隣同士の距離 28
爆弾か?そう思った瞬間に身体が動いていた。
「ト、トシヤさん!?」
急に飛び出した俺に篠田が驚いて声を上げた。
入り乱れる人の間を、すり抜けるように走った。
「トシヤくん!?」
近藤さんの横を通り抜け、切り結ぶ総悟とテロリストの間を駆け抜ける。
「うお…?」
唖然としたような総悟の声。
「トシヤ!」
「何やってんの!?」
『土方』と銀時の声も聞こえた。
「爆弾が…!」
それしか言えなかった。
「ち。」
すぐ傍で『土方』の舌打ちが聞こえた。
や、何で居るの?
反対側には銀時が付いている。
俺が爆弾を見つけたことを分かってくれたらしい。
走る俺の障害になりそうなテロリストを、次々倒して行った。
まるで花道のように通路が開く。
一直線に走った俺の前に、一人のテロリストが立ちはだかった。
「止まれ、小僧!何人にも邪魔をさせない!」
大柄な男。
だめだ、『土方』も銀時も間に合わない。
俺は意を決してその男にタックルをかけた。
「トシヤ!」
「多串くん!?」
唖然と見守る二人の前で、俺はするりとそいつの身体をすり抜けていた。
「あ…れ…?」
やっぱり俺は普通の身体じゃない?
けど、男をすり抜ければ爆弾を持った奴は目の前だった。
「ひ…。」
突然現れた俺を見て驚いたようだった、爆弾を取り落としそうになる。
「っ!」
目に飛び込んだ『00:02』の赤い数字。
あ、後2秒!!!?
投げる時間も無い!?
わたわたしている奴から、無理やり爆弾を取り上げる。
『00:01』
もう、駄目だ!
とっさに俺は爆弾を抱え込むように蹲った。
「トシヤ!!」
悲鳴のような『土方』の声が聞こえる。
『00:00』
一瞬。まばゆい光が見えた。
ああ、爆発する。
俺、死んじゃうのかな…。
俺、皆を守れたかな…。
けど…。爆発まで俺の身体を突き抜けてしまったら…どうなるんだろう?
そして又聞こえる、銀八の声。
『…帰って おいで…、 早く、 早く……。』
そして、俺の意識は遠のいていった。
ふ、と目を開けると白い天井が見えた。
どこだ?ここ。
薬くさい独特の香りと雰囲気……病院だろうか?
助かったのか?俺。爆弾を抱え込んだのに?
身体を動かそうと思って、適わず、視線だけを動かす。
俺の横に、誰かの頭があった。
「………?」
ピクっと動いた頭が、がばっと起き上がる。
「十四郎!!?目が覚めたの!?」
母さん…。
「お母さんよ、分かる?」
頷くとほっとしたように笑った。
「十四郎、交通事故にあったのよ。覚えてる?ずっと意識が戻らなくてね。」
………、ああ。
では、俺は。帰ってきたんだ…。
そうか。偶然とはいえ『爆発』という帰れる条件を再現できたからか…。
それからは、飛んできた医師にアレコレ聞かれたり。飛んできた父や姉、それに近藤さんや総悟たちも来て、ばたばたと大騒ぎになった。
体中、包帯だらけだったが(身動きが取れないのはそのせいだった)、怪我自体は俺が寝ている間にも治癒が進んでいたので、近いうちに包帯も取れるということだった。
しばらくは検査などが続くが、それほど時間をかけずに退院できるらしい。
医師の説明に頷いたり、駆けつけてくれた皆に対応しながらも、俺の気持ちは落ち着かなかった。
あの後皆はどうなっただろう?
俺は皆を守れたんだろうか?
