ここにいるよ。14

 半年ほど前に中央司令部の司令官に就任した少佐が、出勤してきた。

 気さくな人で、すぐに皆に慕われた。

「おはようございます。ハボック少佐。」

「う〜す。」

 気取らない様子に周りが笑顔になる

 いっつも煙草を咥えている人。背が高くて女性軍人の間でも、割と人気がある。

「ハボック少佐。」

「よ。」

「おはようございます。今日一日宜しくお願いします。」

「ああ。よろしくな。」

 なんせ、今日は中央司令部始まって以来の大イベントがある。

 あの、歌手の『ジュディ・M』が一日司令官としてやってくるのだ。

 勿論本来の仕事は軍人がするのだけれど、軍のイメージアップと言うことで今年から毎年実施されることになったらしい。

 第1回目が『ジュディ・M』なんて、話題にはなるけれど。じゃあ来年からは誰にするのかしら…なんていらない心配をしてみたり…。

 だってそのクラスの芸能人なんて、そうそう呼べるもんじゃないし…。…ってか、今回良く呼べたよね。

 ウチの広報部の力ではないらしい。上層部にコネがあったとかっていう噂だけど…。

「何とか無事に済ませたいからな。」

「はい。」

 今回担当に決まったのは少佐と私。

 司令官として(護衛もかねて)付く少佐と世話係として付く私。

 打ち合わせと称してこの数ヶ月位たくさん話をしちゃったし、名前も覚えてもらえて嬉しい限り。

 少佐が赴任してきた時からずっと憧れてたから。

 他の子は、ここを統括する将軍ロイ・マスタング中将がステキって言う子が多いけど、私は違う。

 ちゃんと、少佐のステキなところを分かってる。

「もうすぐだな。」

「ですね。」

「将軍を呼んでくる。」

「はい。」

 『呼んで来い』じゃなくて『呼んでくる』。

そうやってサッと動いちゃうところがいいよね。

 その間、他の広報部のメンバーと入口の掃除をしたり、飾り付けをしたり。記録用のビデオ等の準備やマスコミの整理、人員の配置なんかをしていると。少佐が将軍とその副官であるリザ・ホークアイ中佐を連れて戻ってきた。

「お前、そろそろ煙草をしまえ。マスコミに流されるぞ。」

「へいへい。」

 所定の場所に整列をする。

 少佐も携帯灰皿に煙草をしまった。

 クスリと笑うと、「うん?」と見返される。

「いえ。」

 もう30歳は越えてるはずなのに、凄くカワイイ。

程なくして、『ジュディ・M』が到着したという連絡が入る。

 案内役の私は、門の方までお迎えに出る。

「おはようございます。本日案内役をおおせつかりました。広報のアニー・テニスン少尉です。よろしくお願いします。」

「おはようございます。『ジュディ・M』です。よろしくお願いします。」

 にこりと笑った顔は信じられない位綺麗で、本当に別の世界の人だと思う。

 周りの男性達は、残らず目がハートになっている。

 ジュディは案外気取らない感じで、きゅっと握手をしてくれる。

「こちらです。」

「はい。」

 高飛車なところも無く、凄く感じの良い人だ。

 司令部の建物へと案内する。

 入口を入ってすぐのところで待っていた将軍たちを紹介する。

「最高司令官のロイ・マスタング中将です。」

 すると、ジュディはクスっと笑った。

「やあ、おはよう。今日は無理を行ってすまなかったね。」

「将軍のお願いでは、聞かない訳には行きませんわ。」

 にこりと笑って握手をし、軽く肩を抱き合う。

 知り合い…だったんだ。

 女性の噂の耐えない将軍だから、つい変な想像をしてしまう。

「副官のリザ・ホークアイ中佐です。」

「よろしくお願いします。」

「こちらこそ。」

 にこりと笑い合って、握手。

 うう、美人同士で迫力がある。

 …そして…。

 この人も目がハートになってるんだろうか?

