RIAJの統計資料から分かる音楽・レコードをめぐる社会事情

日本レコード協会http://www.riaj.or.jp/日本レコード協会は年次統計資料をホームページに載せています。 米RIAAや英BPIはユーザー登録しないと統計資料は見られませんので、この点では例外的にオープンです。 しかもその統計資料は音楽市場だけでなく各種関連資料が満載です。 とくに60周年記念誌(2002)は歴史年表も含めたもので一読の価値があります。

特徴的な各種関連資料の概略を書き出してみました。

2007年版他:「レコード・CDレンタル店数の推移1980年-2006年」
著作権法改正や再販・レンタル・ルール合意などにより1989年をピークに徐々に減少傾向。

2007年版他:「世界の音楽ソフト売り上げシェア」
イギリス(又はフランス)とドイツを足したものが日本の売り上げ(世界シェア15%前後)にほぼ匹敵し、この3国をあわせたものがアメリカの売り上げ(世界シェア30−37%)にほぼ匹敵する傾向がみられます。先進国5国の売り上げ合計が全売り上げの70%以上を占めています(1998−2005統計)。 もちろんアンダーグラウンド(海賊盤)のシェアは統計には表れていません。特に2007年版には2005-2006年度の有料音楽配信売上実績(項目13)もあります。

2000年版:「世界の海賊版状況」 1999年版:「オーディオディスクの輸出入状況1994-1998年」
海賊盤や密輸入や違法コピーCDは統計に載らないので輸入実数は減っていないのではないか? 日本の場合1998年度で海賊版の占める割合は10%以下とされている。知らずに買わされていることもあるので気が付かないだけだったりして。。。外盤CDで音飛びが酷く取り替えてもらったことがあります。CD-Rの品質(主に反射率)の違いは現存するようです。

1999年版:「主な国のレコード保護期間」
1999年2月現在:日本は平均の50年だがアメリカは95年と独走!
1999年版:「最近10年の洋盤レーベル数1988-1998年」 年々増えている。

2004年版:「再生機器の普及率及びパッケージメディア周辺環境機器所有率」1992-2003
2000年版:「再生機器の普及率及びパッケージメディア周辺環境機器所有率」1990-2000年3月
CDプレーヤーの普及率がステレオを1996年頃追い越すのはポータブルCDプレーヤー+イヤホンで聞くのが一般のオーディオライフになったから? 2002年にはPS2の普及率31.4%と並んで携帯MDプレーヤーも39%(サンプル数1000内)と高い普及率になっているが現在はiPodなどに取って代わられていると思う。若年層の行動形態は本質的に変わらずポータブルなもの=携帯アウトドアを目指しておりWalkman - CD Walkman -MD - iPOD/Memory (stick) Walkmanと各時代の新技術を追っているだけのように思われる。長岡鉄夫の「日本オーディオ史」の末尾(P.189)にある「HiFiオーディオ機器出荷金額推移1976-1990」を見ると80年代後半から価格一体型のミニコンポがオーディオ市場の売り上げの大半を占めるようになっている。価格一体型と対を成す価格分離型ミニコンポはセパレートステレオの流れを汲み1980年前後一時流行したが1987年のバブル景気を目前にして絶滅。一体型コンポは言葉の上からは矛盾を含んだものだが、独立した多様なソース〔FM/LP/EP/RADIO/TAPE]が70年代と比べるとむしろ減少しCDオンリーになったためらしい。メディアとしてのソースが偏りすぎている、と感じるのは私だけなのか?1987-1995年には後にバブルラジカセと呼ばれるCDP付き大型ラジカセが誕生した。若者の生態(車と海とナンパが好き?当時の音楽にはそれらを反映した曲が山ほどある)と機器の流行は切り離すことができない。

2003年版:「磁気テープ生産」1994-2002 
1999年版:「オーディオ・ビデオテープ生産数量」1991-1998
輸出を含めたオーディオテープ総生産なので国内需要は不明だがカセットの生産は年々減少傾向。

2002年版J2他:「アナログディスク生産数量1992年-2001年」
2000年前後一時的にモー娘効果などトレンドにより日本の音楽のアナログ盤が洋楽盤を上回るが最近は洋楽盤と並んで低調(シェアは小数点以下%)。

2001年版J5:「年齢別人口推計2000年-2010年」 2000年版:「年齢別人口推計2000年-2010年」
主に20代の視聴者が流行の新譜を買うのでこの分析は重要なのだろう
2001年版J3:「ジャンルごとに見るマーケットの現状」 2000年度のアンケートには年代別・男女別の音楽嗜好の違いが見られて興味深い。20代の女性のダンス音楽、年齢40-55のクラシック(昔からオペラ上演は有閑マダムの社交場)。20代男性のラップ音楽や若者のJ−POPなどある程度の傾向が分かる統計だと思う。2000年版:「ジャンル別ごとに見るマーケットの現状」では1999年度のアンケートに基づいているが少し違った傾向が見られるー男子大学生のクラシックと30代以上の女性のダンス音楽、20代女性の外国ロックが群を抜いている。ラップのジャンルがないとか年代別のサンプル数が一定でないことが原因だろう

