コラム:企業内教育(工業専門学校)のカリキュラムと授業内容

企業内教育(工業専門学校)のカリキュラムと授業内容

 企業内教育の一貫として、「工業専門学校」の前身は「技術専門学校」と呼ばれた。主に工業高等学校の卒業者を対象にし、入社2年後から入学試験を受験できる資格が与えられた。学科には「電気工学科」「機械工学科」「応用化学科」「管理科学科」等があった。3年間の夜間教育であり、少なくとも工業大学卒業程度以上の学力と知識を身に付けることを目的としていた。その背景には、戦後の日本がアメリカやヨーロッパに比較して劣る技術レベルを底辺から引上げ、世界で最先端の技術を容易に吸収し、世界に通用する技術や知識を持つ多くの人材を育成する必要があった。そして、このことが企業として競争力を確保する上で急務であった。

 昭和41年から43年にかけて、「工業専門学校」の機械工学科のカリキュラムは以下のようであった。各科目は、ほぼ20時間の講義をもって1単位として、1学年毎に30単位を目安に割当てられ、科目毎に習得すべき単位が設定されていた。

第1学年(昭和41年度) 第2学年(昭和42年度) 第3学年(昭和43年度)
科目 単位 科目 単位 科目 単位
英語 3 英語 3 英語 3
数学T 3 数学V 3 数学W 3
数学U 3 機械材料・材料試験法 3 工場管理 3
化学 3 工作機械・機械工作法 3 工作機械・機械工作法 3
物理 3 材料力学 1.5 精密工学特論 3
設計製図 3 塑性工学 3 鋳造・溶接 1.5
材料力学 3 機械設計T 3 信頼性工学 1.5
機構学 1.5 機械力学 3 機械設計U 3
力学 1.5 品質管理 1.5 計算機械 1.5
流体力学 1.5 実験計画法 1.5 産業社会学 1.5
熱工学 1.5 電子工学概論 1.5 経済学 1.5
電気工学概論 1.5 哲学 1.5 治工具取付具 3
科学史 1.5 心理学 1.5 特許法 1.5
日本語 1.5 特別講話 1.5 自動制御 1.5

 大学紛争の真っ只中、講師には一流の大学教授を招き、かなりレベルの高い内容の授業が行われた。東京外語大学の皆川三郎教授(英語)や海江田進教授(英語)、東京電機大学の増田真郎教授(数学)や池田益夫教授(数学)、東京工業大学の河合紀雄教授(力学)や中原一郎教授(材料力学)や室田忠雄教授(塑性工学)や富田幸雄教授(流体工学)や坂田勝教授(機械力学)や片山功蔵教授(熱工学)、埼玉大学の小玉正雄教授(機械設計)、横浜国立大学の米谷茂教授(機械材料・材料試験法)、東京都立大学の加藤博教授(機構学)、早稲田大学の春日井博教授(工場管理)、横浜市立大学の峰岸武晴教授(物理)等、記憶に残る授業の連続であった。この他に優れた多くの社内講師の講義があった。

 この頃、私生活面では、入学当初に入院中の母の看病があり、往復の通勤が唯一の勉強時間帯であった。しかし、母の死から勉学への熱意を失って、成績の低下が顕著になった。結果はともあれ、青春の一時期、この「工業専門学校」は良き思い出となった。

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