隣同士の距離 12

 

 観覧車を降りて、家路に付く。

 その途中。またしても、攘夷浪士に襲われたが銀時が倒した。

 騒ぎを聞きつけてやってきた真選組の隊士に(原田だった)後処理を押し付けて、再び家路を辿る。

「1個、聞いても良いか?」

「ん〜何?」

「どうして、俺を万事屋に泊めないんだ?」

「理由は言ったでしょ。」

「本当の理由じゃないだろ。」

「ソファで寝かすのが可哀想ってのも理由の一つ。俺、結構夜遊びすっから夜間は新八の家の方が安心ってのもそう。あとは…まあ、もうばれちゃったけど時々ヅラが来っからさ。鉢合わせする機会は少しでも少なきゃ良いなあと、それも理由の一つ。」

「後は?」

「あんときは、俺としては万事屋に篭ってたほうが安心って思ってたから。1日中万事屋じゃ息がつまるかなあ…ってのもあるかな?」

「それ、だけ?」

「………後は。そうね、君が多串くんと同じ顔だから。かなあ?」

「はあ?」

 それは、いつも喧嘩している相手の顔など日常では見たくないということだろうか?

 けど、それだったら仕事を請け負った理由が分からない。

 いつ襲ってくるか分からない攘夷浪士から俺を護ろうと思ったら、24時間体勢になるのは初めから分かっていたことだろう。

 『土方』の顔を見たくないのなら初めからこの仕事を請け負わなければ良かったのだ。

 あの時銀時が受けなければ、『土方』は多分俺を屯所に連れて行って匿うという手段を取ったはずで。選択肢が無かったわけじゃない。

 まだ、ちゃんと会ってはいないけどあそこには近藤さんがいるのだ(総悟もいるが)、退屈することは無さそうな気がする。

 確かに銀時はちゃんと理由を応えてくれたのだろう。そしてそれは銀時なりの真実なのだろうが、それが俺には伝わらない。納得しきれない。

 なんだろう?何かがスッキリしない。

 むうと、黙り込んだ時に携帯がなった。

 今この世界でこの携帯番号を知っているのは一人だけ。

 だから彼からであるのは分かりきっているのに、いつも『もしかしたら…』と思う。

 もしかしたら本来の自分がいるべき場所と通じたのではないか?もしかしたら…銀八がかけてきてくれたんじゃないか?…と。

「はい。」

『俺だ。』

 着信は、当たり前だが『土方』からだった。

『遊園地は楽しかったか?』

「はい、まあ。」

 そうか。と笑う気配。

『今、どこだ?』

 銀時に聞いて、教えてもらった番地を言うと。

『そこならまだ屯所の方が近いな。これから来れるか?』

「え?」

 携帯を銀時に渡す。

「え?今から?  ああ、うん。そりゃあ。  けど、総一郎くんとかは………。あああ、ははは。   ゴリラも?   しゃーねーな、分かった。すぐ着くよ。」

 はい。と携帯を返してくれる銀時にどうなってんだ?と聞くと。

「この間、多串くんが朝早く屯所へ行ったでしょ?あん時に多串くんを見てる何人かの隊士たちからじわじわ噂が広がっちゃったらしくてね。」

「はあ。」

「総一郎くんなんかウチへ来たのに見れなかったもんだから、相当悔しがってるらしくて…。町を破壊しかねない勢いなんで、一度お披露目だってさ。」

「お、お披露目…?」

 何だそりゃ。

「ゴリラも会いたがってるってさ。」

「近藤さんも!?」

「………。ああ、やだねえ。土方属性。お前もゴリラ崇拝者かよ。」

「別に崇拝なんかしてねえ。」

「そうかねえ?………まあ、良いや。一応、多串くんの遠縁の子ってことになってるから。」

「分かった。」

 そんなんで誤魔化せるのか?と一瞬思ったけど。そういえば、こっちの近藤さんと総悟は幼馴染じゃないんだよな。(向こうでは3軒とも家族ぐるみの付き合いだから、互いに頻繁に行き来がある親戚まで把握しているのだ。)

 『土方』は天涯孤独って言ってた。攘夷戦争で家族を失ったって。

「銀さん。」

「うん?」

「銀さんは、家族は?」

「いないよ。」

「銀さんも天涯孤独?」

「ん、まあそうかな。」

「どうして…って聞いても良いか?」

「最初からいなかった。」

「は?」

「なんか、捨て子?そんな感じ。寺子屋の前に置かれてたらしい。」

「そんな!」

「この髪とか目の色とか、珍しいしね。びっくりしちゃったんじゃないの?俺の親も。」

「……じゃ、その後どうやって…。」

「その寺子屋の先生が引き取って育ててくれた。もう、その人も亡くなったけどね。」

 では、やはり一人ぼっち。

「けどまあ。男なんてさ、アッチコッチの毛がボーボー生えてくる頃にゃ親元から離れて独り立ちするもんだろ?」

「そ…かな?」

「天涯孤独って言ったって、ダチや知り合いがいないわけじゃないし。今はなんか扶養家族増えてんし、ペットまでいるし…。仕事はあんま無いけど従業員もいるし…。まあ、こんなもんじゃねえの?」

そうか?…そんなもんなのか?

