洋子作品
白い病室
早期発見でしたと癌を告げられる
決心を促がす蝋梅の黄色
白い病室マチスの赤が欲しくなる
人工の部品をつけて生き延びる
火種が欲しい燃料も欲しい
病室に届くイランの話トランプの話
2019年 11月 更新
仏像 中国・日本
於・大阪市立美術館 本多 洋子
淋しくて 秋のほとけに逢いに行く
柔らかな眼差し 白鳳のほとけ
ウエストのくびれ滑らか 女人仏
身を捩る悩みもあらん 女人仏
腫れぼったい瞼 涙する仏
髪型はモダンに如来像 頭部
肉厚な唇 仏は青年らし
菩薩立像 切れ長の目が理性的
マリア観音 白磁の肌が透きとおる
晩秋の仏はみんな節目がち
2019年 10月 更新
2019年 9月 更新
大阪 今昔ミュージアム 本多 洋子
裏長屋には 八百屋・銭湯・履物屋
銭湯の終い湯 番台とは馴染
火の見櫓 長屋の裏を見下ろして
仕舞い屋(しもたや)もあって裏長屋のはずれ
三味線の師匠の家もあった路地
脚踏みオルガン 昭和の流れ 昭和の歌
シンガーミシン 母の苦労の背ながある
堺筋 路面電車のあった頃
靴磨きをしていた駅前のこども
物乞いをしていた傷痍軍人
記憶を歩く 戦後七十四年目
2019年 8月 更新
陶芸の森へ フィンランドの陶器
東洋陶磁美術館にて 本多 洋子
蝉しぐれくぐって 陶磁の森へ行く
吹きガラス こころのゆらぎ 透き通る
古今東西 唐草文の迷い癖
楕円の皿にアダムとイブを盛り付ける
梅瓶の肩のあたりの 龍の雲
真っ白なお皿に浮かんでいる エロス
諦めは駱駝の睫毛から こぼれ
天井は紅杉 マルメッコの茶室
息をひそめる唐三彩の女人像
油滴天目 心の綾を覗かせる
2019年7月 更新
画廊を覗く 本多 洋子
ひと気のない画廊を覗く梅雨の入り
石に彫る月 梟は無口
朱岳白岳 一羽の鶴を飛ばしめる
春愁の少女は青いバラのよう
ちぐはぐに動く駝鳥の首と足
ピッコロのりずむで黒鳥が走る
蹴散らかしているのは砂か花びらか
フレームにおさまる真っ白なわたし
川柳を捻って花街を抜ける
近松が口ずさみつつ行く花街
2019年 6月 更新
2019年 5月 更新
藤田美術館展 にて 本多 洋子
曜変天目 銀河のなかのハーモニー
オーロラの輝き てのひらの宇宙
果てしない宇宙の旅に引き込まれる
天目の底で亡夫が呼んでいる
ブラックホールがあるかもしれぬ椀の中
空也上人春の仏を吐き尽くす
耳寄せて聖観音の声を聴く
伎楽面 呉女に恋などしたらしい
下唇噛んで力士の面ゆがむ
十六羅漢ぎょろりと噂話など
2019年 4月 更新
伏し目がち 本多 洋子
三月の釈迦三尊の胡坐かな
気の効いた言葉を探す春の雪
雲は春 河馬の名前を考える
シャガールの二人が飛んだ日曜日
深ぶかと草に埋もれる石仏け
石仏け春の真水を確かめる
春遅し伎芸天女は伏し目がち
2019年 3月 更新
道明寺 天満宮の梅 本多 洋子
狛犬の目線の先の梅ひらく
甘酒の店も開いて梅祭り
白梅にこころの端を覗かれる
筆塚に寄り添うようにしだれ梅
古木にも紅梅の赤 ふたつみつ
撫で牛の鼻をくすぐる春の風
紅梅の花びら寄るやさざれ石
2019年2月 更新
無蓋貨車 本多 洋子
秘め事の一つや二つ寒椿
観自在ゆらりと冬の蝶濡れる
些細なことで口を閉ざした青い夜
春愁やこころのトゲを抜いている
無蓋貨車 童話を運んだことがある
市原悦子の昔話の残る耳
冬銀河の旅へと兼高かおるさん
2019年 1月 更新
思考回路 本多 洋子
白衣観音ひらりと春の身をかわす
ひやしんす風の言葉を信じ切る
尾羽黒とんぼ羽の傷みを庇うている
草紙洗い 水に流した筆の跡
一番星 しりとり遊びはまだ続く
ことばは水にみずは言葉を流しきる
思考回路もとの自分に戻っている
2018年 12月 更新
正倉院展にて 本多 洋子
唐の女人の体温残る布の沓
琴柱にも花喰い鳥の赤・緑
一条の紐 縷々として彩り
緑釉は流れるままに二彩の壷
錦・紫派手な縦縞・巻きスカート
古文書に借金のこと写経のこと
秋冷へすんなり伸ばす鹿の首
甘えてもみたい素振りの女鹿なり
紅葉映え バス停「氷室神社前」
2018年11月 更新
慶沢園から茶臼山 吟行 本多 洋子
都会の中のブラックホールに迷い込む
喧噪に取り残された秋の庭
舟形石のあたりに揺れる旅の人
手を添えて切り石橋を渡りきる
飛び石の間隔 足元に注意
石臼の名残りもあって 深かむ秋
歴史を刻む 小さな滝の音がする
風抜ける 戦さの跡の茶臼山
武士(もののふ)の声に押されて 赤い橋
首をもたげて夏の陣など思う 亀
戦場を見降ろす青鷺の一羽
カルガモの家族と池をひとめぐり
ハルカスも通天閣も映る池
ちぎれ雲 ブラックホールから抜ける
2018年10月 更新
里の匂い 本多 洋子
すだちの匂い秋刀魚の匂い 里の匂い
備長炭でじりじり焼かれている秋刀魚
ほろ苦き秋刀魚の腹とにごり酒
小さな秋ね 樹木希林も逝ったしね
川田正子の声が聞こえてくる砂漠
美代ちゃんが独りで泣いていた砂場
のろいのは河馬のせいではありません
液状化してしまったね君とボク
2018年9月 更新
里の赤トンボ 本多 洋子
末摘花の気品をとやかく言わないで
どろどろになるまで追いかけたりしない
絵手紙で熟した桃をプレゼント
お見送りしないわ ここでさようなら
盆踊り幼馴染みと逢うている
大花火見ていた父の肩車
こんなところに逃げ道がある蛇の穴
塞ぎこんでいるのは里の赤とんぼ
眞っぷたつに割って疑いを晴らす
2018年8月 更新
八月忌 本多 洋子
征った人が戻ってこない海である
海神は戦の傷み知り尽くす
母は海 許して欲しい時の海
八月忌 飢えをしのいだことがある
麻原の骨も海辺に撒くと云う
仁王さんの握り拳を見ましたか
時として金魚を狙っている仔猫
天空の城まで行ってみるチャンス
