隣同士の距離 4

 

「呼び方かあ。」

「多串Aと多串B。」

「「いやだ。」」

「マヨラAとマヨラBがいいアル。」

「いやだっつってんだろ。ABから離れろよ。」

「まあ、待てよ。」

 銀時が言った。

「こっちは多串くんだろ。」

 と『土方』の方を指差す。

「多串じゃねえって言ってんだろ!」

「元々、知り合いな訳だから今までのまんまでいいじゃん。要は、こっちの学生多串くんの方の呼び名を決めれば良いってことだろ。」

「そうは、言いますけどね。通常は『土方さん』銀さんは『多串くん』神楽ちゃんは『マヨラ』とか『ニコ中』とか…。で、真選組の皆さんは『副長』とか『トシ』とか…。すでに相当色々と呼ばれてますよ。今更それ以外で何かあるんですか?」

「名前呼べば、良いんじゃネ?『とーしろー』…って。」

 途端に『土方』が苦虫を潰したような顔になる。

 つまりそれは自分自身が呼び捨てられているのと同じ気がするのだろう。

 ありふれた名前なら諦めもつくのだろうが、極めつけに珍しいから余計だ。

「『トシ』って呼んでも…怒られそうだから…。」

「『トシちゃん』が良いアル。」

「むう。」

「仕方ねえだろ、妥協しろよ。同じ名前なんだからどっかで被るって。」

「…仕方ねえな…。お前はそれで良いか?」

「……はあ。」

 なんか、もうどうにでもしてくれ。

「男同士では恥ずかしいですね。」

 新八は幾分照れくさそうにしていたが、とりあえず呼び方は決まった。

 

 

「で、他には?他にはいないアルカ?」

話は先程の『そっくりだけどちょっと違う』土方の周りの人間へと戻ってきた。

楽しくなってきたのか、神楽が身を乗り出す。

「とりあえず、教師からだな。学校関係者を挙げてみろ。」

『土方』に言われて、理事長や校長、教頭、その他の教師を上げていく。

その全てが彼らの知り合いではないらしいが、どうやら自分と係わりが深く、キャラが立っているというか個性的だなあと思う者は知り合いのようだった。

「ババアが理事長ね。」

「キャサリンは?キャサリンはいるアルカ?」

面白がって聞く神楽に頷いてみせる。

「同級生。」

「げ、やだなあ、あんな女子高生。夢も希望もなくすよね。」

「…って銀さん、聞こえんじゃないですか?」

「?」

「ああ、お登勢さんはこの部屋の大家さんで階下の飲み屋をやってんですよ。キャサリンは従業員。あ、ちなみにキャサリンも天人です。」

「飲み屋。」

思わず床を見つめる。飲み屋の女将と言うのは以外に合っているかも知れないと思う。

「学校関係者は分かった。後は…同級生だな。」

「はい。え~と。近藤さんに総悟に…。」

「…同級生?」

「はい。3人で幼馴染みです。」

「あらま。どこまで行っても仲が良いのね、お宅ら。」

「総悟と幼馴染み?」

「はい…って、知ってるんですか?」

「…部下だ。いや、スゲエな。あんなんと、ガキのころから付き合ってんのか…。」

「……はあ、まあ。…あんなんって、…やっぱ…。」

「「「「ドS。」」」」

…ああ、やっぱり。

「他は?」

「山崎。原田。」

「ああ。」

「後、志村姉。」

「へ?姉上も同級生?」

「何でも、志村姉…ああ、悪い兄弟でいるから皆こういう呼び方してて…。姉の方が4月生まれで、弟が3月生まれなんだって言ってた。だから学年は一緒なんだって。」

本来住所が一緒の家族は同じクラスにはなれないはずなのだが、なぜか一緒のクラスだ。

「へえ。」

「他は?」

「え…と、ああ、さっちゃん。」

「はあ!!?」

「猿飛あやめ。」

「呼んだ?」

「うわああ。」

いきなり天井から人が降ってきて仰天する。

「こんの、ストーカー!又人んちの屋根裏に居やがったな!!!」

「あん、銀さん。今日もその蔑むような目がたまらないわ。」

「いい加減にしろよ。…てか、もう良いよ。お前出て行けよ!面倒臭せえ!」

「そうやって邪険にすれば良いわ、それが私の糧になるの。そうよ、蔑まれたって平気。ううん、むしろ至福なの。」

「出てけ!」

 さっちゃんは暫くブツブツ自分の世界に入っていたけれど、そのうち出ていった。

「………。相変わらずだな…。」

 『土方』がボソリと呟いた。

「トシ…ちゃんの方のさっちゃんさんもあんな感じ?」

「志村、呼びづらかったら土方で良い。…そうだな、高校生だから容姿は俺らと同年代の感じだけど…。やっぱり銀八が好きで、一人で妄想してる。さすがにストーカーはしてないと思うけど。」

