隣同士の距離 9
「目え、瞑ってちゃよけらんないでしょうが。」
銀時の声が間近から聞こえる。
え…。
慌てて目を開けると、俺は銀時に抱え込まれていて。
銀時は、どう見ても飾り物にしか見えなかった木刀を右手に握っていた。
足元には男が一人転がっている。
銀時がやったのか?
「ちょっと俺の後ろに居てね。」
「は…い。」
俺が銀時の後ろに隠れるように移動すると。銀時は流れるように動いて、次々と男達を倒していった。
す、すげえ。
その圧倒的な力量の差に、唖然と目を見張った。
「全くもう。だからウチに居たら良かったんだよ。」
全て終わった後、面倒くさそうにそう言った銀時は呼吸すら乱していなかった。
「ほれ、多串くんに連絡。携帯の番号、登録してあんだろ?」
「あ、はい。」
俺が番号を呼び出すと、銀時が手を出してきたので携帯を渡す。
「あ、多串くん?」
又電話から『多串じゃねえ!』と声がする。
どこまで本気でやってるのだろうか?この二人。
「暴漢がウチの子猫ちゃんを狙ってきてね。」
「誰が子猫ちゃんだ、コラ!」
「うん5人。とりあえず生きてるからさあ。回収に来てよ。場所は………。」
『とりあえず生きてるから』?…そう言ったか?
程なくして『土方』が山崎を連れてパトカーでやってきた。
「知ってる?」
「いや…、知らん。…けど、このところ活発になってきたグループのメンバーだと思う。」
どうだ?と山崎を振り返る『土方』。
「そうですねえ。………ああ、こいつ。そうですね。」
内の一人を指す。
「まあ、とにかく目を覚ます前に縛っちまえ。」
「はいよ。」
山崎が他の隊士たちに言いつけて男達を縛る。
同行してきたパトカーは、浪士たちを乗せて行ってしまった。
「あのねえ、多串くん。まさかとは思うけどさあ。」
「多串じゃねえって。…何だよ。」
「この子で攘夷浪士を釣ろうとか思ってないよね。」
「はあ?」
「なっ!?」
「だって、多串くん。この子に俺に仕事させろって言ったんじゃないの?なんか張り切って仕事とか請けちゃってるしさ。この子の安全を考えればウチに篭ってるのが一番でしょうが。」
なんだって?俺をエサに?……良い人だと思ったのに…、さすが俺とか思ったのに。
「んな訳ねえだろ。釣るんなら自分をエサにする。」
「されちゃ困ります!!」
山崎が悲鳴を上げたが、『土方』は構わなかった。
「マジで、お前はもう少しちゃんと仕事をしたほうが良いと思ったからそう言ったまでだ。
ただでさえチャイナも定春も食事量が半端じゃねえんだから。あいつら抱えていこうって言うんなら、出来る時にやっといたほうが良いだろうが。」
「……本当かよ。」
「当たり前だろ。お前だって万事屋に篭ってるのなんかつまんねえだろうが。」
「そりゃ、そうだけど。」
急に振られて驚く。大体、つまるとかつまらないとかそういう問題なんだろうか?人の命に係わる事なのに。
「けどねえ、こうして実際襲われたわけだし…。」
「無事だったろ。」
「っ、そりゃ。」
「だったら、良いじゃねえか。」
「「………。」」
思わず声が出ないでいると、ああうう。と銀時が変な声を上げた。
そしてガシガシと頭をかき回している。
「……おい、万事屋。頭が物凄いことになってるぞ。」
「うるせ。ああ、はいはい。分かったよ、分かりましたよ。襲われても俺が護れば良いってわけね、コンチクショー。」
「最初からそう言ってる。」
なんだか偉そうにふんぞり返って腕を組んだ『土方』は、満足そうにニヤリと笑った。
と、そこへ。
「銀さーん、土方くーん。ミルクちゃん見つけましたよ〜。」
新八が白い猫を抱えて走ってきた。
「アレ、土方さん山崎さん。見回りですか?」
「まあ、そんなところだ。じゃあな。」
二人は踵を返して帰っていった。
「ちっくしょー、危険手当上乗せして請求してやっからな!!!」
銀時がその背中に叫ぶのを、不思議そうに新八が見ていた。
「ええ、襲われたんですか?」
「だから外に出んなって言うんだよ!」
猫を依頼主に返し、報酬を貰った俺達は。
今夜の食材をスーパーで買い込んだ後(勿論マヨもだ)、万事屋へと戻ってきた。
ちなみに、男3人の買出しは相当目立っていたと思うが、余り気にしない事にする。
「でも、大丈夫だったんでしょ?」
「そうだけどよう。………ったく、何でお前まであいつと同じことを言いやがる。」
「あいつ?…ああ、土方さんですか?…あの人だって、銀さんの腕を信頼してるから土方君をここに預けたんでしょ?」
「っ…。」
確かにあの時の銀時は凄かった。
普段のマダオっぷりが信じられないくらいだった。
あの腕を知っていたから、『土方』は俺をここに預けたのだろうか?
