苦境から脱して、ついに勝利の獲得。
素人が出願登録したまではよかったものの、その後、他社からの「不使用取消請求」によって、一部権利を失い、その他社が新たに類似の商標を登録したことから話が相当ややこしくなりました。
その後、幾多の煩雑な過程を経て、知的財産高等裁判所での審決取消訴訟の勝利、特許庁での差戻審理での勝利によって相手方の商標が全部無効となり、最初からなかったものとなったのです。
95年の出願から06年の全面勝利までの、足掛け11年に及ぶ長く複雑な内容をなんとかかいつまんでご紹介していきます。

※なお、弁理士に依頼したのは、最初の「商標登録」(4つあるうちの2つ)のみ。それ以外は、まったくの独学です。図書館にも何度も通ったし、弁理士会の無料相談にも通うこと数知れず。いったい、本業はどうするんだ!? やれやれ…という状況でしたが、やはり自分でやってよかったなぁと思います。
というのは、費用の問題ももちろん大きいのですが、どう闘うのかの論法や商標が営業上持つ意味を活かすアイデアは、実際に現場で仕事に携わっている人にしか思いつかないものだからです。
個人でご自分のアイデアを守りたい方で、資金のない方は、私たちの数々の失敗や格闘を参考にして、素晴らしい成功を手に入れていただければと願います。商標はいかにも専門家の世界のようですが、じつは、素人にも門戸は開かれているのです。


  1. 商標の出願登録  
  2. 不使用取消審判の防戦            →敗北×
  3. 某老舗企業の類似商標、異議申立       →敗北×
  4. 某老舗企業の類似商標、無効審判(一部無効) →勝利○ 
  5. 某老舗企業の類似商標、無効審判(全部無効) →敗北×  
  6. 某老舗企業の度重なる攻撃(防戦)      →勝利○
  7. 知財高裁/審決取消訴訟           →勝利○
  8. 特許庁/無効審判差戻審理          →勝利○
  9. 新出願で権利回復を

 

 

1. 商標の出願登録
  「登録第4104388号」「登録第4104389号」「登録第4058700号」「登録第4093369号」
                             (出願1995年9月〜登録98年1月)



●企画・アイデアを守るには、商標登録がいい?

そもそも、「3.14=π(パイ)の日」を商標登録しようとしたのは、商標権によるロイヤリティをねらったものではありません。私たち、二人の会社・有限会社ビッグバンは、広告の企画制作が本業です。
95年の震災で落ち込んでいる神戸の洋菓子メーカーを見て、なんとか「パイの日」のアイデアを役立ててもらえるのではないかと思ったのがはじまりです。
ところが、いざ具体的に企画を持ち込もうと計画をふくらませていくと、不吉な予感が浮かんできました。
じつは、広告の世界では残念なことにクリエイティブと称しながらいわゆる「パクリ」が横行しています。企画提案した内容をただ取りされたケースを過去に何度も経験していました。 企画を真似すること自体許されるべきではありませんが、真似されたからといって訴えたり、取り戻す方法が確立されていません。あまりに労力がかかりすぎ、利益がありません。弱小規模の場合はなおさらのこと。だから横行しているというべきでしょう。なんとも恥ずべきことですが。
それで、どのような状況になっても広告企画の中心にいられるよう「3月14日=3.14≒π=お菓子のパイ」という意味の商標を編み出し、登録して権利化を図ったのです。防波堤のつもりでした。
広告コピーに著作権は認められていませんし、ほかに明確な権利とする選択肢がなかったというのが実情です。
実を言うと最初から「3.14=π(パイ)の日」に落ち着いた訳ではありません。
最初、

 「3月14日は\パイ\πの日」(登録第4104388号)
         第30類指定商品「菓子及びパン、その他(省略)」出願95年9月 登録98年1月

 「ホワイトデーは\パイ\πの日」(登録第4104389号)
         第30類指定商品「菓子及びパン、その他(省略)」出願95年9月 登録98年1月


の2種類を自分たちで「商標の手引き」という発明協会や官報などで売っている、小冊子(当時600円)を参考にしながら出願しました。


●弁理士に依頼

出願が受理されて、やっと安心して、ある老舗の広告代理店に話を持ちかけました。
代理店も乗り気で「社として真剣に取り組む」との返事を貰って、何人ものエライさんが会議に出て来て、それなら営業代理店契約を結ぶ必要があると思い、知り合いのツテを頼って弁護士を雇ったりもしました。
しかしながら、話が具体化して走り始めると、自分たちの知識の曖昧さが不安に。出願したフォームのなかで、上記の商標の指定商品の書き方について補正命令がきたのです。指示に従えば済むことなのですが「自分たちが商標について何も知らない」という弱気の虫が湧いてきたのです。
それに商標も、3月14日がなぜパイの日であるかをみずから定義している「3.14=π(パイ)の日」の形を試行錯誤のすえ編み出しました。πではなく、「π(パイ)の日」としたから3.14と等号で結ぶことができるのです。π≒3.14ですからね。このコピーが出来上がったとき、二人とも納得の笑顔。自信をもって最善の表現だと思うようにもなりました。
また、パイの販売だけでなく、喫茶やレストランで提供する場合もあるのではないかと気づき「3.14=π(パイ)の日」については第30類の商品商標「菓子及びパン、その他(省略)」と第42類の役務商標「飲食物の提供」の2種類が必要だと思い当たったのです。
知識のなさからくる弱気と、これから仕事が軌道に乗り忙しくなる強気の予感で頭のなかはまぜこぜになり、とりあえず煩雑な手続きはプロに任せたほうがスムーズかもしれないと考え、これまでの流れから弁護士に相談。すると、知り合いの弁理士を紹介してくれました。弁理士を探すにはどうすればいいか、それすら知らなかったのです。
ここではじめて弁理士の登場です。高層ビルのワンフロアを占めるほどの大手、社長は関西の長者番付にも顔を出すほどの人。そこの力を借りて新たに出願手続きを依頼しました。
当時は連合商標制度というのがあって、登録、出願している本人のみ過去の類似商標に類似するものを出願することができたのです(余分なお金をとられますが)。

  「3.14=π(パイ)の日」(登録第4058700号) 
         第30類指定商品「菓子及びパン、その他(省略)」出願95年11月 登録97年9月

  「3.14=π(パイ)の日」(登録第4093369号)
         第42類指定役務「飲食物の提供」   出願平成95年11月 登録97年12月

先の補正は指定商品に「調理パイ」と書いていたものを、「パイ生地を使用した料理」と書き換えるようにという内容。「手続補正命令書」に従えば簡単に済むけれど、理由や書き換える効用などを考えると訳が分からなくなってしまいそうに感じました。連合商標にするためにはどうしたらいいのか。
そういえば、今ではまったく問われませんが、当時は事業計画書も(現にその指定商品を製造・販売していないとき)提出しなければならず、それも悩んだ覚えがあります。


●弁護士&弁理士さんとは…

まあ、そのような素人に明確な進路表示のない世界に足を踏込んで、ついプロを頼ってしまったのだけど、彼らプロは手続きのプロではあるけれど、営業内容のことを先回りして考えてくれるほどのプロではないということ(当たり前)、つねに事態が発生してから法律に当てはめて考えるのが上手で厳密であるにすぎないということ(これも当たり前)が今になってみればよく分かります。成功すればけっこう莫大な「成功報酬」をさらに上乗せされるのに、失敗しても責任を取る制度はない。なかなかよくできた制度に守られているのです。
弁護士に頼んだ契約書も私たちが詳しく下書きして、それを法律に照らして、遺漏のないようにチェックしてもらっただけ。しかも、最初想定していた神戸の洋菓子メーカーが企画に賛同しなかったので、まったく不必要で、広告代理店と交わすまでもなかったのです。契約書はまだ完璧に完成していたわけではないのですが、やはり依頼してワープロ入力してもらった分、支払いは発生しています。原文ほとんどそのままのリライトなのに、ライターとしてはうらやましくなる結構な金額です。
新たな二つの出願もただ手続きが手馴れているだけ。間違っていれば、特許庁から指示や連絡等があるので、なんとかなるものなのです。どうやら作業の早い遅いがあっても、私たちでできた内容でした。
「士」のつく仕事のギャラは高く、お金のない私たちが頼むべき相手でなかったことが、後に届く請求書とともに痛いほどの反省を伴って理解されたのでした。不安から先走りしすぎた私たち。仕方のないことだったかもしれません。
勉強代だと思うことにしましたが、この後、このレベルどころではない大きな問題が次々に起こったにも関わらず、懲りてすべて自力でと考えるようになりました。もちろん、弁理士会の30分の無料相談は大いに利用させてもらいましたが。