2000年版:22 「オーディオレコード新譜数の推移1958-1999年」
注目すべきは1971年以降各種の合計は2万巻・枚前後である程度一定している。EPの需要は8cmCDの需要にスムーズに横滑りしている。とくに1975−1979年LPの新譜数が合計新譜数の過半数を超え11,000以上に達しているので量と種類の上でもその頃がピークだった。

アナログレコードは一時的なブームを除いては少量生産(タイトルあたり3千枚以下)が今では主流のようだ。1990年以降ゾンビ状態の国内生産アナログディスク(EP+LP)について纏めてみました(1994年以降RIAJの統計はEP/LPの区分がなくなり一区分になっています)。最近ではワンタイトルあたり3千枚以下でも売りつくすまでに数年かかっていることがカタログ数からも見て取れます。1989年まではEP+LPカタログ数は1万種を超え生産枚数もEPとLPがほぼ対等でしたが(1989−1990年の一枚単価を押し下げている理由)、1990年以降はLPが主体です。2004年の平均単価が異常に低くなった理由を考えてみると、バンダイが「ウルトラマン」「マッハGOGOGO」などの懐かしのTVヒーロー・アニメソングが収録された「8(エイト)盤レコード」(1枚1曲入り・350円/税別)を売り出した年に当ります。国内生産と国内消費・需要とは別物で、米国と英国からのアナログレコード輸入盤が国内盤の売り上げを遥かに上回っています。日本はアナログレコードの輸入大国です。統計に表れないところではインターネットオークションによる取引やリサイクルショップなどでの購買が格段に増えた現実もあります(一方で実際に店をはったレコードショップは少なくなりました)。国内生産のうち輸出される量(主にアメリカ向け)は一割に及ばず、米英から輸入される量は国内生産の数倍になっています。この表のタイトル平均枚数は生産枚数÷新譜数としています(旧タイトルの再生産・増産がない前提での指標です)。後記:「国内生産のうち輸出される量」とはジャケットを含む最終商品としてのレコード輸出量のことです。2010年12月5日放送の鉄腕Dashの番組によると、アジアで唯一のプレス工場となった東洋化成では海外からの需要の方が多いとの話でした(年間生産量約40万枚)。完品としてのレコードはジャケットと盤が別々の国で生産されることもあり、日本でもプレス工場が激減した80年代後半から盤は海外プレス(主に米国)でジャケットが国内印刷もしくは価格が安いアジア圏で作られることもありました。2009年の統計では総生産額は2億円以下で総枚数も10万枚程度となり、アナログディスクは日本国内では商業ベースに乗らないことがはっきりしています。以下の図で分別できないくらいに低くなり、いまだに統計を取っている方が不思議なくらいです。2013年10月29日BS171チャンネル20:00-20:55「空から山形県を見てみよう」でナガオカが紹介されており、針製造過程の映像も紹介されていました:『世界を入れても針生産メーカーは2社』 『海外向けが多いが今でも月産20万本』の発言は疑問ですが、並木やオグラやJICOなどは副業にレコード針を生産しているだけなのでそのような発言になったと思います〈量的にはナガオカに遠く及ばない)。海外の一社は米国オハイオ州のAstatic Corporationでしょうか? いずれもOEM部品納入が多いのでカートリッジ・ブランドとしての知名度は低い。ナガオカのオーディオブランドはJEWELTONEで1980年頃リボン型のカートリッジJT-RIII/D〈ダイヤモンドカンチレバー)は20万円でした。高価なブランドもののカートリッジを量産するようなマーケットは現在では世界を探してもないのです。一部のマニアが高価(高級?)なカートリッジのブランドで浮かれ騒いでいるだけです。1990年解散する前の旧ナガオカによる1984年5月の針月産100万本がピークだったようです。

2020年3月追記:RIAJの最近の統計によると、2009年総数10万枚程度まで落ち込みましたが2010年から2019年まで又アナログレコードの供給が上向きになり、2017年以降100万枚を超えるようになり、邦盤と洋盤の数量は拮抗しています。それでも盛時に比べると百分の一程度なのですが。。。ワンタイトルだけで百万枚を超えた時代を知る者としてはなんだかなぁという感じです。

国際レコード産業連盟(IFPI)資料による主要国のLP出荷売上統計:いかに日本でLPが愛好されていたかが分かります。統計の取り方が各国まちまちのようでドイツは売り上げ枚数を示し、英米仏は出荷枚数を示しています。生産及び出荷枚数は各レコード協会で把握できるでしょうが購買数量の把握は特別な国勢調査でもしない限り不可能なはずです(作っても売れないものもあるはずです)。まぁ参考程度と考えた方が良いでしょう。日本の場合は上の国内生産と比較すると正規輸入外盤を含めた出荷総数のように見受けられます。RIAJの「世界各国のレコード売上」1997-2004においてシングルとは「カセットシングル、CDシングルはシングルに含まれる」ので注意が必要です。話は変わりますが、日米でカセットの需要が根強いのには驚かされます(トラック野郎か)。