 恐る恐る見上げるとなんだか普段と変わらない感じ。いえ、むしろ。どこかげんなりとした雰囲気。ほっ。

「司令官のジャン・ハボック少佐です。」

「今日一日、張り付きますので、よろしく。」

「はい。よろしくお願いします。」

 やはりにこりと笑って握手をしていたジュディが、不意にプッと小さく噴き出した。

「クスクス……失礼。」

「い〜え…。」

 何がおかしかったのか、クスクスと笑いつづける。

 手、握手したまんまだし。

 少しムッとする。

「…あの…。」

 声をかけると。

「あ、ああ。ごめんなさい。」

 相変わらず笑いと噛み殺したような顔でようやく手を離した。

 どんな表情でも、美人は美人なのだなと変なところで感心しつつ。

「こちらへどうぞ。」

 と、控え室に案内をした。

 ここで、軍服に着替えてもらうのだ。

 勿論、スカートの方を。

「着方は分かりますか?」

「ええ、大丈夫だと思います。」

「では、終わりましたらお呼びください。」

 そう言って、ジュディとマネージャーの二人を部屋に残して、外へ出た。すると、先程の3人が集まっていた。

「将軍。お仕事にお戻り下さい。」

 と中佐。

「イヤだ。スカートをはくんだろう?勿論ミニだろうな。」

 と将軍。…何を考えているの?

「んな訳無いでしょ。」

 とハボック少佐が苦笑する。

「普通の丈のスカートですよ?」

 私が答えると、将軍はあからさまにがっかりした。そして、文句を言う。

「ジュディのミニスカート…。」

「まさかあんた。それが目当てで、彼女を押したんじゃないでしょうね!」

「そ、そんな訳あるか。」

「「はあ。」」

 中佐と少佐の溜め息が漏れる。

「ミニなんか、はかせられる訳ないっしょ?」

「何でだ。」

「午前中は司令部内を回るだけですがね。午後にはオープンカーでパレードするんですよ。巡回って名目で。」

「それが?」

「このくらいの高さの所に座るんです。」

 少佐は自分の腰くらいの高さを示した。

「ミニなんかはいていて、下からカメラで狙われたら…一発です。」

「む、それはまずいな。」

「でしょう?」

「納得されたのなら、お仕事にお戻り下さい。」

「一目見来るくらい、いいじゃないか。」

「後で、将軍の執務室にも行きますから。」

「いや、一番に見たいんだ。」

「あんた子供ですかっ。」

 なんなの?もう。

 わいわいやっているうちに、ドアがそっと開いた。

「これ、…どうやって止めるのかしら…?」

 襟元のボタンが留められてないままで、ジュディが顔を覗かせる。

「ああ、そこは…。」

 たまたま一番傍に居たハボック少佐が、さらりと手を伸ばした。

「…ホレ。」

「うん。…ありがと。」

 何?今の慣れてる感じ。

 今日が初対面じゃないの?

「おー、似合うじゃないか。」

 将軍が笑う。

「そう?結構重いのね。」

「お前は普段露出が激しすぎだ。」

「え…そうかなぁ…?」

 二人の会話を中佐と少佐が微笑ましい顔で見ている。

 それにしても…、軍服に合いすぎ!

 着慣れているというのではなく、舞台衣装のように綺麗に見えるのだ。

 そういうところは『さすが』と言うべきなのかな?

「すみません、そろそろお時間が…。」

「あ、ああ。じゃ、戻るか。」

「失礼します。」

 将軍と中佐が去っていった。

「で?まず何をすればいいのかしら?」

 ジュディがこちらを向く。

「指令室で就任式です。」

「はい。」

 その後は特におかしく思うことも無く進行していった。

 マスコミのフラッシュが焚かれる中、ジュディは始終穏やかな表情を崩さなかったし、ハボック少佐も色々と説明する他は、特別親しげに話すことも無かった。

 妙に、親しげに感じたのは気のせいだったのかしら…?

 

 

 

 

 

 

20070116UP
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突然見知らぬ人視点ですみません。
しかも、時間飛んでるし…。
このときは、ハボが32歳くらい。ジュディは24歳くらいかな。
(07、01、17)

 

 

 

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