LM380はナショナルセミコンダクター社のパワーアンプICで、外付け部品も少なく使いやすいことから、ビギナー向け電子工作の定番ICとなっています。そのせいか、使いやすさだけが特徴であり、性能的には多くを望めないような感じを受けがちです。 私自身も小中学生の時に使って以来、あまり見向きもしなかったのですが、実際のところどの程度まで性能を出せるのか、検証してみることにしました。
データシートを見ると、周波数特性は1MHz弱まで伸びており、オーディオ用としてはいささかオーバースペックです。応用として超音波ドライバーと書かれているところから、オーディオ用以外の用途も視野に入れた設計なのかもしれません。
出力は8Ωの負荷で2.5Wと書かれていますが、これは電源電圧が18Vの場合で、ICの耐圧いっぱい(22V)まで電源電圧を上げれば、5W程度は出るようです。(アプリケーションノートAN-69のFig.3bから。)ただしこの場合放熱をしっかりやらないと、熱でICが破壊されるので、注意が必要です。
増幅度は50倍(34dB)固定で、インターフォンやラジオ用には使いやすいですが、オーディオ用パワーアンプとして使うには少々高めの増幅度です。
歪み率は0.2%と、カーステレオ用のパワーアンプICとしてはまあ一般的なところですが、ピュアオーディオ用には苦しい数字です。
まずは標準的な使用での性能を検証します。
LM380の6ピンは反転入力、2ピンは非反転入力となっており、どちらかのピンを入力とすることで反転増幅器もしくは非反転増幅器として使用することが出来ます。今回は反転と非反転の両方の増幅器を作り、両者の違いも検証してみました。
非反転では500kHzまできれいに伸びています。データシート通りの結果です。反転の方も超高域で非反転に若干劣る物の、オーディオ用には十分な特性です。周波数特性については十分な性能といえるでしょう。
100kHzにおける正弦波の応答波形です。マイナス側にスイッチング歪みとおぼしき歪み波形が観測されました。ただ歪みとは言っても、可聴領域を遙かに超えた周波数での現象なので、聴感への影響はほとんど無いと思われます。
ちなみに1kHzと10kHzでは、至ってきれいな波形で、目に見えるような波形上の歪みは見えませんでした。
非反転増幅と反転増幅で、若干傾向が異なっています。興味深いデータです。
非反転増幅では出力に応じて歪みが増えてますが、反転増幅では出力がクリップするまで歪みが減るという結果となっています。
100mWの以下領域での歪み率は概ね0.1%以下と、データシートよりも良い値です。これはデータシートが雑音を含んだ、雑音ひずみ率(THD+N)なのに対して、このデータは正味のひずみ率(THD)であるためと考えられます。
測定の結果、ほぼデータシートに準じた結果が得られました。反転増幅と非反転増幅で違いが見られたのは興味深いと思います。
この結果からすると、一般向けにはそれなりに使えるとは思いますが、オーディオ用としてはもう一息性能がほしいところです。もう少し工夫して、性能を引き出して見たいと思います。