洋子作品


       洋子作品 

  
       2020年

この欄も 5月より、ブログでの洋子の部屋に引越しをします。今後ともよろしくお願い致します。



  プロフィール



1987年 「現代川柳 点鐘の会」創刊当初から会員
1995年 川柳公論大賞 受賞
2006年 ホームページ「洋子の部屋」開設
2010年 川柳公論 極北賞 受賞
2015年 杉野土佐一賞 受賞

句集   「本多洋子作品集」 「女人埴輪」 
     「紅牙」 「遍路」
     「川柳サロン 洋子の部屋 Part1-Part5」
     「東北関東大震災によせて」

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   白い病室


     早期発見でしたと癌を告げられる

     決心を促がす蝋梅の黄色

     白い病室マチスの赤が欲しくなる

     人工の部品をつけて生き延びる

     火種が欲しい燃料も欲しい

     病室に届くイランの話トランプの話










                                     2019年 11月         更新


  仏像 中国・日本

         
於・大阪市立美術館             本多 洋子



     淋しくて 秋のほとけに逢いに行く

     柔らかな眼差し 白鳳のほとけ

     ウエストのくびれ滑らか 女人仏

     身を捩る悩みもあらん 女人仏

     腫れぼったい瞼 涙する仏

     髪型はモダンに如来像 頭部

     肉厚な唇 仏は青年らし

     菩薩立像 切れ長の目が理性的

     マリア観音 白磁の肌が透きとおる

     晩秋の仏はみんな節目がち
















                                   2019年 10月           更新


 ウィーン・モダン 世紀末への道  国立国際美術館にて   
 
                                  本多 洋子

   酒・女・音楽 ウイーンモダニズム
 
   キラキラに埋もれるクリムトの女
 
   木彫の椅子で魔笛を聴いている
 
   哀しみを抉るエゴンシーレの瞳
 
   血脈が見えるシーレの枯れ向日葵
 
  エゴンシーレも写楽も指に語らせる
 
   窓辺にはバラと少女とシューベルト
 
   珈琲の香りとヨハンシュトラウス


















                                    2019年  9月      更新



    大阪 今昔ミュージアム              本多 洋子


   裏長屋には 八百屋・銭湯・履物屋

   銭湯の終い湯 番台とは馴染

   火の見櫓 長屋の裏を見下ろして

   仕舞い屋(しもたや)もあって裏長屋のはずれ

   三味線の師匠の家もあった路地

   脚踏みオルガン 昭和の流れ 昭和の歌

   シンガーミシン 母の苦労の背ながある

   堺筋 路面電車のあった頃

   靴磨きをしていた駅前のこども

   物乞いをしていた傷痍軍人

   記憶を歩く 戦後七十四年目

   


   

   


































                                     2019年   8月      更新









  陶芸の森へ フィンランドの陶器

       東洋陶磁美術館にて             本多 洋子


    蝉しぐれくぐって 陶磁の森へ行く

    吹きガラス こころのゆらぎ 透き通る

    古今東西 唐草文の迷い癖

    楕円の皿にアダムとイブを盛り付ける

    梅瓶の肩のあたりの 龍の雲

    真っ白なお皿に浮かんでいる エロス

    諦めは駱駝の睫毛から こぼれ

    天井は紅杉 マルメッコの茶室

    息をひそめる唐三彩の女人像

    油滴天目 心の綾を覗かせる
                
















                                            2019年7月   更新




    画廊を覗く                        本多 洋子


   ひと気のない画廊を覗く梅雨の入り

   石に彫る月  梟は無口

   朱岳白岳 一羽の鶴を飛ばしめる

   春愁の少女は青いバラのよう

   ちぐはぐに動く駝鳥の首と足

   ピッコロのりずむで黒鳥が走る

   蹴散らかしているのは砂か花びらか

   フレームにおさまる真っ白なわたし

   川柳を捻って花街を抜ける   

   近松が口ずさみつつ行く花街


















                                   2019年 6月   更新


     無題                           本多 洋子


  ジャコメッティに突き刺さってるベレー帽
 
  知っていますか昭和天皇の帽子
 
  「あ そう」と軽い言葉でいなされる
 
  無題が続く音のないシンフォニー
 
  魂は燃え尽きるもの アマリリス
 
  抽象画の枠に逃げ込む作家A
 
  無題A熱中症にかかっている
 
  哲学が溜まるジャコメッティのポスト
 


















                                     2019年   5月  更新






  藤田美術館展 にて                    本多 洋子



  曜変天目 銀河のなかのハーモニー

  オーロラの輝き てのひらの宇宙

  果てしない宇宙の旅に引き込まれる

  天目の底で亡夫が呼んでいる

  ブラックホールがあるかもしれぬ椀の中
 
  空也上人春の仏を吐き尽くす

  耳寄せて聖観音の声を聴く

  伎楽面 呉女に恋などしたらしい

  下唇噛んで力士の面ゆがむ

  十六羅漢ぎょろりと噂話など

    





















