2008年 12月 更新


極月になりました。

どれだけの作品を残せたでしょうか。

一年の総決算が気がかりなところ。

来年への余力を確めながら、

キイを叩いています。

                             




  句会吟  より        本多 洋子



     絵手紙に金釘流と柿のへた

     親知らず抜かれピカソを見ています

     絵文字三角四角 恋には恋の文字

     傷心に効くゴスペルを着メロに

     秋深し涙もろさの吹き溜まり

     噛み合わせの悪い話と秋の河馬

     ポインセチアの笑顔は効き目あるらしい

     山茶花の白穢れずに散り急ぐ

     お喋りは静かに続く寒すずめ

     

   流人島こおろぎが泣く風が哭く
  
   千日草 千日牛と語り合う

   馬の耳一本の樹を信じきる

   ミネタウロスの尻尾は海に繋がれる

   天下御免 牛・馬の糞てんこもり







 島前
  中ノ島 観光




別府港から中ノ島の来居港に渡る。
ここには流人の島・隠岐の島の歴史がいっぱい詰まっている。
後鳥羽院資料館をかわ切りにご在所跡・ご火葬塚・隠岐神社へと次々に参拝する。

  観音岩           象岩            日本海に沈む夕陽




   観音岩の光背となり陽は沈む

   象岩は日本海を飲み干して

   隠岐の海流人の無念しずませる

   荒れる日も鎮もれる日も波観音

   海映えは心の襞になだれ込む

   頑なに西に傾く流人の島

   幾度か怒涛を胸に魔天崖








隠岐の島 周遊三日間の旅 本多 洋子




随分前から一度は行ってみたいと思っていた隠岐の島へ、友人を誘ってこの9月10日から二泊三日の旅に出かけた。





先ずは特急やくもに乗って米子へ。バスに乗り換えて境港に着く。境港からフェリーで隠岐島は西島の別府港に向かう訳だが、出航の時間まで間があるので、境港の街をしばらく散策する。ここは水木しげるのふるさと。街には鬼太郎列車や水木しげるロードがあり観光客を楽しませる。






境港 水木しげるロード

 鬼太郎列車のモニュメント   水木しげると鬼太郎      お化け草履   

      目玉おやじの街灯            公園の鬼太郎  




  秋の空 目玉おやじが監視する

  妖怪を尋ねて鬼太郎ポストまで

  秋暑かな木陰にねずみ男が居て

島前 島後

隠岐の島はおおきく分けて、島前と島後に区分けされている。
島前はさらに三つの島西の島・中の島・知夫里島から成っている。

フェリーは先ず西の島の別府港に到着する。
宿泊場所に荷物を置いてすぐに国賀海岸へと遊覧船を走らせる。






西ノ島  国賀海岸




玄武岩の溶岩が波風に浸蝕されて奇岩や海門が絶妙の造形美を形作っている。隠岐きっての海岸美をほこる。時刻はすでに夕暮れにさしかかっていたので、日本海の夕陽も思う存分鑑賞することができた。

  波しぶきを上げて    鬼ヶ城や明暗の岩    通天橋  

西ノ島  赤尾展望所から魔天崖放牧場




国賀海岸は西の島を海から遊覧船で観光するもの。
今度はバスで文字通り魔天崖の上を観光する。
下から見上げていたのでは、とてもアノ崖の上にこんなに広い放牧場があるなんて思えないが、秋天に広がる牧場は海からの風を受けながらとても素朴で長閑な風景であった。
海も牛も風も人間も何の差別もなく一体化して自然の子であった。


  後火葬塚           ご在所跡     隠岐神社 後鳥羽院の歌



延応元年この地でなくなった後鳥羽上皇を里人たちが火葬にしたところと言われている。村人の間では今でも御陵と同じように丁寧に祀られて、由緒のある場所になっている。隠岐神社の境内にも沢山の後鳥羽院の和歌が書き記されている。




   ユーカリの実の香 和歌などせし人に

   ヤマゴボウこころ優しき棲み家には

   やがて汀に沈みはじめる啼けない鳥

   都わすれの花のいきさつ遠い島

   新島守の誇りをしかと聴いた岩

   すめらぎの島は鄙びて凛として





島後   隠岐で一番大きな島

   


ここには玉若酢命神社や水若酢神社があり、樹齢二千年を越える巨木の杉があったり、大化の改新より駅鈴の制で用いられた駅鈴が今も残されている。
駅伝の初めとも言われている。
また配流ちゅうの後鳥羽上皇を慰めるために始められたという、牛突きの民族行事ものこされている。

     八百杉 幹まわり十メートル      残されている駅鈴

牛突き (現在の闘牛)    背子がけしかける      闘いすんで







    闘志湧くまでを何度もけしかける

    牛には牛の企みがある 重い息

    雄叫びかミネタウロスの荒い息

    その気になれば止めろ止めろと水を差す

    本番ではないと牛にも解かっている







 島後
     ろーそく島




今回の観光の一番の呼び物・ろーそく島。これは運が良くなければめったにその美しい姿に出会うことがないと言う。幸いお天気にも恵まれ夕陽の沈むタイミングに合わせて遊覧船を出してくれる。

