オールド98ノート バッテリー復活作戦・充電編
2000年5月24日公開
警告!
本記事はバッテリパックの改造を取り上げていますが、これらの改造は、あくまでも個人の責任で行ってください。筆者、メーカー、その他関係者はいっさい責任を負いません。改造行為によりメーカー保証を受けることができなくなることも、ご留意ください。また、改造に関する問い合わせをメーカーにしないでください。迷惑になります。技術と知識、経験に自信のない方は、本記事を単なる読み物としてのみ、楽しんで頂くようお願いします。
バッテリの充放電に関する改造は十分な知識を持って行わないと、バッテリが使えなくなるだけでなく、液漏れ、破裂、爆発などの事故を引き起こす場合があります。特に注意を喚起しておきますが、バッテリパック改造においてリチウムイオン電池は絶対に使わないでください。不適当な充放電によって容易に破裂・爆発します(実際、過去にそういう事故があったそうです)。
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98ノートで単三ニッカド電池に充電したい
電池交換によって98ノートのバッテリパックは見事によみがえりました。ところが実際に使ってみると、充電のたびに電池を出してニッカド専用充電器にセットしなければならず、使い勝手は最悪です。できれば98ノートで充電したいのですが、98ノートに内蔵の充電回路が単三ニッカド電池に適合するかどうか分からないため、いきなり充電をかけてしまうのは安全の面からためらわれます。しかしそこで諦めてしまえばそれまで。ニッカド電池の特性や充電方法を十分に調査し、充電特性の詳細な実験を通じて、98ノートから単三ニッカド電池への充電が可能かどうか、検証してみたいと思います。
ニッカド電池の充電
ニッカド電池の充電についてWebで検索した結果、多くのサイトが記事を掲載していることが分かりました。特に、ミニ4駆やラジコン系のサイトで詳しく扱われているようで、いくつかのサイトを見て回った結果、かなりの知識を得ることができました。
(「ラッシーのラジコンヘリコプター(http://www2s.biglobe.ne.jp/~lassie/maegaki.html)」とか「Wakizawa先生のニッカド電池のお話(http://www02.u-page.so-net.ne.jp/ka2/beyan/battery.htm)」などご参考に)
ニッカド電池の充電について簡単にまとめてみると、以下のようになります。
充電はニッカド電池のプラス側からマイナス側に電流を流して行います。この電流で電池内に化学反応が生じエネルギーが蓄えられるわけです。この化学反応は吸熱反応ですが、実際に吸収される熱はごくわずかなため、電池内を流れる電流が発する熱と相殺され、電池温度はほとんど変化しません。一方、電池内にエネルギーが蓄えられるにつれ端子間の電圧は次第に上昇していきます。そしてこのまま電流を流していくと、ある時点でエネルギーを蓄える反応が終わり、フル充電の状態になります(もっと詳しく言うと、プラス側とマイナス側で反応終了のタイミングは異なるのですが、この説明では省きます)。
ニッカド電池の充電特性
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そのあと電池を流れる電流は、今度は電池内の電解液の電気分解に使われるようになり、その結果、水素ガスと酸素ガスが発生します。この水素ガスと酸素ガスは電解液内の触媒によって再び反応し水に戻りますが、これは大きな発熱反応であるため、この段階で電池温度は上昇していきます。もし、電流が大きかったり電気分解が長時間にわたったりすると、触媒が発生するガスを処理できなくなり、結果、ガスが安全弁から放出されるようになります。その結果、ガス放出に伴う電解液の漏出、電解液の減少、電池加熱によるセパレータの劣化が起こるようになります。これがいわゆる過充電と呼ばれるもので、この状態になるとニッカド電池は著しく劣化していきます。
またガスの発生が急速で、安全弁の処理能力を超えると、電池内圧が上昇し最終的に電池破裂・爆発を引き起こします。
以上の話から、電池を痛めず安全に充電するためには、フル充電の時点で充電を停止することが重要であることが分かります。問題はどうやってそれを検出するかです。やり方は2つあります。
1つは電池温度を検出する方法です。先に書いたように、フル充電後、充電電流は電気分解に消費されるため電池温度が上昇します。この温度上昇を検出して充電を停止すればいいわけです。この方法は確実に充電終了を検出でき過充電もほとんど避けられる優れた方法ですが、温度検出センサーが必要なため、複雑で高価なものになりがちです。このため一部の高級充電器でしか採用されていないようです。
もう一つの方法は、ニッカド電池の端子間電圧の変化を計る方法です。というのは、ニッカド電池の充電時の端子間電圧は負の温度係数、すなわち温度上昇によって端子間電圧が低下するという性質を持っています。したがって端子間電圧の低下を検出することで、間接的に電池温度上昇を検出でき、充電終了を判断することができるわけです。これがいわゆる−ΔV法と呼ばれるもので、端子間電圧をモニターするだけでよく、回路化しやいため、大部分の充電器はこの方法を採用しています。ただ問題は、間接的に温度上昇を検出する方法であるため、充電終了を判断し損なう場合があることです。このため、安全のため温度スイッチ(サーモスタット、温度ヒューズ)やタイマーを併用することが多いようです。