「多串くんだってさ、真選組って居場所を見つけて。ゴリラ立てて、総一郎くんのイタズラに手を焼いて、隊士たちを怒鳴りつけて…。うん、なんか楽しくやってんじゃねえの?」

「………。」

 俺の基準から言ったら、すんごく大変なことでも。こっちの人たちはサラリと笑って生きている。

 強いんだな。

 ふと、そう思う。

 たとえ恵まれた環境でなくとも、どこかに活路を見出して笑う。

 自分もそうあれたら…。

 ここへ来て、俺はどこか甘えていた。

 ここは自分の世界ではないのだから。いつかは戻れるかも知れないのだから。護ってくれるって言ってんだから、護ってもらえば良いじゃないか…と。

 けど、ここが自分の生きてきた世界と違うというのはあくまでも『土方』の仮説でしかない。

 それに対して自分が『ならば辻褄が合う』と同調しただけだ。

 いずれ帰れるだろうと『土方』は言ったが、必ずそうとは言い切れないし。仮に帰れたとしてもそれが何十年もたった後だったとしたら…。それまで俺はここで生きていかなきゃならないのだ。

 それまでずっと万事屋に護ってもらう?仕事もせずに『土方』に養ってもらう?

 攘夷浪士からこそこそと隠れるように生きていくのか?

 そんなのはごめんだ。

 せめて自分の身は自分で護れるようになりたい。

「銀さん。」

「うん?」

「俺、剣術を習いたいんだけど…。」

「へ?」

「初めてってわけじゃない。あ、勿論真剣は初めてだけど…。小・中・高とずっと剣道部だったし、総悟ほどじゃないけどそれなりに強かったと思うし…。自分の身は…。」

「あのねえ。」

 少し強い口調にちょっと驚く。

 そりゃ良い。と喜んでくれると思っていたのに。

「刀を持つってことがどういうことか分かってる?」

「…どう…って?」

「アレは、人を傷つけることが出来る道具なんだ。武器なんだよ?」

「う、うん。」

「そして、人を殺せるんだよ?」

「………。」

「俺は木刀を使ってる。そういう俺に護られてるから、多串くんはまだ人が殺されるところを見てない。だから実感が無いのかも知れないけど。」

「………。」

「確かに今廃刀令が出ているから、多串くんが持とうと思ったって棒切れや木刀がせいぜいだけど、相手は違う。多串くんが敵と対峙しようと思ったら、その場に真剣はあるんだよ。何の弾みでそれを多串くんが使うことになるか、分からないんだよ?」

「………。」

「人を殺してしまうかも知れないんだよ?それだけの覚悟がある?」

「………。」

 そこまでは考えていなかった。

 例え考えたって実感がわかないのは事実で。………だけど。

「でも、そうしたら。俺はずっとこうして生きていくのか?」

「え?」

「そりゃ銀さんに護ってもらうのは心強いよ。けど、ずっと。一人で町を歩けなくて、『土方』さんにそっくりな顔を隠して生きていかなきゃいけないのか?」

「う。」

「夜は出歩かない。人通りの少ないところには行かない。例え、そう注意していたっていつかは襲われるかも知れないだろ。その時に、返り討ちにする事は出来なくたって、何とか自力で逃げ出せるように。せめて、誰かが気付いて騒いでくれるまで持ちこたえられるように。………そうしたいと思うのはおかしいか?」

「………。いや、そうだな。おかしくねえな。」

 ふうと溜め息を付いて銀時は苦笑いした。

「この何日か見てて、すっかり過保護になっちまってた見てえだな。学生の多串くんだって男の子だしな。いつまでも綺麗なまんまってわけにも行かないか…。」

 そう言って見覚えのある角を曲がった。

 もうすぐ屯所だ。

「土方にも相談してみようぜ。俺は依頼を受けただけで立場的にはあっちが保護者だからな。」

 

 

 

 

 

20070821UP
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銀さんの過去を捏造。
でも、何となく原作もそんな感じなんじゃないかと思いつつ…。
不幸を不幸とも思わない。そんなもの気にせず笑いとばす『銀魂』キャラの強さには憧れます。
(07、09、13)

 

 

 

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