「………はあ。やだなあ、あんな生徒が居たら。」

 疲れたように銀時が溜め息をついた。

「ええと、土方君。そうすると…クラスメイトはキャサリンに近藤さん、沖田さん、山崎さん、原田さん、僕ら兄弟、神楽ちゃん、さっちゃんさん…そんな感じ?」

「後は長谷川さん。」

「え、あのマダオ。高校生?」

「はい。バイトのしすぎで出席日数足りなくて留年してるって聞いたけど…。だから多分年は1つか2つ上。」

「マダオはどこまで行ってもマダオネ。」

「それと桂。」

「「「「え!」」」」

「はい?桂小太郎。同級生ですけど。」

「仲、良いの?」

「別に普通です。あいつちょっと変わってるし…。成績は良いですけど。」

「………ふうん………。」

「………多串、くん…?」

「土方…さん…?」

 銀時と新八が、『土方』の様子を窺うように見る。

「確か、さっき教師の中に坂本…ってのが居たな。」

「ああ、はい。」

「坂本、坂田。で、生徒に桂……ね。まさか、高杉はいねえだろうなあ!!」

 ぎろりと睨まれる。

「い、います…けど…。高杉晋助。」

「ちッ、同級生?高校生だと!笑わせんな!」

「あああ、この子に凄んだってしょうが無いでしょうが。」

 それまで一番冷静に話を聞いてくれていただけに、その豹変振りに唖然とする。

 むしろ、今まで面白がっていた銀時が宥め役に回っている。

「高杉…結構仲良いほうだけど…。」

 始めのうちこそ相容れないと思っていたけれど、話してみると意外と良い奴だと思った。

「ホラほら、仲良いって………え、えええ!!?」

 ぎょっとしたように銀時が声を上げた。

「ひ、土方さんと……仲が良い!?」

「や、ホラ同級生だしね。仲良いに越した事は無いよね?」

 さらに眉間に皺の寄る『土方』に銀時が取り繕うように声をかける。

「こ、高校生なんだろ?別にテロリストな訳じゃねえんだし。」

「テロリスト?」

「攘夷浪士、高杉晋助。幕府転覆…いや、この国を焦土に変えようって言うテロリストだ。」

「………。」

 嘘だろ?視線で銀時や新八に助けを求めるが、皆困ったように曖昧な表情だ。

「穏健派といわれているが、桂もテロリストだ。一応覚えておけ。」

「………はあ。」

 桂の名前にも銀時たちは苦虫を潰したような表情になる。

 本当なのだろうか?あの二人がテロリスト?

 相当腑に落ちない表情をしていたのだろう。

 『土方』は小さく溜め息をついた後、口を開いた。

「俺は、『真選組』の副長をやっている。」

「あ、はい。聞きました。」

「『真選組』は、対テロの武装警察だ。つまり、俺達はテロリストを捕まえるのが仕事だ。」

「はい。」

「だから、俺達は桂や高杉を指名手配犯として追いかけている。」

「指名 手配……。」

「多串くん…今、そんな話……。」

「いや。重要だろう?だからお前だって、こいつを河原に放置しないでここへ連れてきたんだろうが。」

「………まあね。」

 銀時がガリガリと頭をかきながら、溜め息をつく。

「つまり、逆も然りと言うことだ。」

「逆?あなたも狙われている?」

「話が早くて結構だ。テロリストたちから見れば、俺は煙たい存在だ。中には、俺を亡き者にしようとする者もいる。俺にそっくりなお前を見て、俺と間違う輩もいるだろう。俺の身内と思うかも知れない。そいつらがお前の命を狙わない保障は無い。仮に街中で桂や高杉を見かけたとしても、近寄るな。そいつは、お前の同級生じゃない。テロリストなんだ。」

「………。」

 あの二人がテロリスト?

 頭がますます混乱する。

 宇宙人がいて宇宙船があって。…多分街中で見かけた変わった人たちは天人とやらで…。

 ちょっと変わったところだと思った。

 変わってるけど、気楽で楽しいところだと…。

 なのに、『テロリスト』?『亡き者にする』?

 急に血生臭い話になって、そろそろ頭が付いて行けなくなりそうだった。

 

 

 

 

 

20070805UP
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このお話の「3Z設定」は坂本は教師で高杉は同級生となっております。
実は、この回の高杉に関連した会話の合間に
「そういや、一昨日高杉に弁当の唐揚げ取られたんだよな。思い出したらムカついてきた。」
と言う土方の台詞を入れようかと思ったのですが。
上手く入らなかったので、削除。
そんな風に仲良く学生生活を送っていると妄想して下さい。
(07、08、17)

 

 

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