 

 

2. 不使用取消審判の防戦
            「取消2001-30671」(被請求2001年7月〜審決02年6月)


●突然、不使用取消審判に巻き込まれる

商標は使う義務があって、3年間使わないと誰でも取消の請求ができる仕組みになっています。
ここですね、私たちに隙があったのは。例の(「キャンペーンの舞台裏」を読んでください)親の介護を含めた、会社がぐらんぐらんの時期が、ちょうどその3年間にあてはまってしまったのです。
その3年間の不使用を、博多の某老舗企業さんが事前の交渉もまったくなく、突然、突いてきました。不使用取消の制度はたしかに誰でも、交渉なく請求することができます。
しかし、多くの真っ当な企業は事前に交渉して、不調に終わった後に取消の請求を起こしているのが一般的です。というのは不使用の商標権者が交渉後に駆け込みで使用の証明ができないよう、使用証明は不使用取消請求の日時から3ヵ月以前に遡らなければならないと法律に定められているからです。つまりリーガルマインドは「交渉ありき」です。
でも、「使わせて〜」とどうして一度も交渉してくれなかったのでしょう。私たちのキャンペーンの参加費は本当にサービス料金なんだけどな、と当初は思いましたが、ご自分たちがこの企画の発案者である、というのが言いたかった、それが後々はっきりしてきます。
だから、私たちと一緒にキャンペーンをする、なんて発想は毛頭なく、邪魔な存在なので抹殺したかったのでしょう。しかも、二人だけの会社だと調べてご存知だったようで、なおさら、そんな弱小規模はきちんと対応する必要はないというお考えだったのだと、このやり方からわかります。老舗が必ずしも優良企業ではない、というのが私たちの正直な感想です。


●不使用取消、敗北

私たちは介護による半休業状態のことを答弁書で説明したのですが、特許庁から「介護なんて自己都合だ」と一蹴。
結局、不使用取消審判(取消2001-30671)にかけられた、前記30類の3種類「商品商標」は、取消請求のあった一部指定商品が取消されてしまいました。「菓子及びパン、即席菓子のもと、アイスクリームのもと、シャーベットのもと」が、無くなったのです。つまり、菓子のパイに商標を付すことができなくなったことになります。
同時に、某老舗企業さんが「商品商標」の権利を獲得。

  「3月14日(ホワイトデー)\パイ\πの日」(登録第4624655号)
                      指定商品「菓子及びパン、即席菓子のもと」

不使用取消請求の翌日に登録願を出していますから、闇討ちしておいて横取りしようというセットの企みだったことは明らかです。
なぜなら、イノセントな取得意思であれば、ただ単純に出願し拒絶された後に、こちらに交渉を持ちかけるなり、不使用取消なりをしかけるのが順序です。出願の1日前に不使用取消をかけるのは、私たちの使用証明を不可能にしておいて、自分たちの出願を有利に運びたいという論理が働いているのでしょう。
この一件の半年ほど前に、偽の名前、電話番号を騙った電話で、商標の状況を問い合わせてきたことを思い出してしまいます。断定はできませんが、前後関係からすると、おそらく関係者でしょう。うかつな対応をした自分を責めたくないために、無関係だと思いたいのですが、どうしても結びついてしまいます。ほんと、無知な私たち、でした。


●不使用取消、敗北による状況変化

あちらもむりやり取得した商標権で1年遅れて2003年から、『π(パイ)の日キャンペーン』を主に福岡の路面店と福岡・大阪の百貨店で展開されました。
私たち二人から見れば大企業ですから、広告にも力入っていました(ポスターやHPを見ると、登録した商標ではなく、表現を変えて私たちの商標に酷似した形で使用。いいのかしらん?)。
加えて私たちが参加店に頼んでシンボル的に作った、パイ生地で作ったπの形の大きなパイも同じように真似して作っておられました。商売のためならなりふり構わずというのが企業というものなのだろうかとまざまざと思い知らされたものです。
商標には2種類あって、商品のパッケージなどに付けて使用する「商品商標」というものと、レストランや喫茶などの無形のサービスに附随する「サービスマーク(役務商標)」というものがあります。
この「商品商標」と「サービスマーク」の両方を97年秋冬に取得したのは前にお話した通り。幸いというか、42類の「サービスマーク」は取消請求は受けず生き残っていて、私たちも大手を振って営業できるというのがそのときの状況です。
博多の某老舗企業さんは法律に則って(乗っ取って?)商標を取得し、営業をする体制だったので、こちらは妨害するつもりは毛頭ありません。2回目のキャンペーンからは残された権利の範囲をしっかり守って、レストランや喫茶でのパイの皿盛りサービスを主体にやっていくことに変更しました。
私たちが発案したことなのにややこしくなってしまいました。消費者の皆さんにはどちらでもいいことかもしれませんが。
とはいえ、やはり気分は晴れません。商標法の範囲でみれば、上記の通 りなのですが 「3.14=π(パイ)の日」には言葉のなかに発明的内容が含まれています。この点を無視して、一般の商標(使いつづけてそのマークや言葉に信用が付加される)と同様に捉えられているからです。発明については敬意を払ってほしいのです。企画に携わる人間としては、アイデアはとても大切なものなのです。
法律を守りさえすれば何をしてもいいのかなあ? 私たちはそういう考えは好きではありません。そうそう、映画監督の小津安二郎さんがこんなことを言っています。
「何でもないことは流行に従う。重大なことは道徳に従う。芸術のことは自分に従う」
ほれぼれするいい言葉ですね。
某老舗企業さんにとっても今回の件は企業戦略の重要な部分だったように思うのですが、重要じゃなかったのでしょうか。

 

 

3. 某老舗企業の類似商標、異議申立  
           「異議2003-90102」(申立2003年2月〜同年11月審決)


●朝日の新聞記事で、すでに混同混乱状態

ところで、2002年に私たちのイベントを取り上げてくれた朝日新聞の名物コラム「青鉛筆」が、翌年は博多の某老舗企業さんを取り上げて、まったく同じ「パイの日」の同じ話を掲載。混同を招くことは確実だと心配していたら、案の定…。
この記事を読んだ友だちから「九州まで営業拡大して、がんばってるや〜ん」「大きくなったねぇ」「やったね。おめでとう」「生徒たちに宣伝しとくけんね」(福岡で教師をしている友人)と励ましの電話、メール、ハガキをくれたくらいです。全員が全員、博多のキャンペーンが私たちが仕掛けたものだと勘違いしていたのです。 トホホ、情けない。

この混同を解消させるために、「先に登録されているものに類似した商標は登録してはいけない」という条文を頼りに特許庁に異議申立(異議2003-90102)とやらをしてみました。
だって、もともと自分たちが考えた可愛い商標だもん。アイデアを思いついた生みの親のところに戻るのは、当然のこと。取り戻す努力をしなくてはと思っていました。
相手は年商80億の私たち二人からすれば超巨大企業。売上、規模、人数…どれをとっても比較になりません。たった二人の会社なんか簡単に踏み潰せたと思われているのでしょうが、蟻ん子がせめてカマキリに化けて闘おうというのが異議申立です。
私たちのパイ菓子・パイ料理に対する愛情や思い入れは真剣です。誰にも負けないつもりです。なにせ長年食べ歩いてますから。 この当時も今も、私たちを支えているのはこの強い信念です。