                                        2019年 4月       更新



     
伏し目がち                     本多 洋子


   三月の釈迦三尊の胡坐かな

   気の効いた言葉を探す春の雪

   雲は春 河馬の名前を考える

   シャガールの二人が飛んだ日曜日
 
   深ぶかと草に埋もれる石仏け
 
   石仏け春の真水を確かめる

   春遅し伎芸天女は伏し目がち



















                                     2019年 3月          更新




      
道明寺 天満宮の梅            本多 洋子


     狛犬の目線の先の梅ひらく

     甘酒の店も開いて梅祭り

     白梅にこころの端を覗かれる

     筆塚に寄り添うようにしだれ梅

     古木にも紅梅の赤 ふたつみつ

     撫で牛の鼻をくすぐる春の風

     紅梅の花びら寄るやさざれ石










                                             2019年2月 更新



    
 無蓋貨車                     本多 洋子



    秘め事の一つや二つ寒椿

   観自在ゆらりと冬の蝶濡れる

   些細なことで口を閉ざした青い夜

   春愁やこころのトゲを抜いている

   無蓋貨車 童話を運んだことがある

   市原悦子の昔話の残る耳

   冬銀河の旅へと兼高かおるさん


















                                     2019年  1月     更新





       
 思考回路               本多 洋子




     
白衣観音ひらりと春の身をかわす

    ひやしんす風の言葉を信じ切る

    尾羽黒とんぼ羽の傷みを庇うている

    草紙洗い 水に流した筆の跡

    一番星 しりとり遊びはまだ続く

    ことばは水にみずは言葉を流しきる

    思考回路もとの自分に戻っている













                                     2018年 12月       更新




    正倉院展にて                 本多 洋子



   唐の女人の体温残る布の沓

   琴柱にも花喰い鳥の赤・緑

   一条の紐 縷々として彩り

   緑釉は流れるままに二彩の壷

   錦・紫派手な縦縞・巻きスカート

   古文書に借金のこと写経のこと

   秋冷へすんなり伸ばす鹿の首

   甘えてもみたい素振りの女鹿なり

   紅葉映え バス停「氷室神社前」



























                                    2018年11月         更新




  慶沢園から茶臼山
  吟行                  本多 洋子



 都会の中のブラックホールに迷い込む

 喧噪に取り残された秋の庭

 舟形石のあたりに揺れる旅の人

 手を添えて切り石橋を渡りきる

 飛び石の間隔 足元に注意

 石臼の名残りもあって 深かむ秋

 歴史を刻む 小さな滝の音がする

 風抜ける 戦さの跡の茶臼山

 武士(もののふ)の声に押されて 赤い橋

 首をもたげて夏の陣など思う 亀

 戦場を見降ろす青鷺の一羽

 カルガモの家族と池をひとめぐり

 ハルカスも通天閣も映る池

 ちぎれ雲 ブラックホールから抜ける
















                                     2018年10月         更新
  
  里の匂い                        本多 洋子
  

   すだちの匂い秋刀魚の匂い 里の匂い

   備長炭でじりじり焼かれている秋刀魚

   ほろ苦き秋刀魚の腹とにごり酒

   小さな秋ね 樹木希林も逝ったしね

   川田正子の声が聞こえてくる砂漠

   美代ちゃんが独りで泣いていた砂場

   のろいのは河馬のせいではありません
   
   液状化してしまったね君とボク

























 
                                            2018年9月   更新


     
 里の赤トンボ                 本多 洋子   


  末摘花の気品をとやかく言わないで

  どろどろになるまで追いかけたりしない

  絵手紙で熟した桃をプレゼント

  お見送りしないわ ここでさようなら

  盆踊り幼馴染みと逢うている

  大花火見ていた父の肩車

  こんなところに逃げ道がある蛇の穴

  塞ぎこんでいるのは里の赤とんぼ

  眞っぷたつに割って疑いを晴らす













                                      2018年8月            更新




   八月忌                        本多 洋子


   征った人が戻ってこない海である

   海神は戦の傷み知り尽くす

   母は海 許して欲しい時の海

   八月忌 飢えをしのいだことがある

   麻原の骨も海辺に撒くと云う

   仁王さんの握り拳を見ましたか

   時として金魚を狙っている仔猫

   天空の城まで行ってみるチャンス

   両の手で母のひらかなを掬う

   湧き水のように哀しみを掬う

   















                                          2018年7月         更新


     竹割って                       本多 洋子


   柿若葉  禅問答が終らない

   丸木橋グリム童話の犬がいる

   しばらくは青の深みに嵌まり込む

   上弦の月から第一ヴァイオリン

   生意気な事ばかり云う青りんご

   秘め事を持っているのは蛇いちご

   耳のうしろに一つや二つ隠しごと

   かといってもう白線に戻れない

   後ろ手にうすむらさきを忍ばせる

   竹割って割って独りを生き通す

   その時がくれば全部が絵空事

   だとしても虚しいことが多すぎる

   梅雨晴れ間 眼鏡の縁を替えて見る

   終わった人はトマトの蔕のふりをする



                                 








                                               2018年6月    更新






     クラリネットな風                    本多 洋子

  ある時はクラリネットな風に逢う

  あじさいの青より深い恋をする

  あの橋を渡れば解脱できるかな

  天空のせせらぎロビーコンサート

  アカペラがうまい農園のスズメ

  茄子かぼちゃ玉葱小麦カルテット

  思い出は甘酸っぱいね 杏の黄

  5月尽 青をしばらく遠ざける


  

  

  







                                               2018年5月      更新




       ブラックリスト                         本多 洋子



     糸杉のみどりに届くカルテット

     日曜の窓から エリーゼのために

     散り果てて 桜の狂気だけ残る

     私のありかた 葉桜のありかた

     ワルツが洩れる鹿鳴館のシャンデリア

     春の蛾が一匹残るシャンデリア

     螺旋階段ビビアンリーのシャンデリア

     飼い猫がブラックリストに載っている

     大津絵の鬼のうしろについて行く














                                   2018年4月            更新




   土偶の乳房                           本多 洋子


   春うらら土偶の乳房あけっぴろげ

   少女らの素足まぶしい春の水

   春光にせせらぎの魚跳ね上がる

   ダリの時計が一番正確だとおもう

   岩波文庫 春のベンチに残される

   もみ洗いして哀しみを保存する

   群青のガラスの城に立て籠もる

   エンピツで耕す青いことばたち

   サクラクレパス私の春を描ききる

   ガラス粉々青春は一度きり

















                                      2018年3月            更新





  
 ほっといて欲しい                  本多 洋子


   青鬼が挑戦状を持ってくる

   友だちの毬もこの頃弾まない

   ほっといて欲しいアンタの事やない

   大皿で流星群を待ち受ける

   油滴天目 赤いお月様が出る

   嘘に嘘かさねて塩で揉んでおく

   閉ざされた扉の奥のことばたち

   内密の話を食べてしまったわ

   扉の向こうで青い言葉がたちあがる

   私の影を拾った青い道

















                                        2018年2月           更新




    広辞苑                             本多 洋子


    立春の水をきらりと手に受ける

   青空へゆっくり上がる観覧車

   2ン月の鬼とじっくり握手する

   覚悟ならとうにできてる土踏まず

   始祖鳥を探しに行って戻らない

   美辞麗句なんていらない広辞苑

   ジーンズの穴から覗いている素足

   太陽の塔は両手で空を抱く

   箱階段に猫が眠っている町家


















                                    2018年1月         更新




   
木の釦                              本多 洋子



   薄氷がこころの壁になっている

   秋冷のナイフの反りを見てしまう

   甘えなど赦しはしないマスカット

   気位は横顔にある黄水仙

   小春日の外れかけてる木の釦

   口紅を少し濃くした日の鏡

   ココアにします 軽くエッセイ書き終えて

   

   

   















                                     2017年12月            更新







   
拇印押す                             本多 洋子


   ゆるすこと赦されぬこと 地獄絵図

   立冬のあばらを抜けるすきま風

   浮雲はわたくしのもの拇印おす

   出るとこへ出たらと思う太郎冠者

   業平に手渡す白紙委任状

   呼び鈴を押してしまった赤トンボ

   観自在ギャテイギャテイ土砂崩れ

   モナリザもつくり笑いをする初冬

   哀しみを捨てるにあらず吾亦紅

   何もかも赦す吉祥天の肩

   エッシャーの階段に置く玉手箱

   秋の陽が翳るロダンの肩あたり

















                                    2017年11月              更新





   木喰の目尻                           本多 洋子


   秋雨がつづく伎芸天の膝

   木喰の目尻が下る午後の秋

   比翼塚さびれる秋の深まりに

   釣り糸を垂れているのは写楽かも

   花いちもんめ あの子を盗むことにする

   白砂にまぎれて道を見失う

   心にも閂があり深む秋

   女郎花なにも知らないことにする

   小咄がとってもうまい太郎冠者

   クリオネの羽とフェルメールの青と

   
















                                    2017年10月              更新








   鎮痛剤                    本多 洋子


   熟れた桃が流れ着くのを待っている

   野ぼたんの紫ほどの恋でした

   好きにしたらええわと秋のちぎれ雲

   鎮痛剤がレモンの上に置いてある

   記念日を焼くのよ とろ火で3時間

   ほおばっているのは平家物語

   竹を割る竹そぐ 竹を編んでいる

   謎々はなぞなぞのまま 秋蛍





















                                       2017年9月           更新





   
戦さの雲                          本多 洋子


   八月の雲に殺意があるらしい

   生卵同士で何を揉めている

   文楽の頭ころんと仇討ち

   戦災で金魚一匹生きのこる

   戦争の話を小口切りにする

   玉蜀黍のパンで凌いだことがある

   大根の首・加茂茄子のヘタみんな敵

   戦争の記憶をさぐる独活・茗荷

   アボカドの皮ぽっかりと不発弾

   負け戦さだったダイオウイカの足

   

   















