手をつなごう。2

「火影の岩は見えないなあ。」

「角度が違うんだろ。里の位置があそこだから、岩は向こうだろうな。」

「そっかー。」

 ナルトの相槌にふとサスケは思いついた。

 そういえば、こいつと喧嘩腰ではなく会話が続いている。いつもは何故か喧嘩になるのに…。

 リラックスした場所のせいだろうか?

「ナルト、もうすぐ夕方だ。そろそろ風呂にくる奴もいるだろ。もう一度温まって出ようぜ。」

「おう。」

 結局、柵の傍で外を眺めてしまっていた二人。

 湯船へ入ろうと、くるりと振り返ったナルトがツルリと足を滑らせた。

「うおぁ。」

「ばかっ!」

 そのまま湯船にダイビングするところだったナルトを抱きとめた。

「お…まえ、落ち着きなさすぎだっ。」

「わ…悪り。」

「………。」

「………。」

 次の言葉が出てこなかった。

 思いもかけずに、触れ合ってしまった肌と肌。

 その、あまりにもリアルで心地よい感触に身動きが出来なかった。

 ナルトの方も同様なようで、不自然に生じた沈黙にも何も言わず、サスケの手を振り払うこともしない。

 その時二人の頭にあったのは…『ど…どうしよう…。』。

「は…っくしょん。」

 ナルトのくしゃみが沈黙を破った。

「…風邪、引くぞ。」

「う…うん。」

 ギクシャクと動いて湯船に入った。

 見上げると、夕方の少し前。

 色づき始めた空が広がっていた。

 

 

 脱衣所に用意されていた旅館の浴衣に着替えて、フロントへ戻ると先ほどの仲居がにこやかに部屋へと案内してくれた。

「こちらのお部屋で御座います。」

 建物の上の方の階だから、まさかとは思ったが。広くてゆったりとした相当良い部屋だ。

「うっわー、すげー。」

 ナルトは入った途端に、キョロキョロと部屋を見回した。

「7時頃、お夕食をお持ちしますね。」

 部屋の中の説明を一通り終えて、仲居は引き上げて言った。

 サスケは部屋の中の戸と言う戸を開けて回った。

 上忍の保養施設ということだから、おかしなことは無いだろうが。もしも、と言うこともある。

 洗面所も、そこから続く内風呂も…。

 ナルトも後を付いてきて一緒に覗き込む。

「ひゃー。」

「すごいな。」

 上忍用だからなのか、それともこの部屋のグレードが上なのか?

 洗面道具やタオル、浴衣その他様々な小物も調えられていた。

 化粧品やケア用品。救急箱には様々な薬、そして怪しげな通販で売っているような健康グッズまであった。

 室内は品良く質良く整えられているし、続きの部屋にある冷蔵庫には飲み物がぎっしり詰まっていた。(さすがに泊まるのが子供に変更になった為、アルコールは無かったが)

 ロックアイスなども備えられ、酒ビンを飾るローカウンターなどもあるところを見ると、普段はその中にぎっしりと高級酒が並んでいるのだろう。

「こっちは何だってばよ〜。」

 楽しそうにナルトが開けた襖の向こうは…。

「っ!!」

 ベッドルームだった。しかもキングサイズのベッドが1つきり。

「で……っけ……。」

 唖然とナルトが言う。

「カカシの奴。」

 何考えてこの部屋を予約したんだか…。

「へ?」

 一瞬きょとんとナルトがサスケを見た。

「あ、ああ。そ…か。」

 心持ちナルトの頬が赤くなる。

「で、でもさっ。俺達なら、二人で余裕だってばよ。」

「……は?」

「でっかいし、…な。サスケ。」

「…そりゃ、ベッドは大きいが…。」

 大人二人で寝たって余裕だろう。

「俺、ちょっと。寝相が悪いかも知んないけど。」

「………。」

 それはつまり、わざわざ別にする必要はないと言っているのだろうか?