両の手で母のひらかなを掬う
湧き水のように哀しみを掬う
2018年7月 更新
竹割って 本多 洋子
柿若葉 禅問答が終らない
丸木橋グリム童話の犬がいる
しばらくは青の深みに嵌まり込む
上弦の月から第一ヴァイオリン
生意気な事ばかり云う青りんご
秘め事を持っているのは蛇いちご
耳のうしろに一つや二つ隠しごと
かといってもう白線に戻れない
後ろ手にうすむらさきを忍ばせる
竹割って割って独りを生き通す
その時がくれば全部が絵空事
だとしても虚しいことが多すぎる
梅雨晴れ間 眼鏡の縁を替えて見る
終わった人はトマトの蔕のふりをする
2018年6月 更新
クラリネットな風 本多 洋子
ある時はクラリネットな風に逢う
あじさいの青より深い恋をする
あの橋を渡れば解脱できるかな
天空のせせらぎロビーコンサート
アカペラがうまい農園のスズメ
茄子かぼちゃ玉葱小麦カルテット
思い出は甘酸っぱいね 杏の黄
5月尽 青をしばらく遠ざける
2018年5月 更新
ブラックリスト 本多 洋子
糸杉のみどりに届くカルテット
日曜の窓から エリーゼのために
散り果てて 桜の狂気だけ残る
私のありかた 葉桜のありかた
ワルツが洩れる鹿鳴館のシャンデリア
春の蛾が一匹残るシャンデリア
螺旋階段ビビアンリーのシャンデリア
飼い猫がブラックリストに載っている
大津絵の鬼のうしろについて行く
2018年4月 更新
土偶の乳房 本多 洋子
春うらら土偶の乳房あけっぴろげ
少女らの素足まぶしい春の水
春光にせせらぎの魚跳ね上がる
ダリの時計が一番正確だとおもう
岩波文庫 春のベンチに残される
もみ洗いして哀しみを保存する
群青のガラスの城に立て籠もる
エンピツで耕す青いことばたち
サクラクレパス私の春を描ききる
ガラス粉々青春は一度きり
2018年3月 更新
ほっといて欲しい 本多 洋子
青鬼が挑戦状を持ってくる
友だちの毬もこの頃弾まない
ほっといて欲しいアンタの事やない
大皿で流星群を待ち受ける
油滴天目 赤いお月様が出る
嘘に嘘かさねて塩で揉んでおく
閉ざされた扉の奥のことばたち
内密の話を食べてしまったわ
扉の向こうで青い言葉がたちあがる
私の影を拾った青い道
2018年2月 更新
広辞苑 本多 洋子
立春の水をきらりと手に受ける
青空へゆっくり上がる観覧車
2ン月の鬼とじっくり握手する
覚悟ならとうにできてる土踏まず
始祖鳥を探しに行って戻らない
美辞麗句なんていらない広辞苑
ジーンズの穴から覗いている素足
太陽の塔は両手で空を抱く
箱階段に猫が眠っている町家
2018年1月 更新
木の釦 本多 洋子
薄氷がこころの壁になっている
秋冷のナイフの反りを見てしまう
甘えなど赦しはしないマスカット
気位は横顔にある黄水仙
小春日の外れかけてる木の釦
口紅を少し濃くした日の鏡
ココアにします 軽くエッセイ書き終えて
2017年12月 更新
拇印押す 本多 洋子
ゆるすこと赦されぬこと 地獄絵図
立冬のあばらを抜けるすきま風
浮雲はわたくしのもの拇印おす
出るとこへ出たらと思う太郎冠者
業平に手渡す白紙委任状
呼び鈴を押してしまった赤トンボ
観自在ギャテイギャテイ土砂崩れ
モナリザもつくり笑いをする初冬
哀しみを捨てるにあらず吾亦紅
何もかも赦す吉祥天の肩
エッシャーの階段に置く玉手箱
秋の陽が翳るロダンの肩あたり
2017年11月 更新
木喰の目尻 本多 洋子
秋雨がつづく伎芸天の膝
木喰の目尻が下る午後の秋
比翼塚さびれる秋の深まりに
釣り糸を垂れているのは写楽かも
花いちもんめ あの子を盗むことにする
白砂にまぎれて道を見失う
心にも閂があり深む秋
女郎花なにも知らないことにする
小咄がとってもうまい太郎冠者
クリオネの羽とフェルメールの青と
2017年10月 更新
鎮痛剤 本多 洋子
熟れた桃が流れ着くのを待っている
野ぼたんの紫ほどの恋でした
好きにしたらええわと秋のちぎれ雲
鎮痛剤がレモンの上に置いてある
記念日を焼くのよ とろ火で3時間
ほおばっているのは平家物語
竹を割る竹そぐ 竹を編んでいる
謎々はなぞなぞのまま 秋蛍
2017年9月 更新
戦さの雲 本多 洋子
八月の雲に殺意があるらしい
生卵同士で何を揉めている
文楽の頭ころんと仇討ち
戦災で金魚一匹生きのこる
戦争の話を小口切りにする
玉蜀黍のパンで凌いだことがある
大根の首・加茂茄子のヘタみんな敵
戦争の記憶をさぐる独活・茗荷
アボカドの皮ぽっかりと不発弾
負け戦さだったダイオウイカの足
2017年8月 更新
湖のしずく 本多 洋子
ビー玉に透ける深海のみどり
月光に濡れた手紙が干してある
森の童話をたっぷり聴いてから眠る
湖のしずくになったトルコ石
鳴き砂は戦さの波を知っている
忘れたい恋にレモンを絞りきる
クリックして星の欠片をしまい込む
お日さまを抱いてる縄文期のかけら
カーバイトの匂いと遠い夏祭り
死がふいに身近になった平尾昌晃
2017年7月 更新
近詠
栗の花 本多洋子
忘れたい事などあって栗の花
蝉は初啼き 木陰に止めた三輪車
風とまる蛍の謎を解きにゆく
泥沼の真ん中へんで浮き上がる
浮雲まではトランポリンで参ります
韋駄天だったか 真っ白い風だったか
肉球を愛する女三ノ宮
鬼あざみきつい言葉を返される
2017年6月 更新
海色の恋 本多 洋子
日溜りでややプライドを捨てる猫
ネコはしばらく夢遊病者になっている
中八のあたりで欠伸をする仔猫
肉球のためらい傷を舐めている
海色の恋をしたいと思う猫
月の裏を舐めてしまった恋のネコ
秘密結社を探りに行った黒い猫
有料トイレなんだから シャムネコなんだから
絨毯でも転ぶ肥満体の 猫
時々は大阪城に行くキャッツ
2017年5月 更新
春きまま 本多 洋子
望郷の野に草笛と文庫本
5月の森でひとり童話を書いている
