クリスキットP35の回路を参考に試作したディスクリートヘッドホンアンプ(右写真)ですが、原回路の構成を尊重しつつ、性能改善が図れないか検討しました。
まずバイアス回路にコンデンサを追加しました(下の回路図の青矢印)。
文献によると、このコンデンサはバイアス回路をバイパスするためのもので、出力段トランジスタのベースから見たインピーダンスを等しくし、高域の歪み率を改善する効果があります。
追加したコンデンサは10μFのタンタルコンデンサです。ある程度の容量で高周波特性の良いコンデンサと言うことでチョイスしました。タンタルコンデンサはショートモードで故障するので、使う場所を選ぶのですが、このバイパスコンデンサの場合、ショートするとバイアス電圧がかからなくなり、最終段のアイドリング電流が0になるだけなので、安心して使用することが出来ます。もちろんオーディオ用低ESRコンデンサでも良いですが、漏れ電流が多いものは避けた方がよいと思います。
バイパスコンデンサ追加による歪み率の変化を下のグラフに示します。
1kHz(左)ではあまり変化はありませんが、10kHz(右)ではコンデンサ追加により明らかに歪み率が改善されていることが分かります。まさに文献に書いてあった通りの結果です。
結論として、本回路においてバイアス回路にバイパスコンデンサを付けた方が良いという結果になりました。
次に低インピーダンス負荷時の歪み率を改善するため、出力電流の供給能力を増やすねらいで出力段をパラレル化しました。回路図を下に示します。
この回路の負荷33Ωにおける歪み率を右のグラフに示します。100Ω負荷の場合の歪み率も、細線で同時に示してあります。
ねらい通りパラレル駆動にすることで歪み率が改善されています。特に33Ω負荷における歪み率の改善は著しく、ヘッドホンアンプとして十分実用に耐える特性です。
原回路の構成を崩さない程度に改良を加えましたが、いずれも大成功でこのままヘッドホンアンプとして使えそうです。
ただ今になって思えば、最終段に4石使うならパラレルではなく、ダーリントン接続にした方が良かったかもしれません。クリスキットP35もそうなっています。その点が心残りと言えば心残りですが、パラレル駆動回路もそう捨てたものでもないと思いますので、もう1回路作ってヘッドホンアンプとして仕上げたいと思います。
「定本トランジスタ回路の設計」 鈴木雅臣著 CQ出版