LM380のNFBによる特性改善については、すでにWeb上で、"LM380革命"という衝撃的なネーミングで発表されています(検索をかければすぐにヒットします)。
右がその回路で、見ての通り反転増幅回路となっています。
これまで検討してきた回路との違いは、非反転入力(2ピン)がオープンであることと、反転入力(6ピン)とNFB抵抗との間にコンデンサが挿入されていることです。これは、非反転入力がオープンなので、反転入力も直流的に切り離して、入力バイアス抵抗のバランスを取り、出力中点電位の変化を防ぐという作用があります。
さっそく回路を作って、測定してみました。
ゲインの実測値は+23dBで、NFB量は11dBとなります。これ以上NFB量を増やすと発振します。設計者は発振しないぎりぎりのところで、帰還抵抗値を決めたようです。
周波数特性はNFB量に応じたものとなっており、もちろんオリジナルより大きく改善されています。
右図、赤の曲線が革命アンプの歪み率の実測値です。NFBなしの歪み率(黒の曲線)に比べて改善されています。特に1W付近の歪み率が、オリジナルでは0.1%を超えているのに対して、革命アンプでは0.1%を割っており、Hi−Fiアンプとしても十分通用する数値です。まさに革命ですね。
ただこの革命アンプ、発振予防のため2ピンと6ピンの間にコンデンサを挿入すると(下図の右の回路)、歪み率が大幅に悪化することも分かりました。2200pFのコンデンサを挿入したときの歪み率を示したのが、革命C(紫)の曲線です。歪み率が大幅に悪化しているのが分かります。
これは本来グラウンドレベルであるべき非反転入力に、発振予防コンデンサを介して信号が入力されているためと考えられます。したがって非反転入力を単純にグラウンドに接続すれば、歪み率の悪化はなくなるはずです。ただ直接グラウンドに落とすとICの動作点に影響することから、抵抗とコンデンサを介してグラウンドに接続したほうが良いと考えられます。
実際に非反転入力から4.7kΩと10μFを介してグラウンドに接続した場合(下図の左の回路)の歪み率の測定結果が革命C2(緑)の曲線です。発振予防のコンデンサがついていても、歪み率の悪化は認められず、考察は通りの結果といえます。さらに言うと、低レベル領域の歪み率がより改善されています。
さっきも書きましたが、NFB量は発振しないぎりぎりの量です。余裕がないため、実装や負荷条件によって発振する可能性が高くなっています。製作される方は次の点に留意して製作して下さい。
・電源ライン、アースラインは太い線でしっかりと配線し、電源インピーダンスを下げる。
・スナパ回路(出力に並列に取り付けてある、2.7Ωと0.1μFからなる回路)は必ずつける。
・ICの電源ピンのすぐそばで、0.1μFと1000μF程度のバイパスコンデンサを設置。
(0.1μFは高周波特性の良いもの(積層セラミックなど)を使って下さい。)
・実装に自信がなければ、帰還抵抗100kΩを150k〜220kΩ程度にしてNFB量を減らす。
(若干性能は悪くなりますが、それでもオリジナルより性能は良いです。)
・より強力な発振防止策として1000pF〜4700pFのコンデンサを2ピンと6ピンの間に挿入し、
さらに2ピンから4.7kΩと10〜22μFを介してアースに落とす(革命C2回路)。
こうすることで歪み率もさらに良くなります。
LM380はかなりの高周波(数百kHz〜MHz)で発振するので、測定器がないと気がつかないかもしれません。オシロスコープを持っていない方のために、簡易的な発振の見分け方を記しておきます。
・鳴らしてもいないのに、消費電流が異常に多い(正常値は7〜25mA)。
・ICがやたらと熱くなる。
・スナパ回路の抵抗が熱い、もしくは焼ける。
大切なスピーカーにダメージを与えないためにも、スピーカーの代わりに抵抗器(8〜10Ω)をつないで、消費電流のチェックぐらいは行って下さい。気を付けて頂きたいのは、上記の症状が無くても発振している場合もある、ということで、例えば条件付発振などはなかなか分からない場合も多いです。本当はオシロスコープを使って、様々な条件下で波形を観測することをお奨めしたいです。
蛇足ですが、回路定数を変更したほうが良いと思われる個所がありますので、それも書いておきます。
・出力の470μFは少々容量が低いので、1000〜2200μFに変えたほうが低域特性は良くなる。
・逆に入力の10μFは大きすぎるので、0.1〜0.47μFに変更したほうが良い(理由はまた後日)。
革命アンプは反転型増幅器ですが、反転型増幅器は、
・入力インピーダンスが帰還抵抗で決まるためあまり高くできない。
・入力源インピーダンスでゲインが変動する。
と言ったやや使いにくい面があります。
入力インピーダンスについては、NFB抵抗の比を保ったまま高抵抗を使うことで高くできます。たとえば入力インピーダンスを47kΩにしたい場合、NFB抵抗は47kΩと1MΩの組み合わせとなります。しかし、これだけ抵抗値が高いとノイズを拾いやすくなることや、浮遊容量の影響も大きくなるため、実装面で性能を出すのは難しくなります(もちろんやってやれないことはありません)。
一方、右図の回路に示す非反転型は、
・入力インピーダンスを高く取れる(150kΩ)。
・入力源インピーダンスによるゲイン変動がない。
・発振防止コンデンサを挿入しても、歪み率が悪化しない。
・実測では、歪み率は反転型より若干良い。
と言った特徴があり、反転型より使いやすいように思います。
参考までに同じNFB抵抗値で非反転型にした場合の歪み率を、歪み率グラフの青の曲線で示しました。どちらを採用するかは、使用条件とか設計者の考えで決めればよいのですが、当サイトでは使いやすい非反転型の方をお奨めしたいと思います。
非反転増幅型の革命アンプということで、非革命アンプとでも呼びましょうか・・・