TA7240パワーアンプ

2012年4月6日公開

はじめに

TA7240パワーアンプ外観

 TA7420APは東芝で開発されたカーステレオ用のパワーアンプICで、かつて秋月電子のパワーアンプキットに採用されていたものです。

 1つのパッケージに2ch分のパワーアンプが内蔵されているので、そのまま2つのアンプを独立に使って(デュアルモード)ステレオアンプを構成するか、モノラルのBTLアンプにするか選ぶことができます。
 データシートによると、出力はデュアルモードの場合で5.8W、BTLモードの場合は19W(負荷4Ω時)、歪み率は0.03%(typ.)〜0.25%(max.)となかなかの性能です。
 増幅率はLM380に比べてかなり高いのが特徴で、40dB(BTL)〜52dB(Dual)といかにもカーステレオ向けのスペックとなっています。。また最大出力電流が4.5Aと大きく、2Ω負荷に対しても、余裕でドライブできるように設計されています(ちなみにLM380の最大出力電流は1.3A)。

 このICを使った秋月電子のパワーアンプキットを、1台のステレオアンプとしてまとめたのが本作です。使用したキットは1993年に購入したものですが、マニュアルには1986年との記述があるので、その頃から販売されていたようです。本作はこのキット1つをデュアルモードとして使用し、ステレオアンプとしています。製作は1994年で、第17作目のアンプとなります。

 

回路

回路図

 右図が本機の回路図で、実家のサブオーディオシステム用として使うことを考えていたため、キットにセレクターとボリュームをつけ、プリメインアンプ風の作りになっています。

 アンプ回路部は秋月のキットそのものですが、キットよりもNFBが多くなるようNF端子に抵抗(430Ω)を挿入しているのが変更点です。

 組み合わせる電源回路はSELの一般用電源トランスとブリッジダイオードの組み合わせという、ごく一般的な構成です。トランスの電流容量が2Aしかないので、TA7240APの電流供給能力を活かしていない嫌いがありますが、このトランスの定格電流を超えるような大音量再生や低インピーダンス駆動での使用は想定していないので、これで良しとしました。

 

製作

内部写真

 回路基板はキットの説明書にあるデュアル回路図・配置図に従って製作しました。キットに付属の基板は、一見ユニバーサル基板風ですが、銅箔面はきちんとパターンになっており、シルク印刷通りに部品を取り付けるだけで完成と、至って簡単です。
 使ったパーツは、基本的に秋月のキットに付属していたものをそのまま使っていますが、入力カップリングコンデンサだけはタンタル電解コンデンサに交換しました。電源トランスには銅箔テープを巻いてショートリングとしましたが、効果の程は不明です。

 ケースはLEADの一般用アルミケースPS−5です。そのまま使うといかにも電子工作風の外観となってしまうので、本作ではアクリル板で別途パネルを用意し、さらにバックに電球をつけて、アンプのロゴや入力セレクターの文字が浮かび上がるようなデザインを試みてみました。ただ実装が適当だったのが災いして、文字が浮かび上がるというよりはいかにも電球で照らしていますという感じになってしまい、これは失敗でした。
 配線についても、右の写真を見ても分かるように全体的に雑な取り回しになっています。今ならもう少し考えてきちんと纏めるところですが、何しろ学生時代の作品なのでいろいろな面でいいかげんです。

 

特性

周波数特性

 本機の周波数特性を下図に示します。
 −3dBポイントで12〜180kHzと、必要にして十分な特性です。変なピークもなく素直な特性です。

周波数特性

歪み率

ひずみ率

 本機の歪み率特性を右図に示します。概ね0.2%前後と、カーステレオ用のアンプとしては標準的な歪み率です。歪み率3%での出力は3Wでした。
 ただデータシートに記載の歪み率はもっと良くて、デュアルモードでも1kHzの歪み率のカーブは0.1%以下になっています。ただデータシートの電気的特性欄にはさりげなく「最大0.3%」と書かれているので、本機の場合でも一応規格内の値です。
 TA7240APの個体差や外付けパーツの影響も疑ってみましたが、外付けパーツやTA7240AP自体を別のものに交換しても、歪み率は改善はされませんでした。
 私の持っているTA7240APは、全部外れだったのでしょうか?

 また単電源SEPP回路ですので、原理的に超低音域における歪み率が悪化しますが、9Hzにおける測定結果にもそれが現れています。このあたりは回路的な限界であり、如何ともし難いところです。

 

矩形波応答

 本機の10kHz矩形波応答波形を下図に示します。8Ωのみの場合は特に問題はなく、下図左のようにきれいな応答波形が得られましたが、0.22μのコンデンサを並列につなぐと下図右のようにひどいリンギングが現れます。今にも発振しそうです。NFBを深めにかけたことの影響で、容量負荷に対する安定性はかなり悪いです。 矩形波応答波形

その他

 ON/OFF法で測定したダンピングファクターは129でした。半導体アンプとしては標準的なところです。
 残留ノイズは、帯域80kHzで1mV、20kHzで0.96mV、IHF-Aフィルタで0.23mVでした(Panasonic VP-7723Bで計測)。データシートには、帯域20kHzで0.7mV(標準)から1.5mV(最大)と記載されているので、ほぼデータシート通りです。ただHiFiアンプとして見ると、若干大きめの値です。

試聴(プラセボ入り)

 データシート記載の歪み率が得られず、容量負荷に対する安定性もいま一つというケチがつきましたが、一応HiFiアンプとして使えるだけの性能はあります。それにアンプは最終的な音質が重要ですので、気を取り直して試聴してみました。DENONのPMA−390Vとの比較試聴となります。
 一聴して十分な音質備えているように聞こえましたが、よくよく聞いてみると、PMA−390Vと比べて分解能が悪いように感じられました。やはり性能上の問題が悪さをしているということでしょうか。
 いずれにしても様々な点で不満が多いアンプですので、いずれ再び手を入れることになると思います。