大空も水平線もボクのもの
青虫がゆっくり眠っていたキャベツ
肉球をさすって猫を眠らせる
キャベツもぐ海馬を剥がすようにもぐ
ひまわりを植えて迷路にしてしまう
あっぱれな形に赤いアマリリス
いつまでも円周率を追いかける
哀しい時は黙って石を積んでみる
春きまま空也上人歩き出す
春嵐 誰かに背なを押されている
2017年4月 更新
方程式 本多 洋子
5+7+5=∞ 五足す七足す五いこーる無限大
大佛はコントラバスの声を出す
とりあえず冥王星まで行くプラン
堕落してしまったリルを知っている
メール打ったとクロウサギからシロウサギ
はてなマークが溜まる百条委員会
何が目出度いとほっぺたを膨らます
遊 行 点 鐘
オリオンのベルトにさっとぶら下る
作二郎のひみつ基地なら知っている
再起とや お終いのウンあ行のア
鬼アザミ今痛点を通過中
種を撒くひとと 鐘を聴くひとと
鐘をつく 幽霊飴を舐めながら
2017年3月 更新
沿 線 本多 洋子
沿線に旅籠町あり ととやあり
ぬくもりを忘れたらしいアメンボウ
岩は無口で春雨が続いている
蛇の穴に沿うて叫んでみませんか
菜の花の黄に埋もれているカーブ
草間彌生が踊る三幕目あたり
学校を作る ゴミなど片づけて
いきなり墨を振りかけられたんです どうやら
疑問符に追い詰められる春の猫
雨の音 春の戯曲が出来上がる
2017年2月 更新
小瓶の中のショートショート 本多 洋子
小瓶の中でスマートホーン鳴っている
芳醇な香りの中のピピピピピ
ビー玉転がる青い少年だった彼
道づれに金平糖をつれて行く
絶対音の中で小指を確かめる
小瓶の中は海原だった草原だった
ルノアールの背中を瓶に詰めておく
オリオンのひとつが転がり出たボトル
コロボックルが踊る青い青い瓶
箒星の尻尾を掴んでしまったわ
水平線の向こうで溺れている誰か
影はとうに虹を渡ってゆきました
2017年1月 更新
河童の皿 本多 洋子
てのひらは虹を掴んでから疼く
向こう岸で目覚まし時計鳴っている
切株に座って目覚め待っている
落人が渡っていった虹である
野仏の首に残っている夕日
月見草と石の地蔵ははしゃぎ過ぎ
分校の放課後オルガン鳴っている
通り雨 河童の皿が落ちている
オリオンの胸から落ちた青い星
次の世が見たくて虹にぶらさがる
向こう岸で待ってる大きな喉仏
あの世までリニアカーで参ります
2016年12月 更新
近詠
心療内科 本多 洋子
カギ穴と猫と女と衣替え
さめざめと きぬぎぬのこと むらさきのこと
ハンカチをしわくちゃにして ゴメンナサイ
するめイカになった水平線になった
心療内科にはコオロギも来てるのよ
嘘泣きもしてみる赤い落ち椿
秋の蚊を赦すこころになっている
残り時間をどうぞお好きになさいませ
無垢という眩しいものを見てしまう
水滴になってあしたを待っている
2016年11月 更新
近詠
晩秋
二番線ホームで待っているブルー
蝉殻に少うし体温が残る
横顔に翳りが見える秋ざくら
コンビニは無いけど秋のキリン草
決心のかたちに脱いだ蛇の皮
銀杏ころがる知らない街に来てしまう
梨の芯 苦しい事を思い出す
青えのぐ向こう岸まで辿り着く
秋の昼 やれチンドン屋の裾回し
とりあえずぽっくり寺に手を合わす
森のはずれでブルーになってしまう鬼
陸橋を渡って鼓笛隊が来る
2016年10月 更新
始皇帝の耳 本多 洋子
ヴィーナスの腕が落ちてる美術室
探さないで下さいアマゾンに居ます
漱石のネコをブラシでおびき出す
お月さまを買い占めましたあしからず
まだ蛇が戻ってこない蛇の穴
地平線までカタツムリを追うてゆく
靡いてはすすきのホ調ホ長調
月光に干される片方の軍手
とても美しい舞姫の義足
ガラスケースに入れる始皇帝の耳
2016年9月 更新
桃のこと 本多 洋子
罠かもしれぬ赤いダリアも鬼灯も
風鈴のト調 ときどきト短調
精神余命という言葉あり百日紅
火の鳥が稜線Kを超えてゆく
脇腹をねらって本音くすぐって
策略を考えている蛇の穴
ファの音が出ない午後のオルガン
行方不明の蟻を探し続けている
ときどきは罠にかかってみたい蝶
三日三晩かんがえている桃のこと
2016年8月 更新
近詠
もういいかい 本多 洋子
わんわんと蝉 おんおんと掌
伎芸天 泣きたいほどの恋をして
秋篠の風すきとおる遠い時間
優しさは笑い羅漢の膝あたり
思惟像の指ほほに触れ哀にふれ
海を見に行こうと蝉にせがまれる
ある時は孤独の淵を辿る蝉
石の羅漢は車座になり蝉しぐれ
空蝉ころぶ もういいかい もういいかい
まあだだよ この世の淵が碧すぎる
2016年 7月 更新
近詠 偏頭痛 本多 洋子
偏頭痛 白あじさいは下を向く
曇天の雲を三枚ほど捲る
涙腺がもろい 水無月のカモメ
イケズかも知れぬ清少納言の鼻
てのひらで紀貫之を遊ばせる
六歌仙の紅一点をおびき出す
六地蔵のひとりは草食系らしい
夕蛍 秘密をもらしたりしない
世をすねて蛇が穴から出てこない
満たされぬものあり夏の地平線
元素記号が覚えきれない
まあいいかハマヒルガオに諭される
2016年 6月 更新
近詠
ひずむ・ゆがむ 本多 洋子
射程距離の最前列にあげは蝶
列を乱したのは真っ赤なアマリリス
熊本ひずむ・ゆがむ・しずむ
列島の尻尾にナマズぶらさがる
ガリバーの靴が浮いたり沈んだり
不法電波を食べてしまった蟻の列
塔にくらいついている絶滅危惧種
野ざらしになって紫ふかくなる
桃はもう沈んだふりをしています
野イチゴの赤 いいことがありそうだ
無蓋貨車 過去から未来へと抜ける
終焉は女人高野の赤い橋
2016年5月 更新
近詠
行く春 本多 洋子
未解決の問題ばかり春の風邪
背もたれに見抜かれている花疲れ
花曇り わたしに潜む不発弾
夜桜に行こうとふいに誘われる
ほろほろと泣きほろほろと散る桜
