2019年11月       更新


    2019 秋の散歩会 御案内

    日 時  11月20日 水曜日

    行 先  紅葉シーズンの岡崎公園 一帯

      付近には南禅寺・京都市立動物園・無鄰庵琵琶湖疏水記念館など      がある

    集 合  京都市地下鉄 東西線  蹴上改札口前   十時

          阪神方面からご参加の場合、地下鉄烏丸線の烏丸御池で
           東西線・六地蔵行きに乗り蹴上で下車のこと。

    句会場  京都市国際交流会館  地下鉄蹴上駅から徒歩五分 
            午後1時より


                 
散歩会 主催    中野六助


                  

























                                            2019年 5月      更新

  定例 秋の散歩会

    日 時 11月20日 水

    行 先 京都 岡崎公園 一帯 大鳥居を中心とした半径200メートル内
         (京都市美術館・平安神宮・京都市動物園・京都市近代美術館・
         京都無隣庵・インクラインなど 自由に散策)

    集 合 神宮通り 大鳥居前 10時

    句会場 京都市国際交流会館 1時より





                                 世話係 中野六助・徳永政二
                                      笠嶋恵美子・本多洋子

                     










                                       2019年    4月       更新


  定例 春の散歩会 会報
   日 時  4月3日
   行 先  大阪市立美術館 特別展
         フェルメール展
   句会場  中之島 中央公会堂

 世界で一番美しいとされるフェルメール絵画。現存するのはあずか32点のみと言われている中で、日本初公開・ドレスデン国立古典絵画館所蔵 『取り持ち女』を含む6作品が大阪市立美術館にやってきました。特に43年の生涯しか与えられなかったこの画家の、初期の作品『マルタとマリアの家のキリスト』から成熟期の『手紙を書く女』並びに『リュートを調弦する女』それに洗練と調整期に完成されたといわれる『恋文』や『手紙を書く婦人と召使い』までの素晴らしい作品を一度に鑑賞できる機会を与えられたことは本当にラッキーだったと思います。
                                   
前文・文責は中野六助氏


ひとり一句
   部屋の中の絵の中の部屋の中の絵           小池 正博

   まちがいはそうね上から降ってくる            徳永 政二

   物語の中を必死に歩いている               街中  悠

   右で書く恋文ひだりで消す過去              清水すみれ

   聴覚が視覚に調弦の女                   八木 侑子

   ふわっと四月びしつと四月                 太下 和子

   カーテンを開けて見えないものを見た          森井 克子

   言えなかったことが散らばる床一面            北村 幸子

   ドレスデンへ行きたい夢は夢のまま            オカダキキ

   手ざわりも匂いも金貨だとわかる             笠嶋恵美子

   見えないものを見てくださいという光           田村ひろ子

   当然のようにまあるくなるりんご              坪井 篤子

   羽ペンを走らせ春を書き留める              宮井いずみ

   手紙という完璧な部屋の非常口              小川 佳恵

   作品に耳打ちをして叱られる               嶋澤喜八郎

   椅子ですかこの世の春の膝ですか           中野 六助

   我が家にも一枚あったフェルメール           吉田 利秋

   池にも二輪 水面に浮いている              岡本 遊凪

   手紙読んでいる 傷ついている              本多 洋子

   



 

  





                                           












                                                2018年12月       更新



   三回忌  墨 作二郎を偲ぶ       点鐘の会 OB

 12月になるといつも墨作二郎師のことを想い出しております。12月23日が祥月命日で、今年はもう三回忌を迎えます。近しい者だちが集まって、忘年会かたがた点鐘の会の想い出話に、花を咲かせました。作二郎師のことを忘れず、それぞれが川柳を続けていることが、何よりの供養になると思っております。この12月10日に有志6人が堺東に集まって楽しく団欒をいたしました。
 席題『虹」ということで各自一句を色紙にしたためました。


   



   七色の雫分け合う虹の下               八木 侑子

   読点に虹が映っておりました             笠嶋恵美子

   片足の虹のむこうの君の声              宮井いずみ

   午後二時のおわかれとなり虹消える         福田  弘

   虹が出るといつも電話をくれる人           南野 勝彦
   
 サクジロー
   「作二郎ー!」と呼ぶ虹色の冬銀河         本多 洋子


  色紙はご仏前にお送りしておきました。  心のこもった追悼会でした。













                                         2018年 12月    更新

 定例春の散歩会 予告

 
  日 時 平成19年4月3日(水)

   行き先 大阪市立美術館 
特別展 フェルメール展

   句会場 大阪市中央公会堂(中之島)午後1時より


 尚、展覧会場は、朝九時半より入場出来ます。混雑する場合もありますので、各自ご判断の上自由にご覧になり、句会場に一時には集合して下さい。

尚、遠方の方で参加されたい方は、それまでにフェルメール展をご覧になった時の作品をお持ち下さっても結構です。句会場集合の時間を守ってください。大阪市立美術館では2019年2月16日からフェルメール展を開催しておりますので、当日朝早くの都合が悪い方は前日までに足を運んで下さっても結構です。ただし句会場には集合時間を守ってお出でください。

※ ・入場前売り券をご購入されておく方が、金額てきにも時間的にも便利です。


 ぜひ沢山のご参加をお待ちしております。

         春の散歩会   世話係        中野 六助
                               徳永 政二
                               笠嶋恵美子
                               本多 洋子




             



















                                           2018年 11月       更新



 定例秋の散歩会

 日 時  2018年11月7日
 行 先  世界遺産 下鴨神社周辺 と 糺の森一帯
 集 合  現地 下鴨神社 朱色の楼門前    10時


 下鴨神社は1994年に「京都古都の文化財」としてユネスコの世界遺産リストに登録されていて、主祭神の玉依媛命は神武天皇の皇后になったヒメタタライスズヒメの母で、八咫烏の子との伝承がある。年間を通じて様々な祭事が行われ、五月の流鏑馬神事・葵祭り、一月の蹴鞠などが有名である。近くの糺の森には賀茂の長明の方丈記に登場する庵も復元されている。
 当日は最高の秋日和で、総勢24名の柳友が集まった。

ひとり一句

   折れている何を受け入れたのだろう          北村 幸子

   世界遺産と太田遺産の差を述べよ           清水すみれ

   非常口ですね糺の森ですね               森田 律子

   うろついてカラスに呵呵と笑われる           木口 雅裕

   一万歩弱 今日の私の小さな旅             オカダキキ

   あけ橋に光源氏の息がある                森井 克子

   声だけが水に浮かんで消えました            徳永 政二

   鳥が来る森のかたちをしていよう             岩田多佳子

   砂利ふんでやっと見つけた妥協点           久恒 邦子

   すぐずれる空に目釘を打っておく            嶋澤喜八郎

   さざれ石にくらいついてる五円玉            芳賀 博子

   みたらし団子の首も派遣のようですね         笠嶋恵美子

   八咫烏に出会わないかと覗く森             坪井 篤子

   千年樹黙ってこぶをふくらます             内田真理子

   組み立て式秋の庵の方丈記               河村 啓子

   ヤタガラス暗誦してる方丈記               田村ひろ子

   別邸の蔦が絡まる裏事情                川田由紀子

   どんぐりをいくつ拾えば今日の色            北原 照子

   TシャツのM売り切れたままで秋             宮井いずみ

   波立っているのはアメンボウの唄            太下 和子

   目つむれば砂利の沓音学徒出陣            太田のりこ

   世界遺産まで飛んで行くおさい銭            岩根 彰子

   チコちゃんは知ってるさざれ石の謂れ          本多 洋子

   京都市左京区タマヨリヒメの膝               中野 六助


 




























                                          2018年 7月         更新


   定例秋の散歩会については 追ってこの欄にてご報告いたします。その節にはまた
   多数のご参加をお待ち申しております。よろしくお願い申し上げます。








                                               2018年4月      更新



  定例 春の散歩会

      
京都御所 近衛邸 桜の苑


 今年はどことも例年より十日もはやく開花宣言がだされ、四月四日の御所の桜ははや満開も過ぎて名残りの桜といったところ。折りしも御所の一般公開も行われていて花びらの散る中、外人観光客も白い砂利道を踏みながら、静かに京都の春を楽しんでいた。今回は遠路青森からもお二人の参加があって総勢27名での吟行句会となった。

 
ひとり一句

   椅子がある春のひとりになるための           徳永 政二
 
   かばってくれたのは一枚の花びら            田村ひろ子

   雑巾は絞らへんねん春やねん              森田 律子

   散りかたのドリルは全部しましたか            清水すみれ

   男らよいつまで蹴鞠やってんの              芳賀 博子

   序文からサクラは夜を待っていた             中野 六助

   ボールペンをどうぞぼんやりをどうぞ           笹田かなえ

   春はとろけて絹ごしどうふ一丁目             内田真理子

   男の子やっぱり棒をもっている              畑山 美幸

   ざらついている四月の空の裏               八上 桐子

   桜の下でもめているのが工学部              河村 啓子

   たん瘤をいっぱい創りまだ生きる             森井 克子

   樹のうろを覗けば眠る作二郎               笠嶋恵美子

   葉桜の耳はとってもすばらしい              小池 正博

   YouTube 本社銃撃もわっと京都             守田 啓子

   ぽんぽんとぽんぽん桜ぽんぽんと            街中  悠

   アッと叫んだ タンポポを踏んでいた           本多 洋子

   息を止める私が散っていきそうで             北村 幸子

   ゆったりを行きつ戻りつ笑いつつ             坪井 篤子

   春の雲布団パンパンしてきたわ              岩根 彰子

   桜散るほめられるのに飽きたから             嶋澤喜八郎

   枝のひとつからイタリヤ語が延びる            岩田多佳子

   砂利砂利砂利砂利 消火栓                辻 嬉久子

   下半身囚われの身の桜かな                久恒 邦子
 
  老松の鱗たどれば刺す言葉               宮井いずみ

   春霞ということにして包み込む              太下 和子
 
  ハラハラと過去が隣に来て座る              北原 照子
   








                                        2017年12月           更新



  ぶらり散策

    
梅田 北新地                           本多 洋子


 近頃、誘われるままに小グループの吟行会に参加させて頂いている。この間は、赤松ますみさんの勉強会『ぜりいびいんず』の散策で、梅田は北新地界隈の散歩会に参加した。夜の新地でなく朝の新地はまた違った貌を覗かせていて、大阪の裏側を少し垣間見たような気分になった。

 近隣にはお初・徳兵衛のお初天神もあることから、その案内の石碑も建てられている。堂島薬師堂もあり弁財天も祀られていた。新地本通りから縦横に細い路地が迷路のように延びている。
そして新地の名高いお店がずらりと軒を連ねているのである。硯楽通りにはえびす様が祀られていて狭い路地の頭上に真っ赤な提灯が垂れている。何故か黒猫の石像が行く人を睨んでいる。
いわゆる大阪の高級な歓楽街のお昼をちょいと覗かせてもらった女子力のお散歩であった。


    
洋子作品は次のとおり

   
    北斎も写楽も歩く北新地

    明け六つの鐘はそらごと蜆川

    夜の新地の貌は知らない虫の秋

    空瓶ころがる新地の朝を欠伸して

    人間の裏も掃き出す収集車

    古自転車おきざり朝の北新地

    小春日や弁財天の豊かな腰

    噂の人と逢うかも知れぬ北新地

    常連に写楽も居たという呑み屋

    第二体操 御堂筋には銀杏の黄

    待ち合わせは堂島アバンザ郵便局

    














                                     2017年11月             更新

 


   
 墨 作二郎 没後一周年 特別散歩会



    
  京都府立植物園

        
京都府立植物園

 故 墨 作二郎氏のライフワークでもあった点鐘散歩会は20数年の歴史を刻んで、昨年11月に確かなピリオドを打ったわけだが、散歩会OBの皆さんの熱い要望もあって、2017年11月1日
没後一周年を記念して、墨 作二郎を偲びながらの心温まる散歩会を開いた。
 行先は京都府立植物園。ここ数日間続いていた秋雨前線や台風の余波もすっかり退去して、真っ青な秋晴れの中、集合したのは総勢24名。久しぶりの顔合わせながら同志の思いも熱く、心行くまで秋の深まりを満喫することができた。

 
 ひとり一句

   寒いのよずっと桜の木でいたら                 清水すみれ
   一億円あったらバラなんかやめる               中野 六助
   水光る水は正しい方にいる                   徳永 政二
   罪の手をアンスリウムに舐められて              峯 裕見子
   梅林のずっと向こうの動悸です                岩田多佳子
   色づいて淋しいものになっていく               北村 幸子
   口実にくちなしの実をお借りする               内田真理子
   鬼灯の赤は対人恐怖症                    嶋澤喜八郎
   樹は風と抱き合ったまま倒れ                  八上 桐子
   ジャケットの裏もびっしりと胞子                 芳賀 博子
   丁寧に階段おりてゆく光                    田村ひろ子
   寄せ植えにされて二重のつけ睫毛              川田由紀子
   蓮池のこれがわたしの骨ですか                岩根 彰子
   つまずいたところに咲いているのです            笠嶋恵美子
   人を噛むつもりで熟れているアケビ              森井 克子
   グレーテルさがして旅はまだ続く                赤松ますみ
   水際をあるくバッグをもつように                 街中  悠
   ふっといい匂いしたので立ち止まる              本多 洋子
   三つ吐き三つ吸ったらアサキマダラ              河村 啓子
   台風の傷跡なめるこぼれびよ                 北原 照子
   ひとりでもいいの いいえひとりがいいのです        宮井いずみ
   青空に飛行雲 地上に花見るひと               オカダキキ
   ひこばえが小鳥の声に背伸びして              八木 侑子
   嫌がられても寄生ラフレシア                  坪井 篤子
   
















                                           2017年9月        更新


  句会散歩 句会散歩


 最近、新しい川柳グループが2・3立ち上がっています。色々な意図があっての事と思いますが
いずれにしても、参加条件としてはITのメールアドレスが必要なようです。パソコンやスマホは必須条件になりました。ぼちほち参加して新しい空気を胸いっぱいに吸ってみたいと思っています。

   いずれこの欄で紹介できればいいなと思っています。

ユニークな大会もあちこちで行われるようです。目が離せません。川柳がいい方に進めばいいなと思っています。


                                              記 洋子












                                        2017年8月           更新

 文 楽 散 歩 

        
文 楽 散 歩               本多 洋子

 

 朝からガンガン日の照りつける7月末日、夏休み文楽特別公演と銘うった第二部の名作劇場を観劇した。開演1時間も前から、文楽劇場玄関ロビーは人であふれかえっている。外人観光客もあちこちに見え、古典芸能である文楽愛好家も徐々に増加しているようだ。一次は国や府の補助金も大幅に減らすというお達しがあったようだが、なんとか息を吹き返し現在にいたっている。
 毎年夏休みには親しみやすい演目があり、
       第一部・親子劇場  金太郎の大ぐも退治
                    赤い陣羽織
       第二部・名作劇場  源平布引滝

       第三部・サマーレイトショー 夏祭浪速鑑
 という企画であった。


 言うまでもなく、文楽は義太夫節の浄瑠璃を三味線で語るのに合わせて人形を操る演劇で日本の近世芸能のひとつ。浄瑠璃が一番盛んになったのは竹本義太夫が道頓堀に竹本座を創設し、近松門左衛門と共に近世的な語り物として義太夫節を確立してから。古典芸能は受け継がれて、1955年には国の重要無形文化財に指定され、2008年には人形浄瑠璃文楽として世界無形文化遺産に登録されている。

   
夏休み文楽特別公演

  
源平布引滝 (げんぺいぬのびきのたき)は

 
義賢館の段 からはじまった。 豊竹靖太夫の語り…。

♪水上は流れも清き白河に美麗を好む一構へ、源氏の末孫木曽先生義賢、さいつころ…・・♪

からはじまる。

 太棹と合わせた流麗なことばの流れから、ひとり何役もこなせる台詞の妙味、これは義太夫ならではの音の芸であり語りの味わいである。

 物語は平家打倒の旗印である源氏の白旗が木曽義賢から子義仲の手に渡る筋をドラマチックに物語る。浄瑠璃の「ことば」は舞台上の大型スクリーンに明示されるので難しい言葉のやりとりとか台詞の流れとかがよくわかるが、それに気をとられると人形の仕種の些細なところを見逃してしまうのでやはり何度も何度も観劇して、慣れるということも大切であろうと思う。義太夫かたりの汗を心に深く思うことである。

 目まぐるしく変わる現代の世相のなかで、文楽のここだけ時間が止まったように古典芸能が深く艶やかに演じられている。そこに流れるものは何か。いつの世にもかわらぬ世情の綾か、人間の弱さか強さか。生身の人間でない人形であってそこ演じることのできる真実であり笑いであり血脈であろう。太棹のつややかな音色が胸深く残る。たっぷりと2時間、古典芸能に浸ることが出来た。





     
義太夫の汗 太棹の深い海       洋子
























                                       2017年7月           更新



    サークル散歩   サークル散歩


   
 ぜりんず   コロキュウム主催 勉強会




 もう随分前から、赤松ますみさんが中心になって開催しておられる小さな勉強会。メンバーは、10名から多くて15名くらい。一室に集まって何か題材を持ち寄りその場で印象吟の句会を開いたり、大阪梅田近辺を散策しては昼食を挟んで、和気藹々の句会を開く。作句はすべて当日の即吟。6月には、10名の参加があり、大阪国立国際美術館で開催されているライアン・ガンダー展を観て、館内のレストランで昼食をとり、その場で1時から5時までゆっくり句会と談話会を持つことができた。各自作句数は無制限であるけれど、句会には自選の8句ずつを提出して、互選。
その後、入選した作品について各自忌憚の無い意見を交換する。

 参加して非常に沢山の刺激を貰っている。その時に出来た作品は、一般には公表せず各自何処に提出しても良いという規約になっている。したがって6月の皆さんの作品も、ここに明示することはできないが、私の作品のなかで、当日提出しなかった作品をここにあげてみたいと思。何かの参考になるでしょうか。


  
ライアン・ガンダー展

     この翼は飛ぶためのものではない              於・国立国際美術館


  ライアン・ガンダーについては次のような説明がありました。

『ライアン・ガンダーは、1976年イギリスに生まれ、母国とオランダで美術を学び、2000年代初頭から世界各地で個展を開催するとともにドクメンタなど著名な展覧会にも参加してきました。この芸術家の仕事は、美術作品や普段の生活で遭遇する物事を素材として、オブジェ、インスタレーション、絵画、写真、映像、印刷物などを制作するもので、多彩であり既成の型にはまっていません。』

 展示作品には、一般人を作品の中に巻き込んだ非常にユニークなものがあり、驚きの連続でした。日常の中の非日常がふいに現れるといった状態です。たとえば、学芸員の腕に作品である文字盤のない時計をつけていたり、パホーマンスとして「ひとりの女性がふいに現れて、他の作品の横の床に足を投げたして座り一心に本を読む」と云った風変わりなもの。
 壁の中に目玉が埋め込んであって、ときどきギョロッ動いたりする。

 それらの作品からは、鑑賞者の想像力を活性化し、新たな思考回路を生み出したり、物事の認識を拡張してくれると云われている。

 どれだけのものを得ることが出来ただろうか。句会に出さなかった私の作品を次に上げてみる。



   壁の目よ そんなに深く哀しむな 

   言の葉が弓矢のように突き刺さる

   矢の中をくぐり抜けては君に逢う

   何処まで行って誰を突き刺すのか レモン 
          とこ
   尖んがった所にも着地するのです

   文字盤のない時計の中で逢うている

   ひゅんひゅんと四方八方ゆさぶって

   レモンはすでに悟りを開いているようだ                  洋子



















                                     2017年6月         更新


  サークル散歩 サークル散歩

       関西古川柳研究会


                                      本多 洋子
    

 机の上に齧りついていないで「外に出る」と云う事はとても大事なことと思っています。
「自分に閉じこもらずに外に出ることが大切です。」そう話していたらAさんからこんな答えが戻って来ました。

