扉の向こうの青い空 61

「おでかケ?」

 おっ、驚いた!部屋にはもう誰もいなかったはずなのに。

「リ…リン!?どこから…。」

「窓かラ。」

 平然と言う男の子。だ、誰?

 アル達は知っているようだけど。

「国家錬金術師なら軍のホテルを使うと思って、シラミ潰しにさがしちゃったヨ。」

「だからって、何で窓から来るかなあ!」

「ほら。一応、犯罪者だかラ。不法入国&留置所脱走。」

「僕達の知らないところで、何があったんだよ…。」

「バリー・ザ・チョッパーから話は聞いタ。君たち面白い事になってるネ。」

「「!?」」

「アル…。誰?」

「ああ、チヒロさんは会った事ないんだよね。」

「私も、チヒロさん?…とは初対面なんだけど。」

 ウィンリィちゃんがそう言って、初対面同士ご挨拶となった。

「シン?」

「あれ、知ってるの?チヒロさん。」

「中国の昔の国名が確か『シン』って…。けど、きっと関係ないわね。」

 ここが漫画の世界である以上、恐らく作者の荒川先生があの辺の国をイメージしてそう付けたんだろう。

「チヒロさんは…難民…?」

「どこの国かラ?」

「あ、あの、それはね…。」

 焦るアルに、いいのよ。と笑った。

「私は違う世界から来たの。」

 そして、私がこの世界へ来たいきさつを話した。

「死んでも生き返っタ…。不老不死?」

「違うと思うわ。だって、元の世界の私は死んでるもの。」

「けど、貴方は生きてル。」

「リン君の言う不老不死は、違う世界で生きることなの?」

「いや…そうだネ。それでは意味がなイ。」

 それから、リン君はマリアさんのことや。『バリー・ザ・チョッパー』という、アルと同じように鎧に魂が定着した人のことを話してくれた。

 そして、バリーという人を通して大佐と協力しようとしていることも話してくれた。

 ジャンさんが言っていた泊まりこみってこれのことなの?

 ………と。

 ヒューと、花火のようなものが上がった。

「やばい、やばイ。始まっちゃったヨ。」

「何?花火?」

「んー、反撃ののろし……かナ?」

 そう言って靴を履くと、リン君はアルを見ていった。

「行くかイ?」

 

 

「……行っちゃった。」

「行っちゃったね。」

 女二人が残って、揃って溜め息を付いた。

「…ウィンリィちゃん。」

「はい?」

「エドが帰ってきたら、謝っておいて。『叩いてゴメン』って。」

「あ、…あの。あれはっ。私も悪かったんだし。その、自分の事で精一杯で、グレイシアさんのことまで考えられなくてっ。」

「ううん。やっぱり謝っておいて。半分八つ当たりだから。」

 そう言って私は情けなく笑った。

「この頃、色々と不安で。情緒不安定だったみたい。」

「チヒロさん。」

「私だって、一応軍の隅っこには所属してる気になってた。なのに何にも教えてもらえなかった。そのくせ、私の見えないところで何かが動いてる気配だけは伝わってくるの…。」

「………。」

「まったく知らなければ、笑っていられるのに…。なまじ感じてしまったから…。不安と心配だけが募ってしまって…。」

「チヒロさん。」

「かといって、教えてもらっても何も出来ないのにね。」

「…それは私も同じです。もどかしいけど。とってももどかしいけど、私に出来ることってきっと、待ってることだけなんですよね。」

「本当は、それだけじゃ嫌なのにね。……じゃ、私帰るわ。」

「あの。ここで、一緒にアルを待ちませんか?帰ってくるって約束してくれたし。」

「うん。ありがとう。でも私、やっぱり帰るわ。…で、家で待ってる。帰ってきてくれるのを信じて。」

「………はい。」

「じゃ。おやすみなさい。」

「はい。おやすみなさい。」

 詳しく聞かないでくれたウィンリィちゃんに感謝しつつ、私は家への道を急いだ。

 物凄く簡単に話してくれたリン君の話だけでは、ジャンさんがどう係わっているのかまでは分からなかった。

 けど、タイミング良すぎるもの。きっと、さっきの『反撃ののろし』って言うのに係わっているはず。

 アルは、『ヒューズさんを殺した奴の事が分かるかも…』って言っていた。

 そんなところが危険じゃないわけ、ないよね。

 

 

 

 全然会えなくたっていい。

 他に女の人がいてもいい。

 でも、どうか。無事で帰ってきて…。

 

 

 

 

 その夜は、一睡も出来なかった。

 ウィンリィちゃんに、家の電話番号は教えて来た。アルが戻ったら連絡が入ることになってる。

 まんじりともせずに待って、その連絡が来たのは夜更けだった。

『アル。帰ってきました!』

 弾んだウィンリィちゃんの声。

 それはそれで、ほっとしたけれど。

 私が本当に待ち望んだ電話が来たのは夜が明けてからで。

 フュリー曹長からもたらされたその『連絡』は、聞きたくなかった言葉で埋め尽くされていた。

 

 

 

 

 

20060615UP
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リンとチヒロは面識を持つはずじゃなかったのに…おかしい…。
そして、とうとうここまでやってきました。
チヒロをどこまで係わらせるか…とても悩みました。
けど、大佐は絶対に現場にはチヒロを連れて行かないだろうと思い。ただ待っていることに…。
それも辛い。
そして、そして、とうとう…。
(06、06、22)

 

 

 

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