扉の向こうの青い空 18.5

(月子より)
す、すみません!ちょっと書いてみたかっただけなんです!!悪気は無いんです!!!
ごめんなさい!ごめんなさい!ごめんなさい!ごめんなさい!ごめんなさい!
ただ、ちょっと遊んでみたかっただけなんです〜。

 

 

 

 

「今日は、英語の勉強はお休みします。」

 食堂の仕事から戻ってきたチヒロはそう言ってにっこりと笑った。

「勿論、それはかまわないけど…。では、今日はこれからどうするの?」

 と、ホークアイ中尉が聞くと。

「え…と。学校で出たレポートが1つあって…。後、まとめて提出するだけってとこまで出来ていたんですよね。何かそれを終えないと、先に進めない気がして…。」

 だから、それをやります。と言う。

 チヒロの英語の勉強は、買ってきた辞書に『ニホンゴ』とやらで意味を書き込むことから始まる。書いてある説明文なども全て読み上げてもらわなくては分からない。

 この数日、主に相手をしていたのはアルフォンスだったが、俺たちも手が開いていたり、アルフォンスの説明に補足するようなことがあれば口を挟んだりしている。そのため、仕事が溜まるというほどではなかったが、少しずつ滞りがちだった。

 そんな俺たちを気遣って、わざわざ家ではなくここへ持ってきたのかも知れない。

 チヒロの机は、指令室の大佐の机の隣。俺の机のすぐ傍にある。はじめは大佐と並んでこちらを向いて置かれていたのだが、『居心地が悪い』と今では大佐の方へ向きを90度回転させて座っている。

 この日は大佐も指令室で仕事をしていたし、珍しくエドワードもアルフォンスも本や資料を持ち出してきていて、大所帯だった。

 チヒロが淹れてくれたお茶を飲みつつ、暫くそれぞれの仕事をしていると、不意にクスリとチヒロが笑った。

「ん?どーした?」

 手にした資料がそれほど集中するような内容ではなかったのか、珍しくエドワードが反応した。

「ん?あのね。ノートに友達が落書きしてて、エドのことが書いてあった。」

「へ?」

「読もうか?」

「おう。」

「えーとね。『先週のハガレン良かったー。12歳のエド可愛い!国家錬金術師資格試験合格おめでとう!練成した花輪、綺麗だったよー。』…だって。」

「兄さん、可愛いだって。」

「ば…アル!けど…『ハガレン』って?あと俺、試験のときに花輪なんて練成してねーけど?」

「そうなんだ?うーんとね。『ハガレン』って言うのは『鋼の錬金術師』の略だね。エドたちにどう聞こえてるのか分からないけど、作品の題名を略して言った言葉。花輪は原作じゃなくてアニメのほうの話なんじゃないかな?」

「『アニメ』?」

「そ、テレビで…。えと、本ではなく映像で見られるのがあったの。絵を動かしてね。友達の話では随分と原作とは違うエピソードが入っていたらしいから…。…そうなると、ここは原作に近い感じの世界なのかな?」

「ふーん?」

「チヒロさん。他に何か僕たちのこと書いてませんか?」

「ちょっと、待ってね。見てみる。」

 と、パラパラとページをめくる。子供たち3人がわいわいやっているのを、耳だけ傾けながら、仕事を続けていると。

「あ…あった。……あ゙、まずい。」

「何だよ?悪口?」

「や……そうじゃないんだけど…。」

「教えろよ。」

「あ゙ー、うん。や…止めとこう、うん。」

「何だよー、隠すなよ。」

「そうですよ。チヒロさん。」

「精神的ショックを受けると思うし…、まかり間違って本当でも困るから…。…うん、ねえ。」

「『ねえ』じゃねー。」

「何かすっごく、気になるんですけどー。」

「……他、探す。待ってて。」

「待て!それを読め!」

「うーーーーん。」

 暫く悩んで、ボソリといった。

「『ロイエドは良い』」

「はい?なんだって?」

「『ロイエドは良い』」

「『ロイエド』?何だ、そりゃ?」

「『ロイ』というと、私かね。」

 今まで黙って聞いていた大佐が口を挟む。

「エドは兄さんでしょ?」

「う…うん。」

「『良い』って?好きってことか?」

「はっはっはっ、私のファンか。」

「あーうん、はいそうです。」

「…違うんだな。」

 しらーと視線を外してうんうんと頷くチヒロの態度に、エドワードが断言した。

「何で、大佐の名前と俺の名前を1セットで呼ぶんだ?」

「…1セットにしたいから。」

「?」

「だから!」

 もう、と開き直ったようにチヒロが顔を上げた。

「大佐とエドがデキてるって。」

「はー?」

「何だって?」

「つまり、カップル……だったらいいなって。」

「「っっっっっ!!!?」」

「わっ、私じゃないからねっ!ファンの女の子たちがっ。」

「え…と、つまり。大佐と兄さんが…その、恋人同士じゃないか?…って?」

「そ。」

 ぶっ!思わず俺が噴出した。当事者二人の真っ青になった顔が面白かったのだ。

「ありえねー。」

 わははは、と他のメンバーも笑い出す。

「チヒロ、鳥肌立ったぞ。」

 エドワードが睨みつける。

「そんなこと言われたって…。大体こういう漫画とかで、特に男の登場人物が多い作品とか女の子に人気のあるのは副産物として、妄想爆発させた同人作品ってのが多く出回るんです。その中で一番多いのが、ホモネタなの。」