●異議申立の戦略

これからは少し難しい法律解釈になります。
申立て理由は商標法第4条第1項第11号「先に登録されている商標と同一のものあるいは類似するものは登録できない」というものです。
商標の分類でいう42類「飲食物の提供」(役務商標、当方所有)と30類「菓子およびパン、即席菓子のもと」(商品商標、某企業所有)は一見したところ非類似のため、特許庁において登録が認められたものです。
しかし、「パイの日」の営業の実態に照らしてみれば、どちらも洋菓子店で行なわれている、店内の給仕サービスによるのか、テイクアウトによるのかという差があるにすぎません。

法律の条文のなかにも商品と役務は類似することがあると定められており、特許庁商標課編「商標審査基準」が説く両者の類似のポイントは
1)商品の製造・販売と役務の提供が同一事業者によって 行なわれるのが一般的であること。
2)商品と役務の用途が一致すること。
3)商品の販売場所と役務の提供場所が一致すること。
4)需要者の範囲が一致すること。
の4つであり、このうちの1つでも類似が認定できれば、両者は類似しているというのが学界の定説です。

洋菓子店に当てはめてみればお分かりのように、一つの店で飲食サービスとテイクアウトを同時に行なっているのはごく普通 の営業形態です。そして、どちらも食べて楽しむことに変わりはありません。販売も提供も同じ店内で行なうのが普通です。需要者に性別、年齢別の差があるわけではありません。
ということで、4つの類似項目すべてにあてはまっています。そして結果として類似した商標を放置しておけば出所の混同を生じる、というのが異議の主旨です。
さて。喫茶スペースがあってもなくても、はたまた、イートインしてもしなくても、ケーキ屋さんの業界で「パイの日」のキャンペーンの実施団体が別 々に二つあるなどとは誰も考えません。お客さんは混同してしまうでしょう。一体どうやって見分けるのでしょうか。
あなたがカフェに行ったときのことを想像してみてください。ケーキのショーケースのなかパイ商品1点1点に商標が付いて宣伝されているのと、喫茶スペースにポスターで商標が表示されているのと区別がつきますか? 店内で食べるのとテイクアウトを区別しますか? いつも喫茶で利用しているお店でお土産だけ買って帰るケースはありませんか?
なんとも、紛らわしいですよね。
私たちは当然、異議は通るものと考えましたが、判断を下すのは特許庁です。残念ながら私たちではありません。


●異議、またしても敗北

2003年11月15日。ついに待ちに待った「異議の決定」が届きました。
…、…ざ、惨敗です。
特許庁の判断は以下の通り。

「博多の某企業の登録を維持する」、その理由は「博多の某企業の『菓子・パン』が流通経路において販売される場所はパン屋、菓子店、スーパーなど幅広く、一方、『飲食物の提供』は喫茶店、食堂、レストランなどで行われる。たとえ、時に共通する場合があったとしても、一部に限られるというべきであり、しかもその取引形態、流通 経路が常態であるとはいえない。」

私たちが証拠を提出した消費者の混同という部分をまったく無視した内容です。喫茶スペースがあろうがなかろうが、ケーキ屋さんの業界で「パイの日」のキャンペーンが行われたときに、実施団体が別々に2つあるなどと、消費者の皆さんは誰も考えないのではないでしょうか。混同するのは当たり前と思うのだけど。
スーパーとかいわゆる流通分野を問題にしているけれど、そこにおいてもレストランシェフによるレシピの冷凍食品、プリン等のお菓子や、実際バレンタインデーに売られている三ツ星シェフのチョコレートなど紛らわしいものがいくらでもあります。これらはイートインサービスで築いた信用を利用した商売だと思うのですが。
博多の某企業が仮にスーパー等でのキャンペーンを実現するためには、やはり「ケーキ屋さん」という同じ舞台で信頼を築き、その信頼、人気をバネに販路を拡大していくという構図しかありえないでしょう。某老舗企業は私たちにとっては大企業ですが、スーパー等で一挙にキャンペーン展開が可能なナショナルブランドではないのです。
スタートは「ケーキ屋さん」しかあり得ないなのてす。そしてそこは現実に私たちと権利がバッティングしていて、私たちが先に権利を保有しています。この流れからして、一部取消は当然だし、博多の某企業にスーパーなどでの権利を残すことも不合理だと考えます。
可能性でみるのか、実態でみるのか、という法解釈の運用の部分ですが、特許庁はあくまで可能性に重きを置いているということなのでしょう。

これが、その当時の偽らざる心情だったと言えるでしょう。まだ特許庁の思考経路に不慣れだったのです。
特許庁は商標法の法律体系、指定商品の概念の維持、安定性を優先するため、指定商品の類似は個々に見るといいながら、相手の某企業が実践していないスーパーなどの物販流通経路における可能性の問題を持ち出してきたという訳です。
これでは納得できません。請求期限のない「無効審判」という制度がある、と闘いは始まったばかり。まだまだ続くのです。

 

 

4. 某老舗企業の類似商標、無効審判 
      「無効2004-35071(一部無効)」(請求2004年2月〜審決同年9月)

●一部無効、審判請求してみる

異議申立では残念ながら負けてしまいました。
こちらの主張が認められず、辛い日々だったのだけど、しばらくして「異議の決定」という特許庁の文書のなかに、こちらが主張している部分を取り上げて「類似しているとしても一部に過ぎない」と論じているところに着目する余裕が出てきたのです。
はじめは一部じゃないだろうと反撥を感じていたのだけど、逆に一部に限定すれば無効を勝ち取れるかもしれないとはたと気づきました。そう、特許庁がヒントをくれていると思うことに。
一部が類似、ということは洋菓子店だけにしぼって「飲食物の提供」と「菓子及びパン」の販売が類似していることを証明するか、あるいは私たちの商品商標に残されている「ミートパイ」と相手側の「菓子及びパン」のなかに含まれている「パイ」の類似を証明するか。いずれにしても相手方の権利のすべてを完全に無効にできなくても、ともかくパイの販売に関する権利を無効に追い込めれば、と考え直したのです。
選んだのは「ミートパイ」の路線。流通経路を無効とする方法が法律に適わない(異議の審議で問題にされたけれど、登録内容にはどこにも販路のことは記されていないので取消しようがない)ということと、なによりミートパイとパイは明らかにパイ同士で似ていて外見上だれも見分けがつかないから、です。
しかし一方で、無料相談の弁理士さんたちに聞くと、どの方も「短冊が違うから類似というのは難かしいのではないか」という否定的意見ばかり。たしかに、短冊(30類のなかにも、いろいろグループ分けがされていて、それを通常“短冊”と呼ぶ)が違うからこそ、相手の某企業さんは見逃して取消し忘れたのでしょう。


●一部無効、初勝利

今回、私たちには自信がありました。日頃からケーキ屋さん巡りをしてパイをよく見て味わっていますし、パイについての本や雑誌を読んで知らず知らず知識も豊富になってきています。だから、ミートパイとパイの類似は、かなりの確率でイケル、と確信。
現場を知らない弁理士さんの否定的発言にはまったく動揺しませんでした。日頃のパイに対する思い入れがやっと活かされるときです。
たしかに、現状の分類法ではミートパイは肉類をなんらかの皮で巻いたものが多いグループ(32F03)。ギョウザ、ラビオリなどと同じグループに分類され、「菓子及びパン」(30A01)とは似ていないとされています。
しかし、商標法では商品やサービスの類似を判定するときは、個々の指定商品を取り出して比較して判断すべきものと書かれています。現状は食肉加工、テイクアウト料理のなかに置かれているけれど、ミートパイが洋菓子店で普通に扱われる商品であることを証明すれば勝ち目ありと踏んだのです。

じっさい、多くの辞書を調べても果物のパイとミートパイを区別しないものが多いし、調理師用語事典には、両方ともパティスリー(菓子製造)に含まれると明記されています。それにモロゾフやユーハイムなど大手の洋菓子店で肉類の入ったパイがアップルパイなどのケーキと並んで普通に販売されている証拠も集めました。ある有名店のカタログには、果物のパイとまったく区別のつかないミートパイの写真が掲載されていて大助かり。
これらの主張がほぼ全面的に認められ、相手方の「国際分類に従えば、非類似とされているじゃないか」という趣旨の、ただ、だだをこねているだけの答弁は一顧だにされなくて(痛快!)、無効はめでたく勝利。
ついに、相手方の指定商品「菓子及びパン、即席菓子のもと」のなかのパイが無効となったのです。
やったぁ!  と思ったのも束の間…。