そして、銀時ならたとえどんな敵が来ようと俺を守り抜けると思っていたから、俺に外に出るように薦めたのか?
何なんだろう?この坂田銀時という男は。
さっき。
俺を庇ったときに回された腕が…、銀八の腕と同じに安心できた…。
俺と『土方』がどうやら同一人物であるようなのと一緒で、銀時と銀八も同一人物なのか?
「神楽ちゃん、遅いですね。」
「もうすぐ帰ってくんだろ。」
そんな話をしていると、『ピンポーン』と呼び鈴が鳴った。
「神楽ちゃん…だったら勝手に入ってきますよね。誰だろう?」
新八が玄関に立って行った。
「あ、うわ!か、桂さん?エリザベス先輩?」
…先輩?………ってか、桂?
テロリストだから気をつけろといわれていたあの桂?
何で、ここに来るんだ?しかも呼び鈴押して普通に。
ちらっと銀時の顔を見ると、ムッとした顔をしている。
「わ、ちょっと。待ってください。今、お客様が来ていてですねえ。」
新八の慌てた声と幾つかの足音がして。
和装の桂が入ってきた。
「邪魔するぞ。……し、真選組副長?」
「違うだろーが、良く見ろよ。」
「…確かに本人では無さそうだが、身内か?…なぜ、ここにいる?銀時?」
名前、呼んだ。
「成り行きだよ。とにかく、こいつには手え出すなよ。」
「なんだと?お前幕府側に付くのか?」
「んなんじゃねえよ。依頼を受けちまったの。こいつを護るって依頼をね。
だからなあ、ヅラ。こいつになんかしようとしたら、俺は全力で阻止するぜ。」
「………。」
ギッと二人が睨み合う。
そうだ、思い出した。
おかしいと思ったのは銀時が桂のことを『ヅラ』と呼んだことだった。
銀八も桂の事をヅラと呼ぶから、当たり前のことと聞き流していたけど。
『攘夷浪士、テロリスト、指名手配犯』としてしか知らないのならば、何であだ名なんかで呼ぶんだ?本人と個人的に知り合いだからそう呼ぶんじゃないか!
元攘夷戦争に参加していて落ち延びたものが現在リーダー的な役割を果たしているといった。その桂と個人的に知り合い…と言う事は…。銀時もまた、戦争に参加していたということにはならないか?
そうだ、あの時。『土方』はこういった『坂本、坂田、桂………まさか、高杉はいねえだろうなあ』。
そう、『坂田』と言ったのだ。
この4人が戦争中に名を馳せた者だったとすれば…。一括りで呼んだのも頷ける。
「仕方ないな。お前と戦うのは得策ではない。この少年の事はとりあえず置いておこう。それよりも、銀時。何度も言うが…。」
「ならねえよ、テロリストなんて。テメーこそ何度も言わせんなよ。ってか、面倒くさいから帰れよ。」
「いや、今日こそ『うん』と言ってもらう。お前が加わってくれれば今はバラバラな攘夷志士たちも1つにまとまるだろう。」
「そういうのは面倒臭くてイヤだって言ってんだろうが。俺はここで万事屋をやっていくんだ。今更攘夷だの何だのってのは気が乗らない。」
この会話を、俺は聞いてしまって良いんだろうか?
『あ〜、マイクテスト、マイクテスト。か〜つら〜。出てこ〜い。』
どこかで聞いたことのある声。………総悟!?
『万事屋の旦那〜〜、庇い立てするとこのままバズーカーぶっぱなしますぜィ。』
「お〜い。総一郎くん、善良な一般市民の銀さんに向かってそれは無いんじゃない?桂なんて居ないよ〜。」
窓を開けて外に向かって叫ぶ銀時の言葉に、慌てて室内に目を戻せば。
………居ない!?どこへ言ったんだ?
「もう、あっちの窓から逃げちゃいましたよ。」
新八が小さな声で教えてくれる。
見れば奥の窓が開いていた。す、すばやい。
感心したところで、グランと家が揺れた。何事!?
『本当にいねえんでしょうねえ〜〜。』
総悟がなんかしたのか?
揺れに耐え切れなくて思わず床に手を付く。
『わあ』と新八もしりもちをついた。
「大丈夫か?」
そう声をかけて………、あれ、こんな場面どこかで…。
20070814UP
NEXT
ようやくちょっぴりかっこいい面を見せられた銀さん。
『土方』の「だったら良いじゃねえか」の下りは、月子の拙い文章ではなく絵で見たいよ!絵で!
ふんぞり返る『土方』と、信頼されてると分かって嬉しいやら気恥ずかしいやら面倒くさいやらで頭ガシガシする銀さん。…良い。
そして、桂登場。そしてアッサリ退場。ちなみに高杉は出ません。
あの人出すと話がどこまでも大きくなっちゃって収拾つかなくなりそうなので…。
(07、08、31)