コラム:サプライチェーンマネジメント(SCM)の本質

サプライチェーンマネジメント(SCM)の本質

 サプライチェーンは、顧客価値創造機能のビジネスプロセスを連鎖させ、調達・供給・生産・物流を効率的に無駄なく連携させる仕組みの構築である。特に、製造業では、経営のスピード化と生産性向上によるコスト低減が必須であり、購買、生産、販売、物流、人事、経理など、あらゆる部門の無駄を削ぎ落とす必要がある。現代の企業経営は、企業の資産が強みではなくなり、キャッシュ・フローを重視した経営が求められている。グローバルな大競争時代に対応するには、情報技術を活用したオープン経営、自社のコアコンピタンスの徹底追求が求められる。顧客へのサービスを維持・向上させ、業務の効率化、棚卸圧縮、調達から生産・販売までの時間短縮などが不可欠である。それは売れる商品を素早く、過不足無く、市場に供給し、余剰な仕掛や在庫を持たずに、資金回収を短期間に可能にして、スループットの向上とキャッシュ・フローの改善を進めることを意味する。米国では1980年代中頃からのQR(Quick Response)や1990年代からのECR(Efficient Consumer Response)の概念があり、サプライチェーンの初期の考え方があった。SCM(Supply Chain Management)なる経営手法は、グローバル規模の改革を可能にする情報技術の活用を手段に、事業構造の見直しやプロセスの変革など重視する。それは単なる棚卸圧縮や物流コストの削減にとどまらない。調達・生産・供給などのすべての過程においての時間短縮を可能にし、スループットを向上させて、企業のスピート化に寄与しなければならない。このためには、競争力のあるサプライチェーンのビジネスプロセスを設計し、それを企業間のビジネスプロセスに再構築し、そのビジネスプロセスの効率を最大化するための最適なオペレーションを実現することである。これを経営戦略と連動させ、システム的に管理して、その仕組みを構築する考え方とその概念を実現することがサプライ・チェーン・マネジメント(SCM)である。

 SCMは制約条件の理論に基づいている。制約条件の理論(TOC:Theory of Constraints) は、イスラエル人の物理学者ゴールドラット博士が開発した生産スケジューリング手法である。その内容は小説「ザ・ゴール」 にて紹介され、現実の設備能力や段取り時間等の制約条件を同時に考慮することが可能なスケジューリング・ソフトウエアをベースにしている。その基本的な考え方は、システムの目的達成を阻害する最大の要因を制約条件と呼び、製造業で需要が供給(生産能力)を上回っている場合、制約条件は工場内あるいは部材を供給している業者(メーカー)側にある。この場合、工場内の制約条件はボトルネック工程と呼ばれ、制約条件の理論による生産改善手法は、ボトルネック工程を明確にして、その工程の生産能力を最後の一滴まで絞り出し、工場内のすべての知恵を結集することである。需要が供給(生産能力)を下回っている場合、制約条件は市場側にあり、自社製品を顧客に購入して頂くための改善手法は思考プロセス と呼ばれている。

 思考プロセスは、対象領域の根本的な原因になっている1つ又は2つの本質的問題点を見付け出し、その問題点を取り除くという発想に基づいている。したがって、制約条件を集中的に除去するという意味で、思考プロセスも制約条件の理論と同様な考え方である。すなわち、制約条件の理論は、制約条件を見付け、それに集中し、最小限の労力で最大限の成果を出そうとする改善手法である。営利企業の目的が「現在から将来にわたり、利益を生み続けること」とするならば、その達成方法には以下の3通りがある。

  1. 製造業の場合、商品を生産し販売することで、収益(キャッシュ)を得る。これは顧客から受け取るお金から外部の資材メーカー等に支払う代金を差し引いた額である。制約条件の理論では、これをスループット(付加価値)と呼ばれる。
  2. 商品を生産して販売するために、企業内に縛られて眠っているキャッシュを減らすことである。例えば、製品や半製品及び資材等の在庫や仕掛品、設備や建物等の固定資産等に縛られているキャッシュであり、総投資額である。
  3. 企業活動を続けるために必要な経費(固定費)を減らす方法である。

 企業が利益を生み続けるためには、「1.」のスループット(付加価値)を増やすことが最も効果的である。しかし、現実的に、「3.」の固定費削減を重視する傾向がある。問題はスループット増大とコスト低減では、考え方に根本的な違いがあり、その対立の存在がある。ゴールドラット博士が例示したモデルによると、鎖のアナロジーがあり、企業を鎖で表し、鎖の各輪が企業の各部門や各工場の生産工程とする。鎖の重さが固定費に相当し、鎖の重さをそれぞれ個別に減らせば、鎖(企業)全体の重さ(固定費)は、各輪の重さを削減した時の総和になる。つまり、重さ(固定費)の世界では、部分最適化の総和が全体最適になるという発想である。この考え方は、コスト低減においても同じであり、各部門がバラバラに経費を削減すれば、その総和は企業全体の経費削減の総額になる。しかし、それぞれの鎖の強度が問題であり、鎖の強度が鎖を引っ張る時の強度とすると、最も弱い鎖の強度がその鎖(企業)全体の強度となる。すなわち、鎖の強度を上げるためには、最も弱い鎖の強度を強くするだけでよく、他の鎖の強度を強くしても意味がないのである。これは企業のスループットを意味しており、工場の生産能力はボトルネック工程によって決定されることになる。また、生産能力をどんなに保有していたとしても、販売能力が追いつかなければ、生産能力を強化する意味がない。このことは、部分最適の総和が全体最適になるのでなく、各部門の改善は企業全体の目的を考慮して行わなければならない。制約条件の理論は、従来のコストの考え方を脱却することが重要であり、稼働率、仕掛量、納期遵守率等の要因がトレードオフの関係にあることを知っておかなければならない。

 重要な点は、企業のアウトプットがボトルネック工程で決まるという事実であり、スケジューリングにおいて、営利企業の目的である利益最大化に寄与することにある。すなわち、需要が供給を上回っていれば、利益最大化のために、アウトプットを最大化することであり、ボトルネック工程をフル稼働することである。他の工程はフル稼働する必要がない。利益最大化のもう1つの重要な点は、仕掛や在庫の最小化であり、棚卸の徹底した削減である。これにより、生産LTが短縮でき、納期遵守をベースにした顧客サービスが向上し、同時に資産効率が向上する。このことは、非ボトルネック工程はボトルネック工程の生産速度に同期して生産しなければならないことを意味する。結果的に、実行スケジューリングは、全工程を詳細に立案する必要がなく、ボトルネック工程を抽出し、ボトルネック工程の実行スケジューリングを立案して、非ボトルネック工程は生産能力に余裕を持ち、前工程からの仕事をすみやかに処理すればよいことになる。つまり、事前に非ボトルネック工程の詳細な実行スケジューリングを作成する必要がないのである。しかし、各工程に生産トラブル等の不測事態が発生する可能性はあり、このことが原因でボトルネック工程の処理が停止することを避けなければならない。

戻る