渡辺雄二
とにかく渡辺のボクシングには遊びが感じられない。序盤から自慢の強打を惜しみなく振るい
対戦相手を次々とマットに沈めてきた。
ディフェンスの優れた選手が相手で、判定までもつれた場合でも
渡辺は最後までその全力ファイトを貫き通す。
試合中にクリンチで時間を稼いだり
距離を取って安全にRをこなしているシーンは
デビュー以来、一度も見たことがないのだ…
渡辺の出世試合は7戦目。日本タイトルを獲得した赤木武幸戦だろう。
両者はスパーリングで互いの手の内を知っており
赤木陣営は戦前、充分に勝利の手ごたえを感じていたという。
が、結果は渡辺の2RKO勝利。
この試合で渡辺は日本タイトルと世界ランカーの座を勝ち取っている。
その後も戦慄のKO劇を続け、戦績10勝10KO無敗のレコードを引っさげ
世界へのドアを開けた。
王者は技巧派ヘナロ・エルナンデス。
この一戦は渡辺にとって、一生忘れられない試合となった。
もし渡辺が負ける場合、
徹底的なアウトボックスによる判定負け
それしか想像できなかった。
が、蓋を開けてみればヘナロは
一見危険な中間距離での打ち合いを選ぶと
正確無比なパンチで渡辺を一方的に打ち続け
6RTKOで勝利してしまう。
渡辺は自分の距離での完全敗北に愕然とした様子だった。
控え室では涙ながらに「1から出直し…」と再起宣言をしたのだが…
再起戦にあえてマルコス・ゲバラという強敵を選んだ渡辺は
序盤から無造作にパンチを浴び続け、痛恨の7RTKO負けを喫する。
この連敗によって渡辺の弱点ははっきりとした。
「ディフェンス」
ボクサーの基本となるこの技術を使うことなく
世界挑戦まで登りつめた渡辺…。
その強力な攻撃力が重大な欠陥を招いたのだろう。
世界レベルの選手は、渡辺の強打に恐怖することなく
向かってくる…
それに対してどう対処すべきか…
渡辺は連敗後、2年ものブランクを作る。
誰もが「時間をかけてスタイル改造に着手している」と思っていた。
が、再起してきた渡辺は「どうだ！」とばかりに変わっていなかった。
「皆さんに必ず世界のベルトを見せますので、応援よろしくお願いします！」
堂々とした渡辺らしい、攻撃一辺倒のボクシングで東洋を獲得すると
再び、世界のリングに立った。
相手はウイルフレド・バスケス。
日本のリングでも馴染みの深いベテランだ。
葛西雄一を初回ＫＯに下している強力な王者だが
筆者は勝利の可能性を随所に感じていた。
逃げないタイプのバスケスならば
渡辺自慢の強打も生きるはず。
なにより体の大きさが雄二よりも一回り小さい事実。
打ち合いに持ち込めば、念願のシーンも…？
が、当日の結果は残酷だった。
試合序盤に顎の骨を骨折、
へなへなと倒れて、相手に背を向ける惨敗…。
もう渡辺は終わった…
心身ともにボロボロでとても復帰は無理だろう…。
が、渡辺は万人の予想を裏切りカムバック。
長島健吾の持つ東洋のベルトに挑戦した。
決死の覚悟で挑んだこの試合、渡辺のワースト・バウトとなる。
1R開始直後から足取りがおかしい。
自分で打ったパンチでふらつく渡辺にファンは目を疑った。
「これが東洋レベルのボクサーだろうか？」
正直、この夜の渡辺は誰と戦っても負けていたかも知れない。
それほどの不調だった。
顔面を血だるまにされてのTKO負け…
が、やはり渡辺はボクシングをやめない。
再起後もハード路線を選択。
無敗の韓国新鋭、柳と東洋を争う。
この試合、序盤からルーキーのテクニックに翻弄され
惨敗の雰囲気が漂った。
が、渡辺は怯むことなく、中盤から必死の反撃をみせ、
徐々にポイントを獲得していく。
最終ラウンドにはKO負けのピンチに陥るが、幸運にもゴングに救われ
判定は…
「ドロー！」
この戦いの後、渡辺はこう語っている。
「勝てなかったけど、やっぱりボクシングは楽しい。」
「でもその前に坂本を応援しなくちゃね。」
「世界を取った坂本に、東洋を取った僕が挑戦すればボクシング界は
盛り上がる。そして盛り上げていくのが、僕らベテランの役目なのです…」
その後、ＫＯで東洋のタイトルを奪取すると
初防衛の相手にあえて柳を選ぶ。
10年の永きに渡る激戦のダメージは
雄二の体中にありありと残っていたようだ。
初回から打たれ続けた雄二は
3Ｒ序盤に倒れてそのまま立てなかった…
筆者は思う。
渡辺は自分を育ててくれたボクシング界に恩返しをしていたのでは…？