                                      2017年8月           更新







  湖のしずく                            本多 洋子


   ビー玉に透ける深海のみどり

   月光に濡れた手紙が干してある

   森の童話をたっぷり聴いてから眠る

   湖のしずくになったトルコ石

   鳴き砂は戦さの波を知っている

   忘れたい恋にレモンを絞りきる

   クリックして星の欠片をしまい込む

   お日さまを抱いてる縄文期のかけら

   カーバイトの匂いと遠い夏祭り

   死がふいに身近になった平尾昌晃























                                    2017年7月           更新





  近詠

 
 栗の花                            本多洋子


   忘れたい事などあって栗の花

   蝉は初啼き 木陰に止めた三輪車

   風とまる蛍の謎を解きにゆく

   泥沼の真ん中へんで浮き上がる

   浮雲まではトランポリンで参ります

   韋駄天だったか 真っ白い風だったか

   肉球を愛する女三ノ宮

   鬼あざみきつい言葉を返される
























                                    2017年6月              更新 







   海色の恋                         本多 洋子


   日溜りでややプライドを捨てる猫

   ネコはしばらく夢遊病者になっている

   中八のあたりで欠伸をする仔猫

   肉球のためらい傷を舐めている

   海色の恋をしたいと思う猫

   月の裏を舐めてしまった恋のネコ

   秘密結社を探りに行った黒い猫

   有料トイレなんだから シャムネコなんだから

   絨毯でも転ぶ肥満体の  猫

   時々は大阪城に行くキャッツ



















                                    2017年5月                更新




   
春きまま                         本多 洋子
   

  望郷の野に草笛と文庫本

  5月の森でひとり童話を書いている

  大空も水平線もボクのもの

  青虫がゆっくり眠っていたキャベツ

  肉球をさすって猫を眠らせる

  キャベツもぐ海馬を剥がすようにもぐ

  ひまわりを植えて迷路にしてしまう

  あっぱれな形に赤いアマリリス

  いつまでも円周率を追いかける

  哀しい時は黙って石を積んでみる

  春きまま空也上人歩き出す

  春嵐 誰かに背なを押されている

  


















                                     2017年4月         更新





    方程式                            本多 洋子


   5+7+5=∞  五足す七足す五いこーる無限大

   大佛はコントラバスの声を出す

   とりあえず冥王星まで行くプラン

   堕落してしまったリルを知っている

   メール打ったとクロウサギからシロウサギ

   はてなマークが溜まる百条委員会

   何が目出度いとほっぺたを膨らます

   
    遊 行 点 鐘

   オリオンのベルトにさっとぶら下る

   作二郎のひみつ基地なら知っている

   再起とや お終いのウンあ行のア

   鬼アザミ今痛点を通過中

   種を撒くひとと 鐘を聴くひとと

   鐘をつく 幽霊飴を舐めながら


















                                    2017年3月          更新

 



   沿  線                               本多 洋子


   沿線に旅籠町あり ととやあり

   ぬくもりを忘れたらしいアメンボウ

   岩は無口で春雨が続いている

   蛇の穴に沿うて叫んでみませんか

   菜の花の黄に埋もれているカーブ

   草間彌生が踊る三幕目あたり

   学校を作る ゴミなど片づけて

   いきなり墨を振りかけられたんです どうやら

   疑問符に追い詰められる春の猫

   雨の音 春の戯曲が出来上がる



























                                       2017年2月        更新





 
小瓶の中のショートショート                    本多 洋子


   小瓶の中でスマートホーン鳴っている

   芳醇な香りの中のピピピピピ

   ビー玉転がる青い少年だった彼

   道づれに金平糖をつれて行く

   絶対音の中で小指を確かめる

   小瓶の中は海原だった草原だった

   ルノアールの背中を瓶に詰めておく

   オリオンのひとつが転がり出たボトル

   コロボックルが踊る青い青い瓶

   箒星の尻尾を掴んでしまったわ

   水平線の向こうで溺れている誰か

   影はとうに虹を渡ってゆきました

















                            2017年1月            更新







   河童の皿                            本多 洋子


  てのひらは虹を掴んでから疼く

  向こう岸で目覚まし時計鳴っている

  切株に座って目覚め待っている

  落人が渡っていった虹である

  野仏の首に残っている夕日

  月見草と石の地蔵ははしゃぎ過ぎ

  分校の放課後オルガン鳴っている

  通り雨 河童の皿が落ちている

  オリオンの胸から落ちた青い星

  次の世が見たくて虹にぶらさがる

  向こう岸で待ってる大きな喉仏

  あの世までリニアカーで参ります

  

                                                         


























                                   2016年12月            更新








 近詠  
   
 心療内科                           本多 洋子


  カギ穴と猫と女と衣替え

  さめざめと きぬぎぬのこと むらさきのこと

  ハンカチをしわくちゃにして ゴメンナサイ

  するめイカになった水平線になった

  心療内科にはコオロギも来てるのよ

  嘘泣きもしてみる赤い落ち椿

  秋の蚊を赦すこころになっている

  残り時間をどうぞお好きになさいませ

  無垢という眩しいものを見てしまう

  水滴になってあしたを待っている

  






















                                                                                                          2016年11月             更新




  近詠

     
 晩秋



   二番線ホームで待っているブルー

   蝉殻に少うし体温が残る

   横顔に翳りが見える秋ざくら

   コンビニは無いけど秋のキリン草

   決心のかたちに脱いだ蛇の皮

   銀杏ころがる知らない街に来てしまう

   梨の芯 苦しい事を思い出す

   青えのぐ向こう岸まで辿り着く

   秋の昼 やれチンドン屋の裾回し

   とりあえずぽっくり寺に手を合わす

   森のはずれでブルーになってしまう鬼

   陸橋を渡って鼓笛隊が来る



























                                     2016年10月           更新







      始皇帝の耳                          本多 洋子


     ヴィーナスの腕が落ちてる美術室

     探さないで下さいアマゾンに居ます

     漱石のネコをブラシでおびき出す

     お月さまを買い占めましたあしからず

     まだ蛇が戻ってこない蛇の穴

     地平線までカタツムリを追うてゆく

     靡いてはすすきのホ調ホ長調

     月光に干される片方の軍手

     とても美しい舞姫の義足

     ガラスケースに入れる始皇帝の耳





















                                    2016年9月           更新




   桃のこと                          本多 洋子




   罠かもしれぬ赤いダリアも鬼灯も

   風鈴のト調 ときどきト短調

   精神余命という言葉あり百日紅

   火の鳥が稜線Kを超えてゆく

   脇腹をねらって本音くすぐって

   策略を考えている蛇の穴

   ファの音が出ない午後のオルガン

   行方不明の蟻を探し続けている

   ときどきは罠にかかってみたい蝶

   三日三晩かんがえている桃のこと





















                                      2016年8月         更新







  近詠

   
 もういいかい                  本多 洋子



    わんわんと蝉 おんおんと掌

    伎芸天 泣きたいほどの恋をして

    秋篠の風すきとおる遠い時間

    優しさは笑い羅漢の膝あたり

    思惟像の指ほほに触れ哀にふれ

    海を見に行こうと蝉にせがまれる

    ある時は孤独の淵を辿る蝉

    石の羅漢は車座になり蝉しぐれ

    空蝉ころぶ もういいかい もういいかい

    まあだだよ この世の淵が碧すぎる


















                                    2016年 7月              更新






   近詠   偏頭痛                        本多 洋子


   偏頭痛 白あじさいは下を向く

   曇天の雲を三枚ほど捲る

   涙腺がもろい 水無月のカモメ

   イケズかも知れぬ清少納言の鼻

   てのひらで紀貫之を遊ばせる

   六歌仙の紅一点をおびき出す

   六地蔵のひとりは草食系らしい

   夕蛍 秘密をもらしたりしない

   世をすねて蛇が穴から出てこない

   満たされぬものあり夏の地平線

   元素記号が覚えきれない

   まあいいかハマヒルガオに諭される




   
















