マジンガー世界と現実社会との関わりについて


 マジンガーの物語が昭和47年12月2日から昭和52年2月頃までの物語であることは、拙稿「マジンガーシリーズにおける時間の流れ」において証したとおりである。
  次の段階としては、このマジンガーの物語は実際の社会とはどのように絡んでくるかを検証したい。

まず、Z第1話において、ドクターヘルが語るミケーネ人の滅亡は、史実とされる紀元前13世紀のミケーネ文明の崩壊と合致をみせる。
 次は、グレート第47話で、ボスは「オレの理想はこいつなんだからよ」と言って、七つ道具を揃えた武蔵坊弁慶としか思えない人物を想起している。武蔵坊弁慶は、1180年代に、源義経の家来として平家追討に活躍した人物である。
 Z第49話では、ボスは「宮本武蔵や塚原ト伝のように武者修行をする」と云っているが、塚原ト伝は1500年代後半に、宮本武蔵は1600年代前半に活躍した実在の剣豪である。
 Z第72話でも、ボスは「石川五右衛門はさぞ熱かったことだろうなァ」と発言。石川五右衛門は、1594年に豊臣秀吉によって釜ゆでの刑に処せられた天下の怪盗。 
 Z第69話では、九官鳥が「牛若丸」の歌を歌っている。牛若丸=源義経も上記のように実在の人物で、かつ、「牛若丸」の歌は、作者不明ながらも、昭和前期によく歌われ愛された文部省唱歌である。
 『テレビマガジンS49.2』に、ヘルの経歴として「一九四〇年 ナチスの科学者として、むかえられる」と記載される。ヒトラーが政権を取ったのが1933年(昭和8年)である。『テレビマガジンS48.12』には、ブロッケン伯爵が「ドイツの軍隊の将校」と紹介され、その制服はナチスのものである。そして、「戦争で首をとばされてしまった」のである。1939〜1945年の、第二次世界大戦に他ならない。
 この第二次世界大戦については、Z第11話(S48.2.11放映)でも、「戦後28年間」とか、「旧日本軍の本土決戦用」とか、「終戦間近の夏」「B29」と、マジンガー世界でも第二次世界大戦があった世界であることを証して止まない。なお、グレンダイザー第18話にても、宇門博士の言葉によると「第二次世界大戦中、日本軍の要塞があったため、地下に空洞が多い」との発言がある。
 Z第56話。さやかが「ジュネーブ協定」について触れている。この、ジュネーブ協定の捕虜についての条項は、1949年8月12日に批准されている。 
 ZシナリオbT(S47.12.31放映用)では、街のテレビの人だかりを見て、ボスが「アラブゲリラのしわざか」と発言している。S47.9.5のミュンヘンオリンピックにて、イスラエルの選手がパレスチナゲリラに殺害された事件その他を指しての発言と思われる。
 Z第48話(S48.10.28放映)では、ボスが「せまい日本、そんなに急いでどこに行く」「オレ、マジンガーZの代理」という発言をしている。これはS48年の流行語にもなった「せまい日本、そんなに急いでどこへ行く」と、同じくコマーシャルでゴリラのヌイグルミが「オレ、社長の代理」と話すのをパロったものであることは明白である。
 Z第73話(S49.4.21放映)。ボスボロットが資源不足の世相のため、燃料不足に悩まされている。昭和48年10月23日からの原油価格引き上げから始まった「石油ショック」による物価急上昇である。これは翌昭和49年も続き、「狂乱物価」と云われた。

 以上のように、マジンガーの世界は現実の歴史と著しく符合しており、むしろ【現実世界にそのままマジンガーの物語を注入した】ものと云って差し支えない。昭和47年12月1日までは実際の歴史どおりの世界があり、昭和47年12月2日を境に、某作品でいうところのウルトラゾーンのように、「マジンガー世界へ突入した」として良いであろう。そして、マジンガー世界に突入してからも、世相としては現実世界と同じようなことも少なからず起こりつつも、微妙に現実世界からは外れていく、それが「マジンガーワールド」なのであろう。