 「そんなん当たり前じゃん。私ナンカ月のうち二十回ぐらい句会歩きをしているわ」

 そうなんです。そしてどの句会でも同じ顔ぶれが揃うのです。民族の大移動で、ぐるぐる回っているだけです。それって結局は内に閉じこもっているのとおんなじではないでしょうか。

 そうだ!本当に外の世界へ出よう。とても自由なところに自分を放り出してみよう。そう思いました。

そして、先日初めて次のようなサークルに出席してみました。紹介しましょう。


  関西古川柳研究会

       日 時   毎月第三日曜日  一時半より
       場 所   ウィングス京都
       内 容   「川柳評万句合勝句刷」をテキストとして会員の輪講。
              はじめて参加のものでも、気軽に質疑応答ができる。
              江戸時代の風俗習慣などにも気軽に入り込めて楽しめる。


はじめての参加で、テキストの読み方も不慣れで解からない事ばかりであったが、それだけに
これから 予習復習の大切さも痛感し、解読して行くという作業の面白さにもきっと奥深いものがあるのをわずかながらでも実感できた。

 柳樽や武玉川などほんの浅くしかしらなかったけれど、サークルのなかでたのしく勉強してみたいなとおもった。川柳のルーツをさぐるのは決して無駄ではない。
初心者の醍醐味を味わいたいと思っている。
     




















                                       2017年5月         更新


   この欄の次のプランを考え中ですが、まだ実行に移せません。
    実はフリーの立場でユニークな句会訪問をしてみたいのです。

   いつか フッとお邪魔するかもしれません。よろしくお願いします。

                                         本多洋子

















                                          2017年3月        更新

    点鐘散歩会は前月で以って終了しました。
    
    これからは また気軽に外に出て川柳を楽しみたいと思います。
    新しい企画を考えたいと思いますので、いいアイディアがありましたら
    どしどしお寄せ下さい。
                                      本多洋子













                                          2017年2月       更新





    何必館 京都現代美術館

   
MAYA MAXX 展  黒から玄へ

「何必館」の名称は「何ぞ必ずしも」と定説を常に疑う自由な精神を持ち続けたい、という意味合いで名づけられたものと言う。建物は館長である梶川芳友氏が自ら設計したもの。所蔵の中心は北大路魯山人、村上華岳、山口薫の三人の作品である。今回は特別展MAYA MAX展「黒から玄へ」が開催されていた。

 絵画、絵本、デザイン、ライブイベントなど、ジャンルを超えた多彩な活動で知られるMAYA MAXは吉本ばななや北川悦吏子などの書籍装丁画やCHARAなどのCDジャケットを手がけたことでも有名らしい。27歳から独学で絵を描き始め、1993年の初個展以来、毎年個展を開催している。中でも何必館?京都現代美術館では、色々なテーマで2008年から7回連続で作品を発表してきた。今回は黒から玄へというテーマ。

 MAYA MAXXの作品は絵の具の層が何層にも重なり、何枚描いても最終的には真っ黒な画面になってしまう。しかし黒とは根源的な色であり一番豊かな色彩ともいえると館長の梶川芳友氏は言う。そして付け加えてMAYA MAXXは「悩むことを手放さずその先にある真のつよさを掴み取るという強さに辿り着いた」と解説している。

 画面は抽象的であり厳しい深層風景を表出しているようであった


   
ひとり一句

   つかわない言葉のように雪が降る               中野 六助

   最後だというのになんてセロファンな日            岩田多佳子

   ひとすじの黒の隙間が父でした                清水すみれ

   団体になるまで雨は止みません                北村 幸子

   ひらかなをぐっとまがればさくら色               徳永 政二

   魯山人が綿を活けろと言うたんか               森田 律子

   何層も重ねて夜が出来上がる                 八上 桐子

   長い手はだいじな人を抱くために                峯 裕見子

   春の雪ホラホラにしんそばうすい                辻 嬉久子

   さあ諸君一緒に溶けようではないか              内田真理子

   マヤ・マックスの黒い絵の具をふいたげる           岩根 彰子

   釘で書くナヤミマシタクルシミマシタ              川田由紀子

   ささやかがあつまってゆくうつくしさ               田村ひろ子

   おーい雲どこかで誰かはーい雲                嶋澤喜八郎

   ストレイシープ四匹かかえている冬               街中  悠

   耳だけを残して海峡を越える                  笠嶋恵美子

   青空の奥には船が行き来する                 本多 洋子

   獺祭やいつもとちがう茶器並べ                 坪井 篤子

   画廊では左手だけで生きられる                小池 正博

   一瞬を駆け抜けた黒雲の跡                   今井 和子

   こんなところで出合うなんて 流木               八木 侑子





 












 


                                    2017年 1月         更新

   第二百四十二回

      
点鐘散歩会




   
西宮えびす神社

          
十日えびす


 十日えびすとは1月10日を中心に9日から11日までの3日間に行われるえびす神社の祭典を言う。9日を「宵えびす」、10日を「本えびす」、11日を「残り福」といって阪神間では毎年百万人を越す参拝者で賑わう。恒例として拝殿には大きな本マグロが奉納されて、参拝者が大漁と商売繁盛を願って、鮪の頭や背に賽銭の貨幣を貼りつけて祈願する。神社周辺の参道や街並みには屋台や出店が密集して混雑を極める。当日は成人の日の祝日と重なって、身動きできないほどの人出で賑わっていた。



   
ひとり一句

   青ねぎの青は一月九日ね                   徳永 政二

   いい雲になろう ちいさく鈴をふる               吉岡とみえ

   空いたところにお掛けくださいこの世です          峯 裕見子

   マグロかもしれない 無垢かもしれない            森田 律子

   人間の臭いを消してゆく屋台                  八上 桐子

   立ち止まる昭和二年の石灯籠                 小池 正博

   えべっさんの補聴器ことしは湿っぽい             本多 洋子

   どうだどうだと逆さ門松見得をきる               田村ひろ子

   松の木の天辺にいる作二郎                  笠嶋恵美子

   みちびかれるようにひっぱられるように            街中   悠

   西宮をホイップしたらえべっさん                坪井 篤子

   福男は今準備中体操中                     太下 和子

   福袋あけてたちまち不満顔                   オカダ キキ

   踏ん張った杖がギクギク泣きだして               北原 照子


















                                     2016年12月         更新





   第二百四十一回

   
点鐘散歩会


     京都・祇園

     
漢字ミュージアム


 2016年6月、京都祇園にオープンした「漢検 漢字博物館」が今回散策した通称漢字ミュージアムである。漢字の歴史を実際に体験しながら、遊んで学べる観光スポットとして人気を博している。

★ 一階のテーマは「見て聴いて触れる」

 ここでは漢字の歴史絵巻と称して部屋の壁際30bに渡って絵巻が展示されている。中央のフロアには素材と道具の進化として、象形文字・甲骨文字・青銅器に鋳入された文字や木や竹・紙を素材に発展してゆく過程とか、果はモニターに映し出される現代の漢字の形態まで、目で見て解かる楽しい展示になっている。

★ 二階のテーマは「遊び楽しみ学ぶ」

 ここでは、小学生でも大人でも楽しく遊びながら漢字に親しめる様々な工夫がなされている。例えば「漢字回転すし」のコーナーでは、映像からではあるが手元に取り寄せた寿司の魚の漢字を書き入れてみるなどして、知識を試して見る事が出来る。大人でも以外と知らない漢字が多い。
見て・さわって楽しめる明るいミュージアムであった。


 
 ひとり一句

   五年生になったら酸っぱいが書ける             清水すみれ

   読めぬ字は飛ばす玉ねぎみじん切り            川田由紀子

   すまないが頭に雲をのせてくれ                森田 律子

   赤ちゃんの足が見えたりする漢字              徳永 政二

   しあわせの文字はいつでもしもぶくれ            中野 六助

   「骨」「懐」「話」煮込みスープ出来上がる          辻 嬉久子

   フッと漢字になって京都になって               岩田多佳子

   削ったら夢なんか出てきちゃったわ              八上 桐子

   王様の今日を占う鳥の足                    田村ひろ子

   魚くん漢字カフェで待ってます                 小池 正博

   翻車魚をいっぴき土産に持ち帰る               岩根 彰子

   偏も旁も身から出た錆                      本多 洋子

   うねったりひるがえったりくらましたり              街中  悠

   エレベーターの中で漢字に襲われる             坪井 篤子

   恋文を甲骨文字で書くなんて                  笠嶋恵美子

   えんぴつがポキポキ折れる漢字館              北原 照子

   千字文学んだ子らの涙顔                    木村 宥子


























                                      201611月           更新





 第二百四十回

   
点鐘散歩会

 堺 大仙公園内 

        
日本庭園


 大仙公園は日本最大の仁徳陵の南側にある広大な敷地の総合公園で、日本の歴史公園100選にも入選している。今回はその中の日本庭園を訪れた。堺は古来から大陸と日本を結ぶ重要な位置関係にあり、大陸の先進技術や文化を日本に運ぶ重要な役割を果たした。この日本庭園はこうした歴史を背景にして作庭されたもの。庭園様式は「築山林泉回遊式」を用いられている。対岸の桃源台から始まる水流は景観をおりまぜながら園内を周遊し、やがて大海にそそぐ趣きを大小の岩や石を組み立てながら表現している。園内のそこここには石蕗の黄やムラサキシキブの花がそそと咲き秋の深まりをしみじみと感じることが出来た。


   
 ひとり一句

    それは影 それは波立つ物語              墨 作二郎

    秋という紙ふうせんの中にいる              南野 勝彦

    秋の日の静かな方に置く手紙              徳永 政二

    歴史など醤油なしでは食べられぬ            清水すみれ

    水匂う 来てくださってありがとう              峯 裕見子

    這うてでも堺に向かっているところ             畑山 美幸

    車椅子の祭ばやしから晴れる               岩田多佳子

    始めましょ雲があきらめないうちに             街中  悠

    おみやげにするなら重くない言葉             中野 六助

    秋よりも深い所に出てしまう                 北村 幸子

    水音へすこし遅れてしまう秋                八上 桐子

    さざ波のように生きたし眠りたし               笠嶋恵美子

    木漏れ日は石に石には言葉がある             本多 洋子

    そこにこだわればやや後ろが曇る              たむらあきこ

    背のびするたびにパチパチ切られます           田村ひろ子

    あずまやに腰をおろして蚊と戦                坪井 篤子

    秋の日の短さ告げる時計台                  八木 侑子

    どうしてか鴉鳴いても動かない                 今井 和子

    晴れ女の声ですね弾けています               オカダ キキ

    枝のくねりを我が身と重ねてみたりして            瀬川 瑞紀
















                                           2016年10月     更新


第二百三十九回
      
点鐘散歩会

 生誕300年 若冲の京都展

                       
 於  京都市立美術館



 若冲は1716年京都の錦市場にある青物問屋に生まれた。今年は丁度生誕300年に当る。家業の青物問屋は継がずに絵を描くことを選んだが、やはり作品には野菜や魚などを題材にしたものが多い。当時は狩野派や琳派などに代表される画風が主流であったが、若冲は流派にとらわれることなく、写実的な花鳥画や斬新なタッチの水墨画、はたまたタイル画や点描画を思わせる近代的なものまで多彩で異色な作品を世に問うた。今回は特に「京都の若冲」ということを強調した展覧会であった。


   
 ひとり一句

    手土産にしいやと空白をくれる             中野 六助

    かすれたらかすれたままにしたい秋          徳永 政二

    一瞬の一本だけのためにある              北村 幸子

    よく笑うのは破れた方の葉っぱ              森田 律子

    牙のない象と向き合えば 波               辻 嬉久子

    別ぴんの家系でまっ白な蕪                川田由紀子

    片方の足に重心かけている                街中  悠

    一羽よりつがい大勢より一羽               嶋澤喜八郎

    考えあぐねて竹の穂先が並んでいる           墨 作二郎

    ぶりぶりとゆれてこわれてゆくことも            田村ひろ子

    若冲の象と正面衝突す                  笠嶋恵美子

    秋海棠ふすま半分空である                本多 洋子

    尾長どり送信は尾からですね               北原 照子

    少々の雨では落ちぬ赤えのぐ               坪井 篤子

    若冲は犬派とわかる秋の天                 岩根 彰子

    さがしものみつからなくてひげ伸びて           八木 侑子

    
    







                                     2016年9月              更新




第二百三十八回
   
点鐘散歩会


 特別展 始皇帝と大兵馬俑
                                於  国立国際美術館



 今から約2200年前、秦の始皇帝は自らの巨大な陵墓を造らせた。その周囲に、自分に仕える「永遠の軍団」として8千体もの等身大の人間や馬の像を埋めさせた。それが兵馬俑である。
1974年に発見され今なお発掘は続いていると云う。今回は始皇帝と秦王朝にまつわる文物も同時に展示され、その歴史や造形美術を解りやすく観賞することが出来た。


   ひとり一句

   立て膝は一瞬であり永遠であり                 小池 正博

   実寸にするとつまらない話                   中野 六助

   眠りは深くフェロモンには遠く                  森田 律子

   フィナーレの階段 石の鎧着て                 田村ひろ子

   始皇帝は馬から降りるのがこわい                嶋澤喜八郎

   十人目の将軍ならば北にいる                  本多 洋子

   一ぴきの蝿を叩けば兵馬俑                   笠嶋恵美子

   夏休み駆け込み学習兵馬俑                   北原 照子

   酒壷の輪っかに片腕を嵌める                  太下 和子

   梅田地下街まで兵馬俑あふれでる               江口ちかる

   角栄とどこか似ている兵の貌                   坪井 篤子

   みがかれぬ玉のため息ためている               八木 侑子





   














                                         2016年8月         更新

第二百三十七回
  
点鐘散歩会


  
ファンタジーを染める

   
 たじまゆきひこ展    於  堺市博物館

       
   型絵染と絵本原画

 子供たちに大人気の絵本『じごくのそうべえ』や堺大空襲を描いた絵本『ななしのごんべさん』の作者田島征彦は、大阪府堺市の生まれ。京都市立芸術大学出身のアーティストで、絵本の特徴は染色の技法の「型絵染め」が用いられていること。絵本のテーマに対しては数年がかりで取材をし型を彫り、染めの行程を繰り返すという。今回の展示では絵本の原画のほかに、大きな布のダイナミックな染色作品も展示されていて、作品の逞しい色彩と力強い物語性に圧倒されてしまう。絵本「ななしのごんべさん」は1945年7月10日の堺の大空襲を取材したもの。この原画は型絵染めではなく水彩の烈しいタッチで描かれていて見ごたえのある物であった。
 なお館内の常設展では、「堺仁徳陵と自由都市」と題して埴輪や古代瓦・南蛮船や朱印船などの昔がわかり易く展示されていた。

    
ひとり一句

    遠いから古いからきれいだから 祭         墨 作二郎

    好きだった人のやわらかいかけら          峯 裕見子

    ここんとこ割れているから遊んでいって       徳永 政二

    嘴の先が堺に触れている               八上 桐子

    型染めにすると昭和が浮いてくる          笠嶋恵美子

    繋ぎ合わされちょっと違うと思う甕          南野 勝彦

    エンマにも楽な姿勢があるように           森田 律子

    鬼はみなふんどしだらけ赤だらけ          嶋澤喜八郎

    広げると声が聞こえる布である            小池 正博

    ふいに思い出す鬼だった日々            北村 幸子

    呼びあえばきっときのうの魚になる          たむらあきこ

    地獄の楽しみ方を教えましょ             八木 侑子

    子供たちご覧 戦争の型染め            本多 洋子



















                                        2016年7月           更新









第二百三十六回

    
点鐘散歩会

    
ダリの回顧展   京都市立美術館



 7月に入ると急に気温35度を越える猛暑日となった。朝十時、京都市美術館前にあつまった熱心な参加者は総勢十六名。

 今回のダリ展は、国内では過去最大規模の回顧展。スペイン、アメリカのダリ・コレクションの全面的な協力により193点の作品が一堂に結集されている。
 サルバドール ダリはシュルレアリスムを代表する画家として世界を魅了してきた。本展では、少年時代に描いていた初期作品から、広島・長崎の原爆投下に衝撃を受けた頃の作品、巨匠たちに触発された作品を描いた晩年など各時代ごとに紹介され、創作の軌跡を辿ることが出来た。


ひとり一句

   麺棒で伸ばすこの世にいる時間                 清水すみれ

   眠れます手首拾ってからずっと                  北村 幸子

   大切なものはお尻の引き出しに                 川田由紀子

   引き出しからにゅっと首出す作二郎               本多 洋子

   スイカだけ正気だったと思います                 中野 六助

   形態学的深呼吸をひとつ                     河村 啓子

   にんげんを食べるにんげんだけ食べる             徳永 政二

   乳房のひきだしに仕舞っておく言葉               森田 律子

   ケチャップも墨もぶっつけた さあ帰ろ              吉岡とみえ

   ダリと月あるいはトルコ行進曲                   内田真理子

   ドン・キホーテ的夢想をかけるかき氷               岩根 彰子

   外はまぶしくてダリになりそう                    辻 嬉久子

   ライオンの尻尾くるんと梅雨半ば                 笠嶋恵美子

   異次元でアルファベットが響き合う                嶋澤喜八郎

   目玉焼き背中で焼いて熱中症                   北原 照子

   演ずる前装置はすでに狂っている                 八木 侑子





















                                     2016年6月            更新






 第二百三十五回  
      
点鐘散歩会



     
森村泰昌展 自画像の美術史

        『私』と『わたし』が出会うとき

                             大阪 国立国際美術館


 日本を代表する現代美術家として、国際的に活躍する森村泰昌が、地元・大阪の美術館で初の大規模な個展を開催した。森村泰昌からのメッセージとしてパンフレットに次のように書かれている。
 『私の作品は、私みずからが何ものかに扮し、その姿を写真に撮るという、セルフポートレイトの写真作品です。ですから今回出品した125点に登場するさまざまなキャラクターは、すべてわたくし、モリムラがひとりで演じわけているんですね。ひとりの人間のなかには、じつに多くの別人のキャラクターがひそんでいる。それに形を与えて目に見えるようにしたのが、私の作品です。一見、絵のようにみえますが、すべて写真作品なんですよ。』

 展示は第T部 自画像の美術史 と 第U部 「私」と「わたし」が出会うとき という長編映画
にわかれている。映画も70分の見ごたえのあるものだった。


 ひとり一句

    胸元はサハラ背中はナイアガラ              清水すみれ

    灯り消して液体になる時間                 八上 桐子

    顔だったことは内緒にしてほしい              徳永 政ニ

    大阪がすっぽり入っている柩                北村 幸子

    フェルメールの部屋へやってきた光            森田 律子

    まだ若い兵士で夕焼けが怖い               中野 六助

    絵の中の扉を開けるとき女                 笠嶋恵美子

    蜷川が居ない芝居のリハーサル              嶋澤喜八郎

    君から僕へ乗り継ぎしてる途中です            八木 侑子

    三重人格 卵が三つわやになる              本多 洋子

    わたくしがわたしであってほしい朝             街中  悠

    生まれたての蝶がまっ赤な事を言う            太下 和子

    騒がしくなったね ひまわりの老後             岡谷  樹

    編みほどかれた体毛の白さかな              坪井 篤子

    デューラーの親指かんだのは私              田村ひろ子

    泰昌のパイプの煙を吸っている              岩根 彰子

    緑がゆれて五月が去って                  北原 照子

    少年の時はガレキの上に立つ               松本あや子


















                                          2016年5月       更新


第二百三十四回
   点鐘散歩会



  
 特別展
      
国宝  信貴山縁起絵巻

                       於  奈良国立博物館


 国宝「信貴山縁起絵巻」は、「伴大納言絵巻」「源氏物語絵巻」と並ぶ日本三大絵巻の一つに数えられ、平安絵画の名品として知られている。
 今回は山崎長者の巻・延喜加持の卷・尼公の卷 全三巻の全場面を同時公開された史上初の試み。これらの絵巻は、朝護孫子寺の発展の礎を築いた高僧・命蓮上人をめぐる三つの奇跡の物語を描くものである。