                                     2016年 6月             更新




  近詠

  
ひずむ・ゆがむ                          本多 洋子


   射程距離の最前列にあげは蝶

   列を乱したのは真っ赤なアマリリス

   熊本ひずむ・ゆがむ・しずむ

   列島の尻尾にナマズぶらさがる

   ガリバーの靴が浮いたり沈んだり

   不法電波を食べてしまった蟻の列

   塔にくらいついている絶滅危惧種

   野ざらしになって紫ふかくなる

   桃はもう沈んだふりをしています

   野イチゴの赤 いいことがありそうだ

   無蓋貨車 過去から未来へと抜ける

   終焉は女人高野の赤い橋





















                                       2016年5月            更新




  近詠

 
 行く春                              本多 洋子


  未解決の問題ばかり春の風邪

  背もたれに見抜かれている花疲れ

  花曇り わたしに潜む不発弾

  夜桜に行こうとふいに誘われる

  ほろほろと泣きほろほろと散る桜

  列島に亀裂が走る 春嵐

  大地には血脈がある大地震

  円形劇場ドラマは明日へ続いている

  回転椅子くるっと捨てる春のうつ

  鉛筆の先でアネモネに触れる

  夏近し欠け行くものを追いかける

  まる描いてチョンと人生やり直す




















                                     2016年4月          更新






  近詠

    
春の計                            本多 洋子


    病葉は水辺に計はそのうちに

    らんちゅうの尾鰭を磨く春の計

    春泥のような心の中の音

    オリオンから届く群青色の波

    電磁波のなかで迷子になっている

    背開きにするか観音開きにするか

    千六本に切って存念を果たす

    石仏は笑って生まれ草の上

    いぬふぐりの中にまぎれた蜆蝶

    再会をはたして今日の花疲れ
























                                     2016年3月             更新





    近詠

       壷                        本多 洋子



       戻り寒 壷には底がありません

       壷は碧くて私のことに無関心

       罅がありひびには遠い痛みあり

       フルートのかぼそく消えて行く白磁

       はなびらと素焼きの壷のざわざわと

       ぐぁんぐぁんとベートーヴェンの響く壷

       マーラーもドボルザークも壷の中

       銀河からショートショートの届く壷

       ピッコロが出てくる春の壷の口

       冥王星まで宅急便で送る壷





















                                        2016年2月          更新






   
パレット                      本多 洋子



   青いシャツ軽音楽を聴きに行く

   二枚目の舌はブルーにいたします

   吉かしら たわわに実るななかまど

   よく切れるナイフのような白である

   回転木馬 白い原野を思うている

   たっぶりの皮肉 たっぷりのカラシ

   廃棄物処理 と赤字で書いてある

   赤ラベル 賞味期限が切れてます

   冬の虹追いかけているパパラッチ

   春が来てますね ルノアールの背中

   



















                                    2016年1月             更新








   姫路城                           本多 洋子

      (新年を姫路城にて迎えました)

   鯱の尾鰭 朝日に反り返る

   あげは蝶 白亜の城に舞い降りる

   闘志鎮ませて「いの門」をくぐる

   ○△□ 狭間にも美学

   生涯無口 釘隠しも閂も

   油塀 とろりネバネバあぶら汗

   策略に落ち度はあらず 石落とし

   いざと言うときの煙り出しはある

   武具掛けは整然 憂いなくもなし

   これでもかこれでもかとや 武者隠し

   百間廊下に女のいくさ男の戦さ

   化粧櫓に癒えぬ哀しみ残される














  語り部                              


  神棚に祀る一年の懺悔

  語り部のように来ている冬の蝶

  レンコンの穴に詰まった黙秘権

  断舎利の途中で過去に戻される

  憲法改正 聖徳太子の ウンウン

  痴人の愛 どうぞ桃缶めしあがれ

  さっと火を通してレアーな恋をする

  システムを外れた蟹の横歩き

  言葉が拾えない無菌室の棚

  切り捨てたトカゲの尻尾疼きだす

  




















 
                                       2015年12月            更新


  近詠

  人形の息                            本多 洋子



   秋蝶を待っているのはロダンの背

   哀しみはラクダの長い睫毛から

   軽い指切りだったと思う秋ざくら

   ギンナン転がる 明日のことは解らない

   ユニークな臍だと思う風神雷神

   円空の肘を探しているのだが

   痒いところに鼻が届いた秋の象

   ロケットが左回りに飛んで 秋

   せせらぎに流す指紋のある手紙

   さざ波を立てて様子を見るつもり

   珈琲館でユーモレスクを聴いている

   人形の息して秋の闇にいる





















                                        2015年11月         更新




   近詠

   フクロウの首                           本多 洋子



  コスモスの迷路で拾うパスワード

  風があるきっと迷いがふっきれる

  深山竜胆だれにも気付かれずに咲いて

  オリオンのしずく静かに受けとめる

  ペガサスの尻尾を噛んでしまったの

  人形の息して秋の底にいる

  吾亦紅 無口なわけは伏せておく

  好きだから好きと言えないから 雨に

  人形の耳が拾ったピアノソロ

  小瓶には秋の夕陽を詰めておく

  斜めから見ると淋しい耳である

  フクロウの首 往年をふりかえる

  風止んで昨日の殻を脱ぎ捨てる

  

