岩礁が丁度ローソクのかたちをしているので、日輪が丁度芯のところに嵌まると火が灯ったようにみえる。

まさしく大自然が織り成す芸術。息を呑んで観る外はなかった。




    夕陽観音 喫水線は胸あたり

    やがて光に溺れはじめる島の神

    輪郭を辿ると縄文期の疼き

    炎える陽の波おだやかなたなごころ

    島を離れて島に心を繋がれる

晴天に恵まれ三日間の旅は無事終了した。
思えば二百十日に出発した無謀な旅であったけれど
天気は私達に味方をしてくれた。
幸せな旅であった。

黒木御所


旅の終盤に西島の黒き御所跡に立ち寄る。
黒松の林に囲まれた海辺の静かなたたずまい。
ここは後醍醐天皇が九ヶ月間滞在されたと伝えられる御所の跡。
天皇を祭る黒木神社とご在所跡の石碑がある。

いかにも淋しげではあるが気品のある佇まいは今も変わりがない。

  初秋 近詠          本多 洋子







     月のカミソリ


    こおろぎの傷の深さを知っている

    水音がするので止めるすすり泣き

    空缶に溜まるこおろぎの本音

    蟋蟀の脚で崩した壁がある

    髭が震えだす矢印の手前

    関節のコンパスで描く守備範囲

    蟋蟀の擬態としばらくは対峙

    秋草の闇 空缶の現住所

    こおろぎの死角で月を待ち伏せる

    無心にさせる月のカミソリ










       月の猫


    羅漢さんの膝から下りる月の猫

    しばらくは薮蚊とじゃれることにして

    迷路まで追いかけてくる太い声

    呪縛から逃れてみたい月の猫

    風の音 桃の匂いをつれて来て

    ときどきは呪文のように歎異抄

    月の猫月の思いを反らしめる

    もがいてももがいてもまた藪の中

    薮蚊ざわざわ藪の出口を遮断して

    水の音 羅漢の膝を思い出す





  我が家の月下美人

 近詠                       本多 洋子

       月下美人                  

  闇の世をそっと覗いた花の芯

  花には花の見せてはならぬもののあり

  咲き終えるときの嗚咽が胸底に

  花の闇 裸のマハか着衣のマハか

  月下美人を包む乳色の挽歌





     
  ひまわり



  ひまわりに凭れる私の影法師
  
  両手広げて入道雲にかける声
  
  向日葵の迷路で捨てる羞恥心

  ひまわりとコントラバスは仲がいい

  ヒマワリはマナーモードにして下さい

  午後からは右へ倣えになっている

  遮断機の手前で枯ひまわりに逢う


         
        蝉しぐれ



  青年の素足入道雲を蹴る

  少女水色 ヒロシマノート読んでいる

  天災です河童の皿が乾いてます

  蝉しぐれ抜歯は滞りなく終る

  淋しい日の肩を両手で包まれる

  八月の遮断機 寡黙を押し通す

  指文字が砂に埋もれてゆく晩夏
  

                              2008年8月  更新

   からくり時計
                     本多 洋子



青葉風 からくり時計動き出す

帽子屋にコクリコの花 恋多し

靴の白 トロンボーンを吹き鳴らす

六月の靴新調す太郎冠者

腐葉土を踏むスニーカー桜桃忌

初蝉の書斎机に志賀直哉

卓袱台に明治の父が居た 鰯

緑陰やその靴紐の片結び

橋桁の童地蔵に揺れる芥子

青葉風マーマレードは無農薬

                     2008年7月   更新

    恐山 恋々          本多 洋子



    深呼吸 三途の川を前にして

    恐山 死者の吐く息生臭し

    矢印をぐるっと風のレクイエム

    死者の血の流れる道に磯つつじ

    閑けさは一人で回るかざぐるま

    慟哭の女の声か波音か

    妻を待つ男の腕はすでに剥落

    河童彷徨う 半分は生身にて

    老鶯の声つややかに死者を食む

    風の音石の崩れる音 生死

    よもつひらさか この道この石この匂い

    のめり込む賽の河原の白い砂

    石すでに死者の心音 死の音階

    愛を数えて罪を数えて 震える石

    道標はやがてむらさき 受胎の死者


                         2008年6月 更新


この5月は陸奥三大半島の旅をした。

今回は下北半島の恐山の作品を揚げてみたい。

   井戸の底から アノ青空をごらんなさい

   足元を庇ってくれる仏の座

   石楠花は健気 あじさいはおぼろげ

   自尊心の仔猫に叱られてしまう

   菜の花へ仏足石の二歩三歩

   天啓があるかもしれぬ通り抜け

   春愁や母に近づく豆を煮る

   夕桜 光源氏になってみる

   やんわりとムーミンパパに叱られる


   本堂を斜めに漫画的聖火

   がらん堂にドカンと座っている達磨

   おこげは出来ましたか 人生の底

 我が家の 庭の いちはつ

   2008年5月 更新




  句会作品 より

  透明になるまで波の音を聴く

  生クリームだったか 春のうつだったか

  受胎告知以後 白百合の偏頭痛

  序破急の破のあたりから迫る黒

  月光菩薩の背なをするりと黒揚げは

  約束を無視して蝶は標本に

  傷心にとろりとかけるヨーグルト

  色鉛筆が生える三月の堤

  三月の川シャンソンを口ずさむ

  捨て犬らしい空を見ている

  海峡のあたりであれからを捨てる

  ムンクは月を月はムンクを呑み込んだ

  苦汁(ニガリ)すこし入れて過去完了にする

  指きりも針千本も犯される

  夕焼けを呑む荒れ模様のムンク

  