 山崎長者の巻では命蓮が駆使する空飛ぶ鉢が引き起こす奇跡を描き、延喜加持の卷では命蓮が帝の病気平癒のために行った加持祈祷の証として剣を身にまとう童子が飛来する奇跡が描かれる。また尼公の卷では信濃国出身の尼公が東大寺大仏の夢告によって信貴山で弟命蓮と再会を果たすという奇跡が描かれている。

 物語もさることながら絵も、各巻躍動感あふれる線描によって生き生きと描かれ、流れるように連続的に展開する場面場面は現在のアニメを思わせる。

 会場はじっくりと鑑賞する人たちで溢れ、感嘆の声があちこちで上っていた。




  ひとり一句

   日銀がそのうち使う飛鉢法                 吉岡とみえ

   飛んでいるうちにご飯になったとさ             森田 律子

   密教はピエールカルダン的古典              岡谷  樹

   活断層の上に俵が置いてある               本多 洋子

   しいんと緑しいんと死しんと絵巻              太田のり子

   さて鉢は有給休暇とってるか                中野 六助

   帰ってきた俵に座る場所がない              森田 律子

   飛んでゆくただそれだけにあるお空            田村ひろ子

   公卿らの内輪話も猫のひげ                 芳賀 博子

   時を経て崩れるものは美しい                嶋澤喜八郎

   無果花の匂い すぐに泣く弟                川田由紀子

   カーナビで倉の行方を追跡する              小池 正博

   一椀の水 弟を思う時                    笠嶋恵美子

   米俵らしく四の腕 五の腕                  辻 嬉久子

   五鈷鈴ちりんすず虫がりりん                太下 和子




















                                           2016年4月        更新



第二百三十三回
  
点鐘散歩会


  
春画展    於 京都 細見美術館



 桜満開の京都で開かれた「春画展」。この機を逃してはそう簡単に観られるものではないので
満員を覚悟して朝早くから列にならんで入館した。
 主催者側から次のような主旨が表明されている。

 『春画は江戸時代には笑い絵とも呼ばれ、性的な事柄と笑いが同居した芸術性の高い肉筆画や浮世絵版画の総称です。特に欧米では、19世紀末ジャポニスム時代以降、高い評価を得てきました。近年では、2013年から2014年にかけて大英博物館で開催された「春画 日本美術の性とたのしみ」展が大きな話題を呼びました。このたび、東京の永青文庫で昨年、開催された日本初の「春画展」が京都に巡回するはこびとなりました。デンマークのコレクターをはじめ、日本の美術館・研究所や個人が秘蔵する鈴木春信、鳥居清長、喜多川歌麿、葛飾北斎といった浮世絵の大家による「春画の名品」が勢揃いします』

 百聞は一見にしかず とばかり 満員の人垣をわけて初めての春画の数々に接することが出来た。受けとめ方は様々であったが、とにかくそれを川柳で表現した。
 美術館の外、岡崎の界隈は今が真っ盛りのサクラ サクラ。こちらの方にも心を奪われた一日であった。



  ひとり一句


   どこまでも這っていくのは赤い紐                 川田由紀子

   十八歳未満は外で桜餅                      芳賀 博子

   ほどかれよこの世の春の帯すべて                北村 幸子

   いろはからまだおくやまが越えられぬ              清水すみれ

   くちびるは「ぽ」のかたちのまま四月               峯 裕見子

   恍惚を売ってる山田米穀店                    中野 六助

   足元に少し開いた扇かな                     森田 律子

   さみしさはきっと桜に敗けません                 徳永 政二

   山を剥ぐように火祭りのように                   墨 作二郎

   ちょっと淫らに珈琲をすする                    笠嶋恵美子

   青い蚊帳めくればふたり深海魚                  太田のり子

   やわらかいところはみんな桜色                   田村ひろ子

   開花宣言したのは女三宮                      本多 洋子

   狂うのはサクラでしょうか うふふふふ               北原 照子

   ソメイヨシノに惑わされ襖開け                    オカダ キキ

   鎧着て武士も人間ですわいな                    松本あや子

   斎宮の密通かばう小柴垣                      八木 侑子





















                                      2016年3月          更新



 
第二百三十二回
  
点鐘散歩会


   
二条陣屋
 



 二条陣屋とは、かっての豪商小川家の邸宅である。戦国時代では豊臣家の家臣であり、関が原の戦いでは西軍でありながら小早川秀秋の後に、徳川側に寝返った。そのため所領を没収され後に京都で商人となったいきさつがある。小川家住宅は、参勤交代の行きかえりに京都に立ち寄る大名たちの宿泊所として利用されたと言う。

 もともとは茶人好みの数奇屋風に建てられていたそうだが、大名を泊めるようになるとその身の安全を保証する必要がある為、特に三つの点を重視して建築されたと言う。

 「陣屋風建築として」「防火建築として」「数奇屋建築として」様々な工夫がなされている。二重廊下や天井の武者だまり、お能の間は多目的ホールのように控えの間としても使われる。能舞台に繋がる細い廊下は、橋掛かりにも使われ、一の松・二の松・三の松の絵が描かれている。
貴人が使うための湯殿もあって、浴槽は白タイル、天井は漆喰、壁は海鼠壁で、保温の準備まで整っている。階段や天井の細部はまるで忍者屋敷さながら逃げ道や隠れ場所が用意されている。釣り階段・落し階段・赤壁など珍しい仕組みもあって、説明を聞きながら陣屋をめぐる一時間ほどはまたたく間に過ぎて飽く事はなかった。




 
 ひとり一句

    古井戸に溜まる使わなかった時間              清水すみれ

   かみしもを脱いだら一匹のとんぼ               吉岡とみえ

   国会に落し階段釣り階段                    川田由紀子

   おしあわせにと途中で消える柱                八上 桐子

   天明の大火の頃は空だった                  中野 六助

   逮捕せよ湯殿にとまっている蜻蛉               小池 正博

   いざという時ガチャンとドスン                  北村 幸子

   まえおきの長いところが陣である                内田真理子

   唐櫃に入れて沈めるお父さん                 笠嶋恵美子

   いにしえという暗がりの在りどころ               嶋澤喜八郎

   唐びつか柩か深い井戸になる                 本多 洋子

   天窓の明かりがうんとうなづいた                太下 和子

   地下水につかっていたのはひいばあちゃん         北原 照子


























                                     2016年2月            更新





  第二百三十一回

   
点鐘散歩会

     
竹中大工道具館



 ここは日本で唯一の大工道具の博物館。先史時代から近代まで木造建築の発達とともに歩んできた日本の大工道具を、実物・復元資料・大型模型などで解かり易く展示されている。
 石器時代から鉄を使い出した道具の過程で、それが木造建築にどのように関わってきたかを目で見、手で触って理解できる仕組みになっている。鎚や斧・鋸や鉋などの発展にも木造建築史との深い関わりがある。栗の木やヒノキ・欅など柔らかい木を使う日本と、オーク材のような硬い重たい木を使う海外とは大工道具の形や使い方に大きな違いがあることも比較できて面白い。
 「世界遺産や国宝に指定されている数々の木造建築(法隆寺や唐招提寺)を観るにも、そこにどのような大工道具を使っていたか、あるいは当時の棟梁がどのような緻密な計算のもとに設計していたかを考えてみるのも有意義な事である」とは当所の解説員の熱のこもった弁であった。


ひとり一句


   そのへんの話は節穴にてどうぞ                清水すみれ

   この箱のここに戻ってくるんやで                吉岡とみえ

   男ってかなしいくらい石だから                 北村 幸子

   少年のノミ跡少女のカンナ跡                  森田 律子

   去年から母の砥石が濡れたまま                八上 桐子

   日の沈むまで一本の釘である                 中野 六助

   押して引くしばらく鳥になっている               徳永 政二

   ゆうるりとクサビを外す春の背な                本多 洋子

   黄ばむほど生きて歯こぼれ繰り返す             嶋澤喜八郎

   すべすべの方が日本なのでして               笠嶋恵美子

   入り口から日本人になる背骨                 太下 和子

   将軍に会うのは海を見ていた樹                小池 正博

   ねちねちと切られ切り口針になる               八木 侑子















                                        2016年1月         更新




 第二百三十回

  
点鐘散歩会

     
小川千甕展  縦横無尽に生きる

             於・京都文化博物館

 今回の展覧会は小川千甕の初期から晩年に至る仏画・洋画・漫画・日本画など140点とスケッチブックや工芸品などを一堂に集めた初めての回顧展です。まさに縦横無尽に生きた千甕の全貌が明らかになりました。

 小川千甕(1882−1971)は明治末期から昭和期まで長きにわたって活躍した異色の画家です。京都の書肆に生まれ少年時代には仏画を、その後浅井忠に洋画を学び、明治末にはホトトギスなどに挿絵や漫画を発表しました。大正初めには渡欧してルノワールにも逢っています。帰国後には本格的な日本画・南画や文人画の方面にも大活躍をしました。

 展示されていた作品は大作あり小品あり、書画それぞれがユニークで力強いものでした。


ひとり一句

    楽しかった楽しかったと消えました                 徳永 政二

    いくつかのボタンはずれてからでした               北村 幸子

    花はいらんかえツバメは飛ばんかえ                森田 律子

    家なんぞ捨ててしまいたかった松                  八上 桐子

    仙人になるか無年金になるか                    中野 六助

    スサノオのヒゲが好きだと言ったじゃない              峯 裕見子

    ため息がひとつ番茶になってゆく                  街中  悠

    黙ってる人はナズナの匂いする                   嶋澤喜八郎

    いつかの場所でいつものように水になる              内田真理子

    舟を沈めたのはやさしいみどり                    吉岡とみえ

    好きですと言えずに春の重ね塗り                  田村ひろ子

    ふくよかな文殊菩薩の足の裏                     笠嶋恵美子

    仏の線 裸婦の線 心の線                      本多 洋子

    行く先をずっと照らしていてほしい                  今井 和子

    タテヨコナナメ仏わんさか現れる                   太下 和子

    大根も翁媼も浅みどり                         岩根 彰子

    西洋の女とあそぶ泥絵具                       八木 侑子

    水面揺れて かもめかもめの輪                    北原 照子



    














                                     2015年12月       更新







第二百二十九回   
   点鐘散歩会

      浮世絵版画 
美の大世界展

                       於・奈良県立美術館




 平成27年は、錦絵元年とされる明和2年から250年にあたる。これを記念して奈良県立美術館では浮世絵版画・美の大世界展が開かれた。
 錦絵とは、一つの作品に対して彩色用の版画を何枚も用いて、美しい色彩や量感を表現したした浮世絵版画のこと。浮世絵師と版木の彫師そして摺り師が力を出し合って制作したものである。江戸時代に隆盛を極めた。以後欧米のジャポニズムの画家などにも多大な影響を及ぼした。
 本展では写楽や北斎・広重など当美術館が所有するコレクションとともに、久保惣記念美術館からの作品も展示され、まさしく浮世絵版画美の大世界を展開していた。


  
ひとり一句

   肝心なところに夜を流し込む                 清水すみれ

   誰からか貰った夜がよく馴染む                中野 六助

   刷るたびに痛いところが浮きあがる              吉岡とみえ

   隈取を終えれば冬が立ち上がる               笠嶋恵美子

   枯葉には枯葉のことが書いてある              徳永 政二

   狐火のひとつを母は持ち帰り                 峯 裕見子

   吉原炎上 エンブレムは白紙                 岡谷  樹

   まだ山を塗りつぶせない夜の雨                八上 桐子

   浮世絵の裏も表もよく火を通す                岩田多佳子

   いやだねえ×××と雨が降る                 川田由紀子

   燃えつきる前にいらしてくださいね              田村ひろ子

   フライング気味に写楽の目が泳ぐ               嶋澤喜八郎

   死絵って言うんです江戸のデスマスク            本多 洋子

   蚊帳の中 蛍になって女になって              今井 和子

   屋根船に乗りそこなった富士の山              八木 侑子

   色づいたもみじに食指延びてゆく              松本あや子

   紫の煙管袋やゆるゆると                    北原 照子

   七福神へ戻る幸せのかたち                  小川 佳恵



















                                            2015年11月       更新





 第二百二十八回

   
点鐘散歩会


   臨済宗大徳寺派

    龍興山 
 南宗寺


 南宗寺は、戦国時代に堺を支配した武将、三好長慶が父元長の霊を弔うために開山した。
大坂夏の陣で焼失したが当時の住職沢庵によって現在地に再建された。境内には千利休や武野紹鴎の供養塔があり、枯山水の庭や八方睨みの龍が描かれた仏殿・甘露門・唐門などは国の重要文化財にも指定されている。
 広い境内には徳川家康の謎の墓とされる開山堂跡がある。大坂夏の陣で茶臼山の激戦に破れ逃げる途中、後藤又兵衛の槍につかれ堺まで落ち延びたがそこで事切れたという伝説に基づく。大きな石碑が「東照宮跡碑」として丁寧に残されている。
 利休一門の墓や紹鴎の墓それに津田家や半井家の墓もひっそりとあってそれぞれ風情のある佇まいである。利休好みの庭や織部好みの枯山水の庭もゆっくり楽しめる。ボランティアの解説に耳を傾けながら二時間たっぷりの散策であった。


  ひとり一句



  語り継ぐうちにほんとうらしくなる                 八上 桐子

  石だたみひとりひとりになっている                徳永 政二

  石組を踏んで堺の息をして                    本多 洋子

  あたふたと秋 あたふたと背伸び                 墨 作二郎

  思い出す水に沈めてある声を                   峯 裕見子

  ほっといてほしいと墓は云うている                吉岡とみえ

  ぽつんと日傘利休を待っている                  中村せつ子

  見えないものの声をかくしている木立               田村ひろ子

  墓めぐるこの淋しさは何だろう                   笠嶋恵美子

  甘酒のようなおばちゃん乗ってきた                今井 和子

  直立不動で石碑へ耳をかた向ける                 瀬川 瑞紀

  ちぐはぐで繋がる大体の話                     オカダ キキ

  木の実みな小鳥に恋し赤くなる                  柴本ばっは

  お庭ひとまわりして あーしんど                  松本あや子

  一直線に黄色く秋を織り込んで                  八木 侑子

  座禅など組めなくなった枯れすすき                北原 照子



















                                           2015年10月     更新





 第二百二十七回

  点鐘散歩会

   島津製作所 創業記念資料館


 御池通り木屋町の角を高瀬川沿いに北へ徒歩三分ほどのところにひっそりと記念館がある。
これは、島津製作所が創業100年を迎えたのを記念して、創業者である初代と二代目島津源蔵の威徳を偲び開設したもの。

 東京遷都が行われた明治の初期、衰退の危機に見舞われた京都は、欧米の最新技術の導入によって復興をめざそうとして、この木屋町周辺に産業施設を次々に設立した。当初は仏具を製造していた島津源蔵は、明治8年(1875年)教育用理化学機械の製造業へと転進したと言う。以後二代目源蔵と共に、西洋技術に頼らない日本独自の科学技術の確立に邁進した。もの造りのよろこびと科学立国と云う信念は今もこの島津製作所を支えている。

 歴史的にみると明治時代にはX線写真撮影・医療用レントゲン装置に成功、エアガス発生装置を作製、大正時代には光学測定器・歯車機器・蓄電池・各種模型やマネキン、昭和時代には航空機器・クロマトグラフ・分光写真器・X線テレビジョン装置などなど。平成にはいると田中耕一ノーベル受賞者の研究・レーザーによる分子イオン化etc。

 展示は歴史的にわかりやすく当時の機器その他大事に保管されてきた資料を手に取るようにならべられている。館長さんによる詳しい解説もあって、子供に還ったように、いまさらながら科学の面白さに目を瞠る思いがした。


ひとり一句

   理化室の人体模型から涎                    森田 律子

   想うってたまに苦しい静電気                  北村 幸子

   放電をしているぬげそうなスリッパ               中村せつこ

   水の出るホースの先を持っている                徳永 政ニ

   ゆっくりと手で動かしてしまう夜                 峯 裕見子

   スプーンにのせる移動性高気圧                清水すみれ

   水に流れる人 電気で動く人                  中野 六助

   幻灯だった でこぼこの月だった                吉岡とみえ

   螺旋階段的洛中機械図哉                   岩田多佳子

   血管はブリキのままで残される                 内田真理子

   電気卵に兵士産ませよ                     八上 桐子

   なにげなく触れたところが笑い出す              田村ひろ子

   鉱物標本みづいろ 賢治の星みづいろ            本多 洋子

   碑の裏にまわって見たが風ばかり               嶋澤喜八郎

   恐竜の背骨島津製作所                     岩根 彰子

   放電ですなと口癖の色事師                   小池 正博

   避雷針立てて説教聞いている                  笠嶋恵美子

   標本にだけはなりたくないと猫                  小川 佳恵

   取りはずし自由の口になっている                街中  悠

   あったあった明治九年藤本町                  北原 照子























                                        2015年9月         更新



第二百二十六回

  
点鐘散歩会

 
 
生誕100周年
   
 トーベ・ヤンソン展 ムーミンと生きる

         於・あべのハルカス美術館

「ムーミン」の作者トーベヤンソン(1914-2001)は今年生誕100周年を迎える。それを記念して故郷のフィンランドで開催された回顧展を再構成され、日本での開催となったもの。今回の展示では、代表作のムーミンシリーズの挿絵原画のほか、政治風刺雑誌のためのイラストや油彩作品など400点余りが展示されている。お馴染みの童話的な夢のあるムーミン一家の物語ばかりでなく、ヒトラーの独裁政治を批判した反戦の風刺画も数多く出展されていて驚く。文字通り画家・小説家・児童文学家の名を欲しいままにした芸術家トーベ・ヤンソンの全貌を垣間見ることの出来る展覧会であった。

ひとり一句

  岬に立っている白い小さな指                 徳永 政二

  かわいいはこわい こわいはさみしい             峯 裕見子

  習作がふうっと沖に出てしまう                 北村 幸子

  深い谷から返ってくるRe:の羅列                中野 六助

  ちびた鉛筆ヒトラーになりたがる                岩田多佳子

  母はまだ母の景色をもっている                森田 律子

  ぴったりの靴が落ちてた冬の谷                田村ひろ子

  ジーンズはきらいなんですムーミンは            嶋澤喜八郎

  ねえスナフキン日本はどうなるの               川田由紀子

  背景が青で煙草の好きな顔                  墨 作二郎

  弟が生まれてからの広い家                  笠嶋恵美子

  スナフキンの帽子がフクシマに届く              本多 洋子

  いく通りもあるこの世のおわり                  街中 悠

  画材は野菜泣いたり笑ったり                  北原 照子

  まろやかなまろやかな ああムーミン              柴本ばっは

  孤島の小屋で遠い自分を紡いでいる             八木 侑子

  色彩の鮮やか心の裏返し                    松本あや子


















                                            2015年 8月    更新


 

     
第二百二十五回

       
点鐘散歩会

      
      
