6戦3勝(1KO)2敗1分
これが後の世界王者、薬師寺保栄の6戦目までの戦績である。
相手との距離感こそ優れていたが
冴えない試合内容が多く、練習不足が感じられた。
が、薬師寺は見事に「化けた」のである。
7戦目からは連戦連勝連続KO。
シャープなジャブ、それに続くシンプルなストレート。
武器こそ少なかったが、そのキレには将来性が充分に感じられた。
本来ならそろそろ注目されるべきだったが、
不幸にも様々な逆境が薬師寺に襲い掛かる…
暴走行為での検挙。
(暴走族時代の後輩達と偶然出会い、併走中に逮捕)
この事件で薬師寺は
コミッションより出場停止処分を受け
一定期間、国内での試合が行えなくなった。
選手生命の短いボクサーにとって、これは致命的な処分だったはず。
が、薬師寺は前向きに考えた。
すぐさま戦場を海外に移すと、貴重な体験と経験を積んだのだ。
(しかも連続KOは継続…)
一層、逞しさを増した薬師寺は
平成2年、米坂との10回戦を行う。
一進一退の攻防は最終10ラウンドまで続いたが
最後には薬師寺が連打をまとめKO勝利。
連続KO記録を6まで伸ばした。
が、対戦相手の米坂は死亡してしまう。
薬師寺は自分の運命を呪った。
一生懸命に練習して、勝って、その結果が…
苦悩の中、薬師寺はこう考えた。
「彼の分も!」
ボクシング人生を揺らす数々の逆境をプラスに転化し
薬師寺は勝ち続けた。
ついには9連続KOで日本タイトルを獲得、
最初の栄冠を勝ち取る。
その頃、薬師寺は
日系人トレーナー
マック・クリハラと出会う。
常識を超える量、地獄のスパー。
オーバーワークと疑われるほどのメニューでありながら
試合当日にはベストに仕上げてくれる師匠…
薬師寺は心身ともにマックを信頼し
急成長を遂げる。
平成5年12月、初の世界挑戦を微妙な判定で勝利。
2連続KOで防衛戦を片づけると、そこには新世界が待っていた。
「世紀の一戦」
王者VS暫定王者の統一戦として行われた辰吉戦。
入札興行権をめぐる攻防、両者の舌戦、
陣営同士のライバル意識、高額ファイトマネー…
社会現象にまでなったこの試合でも
薬師寺は自分を見失わなかった。
窮屈なまでに顎を引き、重心を下げたスタイルで
辰吉の強打に備えると
ジャブ、ストレートで自分の距離を冷静に保った。
中盤から辰吉の顎を何度も跳ね上げたアッパーは
それ以前の薬師寺にはないパンチ。
辰吉対策の成果が充分に発揮されていた。
そして最後まで止まらなかった薬師寺のフットワーク。
辰吉の宣言していた「30連打」の出番は最後までなかった…
マックと薬師寺の戦略はズバリ的中。
薬師寺はボクシング人生のクライマックスを見事な勝利で飾ったのだ。
その後、5度目の防衛戦で強敵ウェイン・マッカラーに惜敗すると
薬師寺はあっけなくグローブを壁に吊るした。
そして薬師寺はこんな言葉を残している。
「結果的にマッカラー戦は作戦ミスだったのかも知れんけど
やることは精一杯やってきたんで後悔はしてないよ。
負けても俺は絶対、泣かんつもりだった。
でも練習中は鬼に見えていたマックが
「チャンピオンらしく立派に戦ったよ」
なんてやさしい言葉をかけてくれるから
思わず涙が出てきちゃって…
いっそのこと叱りつけてくれれば
泣かずにすんだのかも知れないね。(笑)」
全28戦を一度もダウンすることなく終えた薬師寺。
派手好きの薬師寺が華麗さを捨ててまで
勝利するためのクレバーさを優先させてきた証明だろう。
そしてなによりこの男には
心から信頼できるトレーナーとの出会いがあった…
なんでも吸収しようとする素直な心が
人生を左右する実のある出会いを生んだのだろう
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