構造解析プログラムNASTRAN

構造解析プログラムNASTRAN

 NASTRANは有限要素法による静的および動的な構造解析用のコンピューター・プログラムである。これは米国NASAが開発し、1969年に完成して、IBM360やUNIVAC1108およびCDC6600等のコンピューターで使用可能であった。その機能は、線形および非線形の材料特性を持つ構造物について、静的解析、座屈解析、振動モード解析、振動応答解析、過渡応答解析等が可能であり、数百から数千の自由度を持つ構造モデルをマトリックス法によって効率よく解析される。小職は有限要素法による構造解析の手法に興味を持ち、「円筒セラミック−金属板封止部に働く熱弾性応力」の解析にその適用を試みてから、間もなく構造解析プログラムNASTRANの存在を知った。

 NASTRANの歴史的な経緯は、1964年にNASA本部の提起によって検討委員会が結成された。1695年に予備的な解析と技術的な評価を行って、システムの設計概念が明示され、調査研究を踏まえてその仕様が決定された。1966年から本格的なNASTRANの詳細開発が始まり、CSC(Computer Science Corporation)やマーティン・カンパニーのBD−MM(Baltimore Division of Martin-Marietta)が開発に参加した。1967年に静的解析用の予備バージョンがリリースされ、1968年に試作プログラムを開発し、静的解析バージョンが完成した。そして、1969年に動的解析バージョンを完成させ、開発関係部門に対して、そのレベル8が公開された。1970年になると、そのレベル12が米国内の一般産業用の技術援助を目的として公開され、NASTRANの保守改良担当部門NSMO(NASTRAN System Management Office)の管理下に移り、MSC(MacNeal-Schwender Corporation)がNASTRANの全面的メンテナンスをNASAと契約した。そして、1971年にMSC/NASTRANが誕生し、従来の標準レベルのCOSMIC(Computer Software Management and Information Center)バージョンと分離した。1972年にはNSMOがCOSMICバージョンのレベル15を一般公開した。日本にNASTRANが入ったのは、1973年であり、CRC(センチュリー・リサーチ・センター社)がMSC/NASTRANを導入し、日本IBMがCOSMICバージョンのレベル15.1を導入した。1974年にMSC/NASTRANが大幅なバージョン・アップを行うとCOSMICバージョンもレベル15.5をリリースした。その後、MSC/NASTRANのレベルアップが進み、新しい解析手法や新機能が追加され、効率の大幅な改善がなされ、COSMICバージョンとの差が拡大した。

 1975年頃、小職は一般公開されているCOSMICバージョンのNASTRANのソース・プログラム・コードを入手し、その解読をする機会を得た。ソース・プログラムはIBM系のEBCDICコードで書かれていたが、NECコンピューターはASCIIコードであり、その変換作業から着手した。NASTRANプログラムの大きさは、約30万ステップであり、約900本のサブルーチンからなっていた。また、24本のサブルーチンはIBM360のアッセンブラであり、14のリンク数と約500個のセグセント数が存在した。当時、NECコンピューターは、NEAC2200系からACOS系への移行期であった。そこで、NASTRANプログラムのコンバージョンを試みたが、コンピューター諸元の違いから、残念ながら完全な形で移植することができなかった。そして、この時に苦労した事がコンピューターの基本原理を理解する基盤となった。なお、NASTRANで解析可能な固定フォーマットは以下のようであった。

  1. 基本的な静的解析
       数学的解析モデル:[K]{u}={P}
  2. 慣性を考慮した静的解析
       数学的解析モデル:[K]{u}={P}−{Pacc}
  3. 固有モード解析
       数学的解析モデル:[K−λM]{u}=0
  4. 微分剛性を考慮した線形解析
       数学的解析モデル:[K+βi・Kd]{u}=βi{P}
  5. 座屈解析
       数学的解析モデル:[K+λKd]{u}={P}
  6. 段階的な線形解析
       数学的解析モデル:(荷重増分方式)
  7. 直接系の複素固有値解析
       数学的解析モデル:[K+λB+λ2M]{u}=0
  8. 直接系の振動およびランダム応答解析
       数学的解析モデル:[K+jωB−ω2M]{u}={P}
  9. 直接系の過渡応答解析
       数学的解析モデル:[M]{d2u/dt2}+[B]{du/dt}+[K]{u}={P(t)}
  10. モード系の複素固有値解析
       数学的解析モデル:[k+λb+λ2m]{ξ}=0
  11. モード系の振動およびランダム応答解析
       数学的解析モデル:[k+jωb−ω2m]{ξ}={p}
  12. モード系の過渡応答解析
       数学的解析モデル:[m]{d2ξ/dt2}+[b]{dξ/dt}+[k]{ξ}={p(t)}

 なお、私とコンピューターとの出会いは、NECがハネウエル社の技術を吸収して開発したトランジスターおよびIC式のNEAC−2800からである。それは昭和43年頃のことであった。その後、この技術はNEAC−2200シリーズに引き継がれた。そして、この当時の大型コンピューターを使用して、連立一次方程式の解法(マトリックス計算)を試みたのであった。この最初の応用が「円筒セラミック−金属板封止部に働く熱弾性応力」の解析である。その後、海底中継器の圧力容器の設計や衛星搭載用機器の振動解析及び各種の電磁現象の解析等に挑戦し、IBM360やCDC6600およびFACOM230等の使用経験を経て、スーパーコンピューターCRAY−1の使用を試みる機会にも出会った。当時のコンピューター利用技術の最先端を体験したのであった。

(文責:yut)

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