●「蹴り合い」状況に突入

意気揚々と今後の商標の使用上の注意点を弁理士会の無料相談に聞きにいって、蹴り合い状況になったことを教えてもらいました。
えっ? ん? はぁ…。
素人の情けないところは理解の甘さ。祝勝気分はほんの束の間。相手方のパイを無効にすればこちらは自由にできると思ったのだけど、ぬか喜びでした。
「菓子及びパン、即席菓子のもと」とパイはもともと類似の関係にあるから、パイの抜けた穴で活動しようとしても相手側からの禁止権が働いているのです。こちらが相手を蹴散らしたから大手を振ってと思ったら、相手の蹴りの権利だけは残っていたのでした。
これを蹴り合い状況といって、弁理士にしてみたら常識。これで、だれもこれらの商標を「パイ」に付けて販売することができないという不思議な状況が出来上がったのです。
さいわい、私たちは従来通り「飲食物の提供」でキャンペーンを続けられますが。
残念ながら、無料相談ではなかなか前もってそこまで教えてもらえませんし(当然といえば当然です)、30分の相談時間で全体像をなかなか理解できない方に当たることがあり、まったくの無駄足に終わることもあります。まぁ、無料なのだから、たまに能力の高い弁理士さんに当たればラッキー、と思うことが大切ですね。
その時の弁理士さんに「あなたたち本当に弁理士を立てずに無効を勝ち取ったの? いやあ異議申立までは素人さんが勝った話は聞いていたけれど、無効は初耳ですよ。ご立派、大したものです」と誉められてしまいました。まったくもって無意味なんだけど、正直、悪い気はしませんね。

 

 

5. 某老舗企業の類似商標、無効審判 
        「無効2004-89107(全部無効)」「無効2004-89108(全部無効)」
                       (全部無効請求2004年11月〜審決05年9月)


●今度こそ、全部無効にするための戦略

博多の某企業さんはパイの販売ができなくなりキャンペーンも1回きりで止めておられます。そういうことでいけば、一応勝ったのかもしれません。
私たちには、依然として「ミートパイ」に商標を付す権利は残っているので、第42類のパイの提供+第30類のミートパイの販売でのキャンペーンが可能です。
だから、2002年の第1回目からとぎれることなく、毎年少しずつ参加店を増やしながら行ってきました。
でも、ホワイトデーのギフトは、やはりテイクアウトが主流。片翼のキャンペーンという印象で、ぱっと拡大できないジレンマ、参加店への営業の際にも、いろいろ細かく状況を話さないといけない面倒さ加減(私たちは平気ですが、聞くお店の店主には複雑すぎてもはや理解できない話になってしまっていたのです)…悩みの日々は続いていました。
そこで、もう一度、蹴り合い状況をなくすことができないだろうか、と図書館へ。一から勉強です。商標関係の本を山ほど積んで真剣に読みあさりました。ここで、いい方法が見つからなければ、このままの状態でキャンペーンを続けるしかなく、ある意味、正念場です。その集中ぶりは身体からオーラが出てたかもしれないほど。
そして、ついに見付けました。

「商標法第4条第1項第16号」品質の誤認・混同を招く商標は登録を認められない、というもの。
事例としては、「〜色鉛筆」という商標を色鉛筆以外の文房具を指定商品として登録すること、「〜饅頭」と名のつく商標を饅頭以外の菓子に登録すること、などが上げられています。
相手方の商標は「3月14日(ホワイトデー)\パイ\πの日」(登録第4624655号)というもの。「\」は特許庁のお約束で段落替えの記号。つまり「πの日」は2段目に記されていて、「パイ」はπのルビとして表記されている形。
どうでしょう、商標の中にパイの文字があります。これはお菓子のパイであって、しかも、「パイ」そのものはすでに一部無効でなくなっていて、しかもパイ以外のお菓子を指定商品として登録。
「商標法第4条第1項第16号」品質の誤認・混同にどんぴしゃ当てはまっているじゃないですか。
全部取消の道がついに開けたぞ!!  相手方の禁止権も消滅する、完全フリーの状態をもう一度取り戻すことができる、はず。

ようやく「審判請求書」を作り上げ、博多の某企業の2種類の商標(次の「6.某老舗企業の度重なる攻撃」に詳述。私たちの商標を英語に直訳したものを登録していたので、無効にすべき対象となる商標が2つになっていた)に対して無効審判を請求。 従来の商標のパイ以外の部分の全部無効(無効2004-89107)。そして英語版(無効2004-89108)についても、日本語版と同じ論理で一部無効の後、残余の部分の全部無効。
2004年11月30日にすべてやりおえました。 あ〜、長かった。後は結果を待つのみ…と思ったのは甘かった。


●全部無効、またしても敗北

05年9月、予定していたより2ヵ月ばかり遅れて、待ちに待った無効の審決がようやく送られてきました。絶対勝っていると自信満々で、勇んで封を切ったのですが、結論の部分を見て愕然としました。
「請求は成り立たない」。
膝から力が抜ける感じです。ドラマで落胆のシーンで、よく膝から落ちるところが描かれますが、あれウソじゃないですね。理由の部分を懸命に読もうとするのですが、なかなか頭に入っていきません。中身を理解できません。興奮を鎮められないのです。
時間をかけてようやく読み解いたのは「パイの日」はあくまで「パイの日」であって、「パイ」そのものではない。だから品質の誤認混同は来さない、というのです。
えっ、どういうこと? 「パイの日」だったらその日売られるのはパイでしょう? えっ、なぜ混同が生じないの? 
某老舗企業が指定している商品は「お菓子」。チョコレート、羊羹などのパッケージに当の商標が表示されていたら中にパイが使用されていると考えるのが普通でしょう。
当たり前のことが当たり前に通じていません。読み解きはしたものの、疑問と怒りが渦巻いて消えてくれません。
英語直訳版も、「菓子及びパン」のなかの「パイ」についてはこちらの「ミートパイ」と類似から「一部無効」を認めるけれど、その残余の指定商品については「請求は認められない」という同じ答え。

ホワイトデーに菓子がプレゼントされること、パイというのが(菓子)のパイであろうから、この商標が「3月14日(ホワイトデー)の日付けにちなんでπ(菓子の)パイを贈る」という概念の商標だというところまで特許庁は認めていて、なぜ「パイの日」であって、「パイ」そのものではない、なんて…。筋が通っていません。
証拠に提出した、広告代理店が実施したアンケートも、恣意的だと言って否定しています。「ホワイトデーのプレゼントにふさわしい商標は」という設問が誘導的だとの判断ですが、じっさいに問題の商標は3月14日のホワイトデーのプレゼント商品に付されるのですから、アンケートの状況設定は取り引き実態を反映するために必須の条件のはず。心理実験は外部環境から隔絶した環境で行ういわゆる絶対判断の方式でなければならない、という生かじりの知識に引きずられているのではないでしょうか。
このなんとも言えないフラストレーションはぐずぐすといつまでも尾を引きました。
でも、ここで足踏みしているわけにもいかないのです。特許庁の審判に不服を述べる機会が唯一残されているからです。
30日以内に、知的財産高等裁判所に「審決取消訴訟」を起こす道が残されています。素人にとっては、とても腰をすえて勉強をするというような、余裕のある時間ではありません。勉強不足でさんざん懲りているのに、またしても拙速を良しとせざるをえないスケジュール。トホホの声も出ず、歯を食いしばるしかありませんでした。

 

 

6. 某老舗企業の度重なる攻撃         (03年2月〜05年2月)