以上2つは充電終了を明示的に判断する方法ですが、それ以外に電池容量の1/10ぐらいの電流で一定時間充電するというやり方もあります。電池の状態によって、充電途中でフル充電となりガスが発生することも想定されますが、電流が小さければ電池内の触媒でガスを十分処理でき問題はない、という発想に基づいています。電池の安全マージンに頼った方法とも言えるでしょう。充電器としては電流制限抵抗だけあればよいので、回路的には最も簡単です。したがって簡易型の充電器で使われているようです。電池の容量と充電電流・時間をきちんと管理すれば過充電もかなり防ぐことができます。ただし、電池の容量・状態の変化によって過充電を起こしがちで、電流が小さいとは言っても過充電は確実に電池を痛めるため、あまり良い充電法とは言えません。
謎のデバイスの正体
これがそのデバイス
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さて、ニッカド電池の充電の詳細は分かりました。次に考えるのは、98ノートがどういう充電方法を採用しているかです。いきなり充電をかけて、電流・電圧特性を計るのもいいですが、その前に、バッテリパックに内蔵されていた謎のデバイスが何なのかを、まず調べましょう。
このデバイスが電池に密着しているところから考えると、何らかの温度センサーであることが予想されます。室温下で抵抗値を計るとほとんど0Ωを示します。温度が高くなると抵抗値はどうなるかを実験してみました。
実験風景
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実験は、ウオーターバス(ヒーターの付いた水槽)に水を張り、その中に謎のデバイスを入れ、水の温度とデバイスの電気抵抗をプロットすることで行いました。水温を均一にするためスターラー(攪拌器)も回しました。ちなみにウオーターバスとスターラーは借り物です。右の写真は実験風景です。
その結果ですが、水温75℃まで全く抵抗値に変化は見られず、75℃で突然抵抗値が無限大になり、それ以上の温度ではずっと無限大のままでした。ヒーターを止めて水温を下げていくと、55℃で再び抵抗値が0Ωにもどりました。3回実験を繰り返してみましたが、結果は同じでした。
実験結果から、謎のデバイスの正体は単なる温度スイッチであることが分かります。ON−OFFに大きなヒステリシスがあるところから、バイメタルか何かを使ったものでしょう。このデバイスはニッカド電池に直列に入っているので、電池温度が上昇したときに回路を強制的に切る目的で設置されているのは明らかです。
いよいよ98ノートからの充電に挑戦
謎のデバイスが温度センサーではなく単なる温度スイッチだったことから、98ノートの充電回路は、温度上昇を検出して充電を止めるタイプではなさそうです。一方98ノートのユーザーマニュアルを見ると、バッテリパックへの充電は1.5時間とあります。バッテリパックの電流容量が1400mAhなので、充電電流は約1Aと予想されます。したがって、小電流で充電する簡易型の充電方法ではないようです。となると、残るは端子間電圧をモニターする−ΔV法となります。実際はどうなのでしょうか?いよいよ実際に充電をかけて電流・電圧をモニターする実験を行うことにします。
前回改造した単三ニッカド電池内蔵バッテリパックに少し手を加え、電流・電圧モニターのための回路(右図)を構成します。さらに電池温度を測定するため、温度センサーを電池の側面にテープで固定します。ここで使った温度センサーは極細の熱電対を使ったもので、サーミスターや半導体を使ったものに比べ非常に熱容量が少く、測定の熱追従性は抜群です(このセンサーについてはそのうち紹介記事を書きます)。
測定の結果を右にグラフに示します。充電電流は約1.2Aで、元のバッテリパックで使われていた1400mAh容量のニッカド電池に対してはほぼ適正値ですが、700mAhの単三ニッカド電池にとってはやや多い値です。とは言っても充電中の電池の温度上昇もほとんどなく、何ら問題ありません。充電がすすみ、フル充電になったとおぼしき時点(約26分後)を境に、電池温度が急に上昇し、それと同時に端子間電圧が徐々に低下していく様子がグラフに示されています。まさに前に解説したとおりの特性です。そして、充電を初めて約30分後、電圧が低下し初めてから約4分後に、98ノートの充電が自動的にストップしました(右図の橙色部分)。このグラフから、98ノートの充電方法は−ΔVであることは明らかです。
充電は無事完了したかのように見えます。でも本当にフル充電状態になっているのでしょうか?今度は98の電源を入れて、充電したばかりの単三ニッカド電池を使ってみます。電源を入れっぱなしにして42分後、98の電源が落ちました。これは専用充電器でフル充電にしたときとおなじです。すなわち完全に充電されていた、と言うことです。
この実験から、98ノートの充電回路が単三ニッカド電池を確実に充電し、充電終了を検出して停止することが分かりました。充電電流は多めなので、充電終了を検出し損なうと多少危険がありまが、例の温度スイッチを併用すれば安全面に確実を期すことができます。
温度スイッチの取り付け工作は、バッテリパックの改良と併せて次回でご紹介しましょう。(続く・・・)
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