マグリット展   京都市立美術館

 空調装置の不調により一時休館していたマグリット展は、散歩会の当日無事正常に戻り、予定通り参観する事ができた。
 ルネ・マグリットはベルギー出身の二十世紀美術を代表する芸術家。言葉やイメージ、時間や重力などが持つ固定概念の枠を飛び越えた独特の世界観が世界中で高い人気を誇っている。

 今回は初期から晩年までを五章にわけてマグリットの芸術の変遷と魅力が紹介されていた。
一章では印象派・未来派・抽象・キュビズムなど初期作品を紹介。二章ではシュルレアリスムをテーマとして、異質で無関係なもの同士の組み合わせや夢の中の光景のような不思議な雰囲気の作品が並ぶ。三章では現実にはありえない不条理な情景を描きだす。四章では戦時中と戦後の作品を集め、五章では「回帰」と題して矛盾に満ちた不条理な世界を描く晩年の作品を紹介。

 一行は二時間をかけて、たっぷりマグリットの不思議な世界に埋没することが出来た。


  ひとり一句



  一本のポプラは完璧な昨日                     内田真理子

  めんどくさい男の雲の作り方                     北村 幸子

  魂を1000分割にして放つ                      芳賀 博子

  君の中に痩せていかない月がある                  峯 裕見子

  撫でていると木目のあらわれるからだ                八上 桐子

  少しずつそれでも影は動きます                    徳永 政ニ

  さかなへもどる途中も見てほしい                   清水すみれ

  言ったでしょ岩はファミリーでないって                中野 六助

  八月の鳩を真っ赤に塗りつぶす                   嶋澤喜八郎

  ほっぺたに窓の形が残る午後                    森田 律子

  挿画からチャールストンが転がって                 岩根 彰子

  つついたら冥王星まで飛んでゆく                  本多 洋子

  生きづらいのと訴えてくるトルソ                    谷口 文

  散歩道が動く青空揺すぶって                     街中 悠

  するすると幕引く時の海の色                     中村せつこ

  肉体に宿る月やら嵐やら                       笠嶋恵美子

  人間の空想絵の中の頭                        北原 照子

  鏡の向こうに雪崩をみたよ                      八木 侑子

  神様の悪戯か人間の仕業か                     藤井 孝作

























                                            2015年 7月     更新 


    第二百二十四回

    
点鐘散歩会



    
愛染堂 夏まつり


 愛染堂(勝鬘院)は聖徳太子によって建立されたお寺。金堂に愛染明王が奉安されているので
大阪では愛染さんと呼ばれ親しまれている。毎年6月30日から7月2日には、大阪三大夏祭りのひとつである「愛染まつり」が盛大に行われる。夏祭りのハシリを切るのがこの愛染さんである。
境内には、映画にもなって有名な愛染かつらや重要文化財の多宝塔などがある。このお祭りの期間には、愛染明王や大日如来などの秘仏も公開される。

 散歩会当日は激しい雨に見舞われ、祭りの出店や屋台もすっかりビニールシートに覆われて
その賑わいに遭遇することは叶わなかった。境内では出番をまつカラフルな宝恵籠が激しい雨に打たれていた。さいわいお堂の中の秘仏はゆっくり参拝できた。句会終了後には雨もすっかり上がっていたので、時間を許すものはもう一度愛染さんに戻って祭りの雰囲気を満喫した。



  
ひとり一句

  煩悩がちょっとグラマーなんですよ               芳賀 博子

  さっぱりですなさっぱりですと唐揚げは             峯 裕見子

  ニニんがシ ニサンがロック夕陽かな              嶋澤喜八郎

  見たことにする夕陽 見たことにする坂             吉岡とみえ

  短いろうそくとそうでないろうそく                 徳永 政二

  恋のはじめと恋の終りにリンゴ飴                 本多 洋子

  明王にお尻を見せてしまったわ                  森田 律子

  宝恵カゴで跳ねているのはミス金魚               笠嶋恵美子

  正体を見せた露店のソーセージ                 田村ひろ子

  どしゃ降りに誘われました好奇心                 松本あや子


















                                           2015年6月       更新



   第二百二十三回

    
点鐘散歩会




    さかい利晶の杜(りしょうのもり)



 このミュージアムは、堺が生んだ茶湯の千利休と、歌人の与謝野晶子の生涯や人物像などを通じて、堺の歴史・文化の魅力を発信する文化観光施設としてこの春開設された。

 1階フロアには江戸時代の堺を描いた泉州堺絵図の銅版フロアマップや宿院界隈の昭和時代を再現したジオラマなどがあり来場者の目を惹く。つづいて利休と茶の湯を歴史文化から解き明かす「千利休茶の湯館」・また茶室「待庵」を復元した特別コーナーなどがある。2階には与謝野晶子の作品とその生き方に触れる「与謝野晶子記念館」あり、晶子生家の和菓子駿河屋の店先が再現されていたり、鉄幹の洋行の費用に当てたという百首屏風の展示や、明星当時の雑誌などの貴重な資料が並べられていた。施設のすぐ隣りには利休の屋敷跡もあり、僅かに当時を偲ばせる井戸が片隅に保存されていた。


   ひとり一句

    
しつけ糸切って晶子の雨となる                    芳賀 博子

     ぐちも聞きなさい ようかんなんだから                吉岡とみえ

     茶葉としてひらき茶葉として閉じる                  清水すみれ

     なつかしいことを拒んでいる棗                    北村 幸子

     晶子は雨に打たれ上手で小紫                    墨 作二郎

     いくつかの屋根のかたちを持ち帰る                 徳永 政二

     明星をさがして二階へと上がる                    中野 六助

     だんだんとその気になってみたらしだんご              森田 律子

     独りで聴く心音だから雨だから                     嶋澤喜八郎

     傾いた方へと逃げてゆく帽子                      田村ひろ子

     にじり口抜ける くるんと裏返る                     八上 桐子

     すこしゆがんで利休のこころ確かめる                 本多 洋子

     妙国寺あたりで雲が切れている                    笠嶋恵美子

     君死に給うことなかれ 僕もそう思う                  松本あや子

     引き算をすませて入る躙り口                      八木 侑子



















                                              2015年5月      更新




   
チューリヒ美術館展   印象派からシュルレアリスムまで

              於・神戸市立博物館


 今回のチューリヒ美術館展は、日本とスイスの国交樹立150年を記念して開かれたもの。
六メートルに及ぶモネの大作や、シャガールの代表作六点を含めクレー・マティス・ピカソ・ミロ・カンデンスキーやジャコメッティなど二十世紀を代表する世界の名作がずらりと並ぶ。それぞれの作品に圧倒されながら、時間の経つのを忘れて鑑賞に作句に没頭した。
 散歩会の当日は五月一日メーデーの日。若葉で包まれた神戸博物館の界隈は、働く者のデモ行進で賑わっていた。


   
ひとり一句

    それが月とわかったときの独りきり              峯 裕見子

    ジャコメッティを水に戻してみませんか           本多 洋子

    恋人を勝手に空へ飛ばすなよ                小池 正博

    あ、録画し忘れていた戦争                  芳賀 博子

    黒猫を産んでけむりは消えました               八上 桐子

    水を盗んで空を盗んですいれんは              吉岡とみえ

    三日月は自分の事がわからない               太下 和子

    たましいと音声ガイド返却する                 北村 幸子

    わすれてもいいわ日没なんだから               森田 律子

    殉教の女もウツラウツラする                   田村ひろ子

    狂になる少し手前のタチアオイ                 笠嶋恵美子

    氷河にのって次の世へ次の世へ                元永 宣子

    小さな窓のむこうは私のおもちゃ箱               八木 侑子

    ブルースの部屋でルンバの心でしょうか            北原 照子











                                          2015年4月       更新





 第二百二十一回  点鐘散歩会

   野村美術館  
        
春季特別展 高麗茶碗

 当日は朝からあいにくの雨。蹴上からインクラインを抜けて、金地院・真乗院・南禅寺の三門や水路閣を通って、野村美術館へと向かう。そぼ降る雨の中、桜は超満開。疎水の水音にさえ花びらが震えているかに見える。

 野村美術館は、野村證券など金融財閥を一代にして築き上げた2代目野村徳七(1878-1945)のコレクションをもとに、昭和59(1984)年に京都東山・南禅寺畔に開館した。コレクションは茶道具や能楽に関係する品々を中心に、得庵自身の遺作、書や絵画など美術工芸品約1700点が納められている。得庵(とくあん)は様々な趣味に親しんだようだが、 中でも「茶の湯」と「能楽」に深く傾倒と言われている。
 しっとりと茶道具を鑑賞したあと、疎水の水音を背に受けながら、句会場へと足を運んだ。




    
ひとり一句

    滲むしかなかった優しくなるために            北村 幸子

    春だから中が見えたりしますけど             徳永 政二

    そうだった雨はひとりの中に降る             峯 裕見子

    つきつめて言えば身寄りのない器            清水すみれ

    生きなさい 生きてみんなを困らせよ           中野 六助

    そこここに伏字を持っている桜               本多 洋子

    一切をなかったことにする土塀               山本 昌乃

    夜桜の向こうにきっと退院日                岩根 彰子

    母の小言のしばらく続く春のバス             内田真理子

    あやまちは全部忘れる桜雨                 田村ひろ子

    濡れながらまぶたになっているさくら            八上 桐子

    雨の桜うっかり淋しい顔になる               街中  悠

    お茶碗でいっぷく掛軸で四幅               藤井 孝作

    蕭々と雨に打たれている桜                 笠嶋恵美子

    満開の桜で脳の花吹雪                   太下 和子

    ワビサビの刻たっぷりの春の雨               松本あや子

    雨もよし しだれて春を通り抜け               神野 節子

    手を繋ご 岸の桜が言ってくれるのよ            北原 照子
















        ★ 次回 散歩会

        日 時   5月1日 金
        行き先   チューリヒ美術館展 神戸市立博物館
        集 合   現地 博物館前 10時
        句会場   生田文化会館 1時より


            
多数のご参加をお待ちしております
















                                            2015年3月         更新




 第二百二十回 点鐘散歩会


  奈良  高円山 
白毫寺



 白毫寺は奈良市東部の高円山の麓にある。天智天皇の第七皇子、志貴皇子の離宮があってその山荘を寺にしたと伝えられている。その後鎌倉中期に興正菩薩叡尊が再興整備した。

 阿弥陀如来を本尊に、地蔵菩薩・閻魔王とその眷属など、閻魔一族仏像八体が宝蔵に収められている。境内には樹齢450年の古木や、天然記念物の五色椿があり、秋には参道の石段両脇に萩の花が咲いて参詣者を迎えてくれる。

 散歩会当日(3月3日)は五色椿にはまだ少し早くて、藪椿がちらほらと紅を覗かせていた。梅の花もひっそりと咲いていて、いかにも山麓の寺らしく静かなたたずまいであった。石段を登って山門をくぐった所から振り返ってみれば、奈良市内が一望のもとに見下ろされ、遠く生駒山山系もかすんでその眺望も素晴らしかった。


   
ひとり一句

   月日とは胸から下がありません                北村 幸子

   落ちて上向く落ちて下向く                   峯 裕見子

   ビニールの燃える匂いのする椿                八上 桐子

   明王は椿を食べて生きている                 小池 正博

   坂のぼる坂はあとからついてくる                徳永 政二

   小豆と米は比較テストで解き明かす              森田 律子

   おとなしい椿のままで切符売りのままで            岩田多佳子

   五百年生きて椿のなまめかし                  嶋澤喜八郎

   椿まだ咲かん内から昼ごはん                  中村せつこ

   十王のひとりはバリトンかもしれぬ                本多 洋子

   ぽんと出たところが生駒山ですね                笠嶋恵美子



















                                        2015年2月         更新





  
第二百十九回 点鐘散歩会

京都 嵐山 天龍寺界隈




 節分会も終わり、暦の立春にふさわしく当日は穏やかな散歩会日和。渡月橋を渡った辺りから、一行は三々五々に別れ、それぞれの足に応じて近辺を散策する。午前中二時間ほどの散策ではそう遠くには行かれないので、たいていは嵯峨野の野々宮まで足を延ばすか天龍寺のお庭を回遊するか賑やかな土産物店を覗くことになる。
 天龍寺は、臨済宗天龍寺派の大本山。暦応2年(1339年)、足利尊氏が後醍醐天皇の菩提を弔うため、夢窓国師を開山として創建した禅寺。方丈裏にある夢窓国師作の池泉回遊式庭園は、亀山と嵐山を借景とした広大な遠望と静かな庭園。早春の冷ややかな空気の中で私たちを迎えてくれたのは、蝋梅の黄色・山茶花のピンク・ひっそりと白椿・馬酔木の柔らかい花芽。観光地の喧騒を忘れる静かなひとときを満喫した。


  ひとり一句

   はだけちゃいました山茶花なんだもん       八上 桐子

   これっぽっちの浅瀬にひっかかる明日       北村 幸子

   まんじゅう屋の女将がワッフル語で話す      清水すみれ

   ハトの冬のふるえが止まらない           岩田多佳子

   この石はこまったなあというかたち          峯 裕見子

   九分通り石になるまで我慢する           嶋澤喜八郎

   音のする方に何か干してある            徳永 政二

   鳥になる約束 雲になる違約            中野 六助

   水と水ぶつかりあって春になる            笠嶋恵美子

   使わないままに立ってる棒がある           森田 律子

   春うらら羅漢の首は四十度              岩根 彰子

   うれしい日やるせない日も橋に来る         小川 佳恵

   立ち止まる川をせき止めるようにして        街中  悠

   嵐電という昭和に乗っている             藤井 孝作

   嵐山さくら咲くまで待てと言う             神野 節子

   知恵貰いそこねました二月四日           北原 照子

   汚れちまったサッカーボールと春の泥        本多 洋子


















                                         2015年1月         更新

第二百十八回
 点鐘散歩会



   
 フィオナ・タン まなざしの詩学

              於 国立国際美術館





 フィオナ・タンは1966年。中国系インドネシア人の父とオーストラリア人の母のもとにインドネシアで生まれた。現在はオランダのアムステルダムを拠点に活躍する映像作家。初期の代表作「興味深い時代をいきますように」は彼女の出自を探るドキュメンタリー・フイルム。この作品を足がかりに(人間の存在が時間や場所とどのように関わっていくのか)というテーマを表現するようになった。2009年のヴェネチア・ビエンナーレで大きな注目を浴びた。

 本展ではタンの初期から近年までの代表作17点によって、彼女が追求してきたテーマの変遷をたどる。
                                      

                                            アサヒメイトのパンフレットより




   ひとり一句

   想いとか言葉とか今日の日暮れとか               清水すみれ

   たきつぼに落ちたということにして眠る              峯 裕見子

   一本の傘ふりまわすだけでした                  徳永 政二

   ときどきは誤作動 冬の股関節                  森田 律子

   ブランコをこぐと鏡をつきぬける                  小池 正博

   風船は二つ 少年は二人                     嶋澤喜八郎

   あしたから詩人になるか夕日になるか              中野 六助

   本当のことは怖くてうす暗い                    中村せつこ

   どこかさみしい母という曲線                    八上 桐子

   立ち止まったら催眠術にかかるわよ                笠嶋恵美子

   あの頃の君は元気にゆれてるか                  太下 和子

   水ですかある瞬間は火のようで                   オカダ キキ

   どうなるのか水になってみる                     河村 啓子

   地球市民っていいな2015年                    本多 洋子

   見つめている見つめられている                  街中  悠

   私の影をひっぱる遠い景                       八木 侑子

   私小説 湯舟につかる終章のたるみ                北原 照子























                                              2014年12月      更新



 第二百十八回 点鐘散歩会


   ハニワ工場公園

                新池埴輪製作遺跡




 ここは継体大王の墓といわれる今城塚古墳のハニワをつくった工場の跡です。発掘調査では丘陵一帯約3万uにひろがる日本最古で最大級のハニワ工場のようすがあきらかになりました。
この工場が活躍したのは今からおよそ1500年前。ハニワを焼く窯18基と工房3棟、それに工人たちの住居までととのっていました。 (
当地のパンフレットより

 今この遺跡はハニワ工場公園としてきれいに整備され、地域の人たちに親しまれています。公園の中にはハニワ工場館と云うのがあって、ハニワを焼いた最大級の18号窯が当時のまま展示され、古墳やハニワのビデオも上映しています。

 公園には地面を方形に掘り下げて、カヤと杉皮で屋根をふいたハニワ工房が復元されていて、この中で工人たちが忙しく立ち働いていた様子が想像できます。また、そこここに円筒埴輪や武人埴輪・家や犬・鶏のハニワのレプリカが置かれていて、楽しみながら散策できます。
おりから小春日のおだやかな日差しのなか、たのしく吟行のひとときを過ごしました。



    
ひとり一句

   皆どこか欠けてやさしく立っている              八上 桐子

    ここまでがヒミコここからがハニワ               中村せつこ

    気が遠くなるほどここにいたんだね              吉岡とみえ

    けどこれが冬の青だし私だし                 森田 律子

    こもれびが指をひらいていきました              街中  悠

    そうですか叩くと音がしましたか                徳永 政二

    寒いよう背が痒いようねむいよう                嶋田喜八郎

    大王の涙が溜る冬の池                     本多 洋子

    しゅくしゅくと石段おりてくるハニワ               笠嶋恵美子

    瞬きをしなにはにわに目をそらす               神野 節子

    野生のモモの木です 私です                 北原 照子




















                                     2014年11月          更新




 第二百十七回 点鐘散歩会


 
 企画展 ミュシャ・スタイル

    (
アルフォンス・ミュシャ館 与謝野晶子文芸館にて)


 アルフォンス・ミュシャは19世紀から20世紀初頭にかけて活躍したチェコ出身の画家。しなやかな曲線と美しい色彩の装飾様式で、フランス・アールヌーボーの形成に重要な役割を果たした。
 今回の企画展では、ミュシャの中でもその美しいスタイルに着目。神秘的な女性や繁茂する植物、淡く繊細な色彩の曲線、緻密な装飾文様などに重点をおいて構成されている。したがって花々に囲まれた優美な女性像のポスターや装飾パネルが大半をしめた。なかで異色だったのは「ハーモニー」という作品。これは晩年ミュシャが祖国チェコに拠点を移し、芸術を通して祖国の独立と発展に寄与しようとした平和への願いがあった様だ。
 
 与謝野晶子文芸館では、晶子の自筆資料や書籍遺品などが丁寧に展示され晶子の魅力を紹介している。晶子とミュシャは直接的な関係はもたれなかったが、与謝野鉄幹が主宰する雑誌「明星」には当時フランスで大流行だったアールヌーボーの挿絵がふんだんに用いられた。
 絵画と文学という風に芸術の領域は違っていても歴史的なその流れには深いつながりがあったものと思われる。



   
ひとり一句

   このまるいところに今日を載せましょう               峯 裕見子

   火葬場の道 冬薔薇の帰り道                    墨 作二郎

   直線になったら帰っていらっしゃい                 北村 幸子

   ゆっくりやでゆっくりやで御伽噺                   森田 律子

   小さな蛇のブレスレットかしら 女                  吉岡とみえ

   夜が欲しくて蝋燭を買いに行く                    八上 桐子

   鏡の奥へ奥へと紅葉狩り                        笠嶋恵美子

   ハーモニーはきっと祈りの声だろう                   本多 洋子

   鉄幹のそばで縮まる晶子の文字                    八木 侑子

   つんーと気怠いルビーの魔女                     北原 照子

   ミュシャのポスターまた盗まれるパリの夜               小川 佳恵















                                     2014年10月         更新






  第二百十六回 
点鐘散歩会


  白沙村荘 橋本関雪記念館



 白沙村荘は、橋本関雪画伯が自身の制作を行うアトリエとして造営した邸宅である。10000平方メートルに及ぶ敷地内には大正から昭和初期に建築された居宅・画室・茶室などの建造物が散在し、池泉回遊式庭園には平安から鎌倉時代にかけての石像美術品が多く置かれている。庭園の設計もすべて関雪によるもの。2014年9月から新美術館も開館された。この美術館は、画伯が晩年抱いていた「展示棟建設計画」をそのまま引き継ぎ、現代の建築基準によって実現されたものと云われている。