列島に亀裂が走る 春嵐
大地には血脈がある大地震
円形劇場ドラマは明日へ続いている
回転椅子くるっと捨てる春のうつ
鉛筆の先でアネモネに触れる
夏近し欠け行くものを追いかける
まる描いてチョンと人生やり直す
2016年4月 更新
近詠
春の計 本多 洋子
病葉は水辺に計はそのうちに
らんちゅうの尾鰭を磨く春の計
春泥のような心の中の音
オリオンから届く群青色の波
電磁波のなかで迷子になっている
背開きにするか観音開きにするか
千六本に切って存念を果たす
石仏は笑って生まれ草の上
いぬふぐりの中にまぎれた蜆蝶
再会をはたして今日の花疲れ
2016年3月 更新
近詠
壷 本多 洋子
戻り寒 壷には底がありません
壷は碧くて私のことに無関心
罅がありひびには遠い痛みあり
フルートのかぼそく消えて行く白磁
はなびらと素焼きの壷のざわざわと
ぐぁんぐぁんとベートーヴェンの響く壷
マーラーもドボルザークも壷の中
銀河からショートショートの届く壷
ピッコロが出てくる春の壷の口
冥王星まで宅急便で送る壷
2016年2月 更新
パレット 本多 洋子
青いシャツ軽音楽を聴きに行く
二枚目の舌はブルーにいたします
吉かしら たわわに実るななかまど
よく切れるナイフのような白である
回転木馬 白い原野を思うている
たっぶりの皮肉 たっぷりのカラシ
廃棄物処理 と赤字で書いてある
赤ラベル 賞味期限が切れてます
冬の虹追いかけているパパラッチ
春が来てますね ルノアールの背中
2016年1月 更新
姫路城 本多 洋子
(新年を姫路城にて迎えました)
鯱の尾鰭 朝日に反り返る
あげは蝶 白亜の城に舞い降りる
闘志鎮ませて「いの門」をくぐる
○△□ 狭間にも美学
生涯無口 釘隠しも閂も
油塀 とろりネバネバあぶら汗
策略に落ち度はあらず 石落とし
いざと言うときの煙り出しはある
武具掛けは整然 憂いなくもなし
これでもかこれでもかとや 武者隠し
百間廊下に女のいくさ男の戦さ
化粧櫓に癒えぬ哀しみ残される
語り部
神棚に祀る一年の懺悔
語り部のように来ている冬の蝶
レンコンの穴に詰まった黙秘権
断舎利の途中で過去に戻される
憲法改正 聖徳太子の ウンウン
痴人の愛 どうぞ桃缶めしあがれ
さっと火を通してレアーな恋をする
システムを外れた蟹の横歩き
言葉が拾えない無菌室の棚
切り捨てたトカゲの尻尾疼きだす
2015年12月 更新
近詠
人形の息 本多 洋子
秋蝶を待っているのはロダンの背
哀しみはラクダの長い睫毛から
軽い指切りだったと思う秋ざくら
ギンナン転がる 明日のことは解らない
ユニークな臍だと思う風神雷神
円空の肘を探しているのだが
痒いところに鼻が届いた秋の象
ロケットが左回りに飛んで 秋
せせらぎに流す指紋のある手紙
さざ波を立てて様子を見るつもり
珈琲館でユーモレスクを聴いている
人形の息して秋の闇にいる
2015年11月 更新
近詠
フクロウの首 本多 洋子
コスモスの迷路で拾うパスワード
風があるきっと迷いがふっきれる
深山竜胆だれにも気付かれずに咲いて
オリオンのしずく静かに受けとめる
ペガサスの尻尾を噛んでしまったの
人形の息して秋の底にいる
吾亦紅 無口なわけは伏せておく
好きだから好きと言えないから 雨に
人形の耳が拾ったピアノソロ
小瓶には秋の夕陽を詰めておく
斜めから見ると淋しい耳である
フクロウの首 往年をふりかえる
風止んで昨日の殻を脱ぎ捨てる
2015年10月 更新
前項消去 本多 洋子
逃げ水だったのに てのひらの感覚
青い前衛 サイドミラーを突っ走る
遠ざかる靴音 四楽章おわる
前項消去 白い指先が残る
戸籍にはレモンスカッシュ振りかける
訃報のようにある海岸の白い椅子
石榴はじけて 私の敵が笑い出す
満月の裏側に置く 事後承諾
エンマさんの左側なら空いている
お月さま 執行猶予にして下さい
2015年9月 更新
近詠
自虐的な箱 本多 洋子
シンフォニーホールで右耳を落とす
蜂の巣に言葉を入れてから突く
一番下にある自虐的な箱
巴になったり卍になったり ややこしい
先ずは方程式を疑ってみよう
前衛の風です 三角の風です
氷中花 恋を冷凍保存する
昭和を覗くセロファンの色めがね
中骨を抜かれて小さな息をする
哀しみのいっぱい詰まるインク壷
2015年8月 更新
近詠
肩凝ってませんか 本多 洋子
風薫る伎芸天女のネックレス
あじさい褪せる恋も終ったようですね
森の出口でひょっこりムーミンパパと逢う
止まらなくなった私のルーレット
肩凝ってませんか スルメ食べてますか
福助の足は脚気になっている
ピーターパンも淋しくなった空の色
耳寄りな話に西瓜もって行く
蛍だか雫だったかイヤリング
死ぬまでに鋭い牙を抜いておく
双子座のひとり秘密を持っている
鋭角な決断があるカシオペア
2015年7月 更新
近詠
白い部屋 本多 洋子
昼顔みずいろ 終戦の日を忘れない
雨垂れがメロディーになる淋しい日
オルガンは緑を抜ける古い教会
たっぷりのミネラル びわこは青いから
昼さがり やがて煮つまる苺ジャム
あじさいの白まとまれば妖艶なり
昼花火とうに忘れた恋のこと
ユーモレスク薄ももいろの夜でした
旅情たっぷり何処かでオカリナが響く
梅干しの壷あけてより母のこと
白い部屋 白いギターが残される
風を束ねてわたしのエンディングノート
2015年6月 更新
近詠
無伴奏 本多 洋子
かすかだが蛍が泣いているらしい
遠くへ行きます 無伴奏にして下さい
繭の中 そっと瞼をあけてみる
ロックしましたか ピンクのドア
「レ」になったので もう何も怖くない
こじ開けたりしないわ 風にまかせるわ
G線のあたりで本音吐いている
覚えています 卵の頃の水のおと
手を洗う 長生きし過ぎましたから
銀河には最終列車でまいります