●某老舗企業の強気姿勢

一部無効の審決が出たのが04年の9月22日。その少し前の9月9日に相手の状況を久しぶりに特許庁のHPでチェックして驚きました。某老舗企業が新たに類似商標を複数、登録したり出願したりしているではないですか。
さらに、私たちの全部無効の審判請求に対する答弁書で、反対に「私たちの商標も同じ理由で全部無効だ」といって無効審判請求とつづけさまに攻勢を仕掛けてきたのです。
無効審判にたいして答弁書を仕上げる05年の3月28日までのほぼ7ヵ月間。ちょうどキャンペーンの営業・開催中(秋〜3月14日〜結果の報告や整理まで)ということも含めてなんと濃密な商標漬けだったことか。いま振り返っても腹立たしいかぎりです。おかげで、応対におおわらわの日々。
某老舗企業の出願の無意味さと、拒絶、無効に持ち込むための煩わしい手間ひま。こちらの全部無効にたいする反撃の無内容のなんとも下品な表現。そのすべてに振り回される情けなさ。

これほど攻勢を仕掛けてきたのは、私たちの不使用取消の答弁や異議申立の反撃が不発に終わって強気になったからだろうと考えられます。というのも、「英語版」を出願したのが、こちらの商標が一部取消になり、相手方のが登録され、いよいよ第1回のキャンペーンを実施しようと意気揚々だったと思われる03年2月のことだからです。
そして翌年、こちらの異議申立も不発で登録維持となったことをうけて、第2回のキャンペーンにそなえて「3月14日はπの日」というまったく私たちの商標と同様のものを出願するにいたったのです。その居丈高な気分が伝わってきそうです。
だけど偶然、某老舗企業がこの商標を出願した半月後の04年2月に、一部無効の請求を私たちはだしていたのです。
企業のキャンペーンにとってはまさに直前といえる1ヵ月前の段階。その後のこちらのウォッチではどうやら、キャンペーンを手控えた模様。このときは審判請求を受けていても権利保有期間なのだから、やってもいいのですけどね。係争中の商標は使用しないという、老舗らしく、世間から見えるところの体面だけは繕っておられるのでしょうか。
ともかく、某老舗企業のなりふり構わない態度がここに集中して表現されていると思いますので、その手法をそのままお伝えすることにします。
本当は私たちの間抜けなスタートから奮闘の末に勝利をつかんだそのミニストーリーだけで終えたいところなのですが、あまりにらくらくと勝利に到達したと思われるのも困りものなので、私たちが何に苦しんだのかを理解していただくためにあえてご紹介します。


●新出願には、情報提供で勝利 (2004年9月〜11月)

04年の9月9日に相手の状況を久しぶりに特許庁のHPでチェックした当日に話を戻します。
私たちの商標「3.14=π(パイ)の日」をそのまんま、英語に直訳した
      「14March=π(Pi・Pie)Day」(登録第4699238号)
というのが登録されているではないですか。… 不覚でした。
それだけではないのです。「3月14日はπの日」という不使用取消(といってもミートパイに冠しての使用権は残っています)された、私たちのもう一つの商標とまったく同じ商標(登録第4104388号)を出願しています。私たちの商標の指定商品にヌケができているので仕方がないのですが。
執念深く私たちの商標を乗っ取ろうとしているのがわかります。そんなにまでして、この「パイの日」を自分たちのアイデアと主張したいんだ、といささかあきれました。
「3月14日はπの日」(商願2004-003504)まで登録されたら手間もお金もまた余分にかかります。弱小の私たちには、辛すぎます。

そこで、まっさきに無料の「情報提供」という制度を利用して、「3月14日はπの日」にどれだけの不登録事由があるかを特許庁に訴えつづけることにしました。
最初は「自分が持っている商標に類似の無駄な商標を次々に出願するのは、不使用取消で無駄な商標を排除していけるとはいえ、審査敏速化の流れを妨げる悪質な出願だ」という理由。
2度目は一部無効を勝ち取った「パイはミートパイに類似する」という論法。1度目の直後に一部無効の審決が出たことでその理由を盛り込みました。
3度目は、一部無効の勝利、蹴り合い状況に満足できず、全部無効を請求する前に同じ論理で「品質の誤認・混同」までを含めて、全部拒絶するよう申し入れがようやくできました。
3回もの情報提供、この間の状況の変化(一部無効成立、全部無効の論理の発見)、こちらの頭の混乱具合も透けて見える思いがして、お恥かしい次第です。
そして、期待通り拒絶してくれました。特許庁の電子図書館で調べる範囲では、どうやら2通目の情報提供「パイとミートパイ」の類似で登録拒絶された模様。状況からみて、出願の査定に滑り込みで間に合った感じです。やれやれ。
某老舗企業さんもあえて、パイを除いた指定商品に書き替えてまで登録しようとはしなかった、ということのようです。まっ、そりゃあそうでしょう、パイがなければ意味がないですからね。


●某企業さん、「ホワイトデー」まで出願、していいの?

話はこれだけじゃないんですよ、聞いてください。博多の某老舗企業さん、驚いたことに「ホワイトデー」という言葉までも2003年2月(英語版の4日後)に出願していたのです。
さすがにこれは特許庁が拒絶していたけれど、弁理士が3人もついていながら公共的で一般に使われている言葉を出願するなんて…非常識にもほどがあるのではないでしょうか。
ものの本によると、ニ十数年に渡って莫大な宣伝費を使い、派手なイベント展開で「ホワイトデー」という言葉を定着させてきたのは「全国飴菓子工業協同組合」さんのようです。資本にゆとりがあるとはいえ、まったくなにも定義づけのなかった日を記念日として定着させてきた努力と熱意には頭がさがります。
なのに、いくら「ホワイトデーにマシュマロを」という活動をしてきたからといって、多くの企業や団体の活動のおかげで定着したイベントの権利を独り占めしようという発想自体信じられません。某老舗企業さんも、同じ菓子業界に在籍しているのですから、業界全体で苦労して育て上げたことを十分ご承知だと思うのですが。
もし万が一、登録されでもしたら、お菓子業界は一切「ホワイトデー」という言葉は使えないという非常事態に陥ってしまいます。使ったら、この博多の某企業さんから「侵害」と訴えられることになるのです。


●某老舗企業からの全部無効審判、防戦
 「無効2005-89016」「無効2005-89017」(全部無効被請求2005年2月〜審決同年12月)

私たちが無効審判(日本語版 無効2004-89107、英語版 無効2004-89108)を出したら、その答弁書でびっくりしたことに博多の某企業さんから『お前たちの商標もパイ以外の指定商品を持っているのだから無効じゃないか』、と言ってきたのです。
私たちは商標が指し示しているパイに相当する「ミートパイ」という適正な指定商品を所有しているのですが。たとえ、ほかの指定商品が無効となることがあっても、「ミートパイ」をなくす理屈はどこを探しても見当たりません。42類については指定役務は単純に「飲食物の提供」ですが、そこに「パイの提供」も含まれることは自明でしょう。
しかも、相手は「商標法第4条第1項第16号については商標法第47号の適用がないことを請求人は知るべきだ」という文章で締めくくっています。
思惑どおりに進んでいたのが、一部無効が審決され、情報提供による出願つぶし、さらに全部無効とこちらが調子づいてきたと不快に思われたのでしょう。得意の頂点の足元をすくわれた感じなのでしょうか。内容なく激昂した文章です。
ちなみに、商標法第47号というのは登録後5年経過したものは無効にできない、と規定した条文なのですが、基本的な不登録事由のあるものは除外されるとされているのです。おっしゃる通り、ご説ごもっともなのですが、ははは、まったく的外れ。それ以上に適正な商標・指定商品(役務)の組合わせである私たちの商標を無効にはできないのですから。それは第47号論議よりももっと明白な事実で、そちらこそ「知るべきだ」と同様に下品な表現で言い返したくもなりますが、今回ばかりは思わず失笑してしまいました。
プロの弁理士が3人も名前を連ねてこんなことを言ってくるというのは、素人に恫喝を加えて、慌てさせて、無効審判の取り下げとか間違った行動をとるのを待っていたのではないかと、ふと疑いたくなりました。だってね、信じられません、こんなこと言ってくるなんて。プロなのかしらん?