 秋の深まりをそぞろ思わせる庭園には、すすき・萩・秋明菊・ムラサキシキブなどそこここにひっそりと咲いて、石仏や石塔を慰めているような静かな趣きがあった。




  
 ひとり一句
    


    素手というたしかな秋の器かな             中野 六助

    夏からのことはこれです竹ぼうき            徳永 政二

    青々と竹はいつでも平均点               清水すみれ

    父の声する鯉の口から逃げる              八上 桐子

    半身が苔に埋もれてからですよ             北村 幸子

    秋のゴスペル石仏の十七体               河村 啓子

    石うすの浅くて秋をこぼしけり              内田真理子

    その時は黒がなんとかしてくれる            森田 律子

    寄せ植えはそれから友だちになった          太下 和子

    藪の中 勝手かってに喋る石              本多 洋子

    拾ったのは淋しさだろうきっとそう            嶋澤喜八郎

    密やかに秋をとっぷり膨らます              街中  悠

    お座りになってと石が置いてある            藤井 孝作

    枝切ってしまえば楽になれるのに            笠嶋恵美子

    おしのびではないが誰かに会いそうで         山本 昌乃

    うわ言か枯れあじさいはひとりきり            北原 照子

    大文字に照れるシュピーヘルの華            八木 侑子














                                      2014年9月          更新






   第二百十五回  点鐘散歩会


     大阪鶴橋 コリアンタウン

 環状線と近鉄線の丁度交差したところに鶴橋駅がある。駅構内から一歩足を踏み出すと、すぐに賑やかな商店街。狭い道路の両脇から日用雑貨店・チマチョゴリの店・キムチの店・靴屋さんとかかしわ屋さんが元気のいい呼び声で人を誘う。鶴橋卸売り市場も続きにあって道は迷路のように入り組んでいる。戦後闇市として出現した商店の集まりが昭和から平成の今になっても庶民の台所として賑やかな発展を遂げた。コリアンタウンは、この商店街から徒歩で20分ばかり離れたところにある。ここはもっともっと歴史が古い。タウンの入り口辺りに御幸森神社があって、日本列島に初めて漢字を伝えた百済王が仁徳天皇の即位を記念して詠んだ短歌の歌碑が建っている。

      難波津に咲くやこの花冬籠もりいまは春べと咲くやこの花

 タウン内には百済門とか百済離宮を忍ぶ名残りがそこここに見られる。朝鮮通信使の往来の歴史も深く刻まれている。有名な天王寺ワッソのお祭りもこの地域の人達で守られている。
 コリアンタウンは東西約500メートルの間に軒を連ねる商店街。正式には御幸通り商店街。西商店街・中央商店街・東商店街と区切りがあるがそこには各ゲートが設けられて、中央門とか百済門とか名づけられて、民族的な雰囲気を漂わす。売っているのは、韓国グッズや韓国食材や民芸品。味付け豚足やチゲなどは目の前で焼きながら売っている。
歴史とのかかわりを目で耳で舌で味わいながら、作句しながらの貴重な体験だった。


 
 ひとり一句

   怖くないようにバラバラにしてあげる             八上 桐子

   痒くても掻いたらあかん大阪は                峯 裕見子

   焼肉ですか 柔軟体操ですか                 森田 律子

   溜められて悩める水になっている               中野 六助

   鶴橋をどっぷり二度漬け三度漬け              清水すみれ

   鎖からちょっと離れている鎖                  徳永 政二

   ムクゲが咲いたらおしまいにするね             吉岡とみえ

   石像はギョロ目キムチが辛すぎる              本多 洋子

   キムチの店休日曇天のドン不在               墨 作二郎

   連行も拉致もここでは素通り                 藤井 孝作

   鉄板にスパンコールがはぜている              八木 侑子

   鳩ワッと来てハングルを啄ばむ                笠嶋恵美子

   オイソ ボイソ サイソ コリアンのアイコトバ         神野 節子

   おみくじはゆるく結んでおきました              嶋澤喜八郎

   この店もあの店も午前十一時                 街中  悠

   食べ歩きハトが一羽ついてくる                北原 照子

   言い訳をクルクル梨の皮をむく                オカダキキ

   済州島の詩人にそっくりな店員                小川 佳恵

   



















                                       2014年8月      更新



 第二百十四回 点鐘散歩会


    大回顧展 バルテュス展
              
於 京都市美術館



 ピカソをして「二十世紀最後の巨匠」と言わしめた画家バルデュス。彼はヨーロッパ絵画の伝統にふれながら、二十世紀美術のいずれの流派にも属することなく、独特な具象絵画の世界を築きあげたことで知られる。この上なく完璧な美の象徴である少女を生涯描き続けた。
 本展は節子夫人の全面的な協力を得て、没後初の大回顧展。晩年を過ごしたスイスの住居に残っているアトリエを、愛用品とともに再現し展示している。

 祇園祭も終って少し静かになった京都。曇天の一日であったが一日優雅な美の世界を満喫することが出来た。


   
ひとり一句

    のけぞって乳酸菌になってゆく                 吉岡とみえ

    挿絵には不向きなバラの崩れかた               中野 六助

    バルテュスは少女を留める鋲である              岩根 彰子

    自分だけの蓋をさがしているえのぐ              峯 裕見子

    背中でもなくてすっかり足である                徳永 政二

    公園へ生れなかった子を連れて                清水すみれ

    妹をいじめた顔は美しい                     小池 正博

    少女期の終わりのハチミツの濁り                北村 幸子

    フルートの音色になって脱皮中                 岩田多佳子

    女女女を方眼紙に詰める                    河村 啓子

    前菜の次に出てくる金魚鉢                   川田由紀子

    描きかけの駅であなたを待っている               八上 桐子

    反省をするなら脚を閉じなさい                 嶋澤喜八郎

    うーんそれは起きてからにして                 太下 和子

    あたたかいベッドひびのはいってゆく卵            小川 佳恵

    絵具何本ある?どれだけ生きる分だろう            今井 和子

    水底に沈んだ櫛を訪ねけり                    江口ちかる

    無欲やなあ あけっぴろげやなあ                本多 洋子

    上からの目線と下からの目線                   八木 侑子

    たっぷりの蜜で育てている子猫                  笠嶋恵美子


















                                        2014年7月         更新



  
第二百十三回 点鐘散歩会


  
京都  藤森神社

 伏見区深草にあるこの藤森神社は、平安期以前神宮皇后が軍旗や武具をこの地に納め塚を作り祭祀を行って神々をお祀りしたことから始まる。本殿の東側にある大きなイチイの切株は、その「旗塚」と伝えられている。また毎年五月五日には駆馬神事が行われ、地元では「競馬の神様」として親しまれている。境内の二箇所に紫陽花園があって約3500株の紫陽花が植えられている。当日は残念ながら少し満開の時期はずれてしまっていたようだ。当日は半夏生の日。境内には茅の輪くぐりがしつらえてあって、それぞれ無病息災を祈念していた。



   
ひとり一句


   行きがかり上この人と輪をくぐる             八上 桐子

   まるいものあつめさみしいことを言う           徳永 政二

   結界を跨ぐ おばちゃんなんやから          峯 裕見子

   まだまだをいっぱいもっている木陰           中野 六助

   学問の足りないとこにつく脂肪              清水すみれ

   馬は哀しく第一関節で泣く                河村 啓子

   空梅雨の蛙はジャズを聴いている            森田 律子

   藤森神社は壷である                   岩田多佳子

   淋しさが一辺倒になっている               街中  悠

   蝉は今生れ始めている 無音              本多 洋子

   清水汲む節くれの手を丸うして             嶋澤喜八郎

   そこはもう水で満たしてくれました            笠嶋恵美子

   涼しい風ですねおいしい水ですね           中村せつこ

   とうとう最後まで神と二人きり               谷口  文

   待っていてくれたんや白い紫陽花            オカダキキ

   アジサイをどっと咲かせた多数決             小川 佳恵

   紫陽花はそしらぬ振りして枯れている          北原 照子

   美しい古語拾う墨染の駅                 八木 侑子

   やぶさめの音、声、臭立ち上がる            片山美津子




















                                            2014年6月    更新





   第二百十二回  点鐘散歩会


     奈良 ならまち散策

 ならまちとは、奈良時代の元興寺の境内を中心として発展した町。平城京の区画の内、東部に突き出た外京と呼ばれる地域。遷都以来まちづくりが始まり、社寺のまちから商業の町へと発展した長い歴史を持つ。今では江戸時代の末期から明治大正にかけての町家のおもかげを随所に残し、観光地としての人気をはくしている。

 今にも泣きそうな六月曇天のならまちであったが、それなりに落ち着いた雰囲気を充分に満喫することができた。

 
 ひとり一句

   奈良という木綿豆腐のくずしかた                清水すみれ

   なにを捨てたのか 水音が変わる                吉岡とみえ

   お醤油をたらして奈良にしてしまう                北村 幸子

   それは静かにみんな忘れて立っている             徳永 政二

   どの顔も鹿だと言って叱られる                  中野 六助

   はらいたのくすりめぐすり風みどり                 峯 裕見子

   体温は夾竹桃になってきた                    畑山 美幸

   無職とも知らずに鹿が寄ってくる                 嶋澤喜八郎

   狛犬が笑うと雨になるのです                   笠嶋恵美子

   少しづつ曲って花街の名残り                   墨 作二郎

   熟成のタンパク質か奈良町は                   岡谷 樹

   六月の鹿六月をたいらに運ぶ                   八上 桐子

   トルコガラスの青が似合って風が匂って              本多 洋子

   両肩をほどいて空にかけておく                   街中 悠

   もうすぐの亀さんハトさんおとうさん                 中村せつこ

   ブリキの兵隊五十三階段オチニイオチニイ            北原 照子

   拾ったよ遠い昔の忘れもの                     八木 侑子

   川底の石船に地蔵様わんさ                     小川 佳恵

   
















                                           2014年5月更新


  第二百十一回 点鐘散歩会

      あべのハルカス  展望台

 あべのハルカスは60階建、高さ300メートルの日本で一番高い超高層ビル。2014年3月に全面開業した。名称であるハルカスは古語の「晴るかす」に由来している。この言葉には人の心を晴々させるという意味がこめられていると云う。展望台からは気候がよければ、大阪平野をはじめ、京都から六甲山系、明石海峡大橋から淡路島、生駒山系、関西空港などを一望できる。
当日も晴れ、少し遠方は靄っていたが、みんな子供に還って300メートルの高さを満喫した。

   ひとり一句

    経絡に沿って都会を揉みほぐす           清水すみれ

    狂ったりするのにちょうどいい隙間          徳永 政二

    モスクワはあっち天国もあっち             中野 六助

    天国の近くは青が薄くなる               北村 幸子

    もうすでに大阪平野は沼である            岩田多佳子

    ハルカスは宙へ放屁虫は地下へ           嶋澤喜八郎

    何が見えると尋ね近づく小田実            次井 義泰

    通り抜ける風とだまっている塔と            墨 作二郎

    ハルカスを見ずハルカスの体内へ          畑山 美幸

    大阪はどんよりとして円くって             河村 啓子

    足跡を残さぬように空の上               笠嶋恵美子

    エレベーター夜鷹の星になっている         本多 洋子

    四十階辺りで個性光り出す               オカダキキ

    スマートホンの威力ハルカスの威力          神野 節子

    ショーですね60階の窓ふきは             北原 照子

    すっきりとしてないとこが阿倍野やな         柴本ばっは

    大阪の光と影がよく解かる               松本あや子

    エスカレーター二本降りると別の顔          中岡千代美

    ハルカスより見晴るかす黄色い我が家        徳山 泰子

    押し並べて大阪を見るゴモク寿司           藤井 孝作

    キンチョール空から蒔いた動物園           藤島たかこ

    処刑の地ビルの谷間にうずくまる           八木 侑子
  



























                                        2014年4月   更新







         
   京都国立近代美術館


      特別展  
日本ファッション不連続の連続

         

 待ちに待った桜もようやく満開になった。陽気に誘われて京都国立近代美術館前に集まった川柳仲間は総勢20名、ファッションの言葉にはいくつになってもそぞろ心を動かされるらしい。


 日本のファッションが持つ創造性とは何か? そこに潜む文化的背景とは何か? 本展は現代ファッションを先導した三宅一生、山本耀司、川久保玲から服と人との新たな関係性の構築を目指すゼロ年代のデザイナーまで、世界に評価される日本のファッションの独自性を、服や写真、映像などさまざまな表現形式で通観する。

 時代の先端を歩むデザイナーの才能を最大限に引き出し、その思想の具現化を支えたのは、日本の〈着る〉文化の伝統でした。京都服飾文化研究財団(KCI)の収蔵品を中心に構成しながら、京都から発信され続ける工房や職人の技術がもつ新たなポテンシャルを、改めて問い直す。
                                             ( パンフレットより)

   
ひとり一句



   一枚の布にすぎない水曜日                 清水すみれ

   ひらひらをほどくと姉が現れる                峯 裕見子

   どこまで逃げても糸と針やのに                北村 幸子

   まちがって桜になんかなったりしない             徳永 政二

   カフカから貰った黒のある時間                中野 六助

   おやここに一枚びわ湖が脱いである             内田真理子

   妹ってなんて赤いモケモケなんだろう            岩田多佳子

   ミラノから京都へとんできた帽子               石田 柊馬

   ふくらみはたたんでみるとわかります             吉岡とみえ

   夕暮れてさくらの脈が速くなる                 八上 桐子

   兄ちゃんはラッパズボンのままである             川田由紀子

   ストローで春の上下をふくらます                嶋澤喜八郎

   揺らめいて闇の湖面は布になる                山田ゆみ葉

   たち切ってしまえば楽に生きられる              笠嶋恵美子

   黒を纏って匿名になっている                  小川 佳恵

   何もしたくないと帽子でかくす顔                墨 作二郎

   海峡を渡った蝶は二匹だった                  本多 洋子

   羽ばたきをやめて蝶々の孤独                  行田 秀生

   人間になれない肋骨が硬い                   藤井 孝作

   かけつぎはなしよ蝶蝶が止まります               北原 照子

   

   

   




   







                                            2014年3月     更新

 第二百十回   点鐘散歩会

   大阪 天神橋筋商店街



 南北約2.6kmと、直線では日本一の長さを誇る「天神橋筋商店街」。繁盛亭や天満宮のある天神橋筋二丁目から七丁目まで長々と続いている。元々は神社の参道であったらしく、両脇に賑やかな商店がずらりと並ぶ。この界隈は、大阪を代表する繁華街キタの中でも最も早く開けた地域である。天満宮付近は明治の初めから商店が軒を並べ、昭和の頃にはほぼ現在の規模に近い商店街ができていたと云う。歴史は深い。老舗の和菓子屋さん・刃物屋さん・陶器屋さんや古書店も軒を連ねる。一つでも売ってくれるコロッケ屋・鯛焼き屋。掘り出し物が見つかる靴屋や洋服店、レトロな喫茶店など。“帽子全品1000円”“サンダル300円”など激安ショップもひしめいている。適当な飲食店で昼食を済ませ、句会場の大阪市立住まいの情報センターへ到着。


  
ひとり一句


   鉄板に油をひいてからの春                     峯 裕見子

   扇風機のおじさんと炊飯器のおばさん               清水すみれ

   ヤマダとは刃物屋さんで別れたわ                 吉岡とみえ

   聞こえないふりして路地が深くなる                 中野 六助

   大阪の底がちっとも笑わない                    徳永 政二

   ソースがいいと野武士が泣くのよね                 森田 律子

   ぶらぶらもすっかり棒になりました                  藤井 孝作

   三月の読みたい本に背伸びする                  墨 作二郎

   開き癖のついたなのはなのページ                 北村 幸子

   噺家ですかラ・フランスですか                    岩田多佳子

   丁寧に研いで私を売りに出す                     笠嶋恵美子

   レコードの針とぶ君の記憶とぶ                    八上 桐子

   ばあちゃんの愚痴が聞こえる洗い張り                中村せつこ

   こんにゃく一円エクレア一円いらっしゃい              畑山 美幸

   声をかければ奥から声のするお店                  八木 侑子

   ビビンバを覗く天神さんの鳩                      本多 洋子

   走れない自転車気の抜けたコーラ                   オカダキキ

   家内安全温いうどんずるずると                     川田由紀子

   まーるく切れる包丁探してる                       神野 節子

   横丁はまだ真夜中の朝である                      北原 照子

   春はなのみか蘭鋳の浮き沈み                      小川 佳恵

   人匂う埃が好きな天神さん                         藤島たかこ


   

   

   

















                                            2014年2月      更新





 第二百九回   点鐘散歩会


    大阪

       
生国魂神社(生玉神社) 

 
立春の日を過ぎたとは言うものの、当日は列島に寒波が押し寄せて、大阪にも時折激しい粉雪が舞うあいにくの空模様、首をすくめながらの参拝であった。

 伝承によれば生玉神社は、神武東征の際に神武天皇が難波碕(現在の上町台地)の先端に日本列島そのものの神である生島大神・足島大神を祀り、国家安泰を祈願したことに始まるという。1580年(天正8年)に石山合戦の戦火により焼失。1583年(天正11年)には豊臣秀吉による大坂城築城に際して現在地への移転された。秀吉は300石の社領を寄進して社殿を造営した。このときに造営された社殿は「生国魂造」と呼ばれ、独特の建築様式のものである。明治維新期の神仏分離によって神宮寺の法案寺(真言宗)を境外へ分離、1945年(昭和20年)3月の第1回大阪大空襲により焼失したが、1956年(昭和31年)に鉄筋コンクリート造りで再建された。
                            
しぎの    いえづくりのおや
 境内には女性守護の神として信仰を集める鴫野神社、家造祖神社、鉄鋼金物の神の鞴
ふいご神社等々が祀られ、上方落語の祖である彦八の碑や矢数俳諧で名を上げた井原西鶴の像、はたまた大阪縁の織田作之助の像なども散在する。勿論近松浄瑠璃の舞台にもなった土地である。

 寒々とした佇まいではあったが、境内の隅には蝋梅もかすかな匂いを放ち山茶花の赤がそこここに散り敷いて春の間近を教えてくれていた。



  
ひとり一句
  

  おねがいをしておねがいにけつまずく               峯 裕見子

   口紅のぺちゃっとついている名前                  八上 桐子

   おにぎりの真ん中に放置自転車                   森田 律子

   こういう風に散ってしまえば楽なのね                 畑山 美幸

   神さまの水はつめたいあたたかい                   徳永 政二

   源氏名はイクタマ本名はあおぞら                   清水すみれ

   静かなんやね大阪のふくらはぎ                    北村 幸子

   山茶花をどっと零して曽根崎心中                   笠嶋恵美子

   あんたなあもっとそっちで拝みいな                   藤島たかこ

   どのへんまで届く神さまの右手                     中野 六助

   本多さん神さん森田さんと雪                      久保田 紺

   西鶴の膝でエンピツを削る                        本多 洋子

   椿はポトリと落ちて地は多感                       前田芙巳代

   厄年は全て通過し現在地                        オカダ キキ

   ぐるりんと寺に囲まれデンといる                     柴本ばっは

   まるまると鳩は太って生玉警備                      北原 照子

   重いところを絵馬に移してバスに乗る                  小川 佳恵

   情死行のレッスンしてる落ち椿                      八木 侑子

   












