LM380(4)−単電源SEPPの問題点を検証−

2008年4月4日公開

単電源SEPPの動作と問題点

 LM380の出力段は、単電源SEPP(Single Ended Push-Pull)と呼ばれる形式になっています。この回路は、その名の通り電源がプラス側だけあれば良いので、使いやすいと言えばその通りなのですが、実はいくつか問題があることが分かっています。

 まず、SEPP回路の出力はNPNとPNPのトランジスタの中点から取り出しますが、単電源の場合この中点には電源の1/2の電圧がかかっています。したがってスピーカーをダイレクトに接続することは出来ませんので、アウトプットコンデンサを挿入して直流分をカットする必要があります。
 スピーカーのインピーダンスは8Ω、場合によっては4Ωと非常に低いので、十分容量の大きなコンデンサを使わないと、低音がカットされてしまいます。ちなみにアウトプットコンデンサとして1000μFを使った場合、20Hzで約8Ωのインピーダンスを持つことになります。決して無視出来る値ではないことが分かります。この問題点については、いろいろなところで説明されているので、良く理解できると思います。

単電源SEPPの動作

 実はもう一つ、あまり触れられていない、もっと重大な問題点があります。右の回路図は単電源SEPPにおける、電流の経路を示したものです。赤い矢印は信号がプラス側の時、青い矢印は信号がマイナス側の時の、電流の流れをそれぞれ示しています。Ccはアウトプットコンデンサ、Csは電源回路の平滑コンデンサ、rsは電源回路の内部抵抗です。

 B級動作の場合、信号がプラス側の時は下のPNP−Trがカットオフし、電流は
 電源(Cs+rs)→NPN-Tr→Cc→SP→電源
と言うループになります。マイナス側の場合は、逆に上のNPN−Trがカットオフし、Ccに充電された電荷でスピーカーを駆動します。したがって電流は、
 Cc→PNP-Tr→SP→Cc
と言うループを形成します。

 すなわち、信号の上半分と下半分で経路が違うわけです。違いの部分は電源(Cs+rs)であり、交流的にCs+rsはゼロ(すなわち理想電源)と近似できるなら、違ったとしても問題は生じません。しかし、実際にそのような近似が成り立つのは、一部の周波数領域の話であり、特に低域ではCsのインピーダンスが無視できなくなるので、歪みを生じることになります。Csに10,000μFを投入したとしても、20Hzでのインピーダンスは0.8Ωと、スピーカーのインピーダンス8Ωの10%もの値です。

 この信号経路の違いによって歪みを生じることが、アウトプットコンデンサ付き単電源SEPPの決定的なウィークポイントであり、Hi−Fiアンプから、この方式の回路が駆逐された理由でもあります。

測定

歪み率の周波数特性

 理屈は上の通りですが、本当にそうなっているのでしょうか?
 実際に、歪み率を測定して検証してみることにしました。

 右のグラフは、出力100mW時における、歪み率の周波数特性です。NFBをかけたときの特性も測定しておきました。ちなみにアウトプットコンデンサは1,000μF、平滑コンデンサは10,000μF+1,000μFです。

 予想通り、低域になるほど歪み率が悪化しています。この傾向はNFBをかけても同じでした。残念ながらLM380では、低域での低歪み増幅は期待できないようです。

 

おわりに

 単電源SEPPの問題点は、前から本を読んで知っていましたが、実際に測定して検証したのはこれが初めてです。アンプが物理の法則に従って動作することがよく分かる結果です。高価なオーディオ用パーツに凝るのもいいですが、私としては、こういう事も突き詰めていきたいと考えています。

 測定値としてはこのような結果になってしまいましたが、、これがどのように聴感に影響するかは、また別に考える必要があります。特にNFBをかけると、低域で悪化しているとは言っても高々0.1%前後の歪み率で、簡単に聞き分けられるレベルではないです。この辺は、実際に作ってみて音を聞いてみて、判断すべきだと思います。

参考文献

 「トランジスタアンプの設計と製作」木塚 茂著、ラジオ技術全書26
 「基礎トランジスタアンプ設計法」黒田 徹著、ラジオ技術社