福島学
高橋ナオトは世界に挑戦することなく現役韓国王者にKO負けを喫する。
意識を失い担架で退場する高橋の姿からは
もう逆転の輝きは失せていた。
終わった…
そのカウンターが世界の頂点に叩きつけられる事はついになかった…
が、高橋はボクシングから離れなかった。
多額の借金をしてまで綾瀬駅前のデパート内に
念願のボクシングジムを開設したのだ。
周囲の民家にチラシを配って歩く高橋に
世界ランク2位の面影はない。
「ちゃんと練習生、集まるだろうか…？」
不安が高橋を襲う。
…そんな時、一人の少年が福島県からやってくる。
現役時代、高橋が残した仕事を片づけるために…！
熱心に練習に取り組む福島に対し
高橋会長は数々の難敵を与え続ける。
それは彼自身のハードな戦歴そのままだった。
デビュー2戦目にしてムエタイ出身の名選手、ユタポン前田と対戦。
善戦こそしたが判定による初黒星を早速味わう。
4戦目でも判定で敗れ、さらに翌年の新人王戦でも
ダウン応酬の末、ドロー（敗者扱い）。
勝ったり負けたりを繰り返しながらも
福島のスタイルは完成に近づいていく。
会長の与え続ける強敵は
福島のレベルを着実に上昇させていたのだ。
インドネシア王者、フィリピン王者…
これだけ強敵との試合が続くと選手を壊しかねない。
（実際、逆転の貴公子は壊れてしまった…）
が、福島は壊れるどころか一戦一戦
明らかな成長を見せ始める。
アッパー主体、ボディ攻撃主体、防御主体…
試合のたびに課題を持って戦う福島に
ファンの期待は高まった。
日本タイトル前哨戦となった北島桃太郎戦。
この試合、福島は周囲をあっといわせた。
正統派スタイルの福島が
超変則ハメド・スタイルに挑戦したのだ。
九州のホープ北島は戸惑いを隠せず
まったく手数を出せない。
序盤、中盤と福島の攻勢が続いた。
最終Rこそ北島の有効打を許したが
変則スタイルでの大差の判定勝ちを収め
念願のタイトル挑戦を決定的にする。
当時のチャンピオンは
4度の防衛を果たしている安定王者
長身サウスポー真部豊だった。
この試合、福島は多彩な軌道のリードパンチを多用する。
真部は挑戦者の複雑な攻撃に対応できない。
コンビネーションに隠された強烈な右ストレート…
このままいけばKOでのタイトル奪取も？
そう感じるほど一方的なシーンもあった。
が、優勢だった福島のスタミナが切れてきた頃
王者はジワリと反撃のノロシを上げる。
真部の前進に今度は福島がタジタジ。
致命打こそ避け続けたが、終盤の貴重なポイントを失う…。
微妙な判定は2-1で福島を支持！
新王者の誕生となった。
「キャリアを積んだからこそ勝てたんだと思う。」
勝者インタビューで福島は
これまでの自分の厳しい道程を勝因に挙げた。
敗れた32歳の真部は引退も囁かれたが
「何度ビデオを見ても納得できない。」
と再起を表明。
いずれ行われる執念の再戦…
雪辱を誓う前王者は油断できない挑戦者として戻ってくる。
そしてこの2戦で露呈した福島の弱点、終盤のスタミナ不足。
日本屈指のタフ・ファイター、石井広三なら確実に見逃さないだろう。
日本タイトルは福島にとってまだ最初の栄冠。
高橋会長の残した仕事を片づけるには
まだまだ難関が立ち塞がっているのだ…
そのボクシング技術は折り紙つき。
フィニッシュへの着火弾となるカウンター気味の右フック！
世界初挑戦、強打のラリオスに完敗を喫してしまう…
投稿
はじめまして。初めて福島さんの試合見ました。
（王者オスカー・ラリオスへの世界挑戦）
これまでの日本人より打たれ強いなって素人ながら思いました。
（初回に痛烈ダウン、8Rまで耐え続けストップ負け）
これからも頑張って欲しいんですが、
あの髪何とかならないんですかね？
しきりに前髪を気にするそぶりが気になって仕方ありませんでした…
（初回のダウン以降、福島は記憶が飛んでいたとの事）
次に戦う時は是非、前髪を何とかして挑んで欲しいと願います。