                                              2014年1月     更新


 第二百八回   点鐘散歩会


      京都 
      
 晴明神社から西陣織会館  


 晴明神社は京都市上京区にあって、安倍晴明を祀る神社である。一条戻り橋のたもとにあった晴明の屋敷跡に存在する。1005年に晴明が亡くなると、時の一条天皇が晴明の偉業を讃え、稲荷神の生まれ変わりであるとしてその屋敷跡に神社を創建した。幕末以降、氏子らが中心となり社殿・境内の整備が行われ、1950年には堀川通りまで境内が拡張された。
 平成になると安倍晴明のブームが起こり、漫画化・映画化されて全国から参拝者が訪れるようになった。こちんまりとした境内の北には晴明の陰陽道の霊力によって湧き出た晴明井といわれる井戸があり、無病息災のご利益があるといわれている。参道の手前には一条戻り橋がしつらえてある。かって源頼光の四天王のひとり渡辺綱が鬼女の腕を切り落とした場所として有名。他にもパワースポットとして厄除桃や樹齢300年といわれる大きなご神木がある。
 足を伸ばしてすぐ近くの西陣織会館を訪れる。一階では華やかな「きものショー」二階では西陣織商品の展示即売、三階には史料室があって当日は西陣織による琳派の文化遺産が華やかに展示されていた。午後から京都福祉会館にて清記互選の句会。



  
ひとり一句


  赤いねえ今、今、今と言うてるねえ            峯 裕見子

  流れるを織るとふにふにしてしまう             北村 幸子

  上段にとても疲れる帯がある                森田 律子

  ファスナーもホックもないから西陣             中野 六助

  背中からぽんと生れる白い馬                徳永 政二

  忘れたいことが傘をさしている                岩田多佳子

  むらさきのマスクをしてる陰陽師               岩根 彰子

  タテ糸に絡まっている雨の音                 笠嶋恵美子

  織り上げて羽を広げた蝶ばかり                畑山 美幸

  戻り橋戻って桃を盗りに行く                  本多 洋子

  袋帯重とおすえと斜めから                   北原 照子

  はなやかな着物美人のうらおもて               元永 宣子

  やっとここまでと根っこが言っている              今井 和子

  杼は小舟夢をつむいでゆく小舟                行田 秀生

  この彩は時をへだてて出しました                太下 和子

  一月の氷雨へ古都は身を閉じる                小川 佳恵

  晴明が先どりしてたスター印                   八木 侑子










      2月度

         日 時 平成26年2月5日

         行く先 大阪 生玉神社(生国魂神社)

         集 合 JR 天王寺 中央コンコース 十時
            タクシーにて現地まで 
         句会場 クレオ大阪 中央 一時より
















            


                           2013年度




       前年度へ






                                        2013年 12月     更新







   第二百七回  点鐘散歩会

  世界遺産
  二条城





二条城は京都市中京区二条通堀川にある江戸時代の城である。京都市街の中にある平城で、足利氏、織田氏、豊臣氏、徳川氏によるものがあるが、現在見られるものは、徳川氏によるもの。城全体が国の史跡に指定されている。二の丸御殿が国宝に、1016点の障壁画が重要文化財に、二の丸御殿庭園が特別名勝に指定されている。さらに1994年(平成6年)にはユネスコの世界遺産(世界文化遺産)に「古都京都の文化財」として登録されている。

 二の丸御殿には,車寄側から,遠侍・式台・大広間・蘇鉄の間・黒書院・白書院が雁行型に連なっている。白書院を除くとすべての棟の内部が,金箔をはった画面に鮮やかな岩絵具などで描かれた金碧)障壁画で、御殿とともに桃山時代の華麗な様式を今に伝える貴重な文化財である

 現在二条城には江戸時代につくられた二の丸庭園,明治時代の本丸庭園,昭和時代の清流園の3つの庭園がある。小春日和の当日、庭の大銀杏やもみじ、どうだんツツジは程よく色づいて静かなたたずまい。庭師の方々は、蘇鉄のワラ化粧の作業に余念がなかった。


 



 
ひとり一句


  
   石段のすき間の石でしたずっと              北村 幸

   靴箱の三段目から東海道                 清水すみれ

   白カベは逃げられなくて白いまま             岩田多佳子

   ロープだらんとちょっと許してくれている         岩根 彰子


   あの雲は呼んだらくると思います             徳永 政二

   一日の縦に縮んでくる師走                八上 桐子

   あの瓦そろそろ空を飛ぶ気だな             中野 六助

   天辺にいるのに背伸びしたくなる            森田 律子

   ひとしきり泣いて笑った違い棚              内田真理子

   秋から冬へ対角線を引きなさい             西田 雅子

   襖絵にまぎれ込んだら一泊二日             畑山 美幸

   下駄箱に外様大名らしき靴                本多 洋子

   古井戸のロープを探しにいってます           河村 啓子

   本丸の虎は帰って来た後だ                太田 和子

   石垣の窪みに溜る冬の影                 笠嶋恵美子

   わら化粧して六人家族の蘇鉄です            江口ちかる

   すずめ殺してきたような顔だ                墨 作二郎

   鴨川に身を投げたのは日輪か               嶋澤喜八郎

   ひと回りして結界へ出でにけり               藤井 孝作

   欄間から淡い光のおこしやす               北原 照子

   海亀の甲羅となった松の幹                 小川 佳恵

   二の丸御殿の避雷針から猿飛佐助            行田 秀生

   ただれた秋とくすんだ御門                 八木 侑子

   

   

















                                          2013年11月      更新








 第206回
    
   

 点鐘散歩会


          
大阪 住吉大社



 11月初旬、当日は快晴に恵まれて絶好の散歩会日和。早朝の住吉大社は透明な秋の日差しに囲まれて、鳥居を潜ると正面に鮮やかな朱色の太鼓橋が目に入る。折りしも七五三の時節柄
着飾った親子の参拝風景が微笑ましい。

 摂津の国の一宮である住吉大社は全国の住吉神社の総本山。住吉大神と神宮皇后を祀る四棟の住吉造り本殿は国宝に指定されている。毎月初辰の日に商売繁盛を祈願する初辰まいりは有名。

 住吉大神を祖とする一族として住吉海人族があり、古来から海上交通や漁業に携わっていたと言われている。また和歌の神とも称され、伊勢物語や源氏物語の舞台にもたびたび登場する。

 約二時間ばかり散策して、住吉区民センターにて句会をひらく。





      






  
ひとり一句


   ポケットに雲をつめたりすれば秋               徳永 政二

   息つぎは濃いむらさきの小部屋から             赤松ますみ

   黙殺をするには朱い反り返り                  中野 六助

   神様のとなりはかなり生ぐさい                 石田 柊馬

   注連縄を張られて動けなくなった               笠嶋恵美子

   真横から見れば虹でした橋でした              河村 啓子

   しばらくを浮かべるここだけの空気              北村 幸子

   たいせつはみんな格子の中にある              清水すみれ

   七五三も米寿の人も朱に染まる                畑山 美幸

   楷書にて親の名前と子の名前                 峯 裕見子

   みづぶえのピーは私の過失から                森田 律子

   橋があるから水があるから迷うのよ               吉岡とみえ

   生き恥をひとつ晒して鈴ならす                 木本 朱夏

   黙黙とひとりを試す石になる                   八上 桐子

   砂利はジャリしか産めなくて砂利                岩田多佳子

   死んだ父は商売が下手でした                  川田由紀子

   真実は水に映った方でしょう                   本多 洋子

   秋と朱と私が一直線になる                    森吉留里恵

   まっ直ぐに歩きなさいと灯籠が佇っている            今井 和子

   この辺で西鶴の夢芭蕉の夢                   墨 作二郎

   呼び鈴を押したら秋が返事する                 嶋澤喜八郎

   神さまも手紙が欲しい和歌短歌                 神野 節子

   転げ゛落ちた話はしない太鼓橋                 前田芙巳代

   帝塚山住吉あたり恋もせず                    柴本ばっは

   太鼓橋渡ると何が見えますか                  元永 宣子

   晩秋の哀しみとして散る枯葉                   行田 秀生

   万句会の夜も照らした常夜燈                  八木 侑子

   七五三過ぎると子供も生意気に                 藤島たかこ

   玉砂利を踏んで古のステージ                  オカダ キキ

   古池に潜った亀はそのまんま                  小川 佳恵

   〆縄の古木 我身置き換える                  古今堂蕉子

   太鼓橋拒否しています 右左                  北原 照子























                                         2013年10月   更新




  第二百五回

       点鐘散歩会

       天王寺動物園

天王寺動物園(てんのうじどうぶつえん)は、大阪市天王寺区の天王寺公園内にある大阪市立の動物園。1915年に、日本で3番目の動物園として開園。面積約11ヘクタールの園内に、約230種1,000点の動物が飼育されている都市型総合動物園である。
1990年代後半より、動物の生息地の環境を可能な限り再現した生態展示の導入を進めている。これまでに、爬虫類生態館アイファー、日本初の水中透視展示プールを有するカバ舎やサバンナの環境を再現したサイ舎を含むアフリカサバンナゾーン、タイの国立公園を再現した中でアジアゾウを飼育しているアジアの熱帯雨林ゾーンを開設している。(Wikipediaより)




     
    アシカのゾーン      熱帯雨林の中で      北極熊           シマウマ


   ひとり一句

   五分程見ているカバの下半身          北村 幸子

   もてあます時間キリンの横座り           清水すみれ

   そんなこと言うても外へ出られへん        笠嶋恵美子

   いやらしいほどに動物園である          徳永 政二

   またひとつ夕日を飲んだフラミンゴ        中野 六助

   どのような今日であろうと浮いている       森田 律子

   ジムの山田に似ているなあ ゴリラ        吉岡とみえ

   ひっそりとまつ毛の陰にいるキリン         八上 桐子

   黒い犬 山崎豊子の訃を蹴散らす        墨 作二郎

   とんでもない事だったアルマジロだった      藤井 孝作

   臆病の境界線にオリを置く             森吉留里恵

   ここからはアジアのにおいしてる道         今井 和子

   眠っているだけでアイドルになれる         川田由紀子

   青い匂いがする 蛇は動かない           本多 洋子

   わめかなきゃわかりませんオリの中         オカダ キキ

   チンパンジーは普段の私               畑山 美幸

   どこに入れましょうかコアラのふわふわ       太下 和子

   居心地が悪いと誰が決めたのか           八木 侑子

   いないいないバー白熊の人見知り          北原 照子

   
















                                          2013年9月   更新







   第二百四回

       
点鐘散歩会

    奈良 戒壇院から依水園

 当日の奈良は台風予報がらみで朝から断続的な雨模様。それでも熱心な川柳仲間18名が近鉄奈良駅噴水広場に集まった。先ずはタクシーで戒壇院に向かう。東大寺大仏殿から少し西に離れたところに戒壇院はある。鑑真和上が来日して戒律を伝えたところ。聖武天皇や孝謙天皇も受戒されたと言われている。受戒とは、僧侶として守るべき事を履行する旨を仏前に誓う儀式で、戒壇はもっとも厳粛で神聖な場所である。

 堂内には多宝塔を中心に四天王が配置されている。向かって手前右側に持国天、左側に増長天、向かって後方右側に多聞天左側に広目天が並んで四方を擁護している。忿怒の形相と静視の姿勢、それぞれに邪鬼を踏んづけている。いずれも塑像で国宝である。

 戒壇院から五分も歩いたところに依水園がある。ここは前庭と後庭に分かれていて、池泉回遊式庭園。若草山や東大寺南大門などを借景とし、大和川支流の吉城川の水を引いている。
 雨音を耳にしながらひととき吟行を楽しんだ。


    
   戒壇院前の石段       裏庭の蓮        依水園の茶室       池泉回遊式庭



   
ひとり一句

     折り紙の先をきちんとして大和              中野 六助

     あなたもトタン屋根でしたか                川田由紀子

     手にとって見ればやさしい雨である           笠嶋恵美子

     ランチまでのなんだか細長い時間            北村 幸子

     水に浮くまでの時間をくれますか             徳永 政二

     素うどんのお葱の位置に多聞天             清水すみれ

     神さまは明るすぎても見えません             八上 桐子

     空井戸という生き方もあるのだよ              峯 裕見子

     玉砂利が一心不乱になっている              街中  悠

     ペディキュアを剥がそう雨になる前に           森田 律子

     石棺の丸さに水が溢れている               墨 作二郎

     睡蓮の一群濃ゆき水のいろ                辻 嬉久子

     邪気払う栴檀の木と左手と                 中村せつこ

     けぶっている景色はけぶらせておこう           畑山 美幸

     こおろぎが来ている持国天の足              本多 洋子

     アナゴクンあなたの何がはみ出てる            谷口  文

     睡蓮が笑った傘も笑った                  今井 和子

     ここはいいね大伸びしてるせんだんの実         八木 侑子





 


















                                             2013年8月    更新



    横尾忠則現代美術館


       
 横尾忠則 どうぶつ図鑑




 横尾忠則現代美術館は、兵庫県西脇市出身の美術家横尾忠則からの寄贈・寄託作品を、兵庫県立美術館王子分館(旧兵庫県立近代美術館)の西館をリニューアルし、2012年11月に開館された。

 ここでは、コレクションを軸に、国際的に高く評価されている横尾忠則芸術の魅力を国内外にアピールするとともに、横尾と関わりのある様々な分野のアーティストや、横尾作品に関連するテーマ展など、多彩な展覧会を開催している。

 今回の展示では「横尾忠則どうぶつ図鑑」と題してライオンや馬サルなどの陸の動物、ワニやカメなどの水中の動物、龍やネッシーなどの空想上の動物など多種多彩の動物が登場する。それらの動物たちが何を表現しているのかは、受け手によって心の中にさまざまなイメージを呼び起こし、強烈な空想は過去現在未来にまで広がって行く。



   ひとり一句




    チャンバラをするならアイラインは太め            峯 裕見子

    酢漬けの鯖だ横尾忠則だ                   石田 柊馬

    ライオンの時間とダダダダの時間                森田 律子

    なつかしい方にはいつも鳥がいる               徳永 政二

    人間の一番底のいそぎんちゃく                北村 幸子

    チューブの中の亀の部分を絞りだす              岩田多佳子

    昨日の馬は今日を彷徨い柳の取沙汰             墨 作二郎

    踵やら肘やら夜の裂け目から                  八上 桐子

    今はもうあふれる色はじゃまなのよ               吉岡とみえ

    Y字路に佇んでいる臨死体験                  笠嶋恵美子

    ライオンがそろそろ寛平に変わる                山田ゆみ葉

    真っ赤になって大阪に溺れる                  本多 洋子

    考えあぐね犀の頭になりました                  八木 侑子

    イソギンチャクになってしまえばわかります           畑山 美幸

    戦士だよぐっとサソリをはがいじめ                太下 和子

    曼陀羅の世界を紡ぐ赤い糸                   元永 宣子

    

    





 











                                         2013年7月      更新




   京都大学総合博物館

 ここは日本初の社会に開かれた大学の窓口、ユニバーシティ・ミュージアムである。
京都大学が開学以来百年以上にわたって収集してきた貴重な学術資料約260万点を保管・管理し、第一線の研究・教育活動に活用している。その先端の成果の紹介に重点を置いた日本の大学博物館としては最大の規模の展示場で、京都大学の研究が解りやすく紹介されている。
 展示室は自然史展示室・文化史展示室・技術史展示室に別れている。

自然史展示室では、地震・化石・霊長類・ミューズラボ・動物植物の起源・温帯林の生物・ランビルの森・熱帯雨林の生態など目を瞠る展示がずらり。ナウマン象の牙や足跡に驚嘆の声。
文化史展示室では日本の古文書や石棺・考古学として日本古代史文化の展開と東南アジアのコーナーなど多種多彩。
技術史展示室では京都大学〜伝統と未来について熱く展示されている


 一時間半ほど館内を観覧のあと、学生たちの集まる学食(学生食堂)にてお昼を済ませ句会場に向かう。



   
ひとり一句


    アゴだけになった男らしいなあ              北村 幸子

    のぞいてごらん君が大きく見えるから          徳永 政二

    覗かれて穴は深さを増してゆく              清水すみれ

    縄文のあたりで遊んではりました             峯 裕見子

    貝殻の奥に実家が立っている              岩田多佳子

    ゆるゆるとアンモナイトを解いてゆく           中野 六助

    もう二センチ掘ったなら私の遠いかけら         内田真理子

    五枚目の羽をそうっと出してくる              川田由紀子

    たくさん食べてこの世へ顎の骨残す           今井 和子

    曇天や百万遍を紙魚の這う                辻 嬉久子

    そのうちにあっけらかんと骨になる            八上 桐子

    骨だけになったら遊んであげる              吉岡とみえ

    こんなとこからも入れるやんか京大は          中村せつこ

    百億年という静けさの単位                西田 雅子

    夏の地図ぺらぺら少年合唱団              森田 律子
   
    てのひらの風景カタクリの風景              元永 宣子

    勾玉の少し歪んでいる本音                岩根 彰子

    閂は外れたままに半夏生                  笠嶋恵美子

    校門は声につつまれ青うつつ               墨 作二郎

    不老不死の方は証明がいります              本多 洋子

    シャコ貝のエマヌエル夫人の化石かな          北原 照子

    博物館で色即是空とすれ違う               小川 佳恵

    出られないような墓に入りとうない             畑山 美幸

    弥生から先祖の声の水曜日                藤井 孝作

    二枚貝元の私に戻りたい                  谷口  文

    









            次回散歩会


                日時    8月6日(火)

                行き先   横尾忠則現代美術館


                集合場所 (阪急)王子公園駅  10時

                JR線の方はJR[灘]駅から直接美術館へ
                行ってくださっても結構です。


                句会場   神戸市立 灘区民ホール第1会議室














                                             2013年6月  更新








  
 美の響演 関西コレクションズ

            於  国立国際美術館 (中ノ島)


 梅雨の晴れ間、大阪は中ノ島に位置する国立国際美術館は、透明な朝の日差しに包まれて如何にも爽やかな文化エリアの一画を呈していた。


 
  




 出品されていたのは、大阪市立近代美術館建設準備室、京都国立近代美術館、滋賀県立近代美術館、兵庫県立美術館、和歌山県立近代美術館、そして国立国際美術館のコレクションから選りすぐられた、主に20世紀以降の美術作品。セザンヌ、ピカソ、マティス、ブランクーシらの名品から、ロスコ、ルイス、ウォーホルらのアメリカ美術、そして現在活躍するリヒターやタイマンスらの絵画、シャーマンやシュトゥルートらの写真にいたるまで、関西にある珠玉の約80点。ロダンやジャコメッティなどの彫刻にも出会えることが出来た。



 
ひとり一句





    ジャコメッティはなすびと煮き合わす               北村 幸子

    ほんとうの黒は笑ったりしない                   清水すみれ

    少年期わたしは海を持っていた                  中野 六助

    ややこしいこんなところに白いまる                 徳永 政二

    今日をまたごうと足を高く上げてみる               今井 和子

    体内の水入れ替える美術館                    笠嶋恵美子

    行きつくところこんな何でもないカタチ              畑山 美幸

    滲まないように夜を塗っておく                   八上 桐子

    ペコンと凹むゴムフーセンの水曜日               岩田多佳子

    塗り重ねられ幸せと言わされて                  小川 佳恵

    大波をかぶったままのゼロである                 川田由紀子

    モンローが並んで果てしなくイマジン               墨 作二郎

    マニキュアなさいストッキングはきなさい              藤井 孝作

    ヴィーナスのようにそら豆が伸びる                 本多 洋子

    金色に塗って神話を立て直す                   森吉留里恵

    細やかな夢を箱詰めする詩人                   八木 侑子

    銀河系に吸い込まれているねむり                 北原 照子


















                                           2013年 5月      更新




 第二百回 
    
     
 点鐘散歩会


  大阪市立美術館
      
ボストン美術館 日本美術の至宝



 東洋美術の殿堂とまで称されるアメリカ・ボストン美術館所蔵の日本美術の名品が今大阪の市立美術館で紹介されている。国内で言う国宝・重要文化財級の作品70点である。まさに日本美術の至宝ばかり。