どんなにボロボロになろうと戦い続けた彼に
どんな未来が待っているのだろうか…
心からボクシングを愛している、渡辺選手の今後を応援します…
投稿
はじめまして。
岩手に住む31の男です。
昔、斎田ジムにお世話になってました。
私が入門した当時、渡辺さんはバリバリの売り出し中で、
羨ましいほど本当に光ってました。
（年下の癖に！って感じで ちょっとジェラシーも？）
初めて観た渡辺さんの試合は
たしか上田竜太郎？（忘れた）戦でした。
確かそのころは（いまも？）試合の晩に
ダイアモンドグローブで放送してましたね。
渡辺さん試合は迫力あるから
ＴＶで観てファンになった人も多かったとおもいます。
自分の中ではどんな世界チャンピオンより渡辺さんが一番ですね。
それでは…
（warw氏）
投稿
はじめまして。33歳の主婦です。
ボクシングがほんとに大嫌いだった私が、
後楽園ホールや数々の世界戦の会場へ
足を向けることとなったきっかけ・・・
それは渡辺雄二さんでした。
今では結婚し子供もいるので、ホールへはずっと行っていませんが、
渡辺さんを応援し続けた日々がなつかしく、大切な宝物に思えます。
渡辺さんを知ったのは、エルナンデスとの世界戦でした。
試合直前に「このあとすぐゴング」という感じでＣＭが流れたんです。
渡辺さんのあまりのかっこよさに驚き、
そのまま勢いで試合まで観てしまいました。
それまでボクシングは自分からすすんで観たことなんてなかったのに・・・
ほんとにミーハーな理由でした。
でも、それ以来私は会社の後輩とともに、
渡辺さんの試合はもちろん、
他のボクサーの試合にも新幹線で頻繁に出掛け、
すっかりボクシング漬けの生活にハマッていきました。
鬼塚さんからもすごく影響を受けました。
でも、やっぱり原点は渡辺さんです。
渡辺さんのボクシングを評価しない人たちもたくさんいました。
確かにディフェンス弱かったとは思います。
でもあんなに好かれてるボクサーっていないと思うんです。
ホールの試合の入場や退場のときなんて、
ファンやら友達やらたくさんの人たちにいつも囲まれて、
本人もサービス精神旺盛だからいつも笑顔で。
渡辺さんの現役生活の最後の方は、リングに上がっても足元フラフラで
「お願いだからもう引退してほしい」という気持ちで見てきました。
引退が決まったときは、ほんとに「やっと」という感じがして、
寂しさよりホッとしたのが本音です。
人なつっこくて、勝っては大喜びし、負けては人目はばからず大泣きし、
しつこいくらいにボクサーであり続けた渡辺雄二・・・
「こういうボクサーがいてもいいじゃん！」というのが私の気持ちです。
ボクシングに出会わせてくれた渡辺さんに感謝します。
そして渡辺さんを好きだった人もそうでなかった人も、
渡辺さんのボクサーとしての姿を
いつまでも忘れないでいてほしいです。
（一児の母より）
プロボクサーになった高校の先輩が
日本Ｊライト級王者に挑戦することになったので
後楽園ホールのチケットを入手し
１３年前高校時代の同級生らと上京し僕らは水道橋に向かった。
自分のことのように緊張し乍らゴングが鳴るのを待った。
王者のパンチをヘッドスリップで避けながら
距離を測り王者の隙を伺う渡辺先輩の
戦う姿は自信に満ち溢れているように見えた。
２Ｒ王者赤城選手の左ストレートをサイドステップでかわした渡辺先輩が
間髪を入れず王者の右顎に左フックを当てると王者は呆気なくダウンした。
ニュートラルコーナーでカウントを待つ先輩は落ち着いていた。
試合が再開されたあと同じパンチで王者はダウンを繰り返し
渡辺先輩は新王者に就いた。
今にして思えばその１３年前の１０月１４日が
先輩にとって最良の日だったのかもしれない。
翌年元世界フェザー級王者を破り
僅かプロ１０戦のキャリアで先輩は世界１位に迄昇りつめた。
沼津には先輩の場合世界ランカーになるのが
早過ぎたと云う人達が今も少なからずいる。
歴史があるこのクラスで戦歴の浅い選手が
これだけ短期間に1位になるのは確かに異例だろう。
９２年１１月２０日先輩はＷＢＡ同級王者ヘナロ=エルナンデス選手に挑むことになり
我々は約１３ヶ月ぶりに上京した。
日本王者に挑んだ時とは全てが違って見えた。
まるで渡辺先輩がダッキングするタイミングを見計らっているかのように
王者のパンチが的確に先輩の顔面を捕らえ続けた。