  

2008年 4月 更新



  最近の句会吟から

本多 洋子

    前略後略 母の手紙に雪が降る

    藪椿 声をひそめている気配

    せせらぎは春の音符を食んでいる

    水色が足りなくなったプロフィール

    減量を考えている春の河馬

    甘味料を少し減らした私小説

    雨期が明けたらピノキオに逢いにゆく

    真っ赤な薔薇をランチタイムに誘います

    冬桜 泣きたいように泣くように

    温い言葉を背中で聞いたことがある

    柱になっているのは東洲斎写楽

    あかさたな思考錯誤は夜明けまで

    つうは鶴に戻って 愛のそのあとは

    エンタシス風の行きずり雲の行きずり

    吉祥天女はメゾソプラノに違いない

早春の句会吟より

 2008年3月 更新

   早春の東大寺   本多 洋子



  莫山の書の大笑い 東大寺

  空耳か音声菩薩メゾソプラノ

  バリトンの主は大仏枝桜

  蓮弁のほとけ紫 かすり傷

  線刻に血の滲みあり赦されず

  大仏の背なにぽっかり虚空の虚

  広目天の筆ためらわず天を撃つ

  春を待つ邪鬼の背中の闇深し

  諤々と肘木の肘の複雑骨折

  風鐸に宙の音程 風まつり

  泣き臍をかく外陣のおびんずる

  雨の参道 半音低く鹿の糞

  笑い堪えて邪鬼のおへその説法癖

  鹿の腹 紆余曲折を反芻せり

  意地ひとつ貫き通す鬼瓦

  大仏の指 体温を確保せり

2008年2月 更新

                                2008年1月  更新
  本年もよろしくお願い申し上げます

  今年もまた、みなさまの温かい声援に押されて

  ささやかながら、ひとつひとつ作品を積み重ねて

  行きたいと思っています。お目に止れば嬉しく存じます。






   ギニョールの指    本多 洋子   


 道化師の帽子を齧っている鼠

 文学に溺れる桃色のMouse

 三が日ハツカネズミは脱走する

 星に繋がる掌の鼠

 ギニョールの指 極寒に立ち上がる

 Eメール 冬の尻尾を掴まれる

 オカリナを吹く 換気口のネズミ

 冬銀河 ねずみ花火は掬われる

 イーハートーブを走り回っている鼠

 野ねずみはカンパネルラと通じ合う

 さすらいの旅を続けているマウス

     おびんずる

      東大寺

   散歩がてらに・・

2008年9月更新

                              2008年 10月 更新



秋はあちらこちらで大きな川柳大会が目白押しです。

たいていはどの句会に行っても半数近くは、同じメンバーに出会います。

まさしく 川柳民族の大移動です。

私は 少人数の句会で、じっくり作品を味わうのが好きです。






最近の句会吟から         本多 洋子




    色鉛筆 先に減るのは淋しい色

    攻めるかたちに奇麗な壷が置いてある

    致死量の誘いに乗った秋ざくら

    どくだみを煎じてからの人嫌い

    秋のポケット壊れた鍵がひとつある

    コスモスが立ち話する駅の裏

    背後から秋の羅漢に攻められる

    石切さんの秋 漢方の匂いする

    石塀小路の角を曲がった秋の鬼

    飾りボタンを静かに捨てる秋の湖

    

句会作品から


  豆の木の根っこ                本多 洋子


   仁王になった枯向日葵を知っている

   蟋蟀に抜け道だけは教えておく

   淵に来て紅葉一枝謝罪せり

   秋の午後 猫にも猫の席があり

   首塚に一陣の風 残り萩

   飢えのかたちに机の隅の低気圧

   プードルと午後の時間を英会話

   蛇になったことは誰にも言うてない

   ケイタイはきっと鈴虫からでしょう

   招待席のバラ 企みが少しある

   豆の木の根っこを斬っている 誰か

   切り札一枚 鱗と交換しませんか

   キングからクイーンになった秋の雲

   毛筆の便りが好きな十三夜

   秋はことさら透明になる阿修羅の掌

   

   

     2008年11月 更新



 とてもいい作品が創れそうな

 晩秋の季節 

 コスモスに促されるように

 誰かのピアノソロ

洋子作品
  

   洋子作品

本多 洋子 プロフィール



1982年 川柳塔にて川柳を始める

1987年 「現代川柳点鐘の会」創刊当初から会員

1990年 「川柳公論」に投稿開始

1995年 川柳公論大賞 受賞

 句集に「本多洋子作品集」
     「女人埴輪」
     「紅牙」
     「遍路」


    

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