 チヒロの口からあっさり『ホモネタ』なんて言葉が出てくるのが何か凄い。

「…同性というのもあるが、大体鋼のと私とでは年齢も離れているし、普段はめったに会わない。そういう状況で、どうして恋人同士などと…。」

「多分、年齢差や遠距離恋愛という障害を乗り越えるところがドラマチックなんじゃ…?」

 白く燃え尽きかけてるエドワードに笑いをこらえていると。

「ちなみにこういうものは大抵総当りですから。」

 と、チヒロはすましていった。

「『総当り』?」

「そうです。実際に誰が作品に登場しているのかは知らないけど、もしもここにいる人が全員登場しているのなら…。まず、大佐とエドでしょ。後は多分エドとアル。」

「はい?」

「大佐とジャンさん。」

「へ?」

「ジャンさんとブレダ少尉。」

「おい?」

「んー、後は…。ああ、ジャンさんとアル。後…ファルマン准尉とフュリー曹長とか。」

「ま、待て待てー!」

「何でだっ!?」

「後まだ言ってないのは…。大佐とアル?ジャンさんとエド。んーと。大佐とフュリー曹長。それから…。」

「うわー、もう良い!」

指折り数えるチヒロをとめる。

「だって、想像だから。何でも出来るし。」

「兄さんと僕、兄弟だよ。」

「ホモが普通なんだよ。近親相姦くらい良くあること。」

「っ!!」

「俺と大佐って?」

「上司部下でしょう。」

「ブレダとは。」

「友人同士。」

「だから、何でそれで恋人!?」

「私は自他共に認める女好きなつもりだが…。」

「ホモのカモフラージュ。」

 がっくりと大佐が肩を落とす。

「…ちなみに、私はどうなのかしら?」

 ホークアイ中尉がにっこりと聞く。

「多分、大佐とかジャンさんとか司令部の方々と…だと思いますけど。…大穴でエド?」

「…そう。」

 割と普通ね。と言っている。男ばかりの職場だ。実際でも口さがない噂は耐えない。

「あ…ちなみに、リバ有りだから。」

「…リバ?」

「うん、だから『ロイエド』って言った場合。大佐が上で、エドが下。」

「上?」

「下?」

「…やだなあ。つまり、する方とされる方ってことですよ。」

「ぶっっ!?」

「名前が前の方が男役で後のほうが女役ってことですね。だからリバってその逆バージョンね。『エドロイ』って言ったらエドが大佐を…。」

「げーーっ。」

「…私が…鋼のに…?」

「……ああ。あった。」

 ノートのページをめくっていたチヒロが手を止めた。

「『ロイエドも良いけど、最近ハボロイにもはまってるの』だって。」

「…って俺!?」

「そう、この場合はジャンさんが大佐を…だね。きっと逆もあるよ。」

「逆…ってまさか。」

「わ、私がハボック少尉を…か?あんなでかいのを押し倒して何が楽しいんだ!」

「そんなのこっちが願い下げっスよ!ってかどっちも!」

「ほっかには、なっいのかな〜。」

 開き直ったのか、俺たちの嫌がり方が楽しかったのか。チヒロは嬉々としてページをめくり始めた。

「や…止めろ…。」

 エドワードが慌ててその手を止めた。皆もこくこくこくと頷く。

「チ…チヒロさんは?」

「うん?」

「エエと、そういうの…。」

「ああ。ハガレンは読んでなかったから…。ちょっとピンと来ないかなあ。」

 ほ〜〜〜っっと、皆が肩の力を抜く。

「残念。読んでくればよかった。そうしたら、毎日きっと楽しかったのに。」

「はあ?何でだよ?」

「だって、目の前で生の『兄弟な会話』とか『上司部下な会話』とか『同僚な会話』とか聞けたんだよー。」

 ふっふっふっと笑うチヒロに一瞬引く。

「…ちなみに、他の作品ではどうだったんだい?」

「はまったものは、そりゃあもう妄想大爆発でした。」

 怪しく目の色が変わる。

「残念!ハガレン読んでくるんだったー!」

「「「「「「「読んでなくて良かったから!!!!」」」」」」」

 一同の突っ込みに、

「えー、そうですかー?」

 チヒロは小さく首を傾げた。

 

 

 皆、ヤワよねえ。

 チヒロは内心でそう呟いた。

 女体化もあるし、男娼設定や強姦。男同士の三角関係。薬や道具を使うものだって中にはあるのに。

 それを伝えていたら、全員が真っ白に燃え尽きそうだったから止めておいた。

 …そんなチヒロも、自らのために言わなかったことがある。

 まさか登場人物の中で女性がホークアイ中尉一人ということはないだろう。二人以上いればレズもあるはず。男性化して他の男性と…なんてものだってもしかしたら…。

けれども、それを言ったら自分の命が危ないような気がして黙っておいたのだった。

 

 

 その日、指令部一同は仕事の能率が大変悪く、リザ・ホークアイ以外の全員が残業となった。

 その部屋の扉の前を通ったものは、深い深い溜め息を何度も聞いたという。

チヒロとホークアイは定時に連れ立って街へ繰り出し、食事にショッピングにとめいいっぱい楽しんだのであった。

 

 

 

 

 

 

20051027UP
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すみません。一度遊んでみたくて…。
字体も変えてみました。
ちなみに、ヒューズ氏やセントラルの人々、ウロボロス組が出てこないのは、
チヒロがまだその存在を知らないから。
知ってたらさらに凄いことを言った気がする…。
エエと、今後も「○○.5」話と表示されるものは番外編と言うかサイドストーリーのような感じの話になります。
読まなくてもストーリーに支障はありませんので、『いや』と思われた方はよけてお通り下さい。

 

 

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