前の検討で、CMoy回路ではオペアンプの違いが、顕著に歪み率に現れることが分かりました。こうなると他のオペアンプでも試したくなります。そう言う訳で、手持ちのデュアルオペアンプを総動員して、それぞれ歪み率を評価してみました。
エントリーしたオペアンプは、手元にあったデュアルオペアンプ28種類です。これを全て前の記事のようなグラフにまとめるのはちょっと大変なので、出力を1.2mWに固定し、負荷抵抗33Ωと100Ωにおける1kHzと10kHzの、計4点の歪み率を測定し評価する事にしました。
1.2mWとしたのは、代表的なヘッドホンの感度が、95〜105dB/mWで、普段聞く音量でのピーク値が大体この辺りだろう、と言う理由からです。ちなみに1.2mWを電圧に直すと、負荷抵抗33Ωの場合は約200mV、100Ωの場合は約350mVとなります。
CMoy回路を製作された方の参考になるように、測定は、オリジナルのCMoy回路で行いました。出力抵抗R5は51Ωです。ただ、バイポーラ入力のオペアンプも評価できるように、入力抵抗R2は10kΩにしてあります。
結果を下に示します。数値の単位は%です。
見やすいように歪み率のオーダーで色分けしました。緑の枠が歪み0.1%以下、黄色が0.1%〜1%、赤が1%以上となっています。Scoreは歪み率の値に独自の重みを付けて、点数化したものです。重みの付け方で順位が若干変わりますが、大まかな目安にはなると思います。
ナショナルセミコンダクタのオーディオ用オペアンプ3種の性能が光っています。
オーディオ用オペアンプの定番、5532も上位に食い込んでいます。さすがです。
NECのオペアンプは、ちまたではあまり評価されていないようですが、歪み率の点ではかなり健闘しています。
CMoyオリジナルで使われていたバーブラウンのオペアンプ(OPA2134、OPA2604)はあまりぱっとしません。10kHzでの歪み率の悪化が著しいためです。総合的には新日本無線のオペアンプの方が却って良いという結果です。
おもしろいのは新日本無線のNJM4556Aが非常に良かった事で、LM4562に迫る低歪みです。
CMoy回路でオペアンプの評価を行ってきましたが、如何だったでしょうか?
ただこの結果を利用するにあたって注意が必要です。たとえばNJM4556Aはかなり良い成績でしたが、これはNJM4556Aが高出力電流タイプのオペアンプで、まさにCMoy回路のような用途に使う事を想定して、設計されているためです。逆に言うと、一般のオペアンプは、こういうヘッドホンを直接駆動するような使い方は想定されていないから、性能が出ないという事です。
同様に、LM4562や5532のスコアが高いのは、オペアンプ自体の性能もさることながら、600Ωラインの駆動を想定して、それなりに出力電流が取れるように設計されているためと考えられます。
例えるなら、一般のオペアンプにとってCMoy回路での評価は、言ってみればハンディマッチ戦という事で、オペアンプ本来の用途で評価した場合、また違った結果になるだろうということです。
無粋な事を書いてしまいましたが、CMoy回路も広く普及しているようですので、上のデータはCMoy回路の範囲内で参考になるかと思います。また歪み率は、必ずしも聴感上の音質と一致しないので、歪み率が悪いからダメだというものでも無いと思います。ただ物理特性としては上のデータの通りですので、そのことを念頭に置いた上で、好みの音質のオペアンプをチョイスされれば良いかと思います。
白状すれば、実は私もAD746の方がLM4562よりも好みだったりします・・・単なるプラセボかもしれませんが・・・。