隣同士の距離 15
「元攘夷戦争に参加していたけれど、今は市井で普通に暮らしている人間が一体どれだけ居ると思ってるんだ?そいつらを全員逮捕してたら1日で留置所という留置所がいっぱいになっちまう。それに。お前の世界の警察は、何にもしてねえ市民を疑わしいってだけで逮捕すんのか?」
「し、…しませんけど…。けど、じゃあ。どうして俺を万事屋に預けたんですか?もしかしたら攘夷浪士と通じていたかも知れないのに…。」
「通じてねえって言ってんだろうが!」
「お前を攘夷浪士から護ろうと思ったら、どうしたって24時間体制になる。それが出来る人間は限られる。平素ならウチでやったって良かったんだが、少し前にゴタゴタがあって今は人手不足で余力が無かった。」
「………。」
「その点万事屋なら、時間の自由が利く。剣の腕も立つ。その上、一旦仕事として受けたことに対してはそれなりに責任を持つ。」
「それなりに…ってのは余計じゃない?」
「けど。」
「『仕事』として請けたんだ。…分かるか?この意味が?」
「………。」
「たとえばこいつが攘夷浪士と繋がっていたとしても…だ。」
「だから、繋がってねえって。お前等ね、少しは俺の話を聞きなさいよ!」
「こいつがどんな過去を持っていようと、どんな思想を持っていようと。一度護ると決めたものは守り通す。一度仕事として請け負ったものに対する真摯な態度だけは、一応俺は認めてんだ。」
「………。」
確かに旧知である桂に対しても、真っ向から仕事として受けたといっていた。
それに思い返してみれば、桂とは知り合いのようではあったけど『テロリストになろう』と言う誘いには一切乗らなかった。
あの話の感じでは、あの日だけではなく何度か誘われているようなのに…。
ということは、過去はどうあれ現在の銀時はテロ活動に参加するつもりは全く無いということなのか?
幾分納得したような表情になったのだろうか、銀時は少しほっとしたような顔になったし、『土方』は話を進めるぞ、と爆発騒ぎのその先を話し始めた。
「お前は言っていたな、『俺に何かあったんだ』……と。」
「あ、はい。」
「勝手な推測だが、恐らく何か事故か事件が起こってそのショックで瞬間の記憶が抜け落ちたんじゃないかと思う。」
「事故か事件…。」
「そう、そしてそれは大使館の爆破事件と同じ場所で同時刻に…だと思う。」
「「………ええ!?」」
「ここと、お前の世界。少し違うけど同一人物と思われる人間が住む二つの世界。恐らく無関係の世界じゃないと思う。何かのきっかけで、少しずつ変わって行った…言ってみれば表裏一体みたいな…互いにそんな関係じゃないかと思うんだ。」
「「………。」」
「そのあっちとこっちで同じ場所で同時に、事件あるいは事故が起こった。その時に両方の世界の境界線にほころびが出来た。何らかの形でそれに巻き込まれたお前は、弾みでこっちの世界へ紛れ込んだ。」
「………。」
「まあ、ありえそう…っていやあ、ありえそうかなあ…?」
「………。鞄は…。」
「向こうに居るうちに手放したって言うんなら、向こうにある可能性が高い。」
「俺が河原にいたのは…?」
「多分、衝撃で吹っ飛んだか…?………これはこじつけでしかねえのかも知れんがな。」
「………。」
「問題は、どうやって帰るか…だが。」
「何か、案があるのか?」
「ねえよ、さすがに、こんなケースは初めてだからな。」
「なんだ…。」
「ただ…。理屈から言えば、爆発で来たんだから爆発で帰れるかも知れん………という予想は立つが…。つまりそれは爆発物に近付くということだ…ちょっと危険すぎるな。」
「………。」
「それで、少しお前の世界のことについて聞きたい。」
「…はい。」
「お前の世界では…爆発とかって頻繁にあるものか?」
「外国では紛争のある国もあります。そういう国では頻繁にあるでしょうが、日本ではめったにありません。何か大きな事件事故でもない限りは…。」
「…って事は、向こうの世界に期待するのは無謀か。」
「期待…って?」
銀時が聞く。
「つまり、きっかけをどうするか…ってことなんだ。」
「きっかけ?」
「こっちでは爆発、向こうでは何か…が起きてお前はここに来た。先日も言ったが、これは両方の世界にとって異常事態だと思うんだ。」
「ええ、はい。」
「自然ってもんは、何か異常が起こればそれを元に戻そうとする力が働くもんだ。だから、何か似たようなきっかけを作れればお前が帰れる可能性は格段に跳ね上がると思ったんだが…。」
「似たような?」
「向こうで起こったこと…まだ思い出せねえか?」
「………はい。」
そうか。こっちでは爆発。けどそれは再現するには危険すぎる。ならば向こうで起こった何かを再現できれば、それが戻るきっかけになるかも知れないのか…。
「何とか、思い出してみます。」
「無理はするな。辛かったり怖かったりしたから忘れてるんだ。」
「はい。そうですね。でも………。」
あの時必死な声で俺を呼んだ銀八の声。
あんな声、聞いたこと無い。
それに………。
それ以前の流れを考えれば、俺の傍に銀八がいたって事自体がおかしくは無いか?