あまつさえ、対抗して私たちの請求から遅れること2ヵ月余りで、本当に無効審判(30類 無効2005-89016、42類 無効2005-89017)を起こしてきたのです。
これは自分たちの本気ぶりを見せつけて、さらに慌てさせようという計画なのか、こちらの業務を妨害しようというのか。ひょっとして、本当に何もご存知ない方々なのか…どの線にしてもなにを考えているのかまったく理解しがたい会社、弁理士たちです。
答弁書を40日以内に書くのはけっこう本気で取組まないといけないスケジュールです。ちゃんと反論しないと認めたことになりかねませんから。それに、係争関係の商標というのは大きなキズととらえられ営業活動に多大な、ほんとに多大な支障をきたします。
自分たちの権利をしっかり守り、商標の使用もちゃんと実績を積み重ねていますから、ちっとも心配しなかったし、反論も論旨がこれ以上明白なものはないというくらい明らかなものはないので、答弁書はわりと簡単にすみました。でも、あぁ後味が悪い出来事でした。
という、このすべてとこちらから請求した二種類の全部無効の請求書づくりも含めて、7ヵ月のあいだに7種類の書類を特許庁に送ったことになります。ちょうど、キャンペーンのための営業時期とバッティングしていたので最悪の気分。大変、消耗しました。


●全部無効被請求、もちろん勝利です

結論が出るのは7〜8ヵ月後。こちらは一部無効を手に入れていたし、情報提供も奏を効し、全部無効の論理を見いだしていましたから、待つ気分もはじめて余裕がありました。先に私たちが請求した側の全部無効が敗北した後も、審決取消訴訟の準備には追われていましたが、それでも、私たちの相手は特許庁であって某老舗企業に負けるという不安はこれっぽちもありませんでした。
05年12月に、相手方が起こした私たちの商標にたいする無効審判(30類 無効2005-89016、42類 無効2005-89017)の審決が送られてきました。
もちろん「請求は成り立たない」。理由は私たちの請求に対する答えと同じ。「パイの日」であって「パイ」そのものではない、なのです。
こちらが予測していた、一部無効の論理でしかないのに全部無効で訴えるのはおかしい、という方式ミスではなかったのです。特許庁内で一貫しているという点を評価すべきなのですかね。なんとも釈然としませんが、ともかく、私たちの商標が無事だということを喜ばなければならないのでしょう。
でも、明らかに分かっていることに全部無効をかけてくるなんて、時間と労力の無駄だし、ほんとにこれは巻き込まれた、という気分。弁理士会の無料相談中、どの先生方も珍しく同じ意見で「ひどい会社にあたりましたなぁ」「係争を長引かせて、営業妨害しているんですな」とかなり同情的でした。

以上が、某老舗企業の度重なる攻撃にさらされたことによる、私たちのきりきり舞いの様子であり、そのなかで着実に商標の知識を蓄え、闘う技術を手に入れて行った段階だったと言えるでしょう。
こんな苦労はないにこしたことはありませんが、それによって鍛えられたことも否定できません。残念ながら。

 

 

 

7. 知財高裁/審決取消訴訟  
             「平成17年行ケ第10741号」「平成17年行ケ第10783号」
                      (出訴2005年10月〜判決06年2月15日)


●知財高裁に訴える?

某企業から、なんだかどうでもいい無効審判にかけられ、話が複雑化し回り道をしましたが、自分たちの全部無効請求が負けた後に戻ります。
特許庁が下した審決を取り消す訴訟をするかどうか、です。出訴するといっても簡単ではありません。訴訟法の「そ」の字も知りません。裁判なんて、生まれて初めてのことだし、法廷に足を踏み入れたことなんて一度もありません。だいたい費用がどれだけかかるものやら。
今度こそ、弁理士や弁護士をたてなければならないのじゃないのか。敗訴したときのリスクは? 相当悩みました。五里霧中とはこのことで、これだけの疑問と不安を解消して、原告としての立証責任を果たさないといけません。それをどうにも治まらない腹立ち、憤りを抱えたまま30日間ですべてをクリアしなければならないのです。
とりあえず、裁判の知識をざぶっと把握するために、またしても図書館へ。審決取消訴訟の概念と手続きの勉強です。
最初に驚いたのが訴訟価額というものです。
        160万円!    (日本語版と英語版の2種あるので、×2=320万円!) 
商標の財産権を争うのですから、その金額を算定しなければならないというのが、訴訟法の第一歩になっています。この数字を見て固まってしまいました。
「えっ、負けたらこれだけ払うの?」 素朴な疑問であり、恐怖の数字です。ずっと大赤字でキャンペーンを運営していて、おまけに異議だ無効だと、こちらの無知も原因ではありますが、相手のオイタのおかげでかなりの出費がつづいています。「裁判費用って相手方の弁理士か弁護士の費用も持たないといけないのでは?」と無知からくる恐怖は雪だるま式にふくらんで行きます。
「不合理な審決をそのまま認めてたまるか」という反撥心との力競べ。二人とも不機嫌な毎日を送らざるをえなかったのです。勉強をしながらも、久保田が出訴派(積極的にテイクアウトの権利を取り戻す)、岩本が断念派(現状継続による拡大路線)の主張で、いつもは意見がすぐさま一致するというのに今回ばかりはお互い譲らず膠着状態。

それでも、勉強を重ねるうちに、少しずつわれわれの無知が解消され、疑問や不安が払拭されて行きました。訴訟価額はあくまで形式的なもので、裁判に要する印紙代を算定する基準額にすぎないものだということ。印紙は13,000円です。意外や意外、無効よりも安いのですねぇ。上へ行けば行くほど高くかかるだろうと漠然と覚悟していたのです。
また、相手方の弁理士、弁護士費用は相手方の判断で発生する費用で、それは裁判費用とは言わず、敗訴しても支払い義務が発生しないことを学び、ホッとひと安心。どうやら、お金の心配は思っていたほどではないと分かると、大分落ち着いて勉強できるようになりました。


●訴状を書く

すでに猶予期間の1週間を消費してしまっていましたが、ようやく二人の意見が一致し、出訴することに。
ちょうどその頃、弁理士会の無料相談で、頭が切れて、しかもフレンドリーな弁理士さんに出会ったのです。その先生が「ボクなら訴えますね。5分5分以上に勝ち目があると思うし、ちゃんと論旨も整っている」と一言。帰り際には「健闘を祈ります頑張って下さい」と立って挨拶してくれて、なんだか勇気百倍。ずっと強張っていた肩の力がふっと抜けた瞬間でした。
でも、残りの弁理士さんたちは「えっ、素人で裁判を? なかなか、特許庁の審決を覆すのは、難かしいですよ」という意見が大半を占めたのは事実です。

たしかに、商標の知財での審決取消は約20%。難関です。
特許庁が役所なら裁判所も役所。しかも知財高裁は専門知識を持った裁判官を集めているのだから、特許庁出身者が多いのではないか、だったら身内びいきが当然のように横行しいるかもと、情けないけれどひがむ気持ちがちらっと頭をかすめます。
それに、ほとんど書面審理になるのに、原告はともかく出廷しなければならないという面倒な規定。知財高裁が大阪にもあってくれたらと思います。形式のために1日つぶして、東京まで旅費をかけて、もったいないったらありゃしない。負けを覚悟しての上京は辛い負担です。
それでも、高裁のホームページや無料相談で方式をチェックして、万全を確信して、たっぷり30件も証拠資料をつけて、「訴状」を完成させました。
素人が独力で訴状を書けるものかと、当初不安のほうが大きいくらいでしたが、ベースは無効審判と共通なので、なんとか出来上がりました。
おかげで、製本(7部! 裁判所に4通、被告があきれることに二人もいるから2通、こちらの控え1通)だけでも、コンビニでのコピーだなんだと半日仕事。それも、全部無効にしたい商標が日本語版(平成17年行ケ第10783号(無効2004-89107))と英語版(平成17年行ケ第10741号(無効2004-89108))とあるのですごいボリューム(英語版は特許庁から遅れて届いたので、〆切りも20日ほどずれていますが)。
念のために大阪中央局から発送することにしました。係の人が親切で、こちらが簡易書留と言ったのですが、目方を量って「郵パックのほうがだんぜん安くて、配達証明付きですよ」と教えてくれました。ラッキー、こういう親切ってすごくいい気分。
なんだかさい先がいいような出来事、事がうまく運びそうな予感めいたものを感じました。


