隣同士の距離 14
「さて、と。ザキ、トシと坂田はどこへ行ったかな?」
近藤さんの声ではっとしてあたりを見回せば、道場内に残っていたのは山崎と数名の隊士だけだった。
途中まで銀時も『土方』も戸口で眺めていたはずだが、今はその姿はない。
『土方』は仕方ないと思う。
何かと忙しい身のようだ。きっと仕事があったのだろう。
けど、銀時はずっと見ていてくれていると…。無意識にだけどそう思っていたのに。
なんだか裏切られたような、見捨てられたような気持ちになる。
「副長は自室で書類整理をされています。万事屋の旦那は、先程お茶菓子をお出ししたのでそれを食べているのではないかと…。」
お茶菓子!!!?
お茶菓子に負けたのか!俺は!?
「そうか…。俺はこれから用があるから。ザキ、トシヤ君をトシのところへ案内してやってくれ。」
「分かりました。………けど、局長。用……って、まさか又ですか?」
「う、おう。」
「いい加減にしたほうが良いと思いますよ?また副長の雷が落ちますよ。」
「う。あ、ははは。じゃ、俺はこれで。」
さっきまでの大人で格好良かった近藤さんは、なにやら挙動不審になって行ってしまった。
「全くもう。真選組の局長がストーカーなんて洒落になんないよ。」
ねえ、トシヤ君もそう思うでしょう?とか言われたって…。
ストーカーってまさか。
「………志村姉…。」
「ああ、新八くんの家でお世話になってるから知ってるんだね。そうだよ、お妙さん。」
こっちの近藤さんもか…。
「お妙さんがまた強烈な人でね。」
ああ、全く。
「局長のストーカー防止のために、屋敷を要塞に改造しちゃったんだよ。いやあ、アレは凄いよ!うん。」
え、要塞ってそのためだったのか!?
「要塞モードになってるときは、絶対に庭に出ちゃダメだよ?」
最初の日に新八にされた注意をもう一度受けて、や、何であんたが知ってんだよ?とか思ったけど。そうそう気軽に突っ込めるで無し(こっちの山崎は年上だし)。とりあえずスルーする。
「あれえ?旦那、どこに言ったのかなあ?」
汗を拭いて私服に着替えてから、先程の広い部屋に戻ってきたが誰も居なかった。
置かれたテーブルの上には空の湯飲み茶碗と和菓子の皿があるので、しっかり食べた後どこかへ行ったのだろう。
「副長の部屋かなあ?」
そう呟く山崎に連れられて、先日訊ねた『土方』の部屋へと向かった。
『土方』の部屋に近付くに連れ、人の話し声がポツポツと聞こえてきた。
「ああ、旦那。やっぱりこっちに居た。」
そう、山崎が呟いたように。それは『土方』と銀時の声だった。
「そして、な。………、………だろう?」
「………へえ………。ああ、………。」
深刻、という訳ではないようだったが案外真面目な話のようだった。
声の感じだと、『土方』が色々と説明していることに銀時が相槌を打っているような感じだ。
「副長。失礼します。トシヤ君をお連れしました。」
「ああ、入れ。」
障子が開けられて、中に入る。
「よう、学生の多串くん。どうだった?剣道は?」
部屋の中央にごろりと横になった銀時が、首だけこっちに向けて笑う。
「あ、はい。近藤さんに変な癖を直してもらいました。」
「へえ、やるなあ。ゴリラ。」
「ゴリラじゃない、近藤さんだ。」
『土方』が書類整理をしていると思われる手を止めて、ムッとしたように言った。
「へえへえ、やだねえ。土方属性は。」
再びゴロリと銀時は転がってしまう。
「山崎これを持って行け、処理は終わってる。こっちが近藤さんへ回す分。………近藤さんはどうした?」
「あ………はあ、あの。」
「又か…。」
「はい。一応止めたんですが…。」
「全く、あの人は…。」
「お妙がストーカーの被害届出しても、警察は何にもしてくれないって般若のように怒ってたけど…。」
「毎回握りつぶしてるに決まってるだろうが。」
「ああ、やっぱり。………そのうちお妙に殺されんぞ。お前共々真選組が。」
「この間、お妙さんには話を通してきた。」
「うお、チャレンジャー。ね、殴られた?」
「別に。普通に話をしてきたけど…。まあ、気分の良い話じゃねえから、機嫌良さそうって訳じゃなかったが…。」
「あ〜あ、お妙も何だかんだ言ったって、顔が良いほうが良いんだなあ。」
俺が下手にそんな話を持ちかけたりしたら、鼻に指突っ込まれて投げ飛ばされるわ。とかブツブツ言っている。
「まあ、出かけちまったもんはしょうがねえな。山崎、一応近藤さんの部屋の机の上に置いておいてくれ。」
「はいよ。」
山のような書類をかかえて山崎が出て行った。
「ゴリラには甘いんじゃねえの?」
「呼び戻す人手が無いだけだ。俺だってやめて欲しいさ、スナック通いなんて。」
「ああ、今夜の夜勤は総一郎くんの隊だっけ。」
「総悟に行かせたら、どんな騒ぎになるか分からんからな。近藤さんは総悟にゃ甘いし。店壊したりすんのも怖エが、あいつ酒飲み始めると止まらんから。」
…ったく、皆で面白がってガキの頃から飲ませるから、今じゃとんでもねえザルになっちまって…。その上酒癖は最悪ときた。とぶつぶつ言っている
「さっき、何の話をしていたんですか?」
俺がそう聞くと。
「ああ、君の今の現状を聞いてたのよ。」
銀時が視線だけ上げてこっちを見た。
「げんじょう?」
「なんか、違う世界から来たかも知んないんだって?………難儀だねえ。」
「万事屋には、知っておいて貰ったほうが良いと思ったんでな。」
「あ、はあ。」
そういえば、聞かれもしなかったので俺も何も言っていなかった。
聞かれたところで上手く説明できたかどうか分からないが…。
…って言うか、今まで全く聞いてこないのもどうかとも思う。同じ顔の人間が二人居ることをどう思っていたのだろう?