主要国内LP出荷売上統計(枚数単位:千枚):日本については1997年以前の資料が見つからないので省きましたが英米での売り上げ枚数レベル(年平均300万枚前後)を上まわると思います。

LP+EP輸入枚数(枚数単位:千枚):英米からの輸入が約8割を占めています。新世紀を迎えるあたりからの盛り上がりは何だったのでしょう?一時的なトレンドに過ぎなかったのではないか?世界的にみても2004年以降アナログディスクの生産は再び下火になりました。ついにその役割を終えたのか?既に保有している盤はその愛好者がいる限り骨董品にはならないでしょうが、中古屋で内容的に纏った出物を見るたびに誰か収集家・愛好者の一人が物故したのだという思いに取り付かれます。

私は統計の数字自体はあまり信用していません(アンケートの設問自体に設問者の偏向や意図があることが多いー無効票や無言の中にも真実がある)。実感と数字の間に開きがあるのは、流行の本やレコードは長い目で見ると(どの程度のスパンなのかが問題)泡沫的で歴年のクラシックなものに固定されにくいからでしょうか?時代時代のそれぞれの嗜好の変化によって過去の評価まで変化します。例えばベートーベンの時代にはバッハなどバロックは忘れられ、20世紀にはベートーベン以外の同時代の作曲家達が粗略にされ、現在ではレコード産業の市場拡大のために(?)忘れられたマイナーな作曲家(例えばベートーベンの後輩Ignaz Moschelles 1794-1870)たちの曲が続々録音されつつありますー行き過ぎた再評価まであります。地球の歴史の中で人類の歴史が対数年表のように拡大されているのと同じように、文化史の中で現代が対数拡大されています。さて、後代の人たちには現在がどう写るのか、誰も知りえません。文化の守り手はむしろ当代を見ずに過去と未来を見据えた盲目の塙保己一のような人々に負っているように思われてなりません。

昔のパトロン文化は現代の大衆文化ではどこの国でもアイドル化ペット化しているように見えます。珍しいペットを買うのが流行です。

2015年追記:世界的に見ても音楽ソフトの売り上げは近年減少傾向にあり、それがネット配信の影響なのか音楽やオーディオそのものへの意識の変化(デジタル生活の中で旧来のオーディオが隅っこに追いやられた)を表しているのかは分かりません。2007年の「世界の音楽ソフト売り上げシェア」で述べたことが2010年より変貌しており、音楽ソフトの売上では日本が米国を抜いてしまいましたー別な見方をすれば日本と英国は従来どおりのソフト(ハードコピーphysical media)売り上げを保っているが、2010年以降米国では2006年までのレベルの半分以下に減少していることです。ネットによる配信が主流になったということでしょうか?

2024年追記:昨年3月に公表されたRIAJの2022年度「音楽メディアユーザー実態調査」報告書を読みました。近年は有料視聴が減少し無料視聴が増えて「半数が音楽聴取方法へのこだわりなし」となっています。そのことよりも音楽に無関心な層が4割以上になっていることに「成程」と感じました。この無関心傾向は昭和の終わり頃が転換点になっていると思います(オーディオ産業の衰退もそのころから始まった)。

享受する側としてはstreamingかon demandが一番合理的な形態に思えます。問題はアーカイブを保管運営する側にあります。最近のテレビでは製作に時間と経費が掛かるドラマよりもプロ野球等の中継で時間を埋める番組構成が多くなったと感じます。古いもの(再放送)と新しいものをどうバランスするかは最近の放送の一番の課題だと思えます。そんなに新しいものが好きですか?そんなに古いものが好きですか? 手間暇かかる製作よりも短命・即時的な(ephemeral)放送の方に重点がシフトしている。過去に数々の何々プロダクションが経済的に破綻したが、彼らの作った製作物が今では再放送の中心になっている!

David L. Morton Jr.のSOUND RECORDING (2004年)の最終章Online Music and the Future of Listeningの末尾THE FUTURE OF RECORDINGを以下引用します。

Although it is impossible to predict at the time of this writing where these developments will lead, it is clear that another period of accelerated technological change is underway. These changes do not necessarily affect the nature of what people hear, nor are they making much of an impact on how or where they hear it. Studios are still producing the kinds of music they produced before, and people are still listening in their homes, in cars, and in public. But the use of digital recoding, personal computers, and the Internet is already changing the patterns of consumption of music. It is evident, particulary in the behavior of young people, that owning records and amassing collections are no longer as important to consumers as acquiring the music itself, represented by ephemeral and largely intangible digital files. Even more profound are the emerging changes in the recording industry, which is only gradually loosening its grip on the notion that its ultimate purpose is to manufacture something, rather than to distribute and promote music. The recording industry is making the transition from the manufacturing to the sevice sector of the economy, and in future years it will rely less on sales of physical media than on sales of songs.


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