 
                                         2015年10月          更新





   前項消去                            本多 洋子


   逃げ水だったのに てのひらの感覚

   青い前衛 サイドミラーを突っ走る

   遠ざかる靴音 四楽章おわる

   前項消去 白い指先が残る

   戸籍にはレモンスカッシュ振りかける

   訃報のようにある海岸の白い椅子

   石榴はじけて 私の敵が笑い出す

   満月の裏側に置く 事後承諾

   エンマさんの左側なら空いている

   お月さま 執行猶予にして下さい




















                                          2015年9月       更新





近詠

  
 自虐的な箱                        本多 洋子



   シンフォニーホールで右耳を落とす

   蜂の巣に言葉を入れてから突く

   一番下にある自虐的な箱

   巴になったり卍になったり ややこしい

   先ずは方程式を疑ってみよう

   前衛の風です 三角の風です

   氷中花 恋を冷凍保存する

   昭和を覗くセロファンの色めがね

   中骨を抜かれて小さな息をする

   哀しみのいっぱい詰まるインク壷























                                          2015年8月        更新




 近詠

    
肩凝ってませんか                      本多 洋子



    風薫る伎芸天女のネックレス

    あじさい褪せる恋も終ったようですね

    森の出口でひょっこりムーミンパパと逢う

    止まらなくなった私のルーレット

    肩凝ってませんか スルメ食べてますか

    福助の足は脚気になっている

    ピーターパンも淋しくなった空の色

    耳寄りな話に西瓜もって行く

    蛍だか雫だったかイヤリング

    死ぬまでに鋭い牙を抜いておく

    双子座のひとり秘密を持っている

    鋭角な決断があるカシオペア
























                                      2015年7月            更新





  近詠

    
白い部屋                          本多 洋子


    昼顔みずいろ 終戦の日を忘れない

    雨垂れがメロディーになる淋しい日

    オルガンは緑を抜ける古い教会

    たっぷりのミネラル びわこは青いから

    昼さがり やがて煮つまる苺ジャム

    あじさいの白まとまれば妖艶なり

    昼花火とうに忘れた恋のこと

    ユーモレスク薄ももいろの夜でした

    旅情たっぷり何処かでオカリナが響く

    梅干しの壷あけてより母のこと

    白い部屋 白いギターが残される

    風を束ねてわたしのエンディングノート





















                                    2015年6月         更新






  近詠

 
  無伴奏                            本多 洋子


   かすかだが蛍が泣いているらしい

   遠くへ行きます 無伴奏にして下さい

   繭の中 そっと瞼をあけてみる

   ロックしましたか ピンクのドア

   「レ」になったので もう何も怖くない

   こじ開けたりしないわ 風にまかせるわ

   G線のあたりで本音吐いている

   覚えています 卵の頃の水のおと

   手を洗う 長生きし過ぎましたから

   銀河には最終列車でまいります





















                                            2015年5月       更新



  近詠

   風の交響詩                          本多 洋子


   街は朝 黄色い風の交響詩

   悲しみを気化してしまう風車

   戦争を覚えているか 風の街

   カリヨンの鐘 薫風を抜けてくる

   6000の風車でつくる花畑

   それは祈りのかたち 菜の花のかたち

   風のゆびさき 遠い痛みをわかち合う

   青い過去だから ビルの谷間の水音だから

   おとといから未来へ 黄色い風の使者

   風は饒舌 忘れた過去を取り戻す


 大阪は梅田のグランフロント・ウメキタ広場に突如現れた黄色い風車のアート。
 道行く人々は爽やかな黄色い風にしばし心を奪われてしまった。

   何かが心のとびらを叩き、遠い日のわすれものを思い出させてくれた。

   



















                                     2015年4月                更新






   近詠



   
壷の中                         本多 洋子


   独りではないと一人で考える

   冬蛍てふ人生のうすあかり

   風のゆびさき心に触れてしまったな

   連絡は不要です 壷の中におります

   弱いから春の鎖になりましょう

   青い谷からそぉっと覗く青い雲

   ほっぺんのホホホ 浮世絵のほほほ

   吉祥天の腰紐ほんとうは孤独

   ドアチェーン 風の指紋が残される

   春愁のわたしが滲むリトグラフ


















                                       2015年3月        更新



   近詠

     
北陸新幹線                       本多 洋子




   銀河へは北陸新幹線で行く

   アンダンテ 水平線にある夕陽

   しのぎを削っている 吹雪は続いている

   速達で届くピンク色の風

   糠袋をこっそり使う春の魔女

   蝋梅の黄は涼やかな声である

   身を引いてから穏やかな吾亦紅

   液体にするか球体にするか 柩

   ウサギの切手足して黄泉比良坂へ

   おびただしい青に埋もれてしまう過去

   
















                                        2015年2月         更新






   近詠

     
繭になる                       本多 洋子



     逢いに行く 冬の花火に点火して

     踊りは覚えている 歌も覚えている

     主役にはなれぬなれぬとカスミソウ

     繭になってしまった 哀しみのあまり

     二月尽 ひとり芝居はまだつづく

     磨いたら曲るナイーブなナイフ

     痩せ我慢はって真冬の種を撒く

     万両の実の耐えている 零れている

     蝋梅は月のしずくを溜めながら

     バラは散った さあそれからの展開図

     河馬の尻 カピバラの尻 春の尻

     出来たてのご飯のような詩を書こう




















                                     2015年1月         更新




  近詠

     はにわの里                       本多 洋子


    冬日透明 女人埴輪のスカートが光る

    そこここに柚子の黄がある はにわの里

    山茶花の陰から呼んでいる卑弥呼

    埴輪の目 なにを見つけてしまったの?

    くすぐってやろうか 埴輪のわき腹

    作業場は吹き抜け 古代から平成

    神話と遊んでいるブランコの日溜り

    巫女は合掌 冬の日の祈り

    目覚めてミミズ 竪穴住居を罷り出る

    どんぐりは土に サザンカは風に

    高槻の喉のあたりに立つ 埴輪

    埴輪は直立不動 継体大王にナゾナゾ

    大王の涙が溜る冬の池

    古代は幾何でしょう 前方と後円

    工房に残る火の音風の音

    

    

    





















                                          2014年12月       更新

  近詠


   
こんにゃくと違う                    本多 洋子



   エーデルワイスを探しに行ったままの崖

   三角のプランが胸の奥にある

   ゴスペルが流れる銀杏のあいだから

   夕映えの海がひろがる後頭部

   ブレーメンの音楽隊がひそむシャツ

   君はまだ野菊のおもかげを残す

   けっこうくどい淡谷のり子のブルース

   こんにゃくと違うしナマコとも違う

   ななかまど真っ赤 右折禁止です

   釘を打つ 右には右のルールがある

   負けたなと思う 消しゴム減っている

   銀行の袋にポリープが詰まる

   外面がいいのはクマモンではないか

   蹴躓いたのは真っ赤な小石

   天国にもっとも近い繭の中

   




























                                     2014年11月       更新


   近詠

   豚のしっぽ                       本多 洋子


   柿熟れて笑い羅漢に逢いたくなる

   寝転がって漱石の猫読んでいる

   悔しいことがいつぱい詰まる糸切り歯

   曼陀羅の奥へ奥へと迷い込む

   きざはしを昇ると海へ出られます

   メロンから神話がひとつ零れだす

   天照大神から来たメール

   夕焼けをオンザロックにしてしまう

   わだつみの声が聞こえる桜貝

   きっかけを探しあぐねたアキアカネ

   抜け道は鳥獣戯画の裏あたり

   道暮れてトランペットが鳴りつづける

   風船の紐 三日月にひっかかる

   アドバルーンもう繋がれていたくない

   豚のしっぽについて異論はありませんか


   




















                                       2014年10月        更新







     満月の目尻                      本多 洋子



     海見える坂 クレパスを使いきる

     かぐや姫のメールアドレスならわかる

     トランポリンを使って満月に触れる

     とぼけているな ポップコーンやな

     ねじ山が少うし錆びて秋になる

     豆の木から夕焼雲にのり移る

     遠出したらしい 人魚に逢ったらしい

     ときどきは影に追い抜かれてしまう

     渚仏は西向いている濡れている

     淋しくて影をたっぷり引き伸ばす

     桔梗むらさき辛いことならたんとある

     しゃんとしなさい 満月の目尻

     河童伝説 流れた月を追いかける

     秋深くなるまで決断を延ばす

     カシオペア 君との約束は守る



                                                                   





























                                      2014年9月             更新





  近詠

     
沖の蝶                        本多 洋子



     原爆の日には真っ赤な鶴を折る

     戦争はしないと決めたしじみ汁

     ファの音が出るまで黒鍵を叩く

     どうしても助け出せない靴がある

     金魚にも云うて聞かせる反戦記

     負けず嫌いの赤鉛筆が折れている

     沖の蝶もう戒律を守れない

     夾竹桃の赤ならきっと反戦者

     調律は出来たかヒロシマのピアノ

     炎天の塔は厳しい戒である

     一喜一憂して冬瓜は ごろん

     少年の両手にとどくカシオペア




















                                          2014年8月         更新





    業平の袖口                本多 洋子





    祭りが来たら祭りのことだけ思う猫

    業平の右袖口がカビている

    虚と実の間で揺れる芭蕉の葉

    豚のシッポくるくる 冗談は短め

    後頭部にずれたメバチコのひとつ

    天井を破って月の裏に出る

    壁が厚くて三角形になった 耳

    石ころに革命論をふきかける

    スルメイカの催眠術を解いてやる

    白桃にじんわり釘を刺しておく

    おろおろと噂の種を掘りかえす

    賽の目に切って流してしまう 哀

    桃缶をキリキリ空けている 独り

    夕顔の血筋をひいた夕ぼたる

    葬送がはじまる青い蝶図鑑

    