2015年5月 更新
近詠
風の交響詩 本多 洋子
街は朝 黄色い風の交響詩
悲しみを気化してしまう風車
戦争を覚えているか 風の街
カリヨンの鐘 薫風を抜けてくる
6000の風車でつくる花畑
それは祈りのかたち 菜の花のかたち
風のゆびさき 遠い痛みをわかち合う
青い過去だから ビルの谷間の水音だから
おとといから未来へ 黄色い風の使者
風は饒舌 忘れた過去を取り戻す
大阪は梅田のグランフロント・ウメキタ広場に突如現れた黄色い風車のアート。
道行く人々は爽やかな黄色い風にしばし心を奪われてしまった。
何かが心のとびらを叩き、遠い日のわすれものを思い出させてくれた。
2015年4月 更新
近詠
壷の中 本多 洋子
独りではないと一人で考える
冬蛍てふ人生のうすあかり
風のゆびさき心に触れてしまったな
連絡は不要です 壷の中におります
弱いから春の鎖になりましょう
青い谷からそぉっと覗く青い雲
ほっぺんのホホホ 浮世絵のほほほ
吉祥天の腰紐ほんとうは孤独
ドアチェーン 風の指紋が残される
春愁のわたしが滲むリトグラフ
2015年3月 更新
近詠
北陸新幹線 本多 洋子
銀河へは北陸新幹線で行く
アンダンテ 水平線にある夕陽
しのぎを削っている 吹雪は続いている
速達で届くピンク色の風
糠袋をこっそり使う春の魔女
蝋梅の黄は涼やかな声である
身を引いてから穏やかな吾亦紅
液体にするか球体にするか 柩
ウサギの切手足して黄泉比良坂へ
おびただしい青に埋もれてしまう過去
2015年2月 更新
近詠
繭になる 本多 洋子
逢いに行く 冬の花火に点火して
踊りは覚えている 歌も覚えている
主役にはなれぬなれぬとカスミソウ
繭になってしまった 哀しみのあまり
二月尽 ひとり芝居はまだつづく
磨いたら曲るナイーブなナイフ
痩せ我慢はって真冬の種を撒く
万両の実の耐えている 零れている
蝋梅は月のしずくを溜めながら
バラは散った さあそれからの展開図
河馬の尻 カピバラの尻 春の尻
出来たてのご飯のような詩を書こう
2015年1月 更新
近詠
はにわの里 本多 洋子
冬日透明 女人埴輪のスカートが光る
そこここに柚子の黄がある はにわの里
山茶花の陰から呼んでいる卑弥呼
埴輪の目 なにを見つけてしまったの?
くすぐってやろうか 埴輪のわき腹
作業場は吹き抜け 古代から平成
神話と遊んでいるブランコの日溜り
巫女は合掌 冬の日の祈り
目覚めてミミズ 竪穴住居を罷り出る
どんぐりは土に サザンカは風に
高槻の喉のあたりに立つ 埴輪
埴輪は直立不動 継体大王にナゾナゾ
大王の涙が溜る冬の池
古代は幾何でしょう 前方と後円
工房に残る火の音風の音
2014年12月 更新
近詠
こんにゃくと違う 本多 洋子
エーデルワイスを探しに行ったままの崖
三角のプランが胸の奥にある
ゴスペルが流れる銀杏のあいだから
夕映えの海がひろがる後頭部
ブレーメンの音楽隊がひそむシャツ
君はまだ野菊のおもかげを残す
けっこうくどい淡谷のり子のブルース
こんにゃくと違うしナマコとも違う
ななかまど真っ赤 右折禁止です
釘を打つ 右には右のルールがある
負けたなと思う 消しゴム減っている
銀行の袋にポリープが詰まる
外面がいいのはクマモンではないか
蹴躓いたのは真っ赤な小石
天国にもっとも近い繭の中
2014年11月 更新
近詠
豚のしっぽ 本多 洋子
柿熟れて笑い羅漢に逢いたくなる
寝転がって漱石の猫読んでいる
悔しいことがいつぱい詰まる糸切り歯
曼陀羅の奥へ奥へと迷い込む
きざはしを昇ると海へ出られます
メロンから神話がひとつ零れだす
天照大神から来たメール
夕焼けをオンザロックにしてしまう
わだつみの声が聞こえる桜貝
きっかけを探しあぐねたアキアカネ
抜け道は鳥獣戯画の裏あたり
道暮れてトランペットが鳴りつづける
風船の紐 三日月にひっかかる
アドバルーンもう繋がれていたくない
豚のしっぽについて異論はありませんか
2014年10月 更新
満月の目尻 本多 洋子
海見える坂 クレパスを使いきる
かぐや姫のメールアドレスならわかる
トランポリンを使って満月に触れる
とぼけているな ポップコーンやな
ねじ山が少うし錆びて秋になる
豆の木から夕焼雲にのり移る
遠出したらしい 人魚に逢ったらしい
ときどきは影に追い抜かれてしまう
渚仏は西向いている濡れている
淋しくて影をたっぷり引き伸ばす
桔梗むらさき辛いことならたんとある
しゃんとしなさい 満月の目尻
河童伝説 流れた月を追いかける
秋深くなるまで決断を延ばす
カシオペア 君との約束は守る
2014年9月 更新
近詠
沖の蝶 本多 洋子
原爆の日には真っ赤な鶴を折る
戦争はしないと決めたしじみ汁
ファの音が出るまで黒鍵を叩く
どうしても助け出せない靴がある
金魚にも云うて聞かせる反戦記
負けず嫌いの赤鉛筆が折れている
沖の蝶もう戒律を守れない
夾竹桃の赤ならきっと反戦者
調律は出来たかヒロシマのピアノ
炎天の塔は厳しい戒である
一喜一憂して冬瓜は ごろん
少年の両手にとどくカシオペア
2014年8月 更新
業平の袖口 本多 洋子
祭りが来たら祭りのことだけ思う猫
業平の右袖口がカビている
虚と実の間で揺れる芭蕉の葉
豚のシッポくるくる 冗談は短め
後頭部にずれたメバチコのひとつ
天井を破って月の裏に出る
壁が厚くて三角形になった 耳
石ころに革命論をふきかける
スルメイカの催眠術を解いてやる
白桃にじんわり釘を刺しておく
おろおろと噂の種を掘りかえす
賽の目に切って流してしまう 哀
桃缶をキリキリ空けている 独り
夕顔の血筋をひいた夕ぼたる
葬送がはじまる青い蝶図鑑
2014年7月 更新
近詠
猫踏んじゃった 本多 洋子
G線を辿っていった黒あげは
星の夜はカムパネルラに逢いにゆく