確かめる術が無いのが悔しい。
けれど、あの世界の皆ならきっと何とかしただろう。
そう、信じたかった。
この病院は、夜間に家族の付き添いは出来ないというので面会時間が終了すると皆帰っていった。
まだ本調子では無い俺は、うつらうつらと浅い眠りを繰り返していた。
又少し眠って、ぼんやりと目を開けると闇の中に浮かび上がる白いもの。
「…せん…せ…。」
「多串くん。意識、戻ったんだってね。」
「なん…で…。」
「連絡受けたから…、じゃ無くて?…ああ、忍び込んで来ちゃった。」
何で面会時間が終わってるのにここにいるのか?そんな俺の疑問をちゃんと分かってくれて、小さく笑う。
「…ねえ、多串くん。何であんなことしたの?」
「あんな…こと?」
「覚えてないのかな?俺のバイクに乗用車が突っ込んできてさ、そん時多串くんが俺のバイク引き倒して反動で前に出ちゃって、それで車とぶつかったんだよ。おかげで俺は無傷だったけど…。」
そうだ、思い出した。
交差点で信号待ちしているときに、銀八のバイクが走ってきて…それで…。
「先生こそ……なんで、あの場に…。」
「君を追いかけたに決まってるでしょうが。」
「俺を?」
「そうだよ。何か、この頃イラついてるなあとは思ってたけどさ。あん時『クソ天パ』とか言われて…さすがに俺もちょっとショックでフリーズしちゃっててね。」
引っかかったのはそっちかよ?…けど、多分俺が気を使わないようにそう言ってくれているんだろう。
「気が付いて慌てて追いかけてみれば、もう校内には居ないしさ。大急ぎでバイク引っ張り出して追いかけたんだよ。」
「そ…か。」
追いかけてくれていたんだ。
「ごめん。」
「え?」
「俺が、もっとちゃんとしてればな。多串くんが不安定になってもちゃんと守ってあげられるくらいに余裕があったら。
せめて、すぐに追いかけてればこんなことには…。」
「先生が悪いんじゃねえよ。 ごめん『死ね』とか言って。 心配かけて、ごめん。 …それから…。」
「多串くんが謝ることじゃねえよ。」
「ありがとう、呼んでくれて。」
「へ?」
「何度も先生の声が聞こえた。『おいで』って『帰っておいで』って、何度も何度も…。だから帰ってこれた。帰りたいと思った。」
俺がそう言うと、銀八の表情がくしゃりと歪んだ。
「も……駄目かと思った……。土方を失ってしまうんじゃないか…って…怖かった。」
そういって、俯いてしまう。
細かく震える肩が、銀八の不安や恐れを教えてくれた。
俺は、まだ動かすとぎしぎしいう腕を無理やり動かして、銀八の頭にポンと載せた。
「……っ。」
「大丈夫だ。俺はこんなことでどうにかなったりしねえよ。」
そういうと、銀八は複雑そうな表情で顔を上げた。
「なんか、急に大人になっちゃったみたい。」
「そうかな?これからは俺が先生を守ってやるからな。」
「ええ?俺にも多串くんを守らせてよ。」
「じゃあ、二人で一緒に…。」
「そうだね。お互い守って、守られて。ずっと一緒にいよう。」
「っ。うん。」
俺が頷くと、銀八の顔が近づいてきてそっとキスを落とされる。
「でも、時々は甘えてね。」
「なっ。」
「あせることなんて無いよ。」
「テメ、俺の決意を…。」
「大人になるのなんて、いつだって出来るんだからさ。もうちょっと、子供で居てね。」
ごろごろとまるで猫のように懐く銀八。
ちょっと絆されて、まあいいかと思ってみたり。
だって、多分もう俺は迷ったり不安になったりしないと思うから。
銀八の気持ちを疑ったり、俺自身の価値を卑下したりしない。
俺が高校を卒業すれば、今のように毎日顔を合わせることは難しくなるだろう。
それでもやっぱり、二人一緒に生きていこう。
『土方』と銀時がそうだったように。
俺達も隣同士に並んで、前を向いて歩いていこう。 同じ歩幅で。
20071218UP
END
長い間お付き合いいただきましてありがとうございました。
コレにて終了となります。
3Zの土方が、原作のおかしいけど血なまぐさい世界で『土方』と銀時の生き方や考え方に触れて成長していく感じが書けたら…と思って頑張って参りましたが、どうでしたでしょうか?
途中、データ消失という事態に陥り大変にお待たせするアクシデントもありましたが何とかここまでこぎつけることが出来ました。ありがとうございました。
この後、おまけが2本あります。よろしければごらんください。
(08、01、08)