●生まれて初めての、出廷

裁判所の対応はとてもスピーディで、届いた翌々日に、裁判所の担当事務官の方から(この人の親切な対応のおかげですっかり裁判所のイメージがよくなった)自宅に電話があり、裁判の番号とちょっとした書き直しの件と、裁判スケジュールの調整などを教えてくれました。
こちらからは、英語版の話をして、一緒に取り扱ってもらえないだろうかと話すと快諾。何事もなくスムーズに事が運んでいきました。

05年12月20日、いよいよ出廷の日。
この年は寒い冬で、12月の早い時期から新幹線の不通が相次いでいただけに心配しましたが、当日は快晴。途中富士山も麓から頂上までくっきり見える絶好の日本晴れ! 気持ち良く東京の地を踏みました。
無料相談の先生たちから「小さな事務室のようなところで、書類を提出するだけですよ」と聞いて、気軽にセーターにダウンジャケットで行ったのですが、あにはからんや、立派な法廷。前の審理が長引いて、審理中に部屋に呼び入れられ、傍聴席で待たされることに。前の事件はシャープが原告だか被告だかの大掛かりなもので、傍聴人も20人ほど。
1階のロビーのカウンターにその日のスケジュールを書いた帳簿が置いてあるので、それで部屋番号を確認するとたしかに、812「法廷」と書いてあったのです。事務室でも法廷と名がついているんだなと、少し変には思っていたのですが、まさかね。
前の裁判から裁判官は入れ替わることなく、そのまま開廷。
まず姓名を尋ねられる人定質問。なんと被告は欠席。提出された書類の種類を読み上げ、後は書類審理になると告げられました。傍聴人は瞬時にちんけな裁判と見限ってぞろぞろと帰ってしまいました。
そして、なにか言いたいこと、強調したいことはありますか、とご下問がありました。「お代官様、お助けくだせえ」という冗談がでるような雰囲気もなく、「ケーキの売り場で使われる商標で、商標にパイの文字があれば、その商品をパイと誤認することは確実だということです」と大きな部屋に響く自分の声に驚きながら一声言ってお終い。
判決は2月15日、と申し渡され閉廷。往復7時間以上かけて5分。じつにあっけないものです。公立病院の5分間診察のようです。

もちろん、帰阪するまでに、銀座近辺を駆け回って、10軒ばかりケーキ屋さんをのぞき、そのうち7軒でパイそのほかのケーキを買ったのは言うまでもありません。


●某企業は、裁判におそれをなす?

相手方からの無効審判の審決(私たちの防戦ー勝利)が05年12月におりてから40日、それでも裁判所から連絡がありません。それから1週間というものは、気がもめて仕方がありませんでした。あれだけ強行路線で嫌がらせを繰り返してきたのに、今回にかぎって止めるということはないだろう、そう思うと、今日来るか、明日来るかと待ち構えてしまうのでした。でも結局、提訴無し。
こちらの訴状にたいしてもなんの反論もしなかったし、先にも触れたように出廷すらしなかったから、私たちと同じ論旨(同じ立場に立つからこそ、私たちの審決取消訴訟に反論できない)で自分たちも訴えを出す構えだなと予想していたんですけど。
どうして訴えなかったのでしょう。さすがに、本気で間違えていたのではなかったということでしょうか。47条論議はやはり本気ではなく、こちらを素人と見くびっての恫喝だったと結論せざるをえないですね。脅しをかけるのとどっちが出来が悪いのか判断に苦しみますが。



●万歳! 全面勝訴です!!

判決の当日、2月15日、ヴァレンタインデーの翌日といのも、なんだか因縁めいています。夕方、担当事務官の方にどきどきしながら電話を入れてみました。
判決の主文だけでも教えていただけませんかと尋ねると

「特許庁が無効2004−89108号事件について平成17年9月7日にした審決のうち、『その余の指定商品についての審判請求は成り立たない。』との部分を取り消す。訴訟費用は、被告らの負担とする。」と読み上げ、もう一件は
「特許庁が無効2004-89107号事件について平成17年9月26日にした審決を取り消す。訴訟費用は、被告らの負担とする。」
と読んでくれました。

ん? あまりに淡々としていて、おまけに「審判請求は成り立たない」という言葉が印象に強すぎて、なんだか意味が分からなかったのですが、「被告らの負担とする」という言葉が耳にこだまして、次第に勝ったんだぁと嬉しさがこみあげてきました。
これは訴状に書いた請求の主旨の文章そのままの完全勝利です。
その日は二人で何回、「勝った」「勝ったんだね」と顔を見合わせては笑い合ったことでしょうか。翌日も、翌々日も目が合うと自然に「勝ったね〜」とニマニマ笑顔。何度も、です。だって、不使用取消から足掛け6年、丸4年7ヵ月に渡って苦しめられてきたのですから。
参加してくれている店、理解を示してくれている人、協力を惜しまなかった人、いい人たちとの出会いにめぐまれました。それでも、やっぱり苦しい日々、どこか心の晴れない日々だったのです。自分たちの思い、やってきたことの正しさをすべて認められたような清々しい気分です。

この判決で誇らしいことがもう一つ。
知的財産高等裁判所が判決の中で「3月14日は『ホワイトデー』と称され、2月14日のバレンタインデーにチョコレートなどをもらった男性がそのお返しとして贈り物をする日としてよく知られている。」と公的な立場からはじめて、3月14日のホワイトデーがどのような日であるかを定義した画期的なものだと言われています。裁判で、ホワイトデー云々なんて今までなかったのでしょう。
私たちの努力が思わぬところで花開いた感があります。結論にも影響したこともありますが、自分たちが社会的なエポックにほんの少し関係しているということが、なにかこそばゆいような嬉しい心持ちです。
でも、浮かれていてはだめですね。審決取消訴訟というのは、前回の特許庁の審決が間違っているから「特許庁さんもう一度考えなおしなさい」という差戻しが決定されたということであって、まだ今の段階では相手方の商標がすべて無効になったわけではないのです。
差し戻されると特許庁内で自動的に再審理の手続きが組まれます。

 

 

8. 特許庁/無効審判差戻審理  
                    (全部無効差戻審決2006年2月〜4月)


●差戻審理にかかる時間

上級審の判決は下級審を拘束しますから、知財での勝訴で大安心。とくに、判決に審理しなおせ、というだけでなく、明らかに誤認混同を生じる、と結論してくれているだけに、安心感は強かった。でも、特許庁がどんな新たな反論を見つけだすか、それがゼロだという保証はないのです。
また、いつから営業をスタートさせられるのかおおまかなスケジュールも知っておきたい。それで、特許庁へ電話で問い合わせてみると、審判企画部というところが対応してくれ「一般の無効審判請求よりも優先して審理が行われることになりますから、いつとは申せませんが、遅くなることはありません」との漠然とはしているものの、親切でお行儀のいいご返事がいただけました。
根拠はないけれど、06年の夏は越えないと踏み、ごく親しい人にしか勝訴も伝えず、すべてが確定してから公にしようと、決意。というのも、前回の無効審判の際に結論が出もしないのに、自信満々に勝ちます宣言(でも、知財高裁で私たちの主張が認められたのですから、本当は勝つべきだったんですけどね)をして、顰蹙を買った経験があり猛省をした結果の慎重な判断でした。
審判企画部の説明はその通りに実行されたようで、判決から1ヵ月半後の3月30日付けで審理終結通知書が送られてきました。
中身は通例2週間以上後に届きます。中身については心配はしていなかったものの、その後のスケジュールを確定したくて気がもめる日々。ようやく4月19日付けで審決が送られてきました。

予想したとおり、知財(特許庁文書ではいまだに東京高裁)の判決にしたがった結論が導かれていました。
これでようやく、相手方の「3月14日\ホワイトデー\パイ\πの日」と「14March=π(Pi・Pie)Day」の2種類の商標はそもそも最初からなかったことになるのです。