口添えをしてくれたのはパセリの青
カシオペアの泥を丁寧に落とす
蝶一匹をガラスの処刑台におく
シャーレーにこころの青を載せてみる
クチナシの白が疼いて雨はこれから
朝靄の中でコーラン聴いている
梅雨半ばコントラバスが横になる
クレヨンで描く向日葵の平和論
わたくしを炒める黄色いフライパン
オルガンと遠い夏雲 ネコ踏んじゃった
オフサイドだった金魚の影だった
メダカ群れている 集団的自衛権
劣えたらしいポプラの肌なでる
カピパラはきっと小説が書ける
2014年6月 更新
近詠
印刷のずれ 本多 洋子
つるつるする方が裏です 人間です
青春の眩暈が隠してあるノート
人生のずれか 印刷のズレか
感覚のズレです わさびとカラシです
裏話をみんな知っている帽子
解説は不要 ニンマリ笑うから
専ら人魚になるための エステ
解釈は如何ようにもと 空を向く
わたくしの心の断面図です どうぞ
時差すこしあって 虹色にとける
地平線に立つ一本の杭である
水の面に浮かんで消えた瑠璃あげは
面倒見がいいのは黒い方の蝶
夕蛍きのうのことは揉み消そう
石仏の肩に休んだ鬼ヤンマ
2014年5月 更新
近詠
落とし穴 本多 洋子
泣き声の届かぬ底に沈む船
水色の落丁がある春のうつ
其処からは見えない花水木のこころ
だまし舟 銀河の果てに行ったきり
花びらで隠してしまう落とし穴
そこ此処に足跡がある春の鬼
わたくしの背中に あげ羽蝶の紋
桃色の遺伝子がある春の豚
ジョーカーを桃源郷におびき出す
百歳になったスミレが咲いている
家系図を洗えば小町という先祖
身を反らす夢二の猫もわたくしも
斜交いに明日を覗くドアチェーン
折り返しあたりで迷う春の鬼
2014年 4月 更新
泡時計 本多 洋子
隣りの猫は育児休暇をとっている
傾向と対策 春一番と猫
乗り合いバスですから 春を分配
プリズムに当って私に刺さる
この指たかれ 春のことばが欲しかったら
春キラキラ小便小僧が濡れている
泡時計にします 夢が欲しいのです
寂しい花はさびしい椅子に寄りかかる
呼び鈴はきっとサロメに違いない
シャガールの深い青から抜けられぬ
青を食べ尽くして無罪放免です
呼ばれたような気がしたガス燈が揺れた
春になっている ネトネトもブヨブヨも
銀河列車の特急券を予約する
桃源郷に行けます トクトク切符です
2014年3月 更新
近詠
ピーターパンの靴 本多 洋子
確かなスピンだったよ 冬タンポポ
オリオンのベルトの中にある硝子
しばらく眠る お多福の面つけて
ああ寒いねぇ カラスのカ
シルクロードへ駱駝のら ラッパのラ
わたくしの守備範囲にはカスミソウ
カルメンの薔薇一輪を下さいな
縄張りに信楽狸侍らせる
ごま塩を振りかけておく私小説
音符パラパラ たんぽぽの黄のぱらぱら
チョコレートの銀紙だけを信じきる
雪の日に届く 左のイヤリング
音信はもう届かない冬苺
わたくしの右脳はきっと多産系
三日月に届けるピーターパンの靴
2014年2月 更新
近詠
鰯の目玉 本多 洋子
冬の樹の遠景にある遠い過去
遠まわりして山茶花の道に出る
阿修羅像が心の隅に置いてある
詩か非詩か 鰯の目玉まっ赤っか
満月を斜めに過ぎってゆく魚
偶然に青大将と目があった
隅っこに闘争心が置いてある
満月へ山椒魚が目をあげる
イヤリング温い話に飢えている
箱階段を降りてくるのは赤い足袋
2014年1月 更新
近詠
果汁100パーセント 本多 洋子
黎明を待ってる少年のノート
バンカーに落ちた魂を探す
ピラカンサ秘密を隠しおおせたか
賢治の星の念珠みずいろ
少女はきっと果汁100パーセント
照準を狂わせたのは冬蛍
寒月の欠片か 怪人の仮面か
イマジンを歌い続ける冬の雲
哀しみに傾いてゆくヤジロベエ
空と海 水平線を追い詰める
冬雲に乗ってしまった緋の金魚
雨の夜に比べる撫子・女郎花
2013年度
前年度へ
2013年 12月 更新
近詠
執行猶予 本多 洋子
抜け道がまだ見つからぬ寒の入り
執行猶予を待ってる真っ赤な冬薔薇
あらかじめチェックしておく鬼の首
百鬼夜行の列が乱れる
貨物列車の最後列にいる鴉
黄信号 深い断絶だとしても
鼓笛隊トトンとカラフルな列
羅生門のあたりで冬がうずくまる
羅を抜ける小猫と女三ノ宮
秋は利発に薫の君のもの想い
背を伸ばす黄菊白菊 風のあとさき
ララバイはラ行変格活用にて
2013年11月 更新
近詠作品より
ぬるま湯 本多 洋子
おぼろ月 猫の正体みとどける
鬼百合の秘かに洩らす笑い声
目くばせをして竜胆を誘い込む
ぬるま湯にどっぷり浸ける般若面
夕顔のあたりで白狐が消える
蜘蛛の巣に末摘花がひっかかる
鏡の裏にひっそりと棲むまだら蛇
オニユリの首を捩じって罪状否認
断罪やすっぽり落とす花の首
半月の面取りならば出来ている
左手は君にあずけて旅に出る
百年は眠りつづける青い粒
2013年10月 更新
袋回し・三分間吟より 本多 洋子
★狐面だから
ゴーヤを食べ過ぎたらしい裸のマハ
底から取り出したのは妖精かもしれぬ
クロワッサンなら紙ヒコーキに乗れる
紙コップつぶして白い鳩を出す
鰯からそろそろ鰤になるところ
醤油瓶すこしやる気が出てきたな
胸を開くように枝豆をひらく
萩キキョウにしっかりブレーキをかける
狐面だからキンチョールが怖い
★もみ洗い
私を試す三角形の壁
もみ洗いするのは蛸と宿六と
つつつつっと来てすすすすっと帰る
あつものをふいて泣くのはわびとさび
恋がたき輪ゴムとヒコーキがあたる
10月の阿修羅の骨密度を測る
これらの作品は9月29日に北田辺くんじろうぎゃらりいで行った「袋回し川柳」で抜句して頂いた洋子作品。
題はあらためて 私がつけてみたもの。
2013年9月 更新
鍵 穴 本多 洋子
猫の目は貪欲 鍵穴を覗く
片足は流木に乗るキリギリス