もしかして追いかけてくれたのか?
それとも、自分で思う以上に時間がたっていて、偶然に居合わせたのか?
本当のことを知りたい。
銀八の本当の気持ちを知ることが出来なければ…。
そうでなければ…。
俺はこの世界に引き摺られてしまう。
優しい銀時や『土方』の庇護の下での生活を、受け入れつつある自分を感じる。
可愛い神楽に、話しやすい新八。
オッサンな近藤さんや、ドSなのに俺を狙わない総悟。優しい山崎。
その他にも回りに取り巻く人々は、皆強くて優しくて、ぐんぐんと惹かれて行く自分を感じる。
攘夷浪士たちに狙われて大変なはずなのに、生きるすべとして剣術を習おうと思ったり。
この世界も悪くないじゃないかと思い始めている。
いつか、『帰れなくてもいいや』と思ってしまいそうで怖い。
両親や姉。
何だかんだ喧嘩しつつも仲の良い幼馴染達。
ちょっと変わっているけど、憎めないクラスメイト達。
一緒に汗を流した部活の仲間。
手放したくないと思っていたはずだった。
そして一番手放したくなかったのは銀八の気持ちだった。
なのにそれが見えない。捕まえられない。
このまま見失ってしまったら…。二度と取り戻せない気がする。
たとえ銀八と俺の思いがすれ違っていたとしたって、少なくとも『生徒』としての愛情は掛けてくれていたはずで。
それすら見えなくなってしまったら、もう戻る意味がないと。戻ることを諦めてしまいそうだ。
銀時は銀八とは違うのに。似ているところを探して繋ぎ合わせて、身代わりに仕立ててすがってしまいたくなる。
それじゃ、ダメなんだ。
「やっぱり、頑張って思い出してみます。元の世界へ戻るために。」
顔を上げてそういうと。
「そうだな。それが良い。」
と銀時も『土方』も笑ってくれた。
何か思い出したらすぐに連絡すると、改めて約束して。俺と銀時は万事屋への帰路を辿っていた。
「そういえば、銀さん。」
「うん?」
「銀さん、好きな人居たんですね。誰なんですか?」
「うええ?」
「さっき言ってたじゃないですか。なかなか堕ちてくれないって。」
「わあああ、つい口が滑っちゃったよ。学生の多串くん、何か多串くんと別人だけど別人じゃない感じで………って、アレ?なんか良く分かんなくなってきたぞ。」
「ああ、俺も思いますよ。銀さんと銀八…って、別人だけど別人じゃなくって………って。」
「へ、へえ?そう?」
「で、誰なんですか?」
「戻すか、話を!」
「興味ありますから。」
「………。」
照れくさいのかガシガシと頭をかいている。
「なかなかねえ、これがさあ。」
「はあ。」
「上手く行かないって言うか…。嫌われちゃいねえと思うんだけど…。」
「ふうん。」
「あいつにゃあいつで大切なもんがあって、それを護るのに必死で。俺の事は2の次な訳ね。…けど、じゃあ俺はって言うと。やっぱり万事屋っていう護りたいものがあってさ。それはあいつとは又別の次元で大切なんだよね。」
「は…い。」
「100%で俺を見てくれないあいつを確かに不満には思うけど。そういう根っこみたいな部分がなくなっちまったあいつに…、俺は魅力を感じるのかっていやあちょっと微妙なんだよね。」
「ふうん?………で、誰なんですか?」
「ああ、ううん。ヒ・ミ・ツ………ってことで。ウフ。」
20070905UP
NEXT
異世界の扱いについては、別にきっちり決めてません。
だって、銀魂の世界だよ!? なんだってアリでしょう!
(07、09、24)