手をつなごう。3

「俺を庇ってお前が死ぬなんて、イヤなんだってばよ。」

「………。」

 そう言われても、とっさに体が動いてしまったのだから仕方がない。

「すっげえびっくりしたんだっ!

俺の事命がけで庇う奴がいるなんて。すっげえびっくりしたんだぞ。そいでもってすっげえ嬉しくて、すっげえ悔しくて、すっげえ悲しくて!…すっげえ辛かったんだっ!」

「ナルト…。」

「お前、ほっといたら目的果たしたことに満足しちゃって。その後誰に殺されそうになっても、あんま本気で抵抗し無さそうだし。 だから。」

「………。」

 確かに復讐を終えた後のことなんて考えてなかった。

 『見ているものが違うんだ…。』

 改めてサスケは思う。

 里の外を視野に入れているサスケを凄いとナルトは言うけれど。

 『火影になる』と言うナルト。火影なんて、なって終わりじゃない。その後が長いのだ。

 そういう目的を持っているナルトは、サスケとは違う時間感覚を持っているのかもしれない。

 同じじゃない事はもどかしい。

 けど、同じじゃないからいいのだろう。

 サスケの表情が穏やかになったのが分かったのか、ナルトもニッと笑った。

 夕日が反射して、ナルトの金髪がぴかぴかと光る。

 ともすれば闇に引きずり込まれてしまいそうなサスケをいつも引き上げてくれる太陽の光。一人ぼっちの寂しさを癒してくれる月の光。

 いつだってナルトがサスケを照らす。

 他人なんてどうだって関係なかったサスケのテリトリーにあっさり入ってきた光。

 だから、自分だけのものにしたいと思ってしまうのだ。

 

 

 超豪華な夕食。

 