ファゴットは置き去りにされ森の奥
梅花藻のあたりに過去が辿りつく
乱打してみる海底の平家琵琶
錦絵の奥にも秋が訪れる
朽木のかたちに太棹のバチがある
ポッペンの音して心に落ちる水
湧き水に流してしまう花図鑑
阿修羅象の眉間に落ちる流れ星
鍵穴の向こうに置いてきた晩夏
2013年8月 更新
ある画集 本多 洋子
ファゴットの聞こえる画集持っている
疵ついた壁から創世記を覗く
カーテンを開けるとバロックの世界
花の言葉か雲のことばか聞きわける
空を一枚捲りたいのでぶら下がる
ふわっとギニョール 雲に到達
二幕目に転がる赤い実のアリア
アンモナイトの丘でお花見
春は空から クリオネも空から
雲に呼ばれて風船を追う
重たい海をひっぱり上げる
女の腕も水平線もポロネーズ
柩にはサクラ 饒舌な時計
真っ赤な布でことばを覆う
旅人の帽子を載せたある画集
2013年7月 更新
近詠
コップの縁 本多 洋子
わたくしの胸中にある不発弾
落ちない様にコップの縁を歩く
走れ太宰 青い真実
真正面から雨蛙と勝負する
花菖蒲まっすぐ空を仰ぎなさい
雨音で始まるシベリウスの序曲
父の日にあげるドラえもんの鈴
絶対音感だった真っ赤なアマリリス
黙って聴こうコントラバスの主張
白ヤギの転居通知が濡れている
吃水線あたりにバラを刺しておく
雑音はきれいに消してから 生きる
2013年 6月 更新
近詠
童話 本多 洋子
若葉風 化粧櫓は虚のかたち
橙か夕日か遮断機の向こう
枇杷をむく すこし痛みに触れながら
体温のなき者同士 えのき茸
飛天のスカート 風はまみどり
比翼塚 はてさてご苦労さんなこと
もう恋は川幅などを考える
エンゼルの翼 噴水飛び越える
オーボエ鳴って森の唇がひらく
鉛筆の折れたあたりの爆破音
谷折りにするから安心できるから
ユトリロの街から聞こえてくるピアノ
凪いでいる海へ指揮棒を下ろす
星の降る白鳥駅で降りてみる
おはなしの出てくる手袋を拾う
2013年5月 更新
近詠作品
砂時計 本多 洋子
砂握る これも安堵のかたちだろう
葉桜になった棒状になった
宇宙の最後のように砂時計が止まる
鳩は追わない 虹を深追いしてるから
ドロップを並べる春の暇つぶし
深爪をしてしまったなトムソーヤ
ブランコに乗るか 浮雲にのるか
わたくしの後ろにだれもいなくなる
ボストンから帰ってこない青い鳩
黄砂まみれになる靖国神社
人使いの荒い顎なら天日干し
座敷わらしと一夜明かしたことがある
哀しみを入れる五月のガラス瓶
バラ園はマリヤカラスの声である
貪欲に生きると決めたアマリリス
2013年4月 更新
近詠作品
非常階段 本多 洋子
鳩を持つ埴輪と春の話する
クリオネのような少女と目が合った
鳩時計の中で昼まで熟睡する
銀河鉄道 4番ホームへ急かされる
土筆伸びきって明日も晴れでしょう
法務局の裏で騒いでいる桜
零れないように対角線を折る
徒に色鉛筆を削る春
素直になって赤いポストに投函する
青虫は非常階段踏み外す
春はひとえにゼリイビンズの桃色に
偏頭痛の亀が乗ってる夜行バス
2013年3月 更新
温湿布 本多 洋子
砂あびて鳥のことばになっている
クリオネを掬ってオリオン座にあげる
二ン月の鬼 体罰に抗議する
哀しみを閉ざしてレモン色になる
わたくしのポートレートにある真冬
着地点は真っ赤な押しピンでしるす
白血球が足りなくなった春の皿
かるがもの母に従うことにする
ファゴットは父かもしれぬ向こう岸
少しずつ妬心をほぐす温湿布
台本通りに春が来るとは限らない
軌道からそれて豊かな風に逢う
わき道を選んでしまう飢えた馬
2013年2月 更新
近詠作品
壁 本多 洋子
根雪からときどき伝説がもれる
春を待つ壁の落書き消さずにおく
連絡がとぎれたアフリカの砂漠
銃口はきっとテロだと判る壁
戦争を知らない白い壁である
戦争を知ってる赤い壁である
赤い靴も人質も 連れられて消えた
あの人の背中が壁になっている
蛇の頭もタコの頭も遠ざける
菜の花が兆す 土壁の向こう
春の椅子 斜めに鬼を座らせる
二ン月の豆を体罰としてなげる
椿踏む 少うしこころ痛み出す
連翹の黄の哀しさに触れてくる
雲に手が届けば豆の木を外す
過去へゆく積み木の汽車に乗り換える
4Bで春のドラマを書き換える
2013年1月 更新
オイスターソース 本多 洋子
童話の森へ誘うマカロンとショコラ
ココア色の帽子を選ぶ冬の旅
旅は気まぐれ港の猫を可愛がる
オーボエは冬のみんなに頼られる
花柄にしますか 唐草にしますか
クリオネの本気 竹とんぼの本気
ラストチャンスだ 冬至のかぼちゃだ
天狗の鼻にも温度差がある
イスターソースで私を変える
消しゴムの歎きもそっと聞いてやる
衰えを自覚しなさい 唐辛子
傷になるほど大きな声で笑われる
雪が止んだらそっと決意を促せる
流れ星の通った跡の深い傷
キリンの首は礼儀正しい
2012年12月 更新
近詠
フルーツポンチ 本多 洋子
妖怪になるかもしれぬ生卵
海が好きだったら恋人にしよう
別居中らしい金魚と水澄まし
秋には秋の近松心中物語
司馬遼は定位置にある秋の部屋
湿っぽい話はしないフルーツポンチ
霜月のコントラバスは父である
哀しみが深くて蒼い蒼い淵
枯葉一枚 添付資料に紛れ込む
冬の河馬 決定権を行使する
谷折りにして哀しみを消している
2012年11月 更新
近詠
エッシャーの階段 本多 洋子
風のなすままに紫を生きる
諦めの速さを思うみずすまし
ぎんなん転がる室内楽ピチカート
茜雲のはなし セアカゴケグモの話
稜線を越えた竹とんぼの もしも
物語がはじまる深夜の冷蔵庫
ケイタイは春日の局かららしい
大奥に従っておく昼の月
しっぺ返しという手もあって鬼ヤンマ
エッシャーの階段をゆく あめんぼう
恋おわる 岩波文庫返します
