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LOVELY、LOVELY、HAPPY !

 体育祭編






ドキッとした。
大道具の近くへ行くと、高岡先輩が西田先輩と話している。
その隣に、竜くんも居た。

高岡先輩の気持ちに気がついてから私はどうしていいか判らなくて、 でも高岡先輩の様子は変わらなかった。 私のことが好きだという言葉に嘘があるとは どうしても思えなかったし、 竜くんと私が上手くいけばいいと考えてくれているのも本当みたいだった。
私には、 竜くんと他の子を応援するなんて絶対に出来ない。
「あ、真琴ちゃん!」
私に気がついて嬉しそうに高岡先輩が笑う。
竜くんを取っていく女の子がいたとして、私はあんな風には笑えない。
なんて醜いんだろう、私は。
ただ話しているだけでも嫉妬して。
私の そこがいいのだと高岡先輩は笑っていたけれど。

「はぁ〜? 無茶 言うなよ!」
西田先輩は由希先輩が持ってきたプリントを見て そう叫んだ。
レッド団長の西田先輩はラグビー部の主将だ。 学校で一番 身長が高く、筋肉質でガッシリした外見から粗野なイメージがあるが、 本当は あちこちに目を配る神経の細やかな人だ。
「ちょっと見せて?」
高岡先輩が手に取る。
「ふーん、藤崎も苦肉の策だなぁ」
「今更どうしろっていうんだよ」
「大道具、もう そのつもりで作ってるぞ?」
竜くんもプリントを覗き込みながら言った。 大道具のパートリーダーの鎌田先輩も様子を見に降りてくる。 鎌田先輩は大きな目をした可愛い顔で、 豪快な性格に口が悪く、しかし嫌味がないのでサッパリしている。
「あ〜? なんじゃこりゃ?」
相変わらずの大雑把な物言いで、鎌田先輩はプリントを取った。
「この仕掛けが売りなのになぁ」
俺、交渉に行ってくる、と西田先輩に言う。
「待って、忙しいでしょ。私が行く」
高岡先輩が言った。
「ここまで進めさせておいて今更ダメってことはないでしょ。 藤崎も便宜上持ってきただけだと思うわ」
鎌田先輩は少し躊躇して、じゃ頼むと晴天での作業に滲んだ汗を拭った。
「じゃあね、真琴ちゃん」
ごゆっくり〜と含み笑いをして高岡先輩は大道具の横を抜ける。

「鎌田先輩ー! これ…」
作業をしていた一年生が舞台の上から顔を覗かせた。

「あッ 馬鹿そこは…!」

ガラ…と音を立てて積み上げてあった板が倒れ掛かった。

「 危な…… !」

「 高岡ッ! 」

隣りにいた竜くんが飛び出していく。
バッと高岡先輩の身体を抱えて横飛びした。
大きな板がいくつも崩れ、土埃に辺りが覆われた。

「…ってぇ〜…」
「大丈夫か!?」
反応の遅れた私、西田先輩、鎌田先輩は慌てて駆け寄った。
「おー…、」
竜くんは応えながら高岡先輩を覗き込んだ。
「高岡? …あ、すりむいた? わり、」
抱き起こそうと手を差し伸べる。

「触らないでッ !! 」

バシン!と高岡先輩は竜くんの腕を振り払った。
そして自分の大声に驚き、傷付いたような目で竜くんを見上げた。

「…っんと、もー危ないなーー!!!」
その場の空気を誤魔化す明るい声を上げて、高岡先輩は自分で立ち上がった。
「えーと、一年の…如月くん? 気をつけてよね〜!  傷が残ったら責任取ってもらうわよ?」
冗談めかして笑いながら言う。
降りてきて平謝りを繰り返す一年生の額を優しい指でピンと弾いた。
「鎌田にも言われてたと思うけど、もう一度みんなにもよく気をつけるように言ってね?」
レッドの姐さんと呼ばれている高岡先輩らしく、落ち込む彼の背中を思い切り平手打ちして 作業に戻らせた。
「あ、一宮、ありがとね」
振り返り竜くんにニッコリ笑う。
「おう」
竜くんにとっては手を振り払われたことなど気に留める事項でもないのだろう、 いつものように軽く応えた。
「高岡」
西田先輩が心配そうな声を上げ近寄ろうとしたが、高岡先輩は ひと睨みでそれを制す。
あんたもよ、近寄らないで、と雄弁に語る目に西田先輩は唇を噛んだ。

「真琴ちゃん」
お願いよ、気にしないで。

縋る目。

きっと本当は、一番 気にしたくないのは高岡先輩。
声を交わすだけ、身体が触れるだけで反応する自分を一番 悔しく思っているのは。

声は わずかに震えていた。






つづく




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