SCRAP METAL
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 ヨナは毎日でかけた。いくつかの不法投棄現場をまわって、マリアのために“新しい子”をさがしているのだった。化粧品も見つけてやりたいと言っていたが、そちらは難しいらしかった。まさか買いにゆくわけにもいかない。
 マリアは足腰が立たなくなっていた。外見上はヨナより良好そうだが、内部骨格の噛み合わせ部品が破断しているらしい。同じ姿勢で坐ったままスクラップの化粧に明け暮れていた。人格プログラムも不具合を起こしていた。まともな会話はほとんど成立しない。ただときどき何かの拍子に正気に返ると、不安そうにヨナの名を呼びながら彼を探した。ヨナがいないときには、そのあとにさらにマダムの名がつづいた。親猫をさがす子猫のような声だ。
 わたしはその声を聞いていたくなくて、ほどなくヨナと一緒にでかけるようになった。
 あるいは、単にヨナのそばにいたかっただけなのかもしれない。
 廃物のなかを歩きながらとりとめのない話をした。マダムのこと、マリアのこと、“ママ”のこと、あの人のこと、猫たちのこと・・・・・・最後まで話しきってしまうことは少なくて、たいていは途中で自然に立ち消えになる。そして気がつけばまた別の日に同じようなことを話題にしているのだった。ときには二人でひたすら歩いたり、廃物に腰掛けたりしながら、ただおしゃべりだけをして帰ることもあった。いや、だんだんとそんな日のほうが多くなった。
“新しい子”はいっこうに見つからなかった。お土産がないと知ると、そのたびにマリアは不服そうな顔をした。けれどすぐに機嫌を直して――というより忘れて――他の子のメイクに戻った。わたしたちはそんなマリアに慣れてしまっていたのかもしれない。いつのまにか、マリアの感情の変化については、その場その場であしらう癖がついてしまっていた。少なくともわたしはそうだった。
 わたしは肝心なことを忘れていたのだと思う。
 マリアのプログラムはたしかに変調をきたしていた。それでも、その時々のマリアの感情自体に嘘はなかった。たとえ次の瞬間には忘れてしまうとしても。怒るときも、悲しむときも、笑うときも、マリアはいつでも“本気”だった。

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