鉛筆を買い足しておく秋祭り
列を乱したのは背中の赤い蜘蛛
枯れきらぬ思想をポケットに入れる
無精卵だった 左手をひらく
あれは確かな岐路だった 落日だった
東北の秋と女を彫る志功
ハーレムの秋を節穴から覗く
白百合は受胎告知に篭りきる
訃報くる 桔梗一輪咲き残る
音もなく独りの窓に来る驟雨
2012年10月 更新
近詠
ぼうぼうになった 本多 洋子
吃水線のあたりに耳を浮かばせる
ルート3ならピーマンに詰めてある
脳天を叩いて島を産みましょう
ぼうぼうになった コントラバスになった
男の尻尾 女のシッポ品定め
コピー機に残る一昨日のわたし
枝を払うと鰯雲まで手が届く
接尾語については行けぬ女郎花
ヒロシマのコピー フクシマのコピー
熱源はわたしの胸のコンセント
あたふたと闇へ闇へと転がる桃
川獺を笑ってならぬ赤トンボ
目の端に秋の蝶きて訃報きて
2012年9月 更新
近詠
真夏の四分音符 本多 洋子
アマリリスの赤なら執行猶予中
すり鉢の底で死ぬ気になっている
栗の花 刑の軽さを問い糺す
浮雲にふわりと乗れる観覧車
晩夏光ひとりで祝う誕生日
陸橋を渡る真夏の四分音符
一緒にはして欲しくない瑠璃あげは
迷いから逃れるように白を着る
カーテンを海色にする孤独癖
私も百鬼夜行の列にいる
百日紅 一反木綿ひっかかる
2012年 8月 更新
近詠
ジャコメッティの胸 本多 洋子
青梅雨へ虫一族は流される
白椿くずれる 閻魔王の視野
不発弾は胸に沈める梅雨晴れ間
不慮の穴 バラのシールを貼っておく
押しピンが刺さるジャコメッティの胸
青い沼あれば沈んでしまいたい
荷車にピカソを積んで母積んで
マイセンの壷には艶やかな虚実
景徳鎮のプライドがあるチリレンゲ
パソコンの経路を阻む青嵐
四面楚歌どこかで鈴が鳴っている
水掻きがあるから 生きて行けるから
2012年7月 更新
排卵 本多 洋子
両性具有 水の器に閉じ込める
嵩として風の匂い 水の匂い
勾配を確かめているアルマジロ
点滴の速さを数えている目線
踊子が巡らしている青い策
風紋に消されてしまう懺悔録
交脚のかたちに愛は残される
マリリン反転 赤になる青になる
呪縛だな締め切っている薔薇の部屋
一輪車で追う 落日の速度
カスミソウが笑う 底辺のあたり
雲を映して水の器にならんとす
2012年6月 更新
句会吟
亜熱帯樹林 本多 洋子
神さまが竹の箒で掃いた空
水面をひらいて愛を波立たす
六道の辻へ落としてきた手帳
おととい
アカシヤのべんちで一昨日を拾う
ルート3ですか 夢の果てですか
出口が見つからぬ亜熱帯樹林
日蝕の日から神話を読み直す
白猫はフジタ 黒猫は夢二
独歩の歩幅で夕暮の林
踏んじゃった不定愁訴の溜まる猫
難関を突破したのは清少納言
猫はひっそり現代劇場をぬける
2012年 5月 更新
近詠
春宵の肝 本多 洋子
魔笛から飛び出す一匹の揚げは
E線のあたりで水脈に触れる
春宵の肝から五木の子守唄
乙姫の耳が出てくる船箪笥
風みどり白い帽子を放り上げる
好きにしなさいと吉祥天が云う
春嵐 誤解はとけぬままである
大根の白を信じることにする
譲られて少うし重い春の背な
菜の花の迷路で神さまに出会う
春ですねスーチーさんの髪飾り
ハリーポッターに頼む校庭の除染
猩々蝿は倍になるまで酔わせよう
ドミノ倒しの真ん中へんに立っている
聖五月シーツの白を光らせる
さくら再婚 今日発売の週刊誌
乙姫は鬼に 鬼はマドンナに
手を組んでいるのは淋しい羊たち
2012年 4月 更新
近詠
彼岸桜 本多 洋子
クリオネが泳ぐ 切ないほど泳ぐ
鋭角にツバメ 鈍角にわたし
鵺になるかゲジゲジになるか 彌生
ポケットに忍ばせておく朧月
哀しみを繋ぎあわせる春の泥
男は逝った彼岸桜も見ず逝った
のっぺらぼうのような湯豆腐のような
チェーホフな朧なロッキングチェア
吹奏は青い男の死を悼む
半開きのドアから洩れてくる神話
怪しまれながら黒蝶追いかける
描ききれなかった弥勒のゆびさき
引き裂いたのは風ですか蝶ですか
浮雲に乗ったし梯子はずしたし
答が出るまで春の入り口を探す
2012年 3月 更新
近詠
回転木馬 本多 洋子
座敷童子が出てゆく如月のすきま
雪女が消えた 柳が揺れていた
歌麿の春を我楽多市で買う
桃缶を開けて自由にしてあげる
水平線は白いという おとうと
逃げるのが早いトムソーヤの帽子
温野菜すこうし楽天的になる
回転木馬ドン・キホーテを乗せてみる
限界を知らずに登る豆の蔓
無を悟る 白い椿は白いまま
2012年2月 更新
近詠
ミルクチョコレート 本多 洋子
酒とろり花びら色になる狐
侘び助の白はぜったい刺客である
墨汁一滴 美しい染みになる
舞台暗転さくら吹雪になる予感
ひょっこりと狸に出会う交差点
逡巡したらしい薄桃色の染み
涅槃会に出かける森の仲間たち
色鉛筆を植えて明るい森にする
将軍の椅子には高慢ちきな猫
シーラカンスですか魔法使いですか
両の手にたっぷり湧き水を掬う
暗示かもしれぬ耳朶が熱い
壬生屯所あたりで迷う春の闇
花見小路のポストに当たる恋の猫
騙されて見ようかミルクチョコレート
文字盤を追いかけている冬の蟻
ストップウォッチ白い空間になった
カッコイイ清盛だから赦せそう
屋形船にしようか豪華客船にしようか
ふっきれて朝のレモンを絞っている
2012年1月 更新
近詠
現像液 本多 洋子
窓閉めてポインセチアになりすます
ゆるゆると月食 ゆるゆると痛み
侘び助の白でこころを締めくくる
執念をしめ出すかたちピラカンサ
おとといを現像液に浸けてみる
ポストの赤にもトマトの赤にも未練がある
円空仏あたりで風はまるくなる
神さまの右手にあった実南天
傍線を引いて哲学的になる
禁欲中なんです ポインセチアなんです
横顔に冷たさがある黄水仙
古本屋の前で気軽に別れよう