NFBをかけることで、特性改善が可能なことは分かりました。しかし、11dB以上のNFBをかけると発振してしまいます。たとえば前回の回路図において、RNFを10kΩにすると発振してしまいます。何とか止めることはできないでしょうか?
ヒントはLM380のアプリケーションノート、AN−69の"FIGURE 13. RIAA Phono Amplifire"にありました。この回路はLM380によるNF型イコライザーアンプですが、1kHzにおいて23dBものNFBがかかっているにもかかわらず、動作するとあります。この回路を見て気が付くのは、2ピンと6ピンに跨ぐ形でコンデンサを付加されていることです。ここに発振しない秘密がありそうです。
早速、右の回路図のように、2ピンと6ピンに跨ぐ形で1000pFのコンデンサを付加したところ、RNFを10kΩにしても見事に発振しなくなりました。
最初にRNFの値と利得との関係を示します。
RNF | ∞ | 33kΩ | 20kΩ | 10kΩ |
利得 | 34dB | 26dB | 23dB | 19dB |
NFB | 0dB | 8dB | 11dB | 15dB |
周波数特性を計りながら、追加コンデンサの最適容量を検討しました。上のグラフが容量を変えたときの、周波数特性の変化です。1000pFでは、まだ若干ピークが残っています。逆に0.01μFだと、高域の落ち込みが激しく、可聴領域にも影響します。したがって2200pF〜6800pFあたりが適当と思われます。
8Ω負荷、RNF=10kΩ、発振止めコンデンサ1000pF使用時の、100kHz矩形波応答波形です。少しリンギングが出ています。
上と同じ条件で、負荷として8Ωに0.1μFを並列接続した場合の応答波形です。この条件で容量性負荷に対する安定性が分かります。見てのとおり発振こそしませんが、リンギングが激しくなっています。
今度はコンデンサを4700pFに変えて、上と同じ8Ω+0.1μF負荷で測定してみます。波形が少しなまってしまいましたが、リンギングは収まっています。コンデンサの容量としては、このあたりが適当なようです。
最後に高調波歪み率を示します。RNF=10kΩではさらに歪み率が下がっているのが分かります。ただ、出力がある程度大きくなったとたんに、歪み率が悪化しているのがわかります。
実は、この歪みの急上昇は出力のクリップではなく、入力側の飽和が原因です。データシートによると、LM380の入力側の最大定格は±0.5Vとはっきり記載されています。NFBによってゲインを下げたことで、出力がクリップする前に入力の方がこの制限に近づき、信号が歪んでしまうということです。
発振止めコンデンサの挿入でより高いNFBをかけることができ、さらなる低歪み化が実現しました。しかしその代償として、入力側の制限により、最大出力付近の性能は逆に悪化してしまいました。もともとこういう使い方をするICではないので、仕方がないといったところです。
現実的には、NFBは10dB程度(RNF=20k)にとどめて、発振止めのコンデンサを軽く入れておくのが、バランスの良い使いかたかと思います。