「………。俺は、帰れるんでしょうか?」
「「………。」」
そんなつもりは無かったのに、相当不安そうな声になっていたらしい。
二人がはっとしたようにこちらを見た。
そして『土方』は机の上に山積みになっていた資料の中から1枚の大きな紙を出してきて、畳の上にがさごそと広げた。
「江戸の地図?」
寝場所を奪われた銀時も起き上がり一緒に覗き込む。
「ここがターミナル。で、お前の高校の位置……だな。」
「はい。」
「そしてお前の家のある場所はこの辺り。」
「…はい。」
「推測でしかないが、お前は下校しようとして学校からこの家の方向へ向かって移動していた。」
「………。はい。このあたりに高校からの最寄駅があるので、この方向に歩いていた…と思います。」
普段と同じ行動を取っていたのだとすればそうしているはずだ。
「お前が河原で万事屋と会った時間より30分ほど前に、このあたりで小さな事件があった。」
「「事件?」」
『土方』が示したのは、ターミナルより少しはなれた場所で多分自分が登下校時に通る辺りだ。
「この辺りには、幾つかの天人の大使館がある。そのうちの1軒に攘夷浪士が爆弾を投げ込んだんだ。」
「ば、爆弾!?」
「あ〜らら。」
「そういえば、以前お前もそんな事をやったな。」
「アレは、騙されて巻き込まれただけだって。」
飛脚屋が万事屋の前で事故ってさあ。これを届けないとクビになるって必死に頼まれて届けに言ったら爆弾でやんの。持ってる途中で爆発しなくて本当良かったよねエ。
「飛脚屋?」
「そ、そいつもテロリストの仲間だったわけ。」
「?何で、自分で持っていかなかったんだ?」
人に頼むよりも、そのほうが確実だろうに。
「だから、それは俺を仲間に引き入れようと………っとと。」
「へえ?仲間にねえ?」
「や、俺は関係ないからね!」
意味深に相槌を打つ『土方』に慌てたように銀時が言う。
「大体あん時のことは多串くんだって知ってるでしょうが、踏み込んできたのはお宅等だったんだから。」
「そうだったな。死んだ魚のような眼えしてやがった。」
「だ〜か〜ら〜。イザと言う時に煌くから良いって言ったじゃん。」
「イザと言う時ってのは一体いつなんだよ。見たことねえよ。」
「ん〜〜〜。好きな相手を堕とす時?」
「それって、イザという時なのか?」
「イザ、だろうが。簡単に堕ちちゃくれねから、大変なんだろうが!」
「へえ?それは大変ですねえ。」
どうでもよさ気にそっぽを向く『土方』。………って言うか。
「『土方』さん。あなた、銀さんが攘夷浪士と繋がりがあるって知ってたんですか!?」
「繋がりなんかねえよ!」
銀時はすかさず叫んだ。
『土方』は俺をじっと見た。
「真選組はテロリストを捕まえるのが仕事だ。だから、こいつが幕府転覆を狙ったり将軍様の命を狙ったりしたら、俺はこいつを逮捕しなきゃならねえ。」
「してねえって!」
「していない以上は逮捕は出来ない。」
何なんだ?それは?
20070831UP
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月子は所謂「会話」をかくのがすきなんだなあと思います。
特に、夫婦漫才………。
止まらなくなりそうなのを必死に押さえます。だって話が脱線して行っちゃうからね。
本当は学生の土方に山崎へ突っ込ませようかとも思ったんですが、それこそ話がどこ行っちゃうか分からなくなりそうなんでやめました。
そういうの、全部入れてたら一体何話になるか分かりませんよ…はは。
(07、09、20)