 信用されているのか、牽制されているのか…。

「な。」

「ああ、そうだな。」

 やっぱりそれでも別にしようとは言いづらくて、とりあえず頷く。

 先ほど覗いた押入れには布団も入っていた。最悪眠れなければ、自分で布団を敷けばいい。

「よっと、こっちは?」

 障子の向こうは、小さな廊下があり外へと続いていた。

 かなり大きなベランダは中庭のようになっていて和風庭園があしらってあった。内風呂からもそういえば見えていたっけと話す。

 ご丁寧に小さな川と石の橋まであり、散策できるようになっていた。

「いくら上忍用って言ったって…。」

「ああ、カカシの奴。随分奮発したもんだな。」

「あ、サスケ。見ろよ、火影の岩が見えるってばよ。」

「ああ。」

 ここからは里全体が良く見えた。

「へっへっ、あそこに俺の顔が入るわけだ。」

 ナルトが岩肌の空いた場所を指差す。

「そうしたら、俺が落書きをしてやる。」

「ええ!ひどいってばよ!」

「本当にやったのはどこのどいつだ。」

「あ…はは。俺だ。」

 それから、他愛もない話を少しして。

「あ、あのさあ。」

「うん?」

 少し言いにくそうにナルトが口を開いた。

「サスケは家族を殺した奴に復讐するってのが夢…ってか、目的なんだよな。」

「ああ。」

 一気に話の内容が重くなる。

「そいつって、里の外にいるんだろ?」

「当然だ。」

「…ってことはサスケはいつかそいつを追って里を出るのか?」

「………。」

 そこまでサスケも具体的に考えていたわけではなかった。けれど。

「里にいない以上、そうなるんだろうな。わざわざそのために里を出ることになるのか。外へ任務で出たときになるのかは分からないが。」

「ふーん。」

「どうした?急に。」

「う…ん。俺ってば、自分の事で精一杯で、自分の周りの狭い世界しかみてなかったなって思って。」

「自分の事で精一杯なのは俺も同じだ。」

「うん。でもさ、この間任務で霧の国へ行ったろ。あん時思ったんだってばよ。里の外って広いんだなって。その広い世界に目エ向けてるサスケは凄いなって。俺なんか、火影になるなんて言ってっけど、結局考えが里から外へ出てないんじゃないかって。」

「それは…違うと思う。多分。」

「そ…っかな?」

「目的が違うんだ。選ぶ手段やフィールドが違うのは当然なんじゃないのか?それに火影は里を守るものだ。…何からだと思う?」

「妖…怪。…や、他の里…から。」

「だろ?里の中の揉め事の対処だけしてりゃ済む仕事じゃない。お前だっていやでも他の里の動向を把握していかなきゃならなくなる。

 どっち道まだ下忍なりたての俺達には満足な情報なんて知らされない。いまの所出来るのはとにかく強くなって上へ行くことしかない。」

「そっか。…そうだよな。俺頑張って修行するってばよ。サスケを守れるくらい強くなる。」

「何だ、それは。」

「そんでもって、サスケが復讐する時は俺が見届ける。」

「はあ?」

「約束な。」

「勝手に決めるな!」

「約束!一人じゃダメだ!」

「ナルト?」

 サスケが眉を顰める。

 そういう干渉は好きじゃない。ナルトだってそれは分かってるはずなのに、何故?

「だってサスケってばほっといたら一人でぽっくり死んじまいそうなんだもんよ。」

「人を、年寄りのように言うな。」

「だって、だって。あん時だって!!」

「…?」

「霧の国で俺の事庇って…。」

「お前が弱いからだろ。」

「だから、俺強くなる。そう言ってんじゃん。」

「お前じゃ無理だろ、ドベ。」

「ドベ言うな!俺は真剣なんだからな!もう、あんな思いすんのやなんだってばよ!」

「…ナルト…。」

 いまにも泣き出しそうなナルトの表情をサスケは唖然と見返した。

 

 

 

 

 

 

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