一方先輩の左フックは王者のウィービングに空転を続け
観客席にいた僕たちも焦燥感に苛まされた。
これが王者と1位選手の差なのかと落胆し始めていた丁度その時
王者の右アッパーを浴びた渡辺先輩の視線は一瞬虚空を彷徨った。
ひと呼吸置いて先輩の身体がロープにもたれかかったその瞬間
何の前触れもなくいきなり主審は試合をストップしてしまった。
隣に座っていた友人は「こんあのありかよ？」と叫んで
怒りを露にしていた。
ひとつのラウンドで３回ダウンするか
あるいはダウンしてから１０秒以内にファイティングポーズを取れない時だけ
試合を止められてしまうと思っていたので僕は言葉を失っていた。
渡辺先輩はその後ベネズエラのゲバラ選手に不運な敗北を喫し
世界の第一線から後退を余儀なくされたが
階級を下げ再度世界１位に迄上り詰めた。
フェザー級世界王者にも挑んだが健闘及ばず惜しくも涙を呑んだ。
二つの階級で世界１位の選手になるなんて
余程先輩はボクサーとしてのセンスに恵まれていて
なおかつ人知れず努力をされたのだろうと僕は思う。
（沼津学園（現飛龍）高ＯＢ）
ウェブで目を疑うような訃報に出会った。
-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-
名チャンピオンだったヘナロ・エルナンデス（米）が７日午後３時５分、
ロサンゼルス近郊ミッション・ビエホの自宅で亡くなった。４５歳だった。
-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-
…大好きなボクサーでした。
渡辺雄二が10戦10勝10KOのぽせいどん氏みたいなレコードで
挑戦した相手がヘナロエルナンデスでした。
思えば、当時の私は渡辺を高く買っていました。
破竹の勢い真っ只中、なぜあんな簡単に倒せるのか…。
ジャブだなんだ、防御だなんだ、立ち位置だなんだ。
我々がひとつひとつモノにしていくボクシングのイロハをぶち壊した
これまでにない破格のボクサーなんだ、渡辺雄二は…と思っていました。
赤城という一定の実力者をぶっ飛ばした強打、
そこらの俳優よりもかっこいいマスク。
後楽園には若い女性がワンサカ。
こりゃ新時代が到来するとワクワクしていました。
更に言えばほんの10戦で世界戦を決めた斉田ジムの英断にも拍手だな、
ボクサーは旬を逃しちゃならん、素晴らしい、と思っていました。
しかし、当日。
ヘナロはリングの上でまさに「ボクシング」を遂行しました。
避けて打つ、空いている箇所を打つ、
ブロックして打つ、視線が切れていたら打つ。
スピードが異常に早くもない、リーチが異常にあるのでもない。
ただ相手を良く見て戦っている、特別なことは何もない。
世界チャンピオンとはこうゆう男の事なんだな…。
10度も相手を倒してきた渡辺のフックが一度も当たらない。
逆にヘナロの鎌のようなフックやアッパーが
渡辺のガード（ようなモノ？）を壊し続ける。
4R序盤、意を決した渡辺がボディアタックを敢行、
ヘナロの腰が落ち、その顔色も歪んだように感じられた。
が、無呼吸で気を込めて放った若い強打は、
ダメージを溜め込んでいた自身の肉体を弱らせてしまう。
疲れきった渡辺は敗色濃厚の中、よく攻めた。
逆に言うと攻めることしかできなかった。
ここからは攻めるたびに打ち終わりを狙われた。
私には泣きながら戦っているように見えた。
実際、TKO後の控え室では渡辺の号泣は止まらなかった。
ヘナロが渡辺を激励すると渡辺はくしゃくしゃの笑顔を見せた。
世界を争った男達による言葉を超えたやりとり。
ボクシングを好きでよかった、と感じられた。
数年後、あの強かったヘナロがデラホーヤに破れたと聞き、
世界にはとんでもない男がいるんだな、と途方に暮れた。
渡辺は世界を取れずに引退した。
マガジンの記事には「たばこはやめられなかった」とあった。
ふふふ、俺は見る目がないな♪と苦笑したっけ…。
（本人の名誉のために付け加えると、
渡辺は一時代を築いた素晴らしいボクサーです！）
ヘナロエルナンデス。
45歳、早すぎる死。
栄光を手にした男がたったの45歳で…。
私は38歳、栄光なんてなにもない。
ただし45歳以上生きるかもしれない。
栄光なんて何もないのに…。
合掌。
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