隣同士の距離 7

 

「そうなると、この国のことをきちんとお前に説明しておかなけりゃいけないな。」

「………。」

「20年ほど前に、天人がこの国に来た。無理矢理やってきてあっという間に主導権を握っちまった。

 それに反発した当時の侍達が天人を排除すべく起したのが『攘夷戦争』だ。随分と長く続いたが、数年前に集結した。」

「結果は!?」

「侍達が勝ってれば桂達が『テロリスト』にはなってねえよ。現在攘夷浪士…つまりテロリストとして活動している者達のリーダー的存在になっている面々は、攘夷戦争に参加していて落ち延びたものがほとんどだ。桂にしろ高杉にしろ…な。」

「負け…たんだ。」

「天人の中には、人間には持ち得ない特殊能力を持つ種族も居るからな。物資も豊富だったし…。刀しか持って居なかった侍には、到底勝ち目はなかったんだろうよ。…ただ、思いのほか長引いた。そこで、天人は『廃刀令』を出したんだ。刀を持っているだけで逮捕できるようにして、力を削いでいった。」

「………。」

 つまり、自分が知る幕末の史実の。外国人が日本にやってきたという部分が、ここでは宇宙人だった…と言うことか?

 そして戦争が起きた。勝ったのは宇宙人で…、負けたほうはテロリストとして狩られる。

「確か『真選組』はテロリストを捕まえるんでしたよね。…って事は…幕府側の組織?」

「ああ、そうなるな。」

 なんだか、似合わない気がした。

 自分と同じ顔だとかそんな事は脇に避けておいて。

 それでも、この人が『権力者側』というのが…なんかそぐわない気がした。むしろ攘夷戦争に参加してたとか言われるほうが納得がいく。

 そんな思いが顔に出ていたのだろうか?『土方』は小さく苦笑した。

「俺がそれなりに成長して『戦争』に参加できるようになった頃には…。もう戦争とは名ばかりの状況だった。誰の目にも勝敗は明らかだった。戦いと言うより残党の粛清と言っていい状態だった。

 たとえ、多少自分の腕に覚えがあったって。俺一人が突っ込んで言って戦況が変わると思えるほど、俺はうぬぼれてはいなかった…ってことだな。」

「………。だからといって…。」

「廃刀令はな…全国にたくさんあった剣道場のほとんどを廃業に追い込んだんだ。…それは、近藤さんが道場主としてやっていた道場だって同じだった。」

「……あ。」

「俺や総悟、その他現在も真選組にいる何人かは近藤さんの道場に出入りするゴロツキだった。…ああ、総悟は門下生だったけど。

人間生きてりゃ腹は空く。貧乏道場だったのにな。近藤さんは極潰し以外の何者でもない俺達を追い出したりなかった。

 学も無え、金も無え、コネも無え。あるのは自分の腕っ節に対する根拠の無い自信と、度胸と、何かを成し遂げたいというエネルギーだけ。

 『刀さえあれば』当時何度口にしたか分からねエよ。

 そんな俺達に、近藤さんは刀をくれた。真選組と言う居場所をくれた。

 近藤さんが天人につくというなら、俺達も黙って付いていくだけだ。」

「………。」

 事情のほとんどは想像するしかない。

 けれど、『近藤さんのため』…それは自分にとっては一番分かりやすい言葉だった。

 ならば、分かる。ならば、もう何も言わない。

「その他の細かい話は、万事屋にでも説明してもらえ。今は時間が無い。」

「?」

「総悟がもうすぐ起きる。」

「あいつが…?」

「お前のところの総悟がどんなんかは知らないが、ウチの総悟は剣の腕は勿論だが。バズーカーはぶっ放すわ、大型銃器は持ち出すわで恐ろしく危険だ。

 基本的に一般市民には手は出さないが、俺と同じ顔のお前があいつの基準の中で『一般市民』になるとは限らない。」

「………。」

「総悟が起き出す前に、万事屋に戻ったほうが良い。」

 そう言って携帯電話を取り出すと、銀時へ電話をかけているようだった。

「俺だ。  今起きたのかよ!?相変わらずだな。  あいつが…こっちに来てる。  そうだ。 総悟が起き出す前に迎えに来てくれ。  ウチの隊士たちに送らせるよりは安全だと思う。  ああ、そうだ。  じゃあな。」

 続いてもう一箇所電話をかける。

「メガネか?  ああ、俺だ。  ああああ、はいはい。分かってる。 そう、こっちに来てるから。   ああ、今万事屋に迎えに来るよう連絡したから。お前らはそのまま万事屋へ行け。  ああ、無事だ。 ちゃんと謝るように言っておく。  ああ、じゃあな。」

「志村…?」

「ああ、チャイナと二人。起きたらお前が居ないんで探していたらしい。相当心配してたからな。ちゃんと謝れよ。」

「あ。」

 そうか、黙って出てきてしまって悪かったかな。

 自分の身が危険だ…と言う自覚が無かった。(本当言うと、今も実感は無いが)