ただ、最後に一言、気になる一文が。(行政訴訟法第46条に基づく教示)というのがあり「この審決に対する訴えは、この審決の送達があった日から30日(付加期間がある場合は、その日数を付加します。)以内に、この審決に係る相手方を被告として、提起することができます。」とあるではないですか。前回審決で認められた審決取消訴訟の権利が今回もあるということです。
まさか、差戻審ではないだろうと思っていた権利ですが、法律の体系として、つねに反訴の機会があるということなのでしょう。
私たちは勝訴ですから、訴えるわけはありませんが、負けた相手方は知れたものではありません。老舗のプライドにかけてもと、意地になってつぶしに来るか、それとも前回法廷を欠席したように、裁判そのものが看板に傷が付くと考えているのか、正体をつかめないところです。これで、この審決が確定するまでにもう1ヵ月時間がかかるということになりました。
付加期間というのが、離島など郵便事情の悪いところ、あるいは審決の送達時に不在だったなどの可能性を考えて、さらに数週間の余裕をみて、確定の情報をさぐることに決めました。いつ訴状が送られてくるか、ふたたび不安な日々です。
ここで反論するのなら、私たちの訴状にたいして答弁し、法廷に出席もしていたでしょう。それをしなかったし、自分たちの無効審判が負けたときにも訴えなかったということはすでにギブアップだとみていいのでしょうが、何事にも結論が出るまで、勝手な推測では動かないことに決めています。
5月いっぱい待ったところで、確認の行動を開始しました。まず知財の受付に訴状が送られて来ているかどうかのチェック。これは無事。この時点で訴状が送られて来ていないということは付加期間があったとしても、タイムリミットをオーバーしたとみて良さそう、などと気をもんだことでした。
次に特許庁へ電話をして、無効2004-89107、無効2004-89108がそれぞれ確定したかどうかを問い合わせると、審決の日から1ヵ月おきに、確定処理を行っている様子が分かり、その時点でまだ確定処理が行われていないことと、6月19日の週に確定の作業が行われるとの情報を得ました。
それで、19日の翌週26日にメールで問い合わせたところ、とても丁寧な内容で、英語版が5月31日、日本語版が6月1日に確定していると、知らせてくれました。


●某企業の商標、最初から存在しない、ことに!

ついに、ついに、相手方の商標はなくなりました。積極的な権利も、禁止権も、すべて最初からなかったことになったのです。冷静に考えれば、一番最初の頃、登録された時に戻ったようなものなのですがなんと晴れ晴れとした気分なのでしょう。
1775日。長い長い闘いでした。
わずかな無知と甘えがあったとはいえ、なにか悪いものに巻きこまれた気分。ずっと重い石を背負わされているような不愉快な毎日でした。
参加店の皆さんにはずっと不自由な思いをさせてきました。イートインがないために断念されたお店もありました。これで、ようやく自由な活動ができます。
みなさんお待たせしましたぁ。これからが、いよいよ「3.14=π(パイ)の日」キャンペーンの本番です。今後の発展をお楽しみに。



●長い闘いを終わっての、反省

すべて終わってみて、ようやく客観的に見る目が生まれてきたようです。この成長の遅さが闘いを長いものにしたのかもしれません。猛省。

◇まず、最初の反省は、ニセ電話にうかうかと正直に答えて、商標の不使用状況を漏らしてしまったこと、です。
これがなかったら、今回のような何年にも渡っての闘いはなかったかもしれません。営業の電話というと、つい嬉しくて能天気に「一緒に盛り上げましょう」なんて、馬鹿丸出しの答えをしてしまったのです。あぁ、穴があったら入りたい。ちなみに、電話番号も会社の名前も全部嘘でした。

◇そのつぎは、キャンペーンを実現できなかった時期に使用証明を作れなかったこと、です。
まわりの人の中には誰かに頼んで使用証明を作ればよかったのにとアドバイスしてくれる人もありました。なんど「あぁあのときに…」と後悔したことか。
実際、いろんな方に聞くと、ほとんど使っていない商標も使用証拠を残すために店の隅に置いていたり年に1度だけでも店頭に置いて証拠写真だけ撮っておくということのようです。そのようなことなら、ケーキ屋さんと親しくなって、実際に使用してもらっておくべきだった、と悔やまれます。
じつはこんなキャンペーンを運営していながら何なんですが、人付き合いが苦手な方で、交際を怠っていました。やはり、普段の心がけが大切と言うことです。

◇そして、特許庁とのやり取りでは、最終全部無効を勝ち取った論理を最初の異議申立で思い付かなかったこと、です。
徐々に一歩一歩しか賢くなれなかったのです。ここが素人の限界。
でも、ほとんどの弁理士さんたち、どの審判のときも私たちの論理展開では難かしいという意見で、相手の会社との話し合いを勧める方が多かったです。悔しい気持ちはわかるけど、商売の拡大のためには「ここはひとつ大人になって」という意見も。
話し合い…闇討ちをかけるリーガルマインドのない会社とは、紳士的な話し合いにならないだろうと考えます。信頼できない会社や人と一緒に仕事をする会社や人はいない、と同じことです。また、大人だからこそ、信頼できない会社と一緒に仕事をするなんて危険すぎてできない、と判断したのです。

 


9. 新出願で権利回復を    
                      (出願2004年11月〜)


無料相談で全部無効の話を聞いていたら、「無くした部分について新たに出願しておかないと、誰かに取られてしまいますよ」と諭されてしまった。
登録しなければと思っていたけれど、相手の商標が残っている間から、出願しても拒絶されるだけと思っていたのです。
ところが、係争関係にあるときは処理を待ってくれるものだということを教えてくれたのです。こんなことも知らないなんて、やっぱり素人です。たしかに、時間単位で出願の優先権を争う世界で、相手方の権利が失効するのを待ってというのは悠長すぎるということなのですね。本当に勉強になったし、ありがたいアドバイスでした。
さっそく、「3.14=π(パイ)の日」で菓子及びパンなど、失っている指定商品で出願。特許庁のホームページに出願フォームものっているし、これは比較的簡単です。だれでもできなければいけないでしょうね。指定商品の分類を事前によく理解しておくことくらいでしようか。
ただ、指定商品に漏れがないかどうかを確認する方法が意外と難しいのです。
たとえば、「ミートパイ」という指定商品でどこまでをカバーしてくれるのか、その類似の範囲の認定が明確に基準化されていないからです。これは第30類の32F06という分類(短冊)に入るのだけど調理したパイをすべて包含するとは、一般には理解しにくいところがありますよね。指定商品は他人が侵害してこないようにするための防波堤でもあるのだから、分かりやすく明示しておくに限ります。
特許庁の担当官によっては「短冊のうちのどれか一つ指定商品にしておけば類似で拒絶になるのですから神経質になることはないですよ」といってくれます。しかし、現行の商標は審査がかなり甘く、付与後異議申立に頼っている感がなきにしもあらず。
私たちはもう情報提供だ異議申立だという争いをしたくないのです(この4年7ヵ月、訴えつづけの日々でしたが、けっして訴え好きではないのです。権利を守るためにはこれしか方法がなかった。そして素人でもこれだけやれてしまった、というにすぎないのです)。だから幅広く指定する方法をあみ出して、他人の侵入を未然に予防したいのです。
でも、調理パイのように漠然としたものは、指定範囲(類や短冊)が不明確になるので認められないのです。分類としては線引きが明確でなければならないということです。こちらは一般化して未知のものも防ぎたいと考えるのですが、特許庁はそれを許すと分類した類の概念が崩されると考えるのです。そのため、私たちはこと細かな指定を選ばざるをえませんでした。
出願の事務自体は簡単なんですけど、営業の内容、他社との攻防を考えて、一番簡略で有効な表示法にたどりつくのに、けっこう頭を使わないといけないというのが、今回の感想です。最初のときはなにも考えなかったんですけどね。

相手方の商標が無効となれば、いよいよ私たちがあらたに出願(なくした指定商品についての新たな出願)している商標が登録されるでしょう。禁止権がなくなったからというだけでなく、自分たちの商標権として、積極的にみなさんにご利用とご参加を勧めていきたいと願っています。

長い長い、商標大作戦。これで大団円となればいいのですが。
ここまでご愛読ありがとうと言わせて下さい。もし、この続きがあるようだったら、笑ってお付き合いのほどを。やれやれ。

商標大作戦