる




















                     
 2009年7月  更新





   堺市大泉緑地にて







   当季句会作品より             本多 洋子



   梅雨半ば少し狂ったおもちゃ箱

   憎しみも妬みも買ってアマリリス

   葛餅を亡母と分けて紛らわす

   笹百合に送る再会の手紙

   談笑はあじさい寺の艶話

   半音を落として君に逢いに行く

   頂点に立つと孤独な鬼になる

   右のポケットに買い言葉が溜まる

   訃報はしる マイケルを買いにゆく

   ビーバーのダム湖 アニメな梅雨の中

   蛇苺 やぶへびいちご君の恋

   哄笑や鉄砲百合の背後から

   冤罪が晴れた ひまわりになった

   梔子の白 裏切ったことがある

   透明になるまで過去を炙りだす

   椅子取りゲーム優しい鬼が残される

   手を洗う 少うし恩を売ったので

   色鉛筆軽いジョークを飛ばしたな

   姉三六角 梅雨が明けたら本調子

   逆光の河口に父の背ながある













                         
2009年6月 更新



 


  
最近の句会作品より  本多 洋子


                            



    湧水で洗いなおしている記憶

    真っ青な記憶と海の砂時計

    斜め後ろに鉄砲百合の首がある

    写楽大首 タミフルを飲んでいる

    向日葵はきっと夜明けの傀儡師

    切り岸に重い男の靴がある

    耳底に女の武器を積んでおく

    いりくんだ所は避ける太郎冠者

    雨女 乾いた恋がしたくなる

    迷路から時々洩れるオノマトペ

    ガラスの金魚 空を泳いでから破片

    日常に飽いてこわれた水中花

    満月のために裏木戸を開ける

    五位鷺の首は哲学的である

    連れもってマスクを買いに鬼買いに

    恋を落とした人は連絡して下さい

 
  












                           2009年 5月 更新








      黒い猫              本多 洋子



    星に通じる深ぁい穴を探している

    泣き笑い出来るチンドン屋の主役

    ブーメラン岬の春を知り尽くす

    消える時には五月の空のしゃぼん玉

    出合いがしらに真っ赤な天敵

    飛び出し注意 鹿にも鹿の通り道

    それは主役で竹久夢二の黒い猫

    朗報がありそう 河口まで急ぐ

    トマトケチャップふいに真昼の鳩時計

    エッシャーの廊下で春を奪われる

    若葉風 化粧櫓は虚のかたち

    合鍵の鈴が鳴らない小糠雨

    葉桜をまわって廃品回収車

    学校には振鈴 次郎物語

    蛇か鬼か 後ろに回って最初はグウ

    三遍まわったところで嘘は見抜かれる


    

                     
 最近の句会吟より






















                            2009年4月 更新





  臼杵の石仏  臼杵の石仏  本多 洋子





    
             
                      




     石仏の息に合わせる春の風

     よく来たと膝を寄せ来る石仏け

     花冷えの仏けの首の深い傷

     大日如来 蝶の行方を追うまぶた

     磨崖仏 さくらの彩に染まる頬

     血脈は怒涛のように左耳

     右耳は花のこころを聴きとめる

     彫り深き目尻の先に光るもの      

     ここに居て寂しくないか童子仏

     せいたか童子菜の花の黄を摘みに行け

     石仏の朱のくちびるに触れる風

     鎮めよと春のこころを諭される

           















                           2009年3月 更新




        

                 大阪城の梅林










  最近の句会作品より       本多 洋子




    泣けそうで焚き火に背なを向けている

    日記に挟んだキリンのことは忘れない

    エッシャーの廊下に落ちていた記憶

    紙ヒコ−キは黄砂に埋もれ 忘れている

    陰暦のここら辺りで穴を出る

    カレンダーに冬の出口を書き入れる

    街角の似顔絵描きは猫である

    冬の蚊はとうとう結界を越えた

    春の紐やんわり結ぶことにする

    二月尽 黄不動はなお無口なり

    菜種梅雨 積木の家を見に行こう

    いつかは握る キリンの首と象の鼻

    三人官女のひとりが約束を破る

    夜の雛 掟を破ることがある

    春のうつ 紙人形の手を濡らす



















                          2009年2月 更新





  アルルカンの笛                 本多 洋子




   バオバブの木よりも遠く鳴るケーナ

   森深くコロボックルが鳴らす笛

   オカリナは青い楽譜を追いかける

   マンボウも春のケーナに聞き惚れる

   雫する真冬の石を抱いている

   石舞台 卑弥呼の笛が落ちている

   亀が鳴くまで土笛を吹いている

   アルルカンの笛ピカソにはピカソの青

   G線上を渡っていった青揚げ羽

   雫するのはキリンの首か合歓の木か

 
  

本多 洋子 プロフィール


1982年  川柳塔にて川柳を始める

1987年  「現代川柳 点鐘の会」創刊当初から会員

1990年  「川柳公論」に投稿開始・同時に「川柳新京都」にも投句

1995,年  川柳公論大賞 受賞

       句集に「本多洋子作品集」
            「女人埴輪」
            「紅牙」
            「遍路」
            

洋子作品

2009年度