トラ技/マルツD級アンプ基板セットを使ったパワーアンプ

2017年5月12日公開

はじめに

外観

 マルツエレック社から販売されている高効率D級アンプ基板セットを使ったパワーアンプです。製作は2017年3月。第30作目のアンプとなります。
 このセットは、元々はトランジスタ技術2008年3月号別冊付録企画だったものです。9年前に基板セットを購入して、その後ずっと放置していましたが、最近ようやく製作する気になり、きちんとしたアンプとして仕上げました。
 なおこの基板セットは、まだ現在(2017年)でもマルツエレックで購入できます(型番:MDAMP-TR0803)。

 

回路

結線図

 基板セットの回路は、インターナショナルレクティファイアー社製のIRS2092と、MOSFET、IRFIZ24Nの組み合わせによるD級パワーアンプ回路です。電源電圧±15Vで、25W(4Ω)の出力が得られます。回路の詳細は、マルツエレックの商品説明の下の方にある、PDFファイルへのリンク先をご参照ください。
 基板外の結線図を右に示します。

 

ダイオード挿入

 スイッチングACアダプタの推奨品がもう販売されていないようなので、普通のスイッチング電源を使用しました。15V5Aのものを2台と電流容量にかなり余裕を持たせたはずですが、動作条件によって電源が異常動作する現象に見舞われました。電源に瞬間的に逆方向に電圧がかかり、電源の保護回路が働いてしまったようです。右の写真のように電源入力にショットキーバリアダイオードRK49(サンケン)を挿入し、逆電圧がかからないようにしたところ、異常動作は収まりました。

 

製作

内部写真

 製作したアンプの内部を右の写真に示します。中古のありあわせのアルミケースに入れたので、綺麗な作品とは言い難いです。まあ、鳴ればよいということで…

 

特性

周波数特性

周波数特性

 出力1Wにおける周波数特性を右図に示します。
 出力のLCフィルターは負荷抵抗5.3Ωに最適化されているため、負荷抵抗4Ωや8Ωでは、10kHz以上で周波数特性の乱れが見られます。聴感への影響が懸念されます。

 

歪み率

ひずみ率

 本機の歪み率を右図に示します。PanasonicのオーディオアナライザVP7723Bで測定しました。
 測定では、残留スイッチングノイズの影響を除去するため、20kHzのPreLPFをセットしました。なので、20kHz以上の領域の歪成分は評価されていませんが、非可聴域なので特に問題はないと思われます。
 1〜10Wの1kHzにおける歪み率は0.01%以下と、スペック以上の性能です。100Hzでもほとんど同じ結果でした。5KHzでは1W以上で若干歪みが増えますが、それでも0.1%以下に収まっています。Hi-Fiアンプとしては申し分のない良い特性です。

 

ひずみ率

 負荷抵抗による歪み率の違いを右図に示します。負荷抵抗4Ωで若干歪み率が悪化しますが、それでも0.015%前後と特に問題になるような値ではありません。
 最大出力は、歪み率1%を基準にすると、負荷抵抗8Ωで13W、4Ωで25Wとほぼスペック通りの出力が得られました。ただし、この時点で出力波形は明らかにクリップしているため、この値を最大出力とするのは少し抵抗があります。クリップする直前の出力は8Ωで11W、4Ωで22Wで、これが実質的な最大出力と言えるでしょう。

 

残留ノイズ

ノイズ波形

 本機の無入力時のノイズ波形を右図に示します。180mV(p-p),625kHzの信号が観測されました。またもっと高い周波数領域のノイズもあるようです。いずれもD級アンプ特有のスイッチングによるノイズで、出力のLCフィルタで除去できなかったものです。ただ周波数が高いので、この信号による聴感上の影響はあまり無いものと思われます。AMラジオに影響するかもしれませんが…
 オーディオアナライザVP7723Bで計測したノイズ電圧は、聴感補正Aフィルタを使った場合40μV、80kHzのLPFを使った場合では174μVでした。

 

試聴(プラセボ入り)

 当サイトのリファレンスアンプ、DENON PMA-390Vと聞き比べを行いました。ちょっと聞いただけでは聞き分けることが難しいぐらい、普通のHi-Fiアンプの音質です。ただ注意して聞くと、高域が甘く、弦楽器のしなやかさにやや難があるように感じられました。高域における周波数特性の暴れが影響しているかもしれません。一方、中低域の解像度は良いように思われました。本基板セットが1chあたり2千円強で購入できることを考えれば、中々なものだと思います。
 今回製作したセットの使用パーツ、特にカップリング用の電解コンデンサはごく普通の一般品で、これをオーディオ用に変えれば音質改善の可能性はあります。マルツエレックから、本基板セット対応のアップグレード用コンデンサの詰め合わせも販売されているようなので、試してみるのも良いかもしれません。