 ボストン美術館は世界随一の在外日本美術のコレクションを誇っている。そのコレクションは、明治時代に教鞭を執るために来日したフェノロサや岡倉天心などによって形成されたもの。今回の展示には、フェノロサやビゲローの優れたコレクションが多く含まれている。いわば日本美術のお里帰り。よくぞここまで保管して頂いたと感謝の念が沸き起こる。

 作品の中には快慶の初期の弥勒菩薩立像や曽我蕭白の雲龍図など・像や絵巻など目を瞠るものが沢山あった。



  
ひとり一句


   描き方がわからず水のままでいる           清水すみれ

   牡丹くずれて李白は月を掬えたか           太田のりこ

   斜めから見たりするから痒くなる            北村 幸子

   曇ってばかりいたら山水画になるぞ          中野 六助

   水底に沈んだあとは喜劇です             森田 律子

   足を洗って鬼を待たせる                吉岡とみえ

   塔があり少し離れて舟がある              徳永 政二

   ゆるしたい人の数だけ赤い芥子            八上 桐子

   いいんだな おまえはそれでいいんだな      森吉留里恵

   津波には攫われそうにない鱗             笠嶋恵美子

   一にらみふたにらみして雲龍図            前田芙巳代

   赤く怒って救って下さる                 畑山 美幸

   チョコレート色です ボストンの仏陀          墨 作二郎

   蕭白に尻尾を掴まれたようだ              本多 洋子

   羅漢様だった おう若冲だった             藤井 孝作

   若冲のしろいオウムが歌うから             木本 朱夏

   騎龍弁天が操る天王寺界隈               北原 照子

   仏のかたち神のすがたに我思う             元永 宣子

   












                             2013年 4月     更新



  第百九十九回

       点鐘散歩会

  京都 円山公園 の 桜


円山公園は京都市東山区にあって国の名勝に指定されている。八坂神社の東側、知恩院に隣接していて桜の名所である。今年の桜はどことも開花が早く、散歩会の4月4日まで花たちが待ってくれているかどうか心配であったが、ここ二三日の冷え込みでどうやら散りかけの状態でとどまってくれていたのは 幸いであった。ここの「祇園枝垂れ桜」はことに有名。しかし近年老化が目立って、花のない枝がむき出しになり少し痛々しさを感じた。園内には焼きそば、たこ焼き、みたらし団子などの屋台も賑々しく出店。いつもどおり賑やかな桜のお喋りを聞くことができた。

  
      



 ひとり一句




    ああ何度生まれかわってもタンポポ        北村 幸子

    指先に最初にふれた色で描く           清水すみれ

    まだまだをふたつ並べているひとつ        徳永 政二

    もう一度金平糖の角になる             岩根 彰子

    桜だからさくらだからと言い聞かす         笠嶋恵美子

    ささえてもらって咲くのもしんどいねん       吉岡とみえ

    こんなところで桜になって結婚式          今井 和子

    風と生きたし風と死にたし 花は          前田芙巳代

    二番目の桜は笑ったりしない            中野 六助

    からっぽの紙袋みたいに笑う            八上 桐子

    右端の鈴をふったらフライドポテト         森田 律子

    長楽館でひと言ふたこと大正ロマン        北原 照子

    故障中の時計と桜 あたたかい           墨 作二郎

    「おおきに」のイントネーション 人力車       辻 嬉久子

    ねぎと牛すじとやきそばとサクラ           畑山 美幸

    大切な花から手錠かけてゆく             久恒 邦子

    薄墨のさくらにわたし透けて行く           元永 宣子

    四楽章あたりで乱れ出す桜              本多 洋子

    踏んづけた花片の数知らないわ           八木 侑子

    いもぼうのぼうの上にも花吹雪            川田由紀子

    ヒトに驚いて桜時計は故障中             森吉留里恵




    
  

 














                                                 2013年3月      更新

 

  京都国際
     マンガミュージアム



 ここは京都市中京区にある漫画の博物館です。施設は廃校になった旧・龍池小学校の校舎を改築して利用しています。学校の本館・講堂・北校舎・正門は2008年に国の登録有形文化財に指定されたものです。

 国内外の漫画に関する貴重な資料が集められた日本初の総合的な漫画ミュージアムです。明治時代の雑誌や戦後の貸本などの貴重な資料や現代の人気作品、世界各国の名作など約30万点のマンガ資料が所蔵されています。そして1970年代から現在までに発行されたマンガ5万冊は、館内のどこでても自由に読むことができます。紙芝居のコーナーもあり昭和時代さながらのセットで上演していました。子供から大人まで充分に楽しめるミュージアムでした。



    
ひとり一句
 
                 

   メガサメマシタ ヒガクレマシタ        内田真理子

   鉛筆は白いページのつっかい棒       森田 律子
  
   ルルルとガガガに分けておきました     吉岡とみえ

   おもしろいことはほんとになつかしい     徳永 政二

   フクちゃんが隅っこにいて救われる      本多 洋子

   踏み台に登って島耕作とハグ         岩根 彰子

   虫歯抜いた日も読むのらくろ二等兵     墨 作二郎

   たて笛のたてにそろっている三月       北村 幸子

   クレヨンしんちゃんカクカクカクカク中国語   辻嬉久子

   木の床ぎしぎし京都弁ぎしぎし         峯 裕見子

   金属ぽいのね平成のマンガ          八木 侑子

   つまずいたところにあった少年ジャンプ   笠嶋恵美子

   龍池小学校はギシギシと生きている     畑山 美幸

   ガォーが来るからしっかり抱いていてね   今井 和子

   壁いちめん古いマンガが埋めてある     藤井 孝作

   マンガなど読んだことない天邪鬼       北原 照子

   


    














                                            2013年2月   更新                       


    第百九十七回

           点鐘散歩会


            大阪新世界   通天閣




 今回は大阪人の心のシンボル、浪速文化の誇りといわれる通天閣とその周辺を散策した。
東京のスカイツリーがもてはやされている現在、百年の歴史を誇る大阪の通天閣が今もう一度見直されている。

 初代通天閣は1903年に開催された内国勧業博覧会の会場跡地にパリのエッフェル塔や凱旋門を模して建設されたと言われている。高さは300尺で東洋一を誇り、アールヌーボーまで取り入れたおしゃれなものであった。
1943年に、周囲の火災で焼け落ちたため、現在の通天閣は二代目。昭和31年(1956年)再建された。

 2階から5階の展望台までエレベーターを乗り継ぐ。眼下には天王寺動物園・美術館環状線や高速を走る電車や車がミニチュアのように細々と見える。すぐ近くには今建設中の世界一高いファルカスのビル。京セラドーム遠景には生駒山など360度大大阪が見渡せる。緑の少ないことも一目瞭然。とくに展望台の中心には、足を撫でると幸運をもたらすというビリケンの像が安置されている。ビリケンさんは新世界全体の象徴のようでもある。

 通天閣の館内にはシアタールームやジオラマ展示場などがあり、百年前にタイムスリップできる仕組みにもなっている。通天閣を後にして新世界界隈で昼食。もっぱら串カツの一度づけを楽しんだ。



            


     ひとり一句


    百年前をひらくと少しバニラ味                    北村 幸子

    ひとりだね風の流れる方にいる                   徳永 政二

    めぐりめぐって表紙の裏へ出てしまう                森田 律子

    風が吹く私の中のルーレット                     赤松ますみ

    大阪の餡をねっとり捏ねている                   峯 裕見子

    大阪を一度づけして食べてみる                   谷口  文

    通天閣とドボルザークの相似点                   藤井 孝作

    串カツと未練を食べる漫才師                    上野 楽生

    柾目ですビリケンさんの土踏まず                  小川 佳恵

    曇っているところが私の過去になる                 前田芙巳代

    大阪の空をごしごし洗います                     笠嶋恵美子

    闇鍋をつつく天王寺界隈                       森吉留里恵

    キンニクマン整列 コロッケの立食い                 墨 作二郎

    ビリケン百態一円玉五円玉                      中村せつ子

    大阪の裏に大きな虹が出る                      本多 洋子

    新世界坂田三吉生きている                      松本あや子

    新世界活動写真今昔                         柴本ばっは

    めし屋の文字錆ある風の吹く路地よ                 八木 侑子

    心配はだんだん晴れて天ぷらを食べる               今井 和子

    串カツの列で名札を裏返す                      オカダ キキ

    面白い恋でしためちゃくちゃに                     北原 照子


















                                           2013年 1月     更新







   第百九十六回
         点鐘散歩会
  

                洛西総氏神

                        松尾大社



         




 四条通の西の端、桂川にかかる松尾橋を渡ったところに大きな朱の鳥居が立っている。京都最古の社とされる松尾大社である。太古この地方一帯に住んでいた住民が松尾山の神霊を祀って生活守護神としたのが起源といわれている。
 境内の亀の井の名水が酒に変わったと言う逸話から、松尾大社は日本第一の醸造の祖神としても知名度が高い。また境内の一角には松風苑と呼ばれる現代的な庭園がある。昭和五十年に作庭家重森三玲によって作庭されたもの。曲水の庭・即興の庭・上古の庭・蓬莱の庭がある。曲水の庭の回廊を進むと、宝物館があって、平安時代の一木造りの御神体三体と古文書が収蔵されている。朽ち果てた神像も大事に保管されていた。



   ひとり一句




    声を出す石もあるかと存じます        峯 裕見子

    ぼろぼろと頬がこわれてゆくのです      森田 律子

    朽ちてゆくことはこんなにやわらかい     北村 幸子

    このままでいいと思っていたら水       徳永 政二

    何べんも聞いて木目が現れる         笠嶋恵美子

    回らない水車があって冬の刑         内田真理子

    無駄のない冬の景色の石の数        畑山 美幸

    あるときは酒の匂いのする女神        本多 洋子

    境内にモヤモヤモヤと神がいる        谷口  文

    山は下から左右から押してくる         小川 佳恵

    曲水の庭 邪念という鱗            中村せつこ

    サラダバー誘惑したのはプチトマト      北原 照子

    蹴つまずくように四条通りのどんつきに    辻 嬉久子





















                                       2012年 12月  更新



     第百九十五回

      点鐘散歩会   点鐘散歩会






      京都 島原

                   角屋



  
            






 京都島原の角屋は、江戸期の饗宴(もてなし)の文化の場で、揚屋建築としては唯一の遺構として昭和27年に国の重要文化財に指定されている。

 天正17年に豊臣秀吉によって柳馬場二条に傾城町「柳町」が開かれ、初代徳右衛門が角屋の営業を始めた。慶長7年柳町は突然の移転を強いられ角屋も六条三筋町へ移転を余儀なくされた。更に寛永18年再度柳町は移転となり、角屋は二代目徳右衛門によって現在地の嶋原へ移された。その移転騒動が九州で起きた島原の乱を思わせることから「島原」と呼ばれるようになった。

 江戸中期までの揚屋は、間口が狭く、奥行きのある小規模建築であったため、一階を台所および居住部分とし、二階を主として座敷に使った。二階へ客を揚げることから揚屋と呼ばれるようになった。江戸中期以降の揚屋は隣接地を買い足したりして、一階を大座敷にし、広庭を備えて大宴会場へと変わっていった。

 角屋の二階は江戸時代そのままのかたちで残された貴重な遺構である。壁は赤壁・白漆喰壁・黄色の大津磨き壁・浅葱色の九条土壁・等々が用いられている。ちなみに赤壁などは、社寺書院客殿などに用いられた高級壁で、角屋が並の建物でないことを強調したものと思われる。中でも青貝をはめ込んだ螺鈿の壁などは今でもその製法が解らないと云われる貴重なものである。しかし現在はほとんど色の見分けがつかないくらい真っ黒でその昔をかすかに想像するしかない。なぜ黒く煤けてしまったかというと、江戸期の照明に由来する。多くは蝋燭の燭台や灯油の行灯を用いたからで、結果、油煙で天井や襖など室内が真っ黒に煤けてしまったと云う事である。

 所蔵美術品には、蕪村による「紅白梅図屏風」や応挙による襖絵もある。それら所蔵品は「角屋もてなしの文化美術館」として手厚く保存されている。


 




   ひとり一句



        障子から障子を歩く十二月             徳永 政二

        誰か来たかと刀箪笥は薄目をあける        峯 裕見子

        灯されてたましい浮いてきてしまう         八上 桐子

        ハートではないと男の口すべる           北村 幸子

        洗っても洗っても闇は闇               笠嶋恵美子

        曲がるくぐる島原のリズム              辻 嬉久子

        島原師走椎茸昆布炊き上がる           本多 洋子

        錯覚の愛のようだねよろけ縞            谷口  文

        絵あわせの中へひっそり潜り込む         森吉瑠里恵

        それぞれの桟に聞きたいことがある        岩根 彰子
        
        扇の間の扇そむく気はないか           前田芙巳代

        じんわりと痺れてしまう浅葱色            河村 啓子

        刀箪笥から新撰組のなにやから          北原 照子

        ひっそりと森とりこめる朱の茶碗           八木 侑子






 






      次回  新年 点鐘散歩会



            日 時 平成25年1月10日 木

            行き先 京都 松尾大社

            集 合 阪急 嵐山線 松尾駅 十時

            句開場 ラボール京都 6階 北会議室



        
 初めての方でも ふるってご参加をお待ちしております。
















                                                    2012年11月 更新





  第百九十四回

   点鐘散歩会  



           藤田美術館  元 藤田伝三郎男爵の本邸



 藤田美術館は大阪市都島区網島町にあり、近松の「心中天の網島」の舞台になったところと言われている。男爵であり実業家でもあった藤田伝三郎が、莫大な財力をつぎ込んでコレクションした東洋美術の数々が収められている。ここには国宝九件・国の重要文化財五十件を含む五千点もの美術品が保管されている。また藤田邸跡の庭園は、現在「大阪市立藤田邸跡庭園」として管理され無料で公開されている。「天の網島」の小春と治兵衛の比翼塚は三百メートルほど先の大長寺に移され大切に供養されている。



        
        紅葉しはじめた藤田邸 庭園                   比翼塚のある大長寺           墓の傍の桔梗       






  ひとり一句

          受け入れてしまえばうつくしい歪み           八上 桐子

          わたくしも棗も前を向いている              清水すみれ

          いろは紅葉の赤になるのは他人事           墨 作二郎

          ぼんやりとどこに手を置く秋のどこ            徳永 政二

          貴族ではないから飴玉を舐める             中野 六助

          真ん中に溺れてみたい青がある             森田 律子

          剪定をされた裏切れぬように               森吉留里恵

          行く末はどうあれ蓮の実をこぼす             笠島恵美子

          何を試されてこんな歪み方                北村 幸子

          数寄者で黄はツワブキと決めている           畑山 美幸

          心中があったことなど水の底               本多 洋子

          少しふれた仏の胸はピンク色               北原 照子

          ガラスケースに近づいて見る見えてくる         オカダ キキ

          黒釉の少しゆがんでゆく夕陽               藤井 孝作

          


















                                              2012年10月 更新



   
 第百九十三回

      
  点鐘散歩会


   
       京都府立植物園




  台風一過 素晴らしい天候に恵まれた10月3日、秋本番を迎えた京都植物園を訪れた。
東は比叡山ゃ東山連峰、西は賀茂川の清流、北は北山連峰に囲まれた景勝の地に京都植物園は広がる。
その総面積は約240平方キロメートル。植物は12000種類に及ぶ。正面入り口では満開のコスモスに出迎えられた。
午前中の二時間かけて園内をゆっくり鑑賞する。

また観覧温室の内部は回遊式になっていて、順路に従って景観がかわり、一巡すると熱帯のあらゆる植生が鑑賞できる。
バナナが実りパパイヤが生り、トックリ椰子の愉快な姿やキソウテンガイの花も見ることが出来た。




     ひとり一句



     耳欠けて鼻欠けてからわかること        峯 裕見子

     歌うたうマツボックリを吐きながら        岩田多佳子

     花を見た後のスープの透明度         北村 幸子

     咳をして植物園を秋にする           清水すみれ

     実を拾ういつか言葉になるように        墨 作二郎

     何をしていてもあなたは風である        徳永 政二

     どこまでも雌蕊であろうとする雌蕊       中野 六助

     赤い実をこぼして秋と契ります         森吉留里恵

     真っ直ぐに物言う噴水の先っぽ        岩根 彰子

     ほどけゆく悦び縄は朽ちながら        八上 桐子

     ベンチの端にじいちゃんが落ちている    森田 律子

     静脈にびっしりと咲く曼珠沙華         内田真理子

     死の影を払いヒマワリ仁王立ち         笠嶋恵美子

     出来たての雲つれて来て!誕生日       辻 嬉久子

     トンボすいっと五線譜を抜ける         本多 洋子

     ひとまわり大きくなった秋の空          西田 雅子

     まだ露がある間に合ってよかった        畑山 美幸

     サルビアの赤哀しみを噴きあげる        安土 理恵

     サボテンの怒りの中を通りすぎ         前田芙巳代

     大きな葉っぱに包み大切なものさしあげる   今井和子

     北山あたり夏と秋とがすれちがう        柴本ばっは

     ある世界からうさぎがもぐるない世界      北原 照子

     私ももらう些細な幸せ樹々の声         八木 侑子

     



     













                          
2012年9月    更新




第百九十二回

       点鐘散歩会


  大山崎山荘美術館


 アサヒビール大山崎山荘美術館は、大阪府と京都府の境にある天王山の山腹に位置していて、真下に木津川・宇治川・桂川の三川が淀川へと合流する美しい風景が見える。
 美術館の主なコレクションは、アサヒビールの創業者として知られる山本為三郎の収集したものである。彼は大正から昭和初期に柳宗悦らが提唱した日本民芸運動の賛同者で、バーナード・リーチ、宮本憲吉、河井寛次郎などとの交流の中で収集された作品が展示されている。ほかにもクロード・モネの絵画睡蓮連作やアルベルト・ジャコメッティ、パウル・クレーなど第二次世界大戦前後の近現代美術も沢山展示されている。
 建物は三階建てのイギリス・チューダー様式の山荘本館と、隣接して地下に作られた安藤忠雄設計の現代建築の新館「地中の宝石箱」から出来ている。
 庭園に出てみると法師蝉が、夏を惜しむかのように深い緑を震わせて啼き続けていた。


      
      