    




    























                                     2014年7月     更新






    近詠

        
猫踏んじゃった                 本多 洋子



       G線を辿っていった黒あげは

       星の夜はカムパネルラに逢いにゆく

       口添えをしてくれたのはパセリの青

       カシオペアの泥を丁寧に落とす

       蝶一匹をガラスの処刑台におく

       シャーレーにこころの青を載せてみる

       クチナシの白が疼いて雨はこれから

       朝靄の中でコーラン聴いている

       梅雨半ばコントラバスが横になる

       クレヨンで描く向日葵の平和論

       わたくしを炒める黄色いフライパン

       オルガンと遠い夏雲 ネコ踏んじゃった

       オフサイドだった金魚の影だった

       メダカ群れている 集団的自衛権

       劣えたらしいポプラの肌なでる

       カピパラはきっと小説が書ける






















                                         2014年6月      更新




  近詠

      
印刷のずれ                本多 洋子



    つるつるする方が裏です 人間です
  
    青春の眩暈が隠してあるノート

    人生のずれか 印刷のズレか

    感覚のズレです わさびとカラシです

    裏話をみんな知っている帽子

    解説は不要 ニンマリ笑うから

    専ら人魚になるための  エステ

    解釈は如何ようにもと 空を向く

    わたくしの心の断面図です どうぞ

    時差すこしあって 虹色にとける

    地平線に立つ一本の杭である

    水の面に浮かんで消えた瑠璃あげは

    面倒見がいいのは黒い方の蝶

    夕蛍きのうのことは揉み消そう

    石仏の肩に休んだ鬼ヤンマ
























                                           2014年5月     更新




  近詠


     
落とし穴                      本多 洋子



     泣き声の届かぬ底に沈む船

     水色の落丁がある春のうつ

     其処からは見えない花水木のこころ

     だまし舟 銀河の果てに行ったきり

     花びらで隠してしまう落とし穴

     そこ此処に足跡がある春の鬼

     わたくしの背中に あげ羽蝶の紋

     桃色の遺伝子がある春の豚

     ジョーカーを桃源郷におびき出す

     百歳になったスミレが咲いている

     家系図を洗えば小町という先祖

     身を反らす夢二の猫もわたくしも

     斜交いに明日を覗くドアチェーン

     
り返しあたりで迷う春の鬼




















                                      2014年 4月     更新




   泡時計                    本多 洋子




   隣りの猫は育児休暇をとっている

   傾向と対策 春一番と猫

   乗り合いバスですから 春を分配

   プリズムに当って私に刺さる

   この指たかれ 春のことばが欲しかったら

   春キラキラ小便小僧が濡れている

   泡時計にします 夢が欲しいのです

   寂しい花はさびしい椅子に寄りかかる

   呼び鈴はきっとサロメに違いない

   シャガールの深い青から抜けられぬ

   青を食べ尽くして無罪放免です

   呼ばれたような気がしたガス燈が揺れた

   春になっている ネトネトもブヨブヨも

   銀河列車の特急券を予約する

   桃源郷に行けます トクトク切符です

   

   





















                                             2014年3月       更新


  近詠
    
 ピーターパンの靴                  本多 洋子




     確かなスピンだったよ 冬タンポポ

     オリオンのベルトの中にある硝子

     しばらく眠る お多福の面つけて

     ああ寒いねぇ カラスのカ

     シルクロードへ駱駝のら ラッパのラ

     わたくしの守備範囲にはカスミソウ

     カルメンの薔薇一輪を下さいな

     縄張りに信楽狸侍らせる

     ごま塩を振りかけておく私小説

     音符パラパラ たんぽぽの黄のぱらぱら

     チョコレートの銀紙だけを信じきる

     雪の日に届く 左のイヤリング

     音信はもう届かない冬苺

     わたくしの右脳はきっと多産系

     三日月に届けるピーターパンの靴


























                                         2014年2月     更新






     近詠


    鰯の目玉                      本多 洋子



    冬の樹の遠景にある遠い過去

    遠まわりして山茶花の道に出る

    阿修羅像が心の隅に置いてある

    詩か非詩か 鰯の目玉まっ赤っか

    満月を斜めに過ぎってゆく魚

    偶然に青大将と目があった

    隅っこに闘争心が置いてある

    満月へ山椒魚が目をあげる

    イヤリング温い話に飢えている

    箱階段を降りてくるのは赤い足袋


















                                            2014年1月     更新





      近詠      


     果汁100パーセント            本多 洋子




     黎明を待ってる少年のノート

     バンカーに落ちた魂を探す

     ピラカンサ秘密を隠しおおせたか

     賢治の星の念珠みずいろ

     少女はきっと果汁100パーセント

     照準を狂わせたのは冬蛍

     寒月の欠片か 怪人の仮面か

     イマジンを歌い続ける冬の雲

     哀しみに傾いてゆくヤジロベエ

     空と海 水平線を追い詰める

     冬雲に乗ってしまった緋の金魚

     雨の夜に比べる撫子・女郎花






















         



                         2013年度



     前年度へ






                                        2013年 12月       更新


  近詠


     
執行猶予                         本多 洋子




   抜け道がまだ見つからぬ寒の入り

   執行猶予を待ってる真っ赤な冬薔薇

   あらかじめチェックしておく鬼の首

   百鬼夜行の列が乱れる

   貨物列車の最後列にいる鴉

   黄信号 深い断絶だとしても


     鼓笛隊トトンとカラフルな列

     羅生門のあたりで冬がうずくまる

     羅を抜ける小猫と女三ノ宮

     秋は利発に薫の君のもの想い

     背を伸ばす黄菊白菊 風のあとさき

     ララバイはラ行変格活用にて

     
  




















                                            2013年11月   更新
 近詠作品より




    ぬるま湯                       本多 洋子



    おぼろ月 猫の正体みとどける

    鬼百合の秘かに洩らす笑い声

    目くばせをして竜胆を誘い込む

    ぬるま湯にどっぷり浸ける般若面

    夕顔のあたりで白狐が消える

    蜘蛛の巣に末摘花がひっかかる

    鏡の裏にひっそりと棲むまだら蛇

    オニユリの首を捩じって罪状否認

    断罪やすっぽり落とす花の首

    半月の面取りならば出来ている

    左手は君にあずけて旅に出る

    百年は眠りつづける青い粒

   
