期待してます頑張ってください！！！
映画『キッズ・リターン』の結びに、
ボクサーを志すもジム内の悪い先輩に才能を潰された男と、
ヤクザの世界で頂点を目指しその世界のおきてに跳ね返された男という、
主人公二人のこんな会話が挿入されているとか。
「なぁ、俺達もう終わっちゃったのかな」
「バーカ、まだ始まってねぇよ」
元々、スクーターの交通事故に遭い、
死の淵から奇跡の生還を果たした北野武監督が、
自らと、そして一説にはあの辰吉丈一郎を、
二人の主人公に投影したといわれる作品。
今、長嶋と福島に、かけられるべき言葉だろう。
『高橋ナオトの宿題』の本命部分にようやく取り掛かったところでのつまづき。
２世代かけた夢の扉をこじ開けようとし５分余りで食らった門前払い。
かたや２８歳という年齢、
統計的には再び世界を目指すにはかなり厳しいかもしれないが、
第１ラウンドたった一度にせよその左拳はメキシコの王者の顔を鮮やかに貫いた。
が、あとは２０分以上も延々繰り広げられる虐殺劇。
かたや５年前に日本で嘗めた苦杯に落とし前をつけるべく、
やってきた褐色の天才児のリズムをかき回す間すら与えられず、
袋小路で何もできず完膚なきまでに叩きのめされた親子鷹。
短い煌きをのみ見せての玉砕。
立ち塞がる、技術と力と、何より精神の、高い高い壁。
ようやくこのときがやって来た、
彼らが超えるべき、突き当たるべき壁に挑むときが。
そう、彼らのレベルからすれば、
やっと壁の前まで来たばかり、なのだ。
だから、彼らはボクの目には、そして恐らく彼ら自身の中でも
「バーカ、まだ始まってねぇよ」なのだ。
（投稿・Yoshida氏）
福島学が初回KO負けしてから、どうなったのかふっと気になる。
ボクシングが好きで好きで上京してきた若者が
（確か福島から自転車で綾瀬まで来たんだったっけか）
やっとの思いでたどり着いた夢の世界戦。
どんなドラマでも描けない、なんとも皮肉な結果が待っていた。
こんな福島は見たことがなかった。
初回にハードブローを食った後、意識が飛んでしまい、
危険な距離なのに髪型をいじったり、人の良さそうな愛想笑いを浮かべたり、
とにかくとにかく、戦う姿勢が悲しいほどにぶっ飛んでしまった…
努力の末にたどり着いた舞台で演じてしまった不可解なボクシング。
全国ネット、初めて彼を見たファンも多かっただろう。
「なんだありゃ…」
「かっこつけてやがる」
顔立ちも端整で、日に焼けた二枚目だっただけに（完全に裏目…）、
そう思われてしまうのも（悲しいことに）理解できてしまう試合内容だった。
（事実、一緒に観戦していた妻は酷評だった）
が、国内ライバルとしっかり戦って、
ハードなマッチメイクを乗り切ってきた男だった。
近年稀に見る、まともな世界挑戦決定だった。
出来立てジムのリーダー的存在、
会長の愛弟子として練習熱心なだけでなく、
そのスタイルも奇抜・意外、アイデアの宝庫だった。
ジャブっぽいフォームのままアッパーをリードブローに使ったり、
パーリングで相手を壊してイライラさせてエサを撒く様子など、
当時の国内リングでは工夫が感じられるボクサーだった。
（真ん中重心がしっかりしていたからこそデキた芸当。
近年は軸もずれてしまって、動きがバラバラ気味だったが…）
世界戦に負けた後、周囲にも様々な不幸な状況があったと聞く。
ジムも移籍し、ハードなマッチメイクで再浮上を目指しているという噂。
そこそこヒット曲を出したミュージシャンが、
やがて大手の会社からインディーズレーベルへ…
そんな悲哀を感じながら、ボクマガの試合結果ページに
時折名前を見つけてはチェックしていたのだが…
最近、名前を見ていないなぁ…
ボクシング、そして人生で、
彼のようにボクシングに一途だった男が
元気にやっていてくれたら…と願ってしまいます。
（サンドバック・書き込み）
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