  山荘外観            庭にある兎のモニュメント



 ひとり一句


   打ち明けてしまえば秋になれるのに   中野 六助

   人間の裏にまわるとある階段        河村 啓子

   ほしいのは笑い続けている暖炉      清水すみれ

   そして詩人は阪急そばになっている    峯 裕見子

   入口が壊れたふりをする九月        森田 律子

   風景に加える青を溶いている        佐藤美はる

   トンネルの方から呼んでくれました     徳永 政二

   不時着のその後を知っているトンボ    笠嶋恵美子

   呼びかけて空はいきなり深くなる      八上 桐子

   淋しくてミンミン悔しくてミンミン       安土 理恵

   もう果実になりかけているはだか      北村 幸子

   一政のバラがころころと笑う         本多 洋子

   考える人のまうしろに居ます         前田芙巳代

   胎内に溜り続ける深緑            森吉留里恵

   KOパンチはないのだがモネの睡蓮    小林満寿夫

   睡蓮の絵のずぶ濡れでありました      墨 作二郎

   大胆にバラは道化師をつれて        北原 照子

   ミュージアムの壁は雑音をはじいた     オカダキキ

   しば髪をすく櫛は荒目がよいようだ      桜 風子

   伸びて伸びて明日をみすえている女    八木 侑子




★ 次回 散歩会

    日 時  十月三日(水)
    行き先  京都植物園
    集 合  京都地下鉄 北山駅 3番出口 十時
    句会場  京都市北文化会館 一時より





     結果はまたこのページで報告いたします。











                            2012年8月  更新


第百九十一回

  
 点鐘散歩会



   京都水族館


 海のない京都盆地に2012年3月、初めて水族館が生まれた。物珍しさに誘われて、点鐘散歩会ではさっそく現地を尋ねてみることにした。

 三方山に囲まれた京都盆地、市内には鴨川・桂川・宇治川など一級河川が流れ古くから山紫水明の都として、独特の川文化をもたらしてきた。

 この水族館では、源流から海に至るつながりと多くの命が共生する生態系を再現している。京の川ゾーンでは大サンショウウオやアマゴの生態を捉え鴨川上流の世界をリアルに表現している。その他、ペンギンゾーン・大水槽・イルカスタジアムなど小さいスペースながら見易いように設計されている。

 夏休みも始まったばかり、魚よりも子供の数の方が多いくらいであった。


    
イルカスタジアム           ペンギンゾーン             大水槽



 ひとり一句

  一枚の鱗をもってから詩人        中野 六助

  頬杖ついてそうね鴎が足りないわ
    内田真理子

 
 海のどこからともなくファスナー走る   岩田多佳子

  水というすこし淋しい相似形        清水すみれ

  愛咬のアシカは水に告白す        小池 正博

  さんしょう魚が口を開いてる夏休み    墨 作二郎

  こわいのはさんしょううおのぬいぐるみ  徳永 政二

  すいすいと魚影 ぞろぞろと八月     西田 雅子

  頂いたイルカ一頭担ぐなり         峯 裕見子

  半身が魚になってから帰る         北村 幸子

  六千五百万年前のジャンプ        笠嶋恵美子

  わけあって鰯のふりをしています     佐藤美はる

  ケープペンギン二匹で弾けばピアニスト 辻 嬉久子

  毒もってそれからやさしい顔になる    八上 桐子

  黄色は毒で水色は猛毒で         森田 律子

  じゅうたんを広げるエイの千夜一夜    森吉留里恵

  まごころの深いところを泳ぐ魚       前田芙巳代

  絆創膏こっそり剥がす水くらげ       久恒 邦子

  生きやすいように水母の身を借りる    本多 洋子



  














                         2012年7月  更新





 第百九十回

  点鐘散歩会


   大阪市立東洋陶磁美術館


    国立マイセン磁器美術館所蔵

      マイセン磁器の300年


 今回は東洋陶磁美術館の開館30周年記念特別展として開催されたマイセン磁器の300年展を観ることにした。

 ドイツ東部に位置するマイセン窯は、ヨーロッパにおける磁器生産発祥地である。2010年に開窯300年を迎えた。これを機にマイセン磁器美術館が所有する約230点の作品によって、西洋磁器誕生のドラマと300年の歴史の全貌を紹介したものである。

 本展では、東洋への憧れを示す「柿右衛門写し」や中国趣味などの作品群や、アウグスト強王が夢見た大型動物彫刻・宮廷生活を彩ったロココ様式の小型立像などモダニズム期の斬新な作品群が一堂に会され、華麗なマイセン磁器の世界を満喫することが出来た。


  
         
東洋陶磁美術館 正面          中央公会堂にて句会



  ひとり一句


   沼をもつ壷と泉をもつ皿と          中野 六助

   スノーボールみっしり愛は苦しいか     北村 幸子

   凹凸は水でした波でした           河村 啓子

   マイセンにあかんべえする紙コップ     八木 侑子

   油滴天目だれにも背かれまいとする     墨 作二郎

   広口がよろしい忘れやすいから       清水すみれ

   指揮棒を猿に握られてしまった       森田 律子

   指先の鳥のとまっていたかたち       八上 桐子

   硬質に取りだしてゆく詩のいくつ      たむらあきこ

   計画停電 燭台を用意せよ         本多 洋子

   堂島ロールがいいね花模様のカップ    笠嶋恵美子

   からっぽの白磁の壷のまま終わる      佐藤美はる

   3D磁器の動物達の雄叫び          北原 照子

   生きるものすべてをうたわせる白磁     森吉留里恵


















                          2012年6月 更新



  第百八十九回

   点鐘散歩会


   
壬生屯所


入梅も間近い六月の初旬、新撰組の拠点壬生屯所界隈を散策した。阪急大宮に集合した一行は、先ず徒歩三分ほどの光縁寺に向かう。ここは江戸時代初期に建てられた浄土宗の寺。幕末、門前に新撰組の馬小屋があり、この寺の寺紋が、山南敬介の家紋と同じ紋であったことから親交が始まる。境内には切腹した山南敬介ほか新撰組の二十数人の墓がある。
 次に新撰組屯所の一つ、前川邸の前を横切り八木家に向かう。ここは浪士たちの世話をした八木源之丞の屋敷
。芹澤鴨・近藤勇・土方歳三らが、この屋敷に松平肥後守御領新撰組宿という表札を掲げ新撰組が誕生した。現在は和菓子店になっている。
 続いてすぐ近くの壬生寺へ。隊士たちがこの境内で剣の練習をしたと伝えられている。近藤勇、芹澤鴨など隊士10名ほどの墓(壬生塚)がある。局長近藤勇のニヒルな銅像もあった。

 
 
     前川邸の入り口                        八木家の前
  
  ワンコインで壬生塚へ       近藤勇の銅像             芹澤鴨の墓




 ひとり一句



  みなづきの芹澤鴨の虫下し         中野 六助

  チャンバラはやめてお昼にしましょうか  清水すみれ

  庭の向こうの消火器の横のなま首     石田 柊馬

  あっち向いて泣いているから粗大ゴミ   森田 律子

  六月を袋小路に追いつめる         内田真理子

  百円で勇の墓の四角い晴天         墨 作二郎

  ハート三つの家紋ですよろしく        河村 啓子

  平和やなあ抹茶茶碗を裏返す        北村 幸子

  夏風や仏一体持ち帰る            辻 嬉久子

  卒塔婆丸文字きょうびはこんなもんなんや 畑山 美幸

  でぼちんを出して昭和を受け入れる     久恒 邦子

  おずおずと亀 暗殺は終わったか      本多 洋子

  ビワの実が明る過ぎます無縁仏       小林満寿夫

  夜泣きする子供に地蔵六神丸        谷口  文

  言い切っておしまいなさい刀疵        八上 桐子

  群れても亀 供養塔は横ならび        前田芙巳代

  井戸の蓋ずらして芹澤鴨と会う        笠嶋恵美子

  浪士劇だった狂言だった 壬生        藤井 孝作

  ピーカンだ 新藤兼人監督呼ぼう       岩根 彰子



   

















                          2012年 5月 更新


  第百八十八回

    
点鐘散歩会


  長岡天神

   
    
八条が池 キリシマツツジ


 阪急長岡天神駅から徒歩十分ほどのところに長岡天満宮がある。大きな石の鳥居をくぐるとすぐ周辺に八条ケ池が広がる。神殿へ向かう中堤の左右にキリシマツツジの真っ赤な軍団が押し迫るようにわれわれを向かえてくれる。4月末からの2・3日が満開の見ごろの時期。

 キリシマツツジは、樹高約2・5メートル、樹齢は130年前後と見られている。市の天然記念物に指定されている。中堤と中の島を繋ぐのは、そう檜造りの水上橋。橋の中ほどには東屋もあり、かきつばたや睡蓮なども可愛い花を覗かせている。声を呑むほどのキリシマツツジの朱色に圧倒されながら周辺を2時間ばかり散策した。


     

        


  ひとり一句


   ああ今日は半分以上水の底         徳永 政二

   なんとなく寂しい方の橋渡る         松田 俊彦

   みずいろの切り取り線のある五月      中野 六助

   雨の一日なにかを憎まねば         前田芙巳代

   しゃが群れて一般会計予算表        辻 嬉久子

   つまずいたところに空がありました     笠嶋恵美子

   真ん中を走り抜けると焼死体        岩田多佳子

   男ってそういうものやんかとあやめ     北村 幸子

   臆病のまま雨雲がちぎれている       墨 作二郎

   赤い雲にみんな入ってゆきました      芳賀 博子

   あっそのことは吸い込まないでつつじ    畑山 美幸

   大声をあげてツツジは群れになる      本多 洋子

   ほとんどが水分なのに恋をして        峯 裕見子

   分からない男に消しゴムを返す        森田 律子

   葉桜によっしゃよっしゃとうなずいて     八木 侑子

   長岡天満宮で雨蛙になった          岩根 彰子

   曇天の脳を漱いでくるツツジ          小川 佳恵

   水たまりでしょう鍵盤じゃないよね       北原 照子

   あしたになったらと花のいのちをふと思う   神野 節子

   陣取ってしまった東屋の雨いろ        藤井 孝作


















                       2012年 4月 更新



  第百八十七回

  点鐘散歩会



  京都 
 平安神宮 神苑



 例年4月3日ともなれば桜も満開を迎えているはずの京都であるが、
今年は開花宣言もなく、春は足踏み状態。おまけに当日は朝から列島を襲った強い雨・風。散歩会の実行も危ぶまれる程の状況であったが、熱心な散歩会ファンは21人も集まって雨の中の吟行句会となった。


 
                           
          神苑のわずかな枝垂れ桜      山桃

 社殿は平安時代後期の第三次朝堂院を再現したもの。大極伝などの六棟が国の重要文化財。神苑は明治から昭和にかけての名造園家七代目の小川治兵衛が20年以上かけて造った名園。琵琶湖疎水から水を引きいれており、珍しい鳥類や亀類などが棲息している。



   
ひとり一句
  
  解凍がうまくできないサクラのラ         清水すみれ

  もう少し雨と笑ってみませんか          徳永 政二

  四月のはじまりはまだ生乾き           岩田多佳子

  うらうらと猫の背中になる四月           佐藤美はる

  水の輪をみておりましてこの歳に         峯 裕見子

  妹は胸の名札を裏返す              河村 啓子

  長い長い夢が続いている水面          北村 幸子

  沈んだり浮いたり泡は私だな           中野 六助

  こんな日だからこそという朱色           畑山 美幸

  濡れている石に痛みのあるように         八上 桐子

  雨はどしゃ降り桜の鈴を買うことに        墨 作二郎

  さくら夜桜いつ咲いたってええやんか      森田 律子

  咲いてすぐ言葉になって散る桜         本多 洋子

  かたい春やわらかい春踏んでゆく        西田 雅子

  ふっと息かけてさくらの目をさます        笠嶋恵美子

  桜から実年齢を当てられる            岩根 彰子

  コーンスープおかわり時間はゆっくりと     北原 照子

  花びらのような月など探しても          瀬渡 良子

  ほつほつぬくい膨れたつぼみある辺り     八木 侑子

  二分咲きの桜いいたい事もある         山下怜依子

  雨の風情この捨てがたき春の刻         安土 理恵






   
5月散歩会

  日 時  5月2日 水

  行く先 長岡天満宮(キリシマツツジ 見ごろ?)

  集 合  阪急長岡天神駅 西出口 10時

  句会   長岡京市立中央公民館 1時より
















                        
2012年3月 更新


  第百八十六回


 点鐘散歩会 
点鐘散歩会



   六波羅蜜寺から珍皇寺へ



 京阪五条駅に集合した一行はたっぷりの時間をゆうるりと六波羅蜜寺まで歩く。今大河ドラマで人気の平清盛ゆかりの地とあってこの時期訪れる人は多い。
 天暦五年(951年)空也上人によって開創された西国第十七番の札所。当時京都に流行した悪疫を退散するため、いわゆる踊躍念仏を唱えながら病魔を鎮めたという。本尊は空也上人自ら刻まれたという十一面観音。

 平安末この付近は六波羅殿と呼ばれ平清盛ら平家一門の屋敷が営まれた。またのち鎌倉幕府によって、六波羅探題が置かれたのもこの付近である。
 宝物館には 平清盛座像や空也上人立像・運慶湛慶座像などが安置されている。
 この寺に隣接して六道の辻がある。昔の風葬の地、鳥辺野の入り口である。伝説の幽霊飴のお店もあり昔ながらの飴を買うこともできる。
続いて六道珍皇寺まで足を延ばす。

 ここ『六道珍皇寺』では毎年8月7日〜10日、先祖の霊をお迎えする、いわゆる『六道まいり』が営まれまる。平安時代には葬送地・鳥辺山の入口に位置することから、あの世に通じる処であるとされていて、盆に帰ってこられる先祖の霊も、ここを通られるということで、六道まいりが賑やかに行なわれるそうである。迎え鐘という鐘楼もあって鐘は見えないように囲ってあるが紐を引っ張って鐘を打ち鳴らす仕組みになっている。
 京都ならではの行事の一端を垣間見る思いがした。





       


  ひとり一句



   なんだか楽しいあの世との境目      岩根 彰子

   母という生あったかい飴である       北村 幸子

   私へ鳴る鐘だと過ぎてから気づく     峯 裕見子

   三月のひとつひとつを結んで遊ぶ    徳永 政二

   どこまでが境内どこからが時代      清水すみれ

   五条坂の春は豊次の下駄の音      墨 作二郎

   朱の堂の朱の企みが見抜けない     前田芙巳代

   片方の耳落としとくこの辻で        辻 嬉久子

   非常口か六道の辻かを確かめる     中野 六助

   三番目の仏は喉に詰りそう         本多 洋子

   線香の三本寄せてある煙          森田 律子

   錆びついた信心少しだけこする      安土 理恵

   六波羅のフレアスカートひるがえす    岩田多佳子

   水滴のつつつつつつつ春のうつ     八上 桐子

   春がすみ歴史の臍でありし地の      小川 佳恵

   今空いてます冥土への通い井戸     八木 侑子

   息をするたびに出てくる仏様       笠嶋恵美子

   なで牛のなでたい左足みあたらぬ    北原 照子

   千年も経つと概ね黒くなる         畑山 美幸



















                           
2012年 2月 更新






  第百八十五回

    点鐘散歩会


  草間彌生展

         永遠の永遠の永遠

                      於・国立国際美術館





  世界的な現代美術家として活躍する草間彌生の最新の創作活動を紹介する展覧会が今大阪中之島の国立国際美術館にて開催されている。

 草間彌生は1929年、松本市生まれ。水玉や網目模様をモチーフに半世紀以上に渡り作品を作り続けて来た。57年には渡米し、巨大な平面作品や鏡や電飾を使った環境彫刻も発表、以後ボディペインティングなど多数のハプニングで話題を呼んだ。73年帰国後は2001年には朝日賞を受賞、2009年には文化功労賞を受けている。

 2009年以後も創作意欲はますます盛んで、まったく新しい絵画の仕事に取り組み、人間の内面世界を抉り出す様々な作品群を発表している。今回は「永遠の永遠の永遠」というサブタイトルのもと、色彩豊かな50点からなる連作やモノクロの線画作品など、無限に湧き出る連鎖的なイメージをこれでもかこれでもかと吐き出すように製作している。どでんと置かれたかぼちゃの彫刻にもドギモを抜かれる思いがする。

 草間彌生という特出した才能をもった芸術家の、飽くこと無きを最先端の兆戦を心ゆくまで鑑賞することが出来た。


  

               



  
ひとり一句


   水玉がこんなに尖っていたなんて      北村 幸子

   疑問符を持たないジュラ紀の水玉      清水すみれ

   水玉がいやになったりしませんか      徳永 政二

   いやだ!と言うたび水玉が増える      峯 裕見子

   たぶんそう死は一本の黒い線        八上 桐子

   繊毛は正常でした内視鏡           河村 啓子

   思い出をお持ち下さい無料です       中野 六助

   水の出るところに唇を描く           笠嶋恵美子

   たましいの切断面を見せられる        内田真理子

   どろどろと吐き尽しても尽しても        太田のり子

   裏側もきっと大きな水たまり          佐藤美はる

   魚の目の眼帯はずすアルバイト       久恒 邦子

   天地無用です 草間彌生です        本多 洋子

   失ったワタシの赤がここにある        安土 理恵

   樹木希林岡本太郎に草間彌生        中村せつ子

   赤色を足せば重心ずれてくる         小川 佳恵

   春も夏も秋も冬も反逆者            森田 律子

   あの丸に乗れば極楽いけるかな        桜  風子

   祈りとは動かない雲動く雲           墨 作二郎

   千の目で探していますわたくしを        瀬渡 良子

   ハートをくすぐる みじんこもゴキブリも    山本 早苗

   草間彌生であり続けるチューリップ      藤井 孝作

   神に兆戦する水玉のオーラ          八木 侑子

   孤独です頭がぐるぐる真っ白に        北原 照子

   キャンバスを埋める不安を埋めてゆく    中岡千代美

















                          2012年1月 更新




第百八十四回

      点鐘散歩会



  
 西宮十日えびす   



 西宮えびす神社の創建は遠く平安時代ともいわれている。鎌倉時代には既に十日えびすの祭典が厳粛に行なわれていたらしい。以後七福神信仰によってえびす様が福の神の代表となり、ここで広まったえびす舞は、文楽や浄瑠璃の源流になったと云われている。江戸時代徳川幕府からは御神像札の版権が与えられ、福の神えびすが商売繁盛の神として信仰されるようになった。

 国宝の三連春日造りの本殿は戦災で焼けたが昭和36年もとのままに復元された。大練塀と表大門も国の重要文化財で同じく復元されている。

 テレビでよく放映される開門神事は、昭和15年から、何事も一番のりされた参拝者を称えようと、先着上位3名を福男として認定するようになった。昭和45年からは大マグロの奉納などの行事も加わって十日えびすは三日間(9・10・11)で百万人を超える参拝者で賑わう。



  

 


  ひとり一句



 
  南天の箸でつまんでみる日本        北村 幸子

   小さい手を引いてる小さいお姉ちゃん   墨 作二郎

   途中から妙にかさばる縁起物        中野 六助

   ものがたりとして横たえるからだ       八上 桐子

   XもYもZも神の意志             森田 律子

   クリムトと張り合うマグロのうろこ       八木 侑子

   食べられて人間になると言う鮪       安土 理恵

   えびす様も自然解凍されている       大橋あけみ

   空晴れて神は大きくなっている       徳永 政二

   ここは出口です神様は照れ屋        前田芙巳代

   えべっさんでポックリ祈願しています    田中 女里

   大凶の身替りになる大欅           笠嶋恵美子

   ありがたい日は今日らしい混んでいる    弘津秋の子

   神笑う 椿の赤がふくらんで          本多 洋子

   帰ってますか行方不明になった福      北川アキラ

   縄電車はぐれないよう右左           桜  風子

   鯛焼きの空にタイ焼きが浮かぶ        辻 嬉久子

   神さまにそそうなきよう深呼吸         道家えい子

   イケメンの兄ちゃん
       手があついから焼きそば買って    北原 照子

















  

 外に出て川柳


          外に出て川柳

        
   2020年5月からはブログ洋子の部屋に
   移転します。これからもよろしくお願いします。


  
  




 定期的にではありませんが 外に出ての川柳はこれからも続けていろいろ発信して行きたいとおもいます。
 よろしく お願いいたします。
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