 そんな自分の無自覚が皆に心配と手間をかけさせてしまうのなら、今後は気をつけよう。

「そうだ。お前、こっちの世界に来たのは昨日の何時ごろだ?」

「え…いや、時間は分かりません…。あなたが万事屋に呼ばれた1時間くらい前じゃないかと思います。」

「そうか。」

「それが何か?」

「その時に何か無かったか、調べておく。お前だって早く帰りたいだろう。」

「帰れるんですか!?」

「それは分からんが…。だいたい、自然の現象って言うのは何か異常が起こったら元に戻そうという力が働くものだ。お前がこの世界に居ることは明らかに『異常事態』だと思う。いずれは元に戻るだろうが、きっかけが分かれば早く帰れるかもしれないだろう。」

「よろしくお願いします。」

 ここの人たちが嫌なわけじゃない。

 けれど、『テロリスト』だの『真剣』だの『バズーカー』だの。そんなものに深く係わってしまって、間違って命でも落としてしまったら。

 帰れなくなってしまう。

 もう、大好きな人とも会えなくなってしまう…。

 たとえ、帰るなりされるのが別れ話だったとしても…。

 ぎゅっと膝の上で手を握る。

「あ。」

 その手を見て思い出した。

 自分は校舎を出る時、確かに鞄を持っていた。

 泣きそうに歪んだ視界の中で、鞄を持ち直した己の手を鮮明に思い出す。

「どうした?」

「いえ、学校用の鞄を持っていたはずなんですが…。河原で気が付いた時には持って無かったんです。……どうしたんだろう?どっかで手放したのかな…。」

「そうか…。河原って万事屋の家の傍のだったな…。捜索しておこう。」

「有難うございます。」

「他にも何か思い出したら、知らせろ。手がかりは一つでも多いほうが良い。」

「分かりました。…あの、一つだけ聞いて良いですか?」

「何だ?」

「昨日、天涯孤独って電話で言っていたようなんですけど…。ご家族は…。」

「ああ、居ない。」

 じゃあ、自分の家族は。この世界には居ないということなのか?

「ガキのころ、俺の住んでいた村が攘夷戦争に巻き込まれて壊滅した。」

「え?」

「逃げるときにてんでバラバラになった。その後村に戻ったり、周辺の村を探したりしたが結局見つからなかった。多分死んでるんじゃないかと思う。」

「でも、それならもしかしたら…。」

「ああ、どっかで生きてるかもな。…『真選組副長』が『土方十四郎』ってのは自分で言うのもなんだが、そこそこ有名だ。もしも生きてるのなら名乗り出てくるだろうし、生きていても名乗り出てこないってんなら、もう会うつもりは無いんだろう。」

「そんな…。………それって、幾つの時ですか?」

「10歳…位のときだったかな…。」

 そんなに小さい頃に、一人ぼっちになったのか…?

 言葉が出ないでいると、『土方』は苦笑した。

「お前の生きてきた世界は平和なんだな。こんなの、俺だけじゃねえよ。貧しい農村地帯じゃ、口減らしに捨てられる子供だって居る。売られる者もな。いくらだって居る。」

「…そんな…。」

「天人の技術が入ってきて、生活は便利になった。本当に食っていけないほど貧乏な者も減った。そういう一面も、確かにある。普通に暮らしてるもんにとっては、国を仕切ってるのが幕府だろうが天人だろうがどうでもいい。家があって明日のメシがありゃあな。」

 そんなもんなのだろうか?

「だから、逆に『幕府の不正を正す』と志を掲げても。町を混乱させたり破壊したりする攘夷浪士たちに嫌悪感を持つ者も多い。」

「だから、テロリストを逮捕する?」

「………そう、俺は理解してる。」

「そう、…ですか。」

 やりたいことをやりたいように出来ているのか?これは本人にしか判断できないことだが。少なくとも『真選組副長』と言う立場に恥じないだけの仕事はしているという、自負はあるのだろうと思った。

「あ…と、そうだ。」

 雰囲気を帰るように、『土方』は言った。

「はい?」

「万事屋の奴な。どうせぐうたらしてんだろうから、仕事させてくれ。メガネとチャイナが可哀想だからな。」

「…はあ。」

「お前の護衛をしなきゃなんねえんだから、お前が『仕事に行く』って家を出りゃ付いて行かざるを得ない。」

「あ、ああ。そうか。はい、分かりました。」

 ニヤリと笑う『土方』に笑い返す。

 改めて少しほっとする。

 昨日から、人の世話になりっぱなしだった。

 小さい頃から両親が共働きで何でも自分でしろと育てられてきたせいか、自立心は高い方だと思う。

 そういう自分が、他人の決めたまま唯々諾々と頷かなければならない状況は苦痛だったのだ。

 自分にも、何か出来ることがあるのなら。

 多分一番世話になっているのだろうこの人に何か返せるのなら…。

 あの、マダオにちゃんと仕事をさせることくらい、やってやる!

と、山崎が障子の向こうから声をかけてきた。

「副長。万事屋の旦那がいらっしゃいました。」

「ああ、分かった。」

 それを合図に二人とも立ち上がった。

 

 

 

 

20070812UP
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3Zの土方は、普通の家庭で普通に育ちました。
多少、自立心があったりしても出来る事は普通の高校生と同じです。
3Zの世界や、現代と比べるとあの原作の世界っていうのは何かとハードだと思うのです。
そんな世界で3Zの土方が何を見て何を思うのか…、そんなお話にしていきたいです。
(07、08、27)

 

 

 

 

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