                                          2013年10月     更新




 袋回し・三分間吟より                       本多 洋子

   ★
狐面だから


   ゴーヤを食べ過ぎたらしい裸のマハ

   底から取り出したのは妖精かもしれぬ

   クロワッサンなら紙ヒコーキに乗れる

   紙コップつぶして白い鳩を出す

   鰯からそろそろ鰤になるところ

   醤油瓶すこしやる気が出てきたな

   胸を開くように枝豆をひらく

   萩キキョウにしっかりブレーキをかける

   狐面だからキンチョールが怖い


   ★
もみ洗い


   私を試す三角形の壁

   もみ洗いするのは蛸と宿六と

   つつつつっと来てすすすすっと帰る

   あつものをふいて泣くのはわびとさび

   恋がたき輪ゴムとヒコーキがあたる

   10月の阿修羅の骨密度を測る





 これらの作品は9月29日に北田辺くんじろうぎゃらりいで行った「袋回し川柳」で抜句して頂いた洋子作品。
 題はあらためて 私がつけてみたもの。













                                             2013年9月     更新










      鍵 穴                           本多 洋子



     猫の目は貪欲 鍵穴を覗く

     片足は流木に乗るキリギリス

     ファゴットは置き去りにされ森の奥

     梅花藻のあたりに過去が辿りつく

     乱打してみる海底の平家琵琶

     錦絵の奥にも秋が訪れる

     朽木のかたちに太棹のバチがある

     ポッペンの音して心に落ちる水

     湧き水に流してしまう花図鑑

     阿修羅象の眉間に落ちる流れ星

     鍵穴の向こうに置いてきた晩夏






















                                           2013年8月     更新






      ある画集                    本多 洋子



    ファゴットの聞こえる画集持っている

    疵ついた壁から創世記を覗く

    カーテンを開けるとバロックの世界

    花の言葉か雲のことばか聞きわける


    空を一枚捲りたいのでぶら下がる

    ふわっとギニョール 雲に到達

    二幕目に転がる赤い実のアリア

    アンモナイトの丘でお花見


    春は空から クリオネも空から

    雲に呼ばれて風船を追う

    重たい海をひっぱり上げる

    女の腕も水平線もポロネーズ


    柩にはサクラ 饒舌な時計

    真っ赤な布でことばを覆う


    旅人の帽子を載せたある画集


























                                         2013年7月       更新

   近詠




        コップの縁                       本多 洋子



    わたくしの胸中にある不発弾

  
  落ちない様にコップの縁を歩く

    走れ太宰 青い真実

    真正面から雨蛙と勝負する

    花菖蒲まっすぐ空を仰ぎなさい

    雨音で始まるシベリウスの序曲

    父の日にあげるドラえもんの鈴

    絶対音感だった真っ赤なアマリリス

    黙って聴こうコントラバスの主張

    白ヤギの転居通知が濡れている

    吃水線あたりにバラを刺しておく

    雑音はきれいに消してから 生きる     




















                                          2013年 6月    更新





    近詠


       
童話                      本多 洋子




    若葉風 化粧櫓は虚のかたち

    橙か夕日か遮断機の向こう

    枇杷をむく すこし痛みに触れながら

    体温のなき者同士 えのき茸

    飛天のスカート 風はまみどり

    比翼塚 はてさてご苦労さんなこと

    もう恋は川幅などを考える

    エンゼルの翼 噴水飛び越える

    オーボエ鳴って森の唇がひらく

    鉛筆の折れたあたりの爆破音

    谷折りにするから安心できるから

    ユトリロの街から聞こえてくるピアノ

    凪いでいる海へ指揮棒を下ろす

    星の降る白鳥駅で降りてみる

    おはなしの出てくる手袋を拾う



















                             
 2013年5月         更新





   近詠作品


        砂時計                        本多 洋子


    砂握る これも安堵のかたちだろう

    葉桜になった棒状になった

    宇宙の最後のように砂時計が止まる

    鳩は追わない 虹を深追いしてるから

    ドロップを並べる春の暇つぶし

    深爪をしてしまったなトムソーヤ

    ブランコに乗るか 浮雲にのるか

    わたくしの後ろにだれもいなくなる


    ボストンから帰ってこない青い鳩

    黄砂まみれになる靖国神社

    人使いの荒い顎なら天日干し

    座敷わらしと一夜明かしたことがある

    哀しみを入れる五月のガラス瓶

    バラ園はマリヤカラスの声である

    貪欲に生きると決めたアマリリス























                                        2013年4月    更新


    近詠作品



  
        非常階段               本多 洋子




      鳩を持つ埴輪と春の話する

      クリオネのような少女と目が合った

      鳩時計の中で昼まで熟睡する

      銀河鉄道 4番ホームへ急かされる

      土筆伸びきって明日も晴れでしょう

      法務局の裏で騒いでいる桜

      零れないように対角線を折る

      徒に色鉛筆を削る春

      素直になって赤いポストに投函する

      青虫は非常階段踏み外す

      春はひとえにゼリイビンズの桃色に

      偏頭痛の亀が乗ってる夜行バス













                                                2013年3月    更新


                                         

         
 温湿布                        本多 洋子




      砂あびて鳥のことばになっている

      クリオネを掬ってオリオン座にあげる

      二ン月の鬼 体罰に抗議する

      哀しみを閉ざしてレモン色になる

      わたくしのポートレートにある真冬

      着地点は真っ赤な押しピンでしるす

      白血球が足りなくなった春の皿

      かるがもの母に従うことにする

      ファゴットは父かもしれぬ向こう岸

      少しずつ妬心をほぐす温湿布

      台本通りに春が来るとは限らない

      軌道からそれて豊かな風に逢う

      わき道を選んでしまう飢えた馬

      


















                                           2013年2月    更新




           近詠作品




                              本多 洋子



              
            根雪からときどき伝説がもれる

            春を待つ壁の落書き消さずにおく

            連絡がとぎれたアフリカの砂漠

            銃口はきっとテロだと判る壁

            戦争を知らない白い壁である

            戦争を知ってる赤い壁である

            赤い靴も人質も 連れられて消えた

            あの人の背中が壁になっている

            蛇の頭もタコの頭も遠ざける

            菜の花が兆す 土壁の向こう

            春の椅子 斜めに鬼を座らせる

            二ン月の豆を体罰としてなげる

            椿踏む 少うしこころ痛み出す

            連翹の黄の哀しさに触れてくる

            雲に手が届けば豆の木を外す

            過去へゆく積み木の汽車に乗り換える

            4Bで春のドラマを書き換える














                                                                          2013年1月  更新







       
      
