インプットトランス式SEPP回路の実験(5)−温度補償−

2012年3月20日公開

はじめに

 前回の実験で、思いがけず普通のダーリントン接続の方が良いことがわかりました。ただ2つのトランジスタの温度特性が動作点に影響すると思われるので、何らかの温度補償が欲しくなります。温度補償としては、バイアス回路にダイオードを用いて補償するのがよく行われているやり方ですが、性能への影響はどうなのかと言う事を検討してみました。
 

評価回路

温度補償の評価回路

 バイアス回路にダイオードを挿入し、温度補償をかけた回路を右に示します。ダイオードはパワートランジスタ2SD235に接着して、パワートランジスタの分を補償するようにしました。本来ならもうひとつダイオードを追加して2SC1815の分も補償すべきなのでしょうが、こちらは熱暴走の危険は無いと判断し、補償はなし、すなわち抵抗器で済ませました。

 

性能評価

動作点の安定性

歪み率

 これまではパワートランジスタの発熱によりアイドリング電流は増加したままでしたが、ダイオードを挿入したことによる温度補償が働き、アイドリング電流の増加はある程度抑えられるようになりました。
 ただ完全補償されているという訳ではなく、エミッタ抵抗の両端の電圧を監視していると結構ふらついています。文献によると、インプットトランス型SEPP回路はバイアス電流の制御が難しいとの記述かあったので、これは回路本来の欠点なのかもしれません。

歪み率

 1kHzにおける歪み率を右図に示します。
ダイオードで温度補償した回路では歪み率が悪化しています。ただ抵抗値のほうを小さくして、バイアス回路に流れる電流を増やすと歪み率は徐々に減少し、12Ωの場合、抵抗のみの場合に比べて若干歪み率が悪化するものの、ほとんど遜色ないところまで改善されます。

 

まとめ

 今回の実験で、バイアス回路に温度補償用のダイオードを付加することで、アイドリング電流をある程度安定化させることができました。ただ完全に補償できたわけではなく、さらにダイオードの付加が歪み率の悪化を招くことも分かりました。

 過去の作例を見ると、温度補償を行わず抵抗のみで済ませている作成も多いようです。余裕のあるトランジスタを用い、十分大きな放熱板を用いれば、前段とはトランスで分離されていることも相まって、案外熱暴走はしないのかもしれません。
 とは言うものの、本回路は2電源式でスピーカーとは直結しており、動作点の不安定さは、出力の直流漏れを引き起こす可能性があるのり、できるだけ避けたいところです。やはり温度補償ダイオードを入れて、歪みが少なくなるようなるべく低いバイアス抵抗を使ういう方針が、良いのではないかと考えられます。

参考文献

 「実験で学ぶトランジスタ・アンプ設計法」 黒田徹著 ラジオ技術社