       
 オイスターソース              本多 洋子



           童話の森へ誘うマカロンとショコラ

           ココア色の帽子を選ぶ冬の旅

           旅は気まぐれ港の猫を可愛がる

           オーボエは冬のみんなに頼られる

           花柄にしますか 唐草にしますか

           クリオネの本気 竹とんぼの本気

           ラストチャンスだ 冬至のかぼちゃだ

           天狗の鼻にも温度差がある

           イスターソースで私を変える

           消しゴムの歎きもそっと聞いてやる

           衰えを自覚しなさい 唐辛子

           傷になるほど大きな声で笑われる

           雪が止んだらそっと決意を促せる

           流れ星の通った跡の深い傷

           キリンの首は礼儀正しい























                                    2012年12月  更新






   近詠



       フルーツポンチ          本多 洋子




          妖怪になるかもしれぬ生卵

          海が好きだったら恋人にしよう

          別居中らしい金魚と水澄まし

          秋には秋の近松心中物語

          司馬遼は定位置にある秋の部屋

          湿っぽい話はしないフルーツポンチ

          霜月のコントラバスは父である

          哀しみが深くて蒼い蒼い淵

          枯葉一枚 添付資料に紛れ込む

          冬の河馬 決定権を行使する

          谷折りにして哀しみを消している
















                          
 2012年11月    更新




    近詠



        エッシャーの階段            本多 洋子







       風のなすままに紫を生きる

            諦めの速さを思うみずすまし

                  ぎんなん転がる室内楽ピチカート

                        茜雲のはなし セアカゴケグモの話

                             稜線を越えた竹とんぼの もしも

                                  物語がはじまる深夜の冷蔵庫

                             ケイタイは春日の局かららしい

                        大奥に従っておく昼の月

                   しっぺ返しという手もあって鬼ヤンマ

              エッシャーの階段をゆく あめんぼう

         恋おわる 岩波文庫返します

              鉛筆を買い足しておく秋祭り

                  列を乱したのは背中の赤い蜘蛛

                       枯れきらぬ思想をポケットに入れる

                           無精卵だった 左手をひらく

                               あれは確かな岐路だった 落日だった

                           東北の秋と女を彫る志功

                         ハーレムの秋を節穴から覗く

                   白百合は受胎告知に篭りきる

               訃報くる 桔梗一輪咲き残る

         音もなく独りの窓に来る驟雨


















                                         
2012年10月 更新


     近詠



 
             ぼうぼうになった                本多 洋子



            吃水線のあたりに耳を浮かばせる

            ルート3ならピーマンに詰めてある

            脳天を叩いて島を産みましょう

            ぼうぼうになった コントラバスになった

            男の尻尾 女のシッポ品定め

            コピー機に残る一昨日のわたし

            枝を払うと鰯雲まで手が届く

            接尾語については行けぬ女郎花

            ヒロシマのコピー フクシマのコピー

            熱源はわたしの胸のコンセント

            あたふたと闇へ闇へと転がる桃

            川獺を笑ってならぬ赤トンボ

            目の端に秋の蝶きて訃報きて



















                                          
 2012年9月 更新


          近詠




            真夏の四分音符       本多 洋子



            アマリリスの赤なら執行猶予中

            すり鉢の底で死ぬ気になっている

            栗の花 刑の軽さを問い糺す

            浮雲にふわりと乗れる観覧車

            晩夏光ひとりで祝う誕生日

            陸橋を渡る真夏の四分音符

            一緒にはして欲しくない瑠璃あげは

            迷いから逃れるように白を着る

            カーテンを海色にする孤独癖

            私も百鬼夜行の列にいる

            百日紅 一反木綿ひっかかる





















                                      
2012年 8月  更新

       近詠



              ジャコメッティの胸       本多 洋子



             青梅雨へ虫一族は流される

             白椿くずれる 閻魔王の視野

             不発弾は胸に沈める梅雨晴れ間

             不慮の穴 バラのシールを貼っておく

             押しピンが刺さるジャコメッティの胸

             青い沼あれば沈んでしまいたい

             荷車にピカソを積んで母積んで

             マイセンの壷には艶やかな虚実

             景徳鎮のプライドがあるチリレンゲ

             パソコンの経路を阻む青嵐


              四面楚歌どこかで鈴が鳴っている

              水掻きがあるから 生きて行けるから



















                                                2012年7月  更新


 



            排卵                       本多 洋子





             両性具有 水の器に閉じ込める

             嵩として風の匂い 水の匂い

             勾配を確かめているアルマジロ

             点滴の速さを数えている目線

             踊子が巡らしている青い策

             風紋に消されてしまう懺悔録

             交脚のかたちに愛は残される

             マリリン反転 赤になる青になる

             呪縛だな締め切っている薔薇の部屋

             一輪車で追う 落日の速度

             カスミソウが笑う 底辺のあたり

             雲を映して水の器にならんとす


















                                                2012年6月 更新



       句会吟



             亜熱帯樹林            本多 洋子



            神さまが竹の箒で掃いた空

            水面をひらいて愛を波立たす

            六道の辻へ落としてきた手帳
                        
おととい
            アカシヤのべんちで一昨日を拾う

            ルート3ですか 夢の果てですか

            出口が見つからぬ亜熱帯樹林

            日蝕の日から神話を読み直す

            白猫はフジタ 黒猫は夢二

            独歩の歩幅で夕暮の林

            踏んじゃった不定愁訴の溜まる猫

            難関を突破したのは清少納言

            猫はひっそり現代劇場をぬける





    
     














                                              2012年 5月 更新


    近詠


      
         春宵の肝          本多 洋子



            魔笛から飛び出す一匹の揚げは

            E線のあたりで水脈に触れる

            春宵の肝から五木の子守唄

            乙姫の耳が出てくる船箪笥

            風みどり白い帽子を放り上げる

            好きにしなさいと吉祥天が云う

            春嵐 誤解はとけぬままである

            大根の白を信じることにする

            譲られて少うし重い春の背な

            菜の花の迷路で神さまに出会う

            春ですねスーチーさんの髪飾り

            ハリーポッターに頼む校庭の除染

            猩々蝿は倍になるまで酔わせよう

            ドミノ倒しの真ん中へんに立っている

            聖五月シーツの白を光らせる

            さくら再婚 今日発売の週刊誌

            乙姫は鬼に 鬼はマドンナに

            手を組んでいるのは淋しい羊たち

   
















                                       
2012年 4月 更新 



      近詠                    


           彼岸桜                      本多 洋子



            クリオネが泳ぐ 切ないほど泳ぐ

            鋭角にツバメ 鈍角にわたし

            鵺になるかゲジゲジになるか 彌生

            ポケットに忍ばせておく朧月

            哀しみを繋ぎあわせる春の泥

            男は逝った彼岸桜も見ず逝った

            のっぺらぼうのような湯豆腐のような

            チェーホフな朧なロッキングチェア

            吹奏は青い男の死を悼む

            半開きのドアから洩れてくる神話

            怪しまれながら黒蝶追いかける

            描ききれなかった弥勒のゆびさき

            引き裂いたのは風ですか蝶ですか

            浮雲に乗ったし梯子はずしたし

            答が出るまで春の入り口を探す





















                                                   2012年 3月 更新




     近詠                         

                           

              回転木馬              本多 洋子




            座敷童子が出てゆく如月のすきま

            雪女が消えた 柳が揺れていた

            歌麿の春を我楽多市で買う

            桃缶を開けて自由にしてあげる

            水平線は白いという おとうと

            逃げるのが早いトムソーヤの帽子

            温野菜すこうし楽天的になる

            回転木馬ドン・キホーテを乗せてみる

            限界を知らずに登る豆の蔓

            無を悟る 白い椿は白いまま

   
















                                        
2012年2月  更新



       近詠

   


               
ミルクチョコレート               本多 洋子
   



            酒とろり花びら色になる狐

            侘び助の白はぜったい刺客である

            墨汁一滴 美しい染みになる

            舞台暗転さくら吹雪になる予感

            ひょっこりと狸に出会う交差点

            逡巡したらしい薄桃色の染み

            涅槃会に出かける森の仲間たち

            色鉛筆を植えて明るい森にする

            将軍の椅子には高慢ちきな猫

            シーラカンスですか魔法使いですか

            両の手にたっぷり湧き水を掬う

            暗示かもしれぬ耳朶が熱い

            壬生屯所あたりで迷う春の闇

            花見小路のポストに当たる恋の猫

            騙されて見ようかミルクチョコレート

            文字盤を追いかけている冬の蟻

            ストップウォッチ白い空間になった

            カッコイイ清盛だから赦せそう

            屋形船にしようか豪華客船にしようか

            ふっきれて朝のレモンを絞っている






















                                                 2012年1月  更新




        近詠


                現像液                       本多 洋子




            窓閉めてポインセチアになりすます

            ゆるゆると月食 ゆるゆると痛み

            侘び助の白でこころを締めくくる

            執念をしめ出すかたちピラカンサ

            おとといを現像液に浸けてみる

            ポストの赤にもトマトの赤にも未練がある

            円空仏あたりで風はまるくなる

            神さまの右手にあった実南天

            傍線を引いて哲学的になる

            禁欲中なんです ポインセチアなんです

            横顔に冷たさがある黄水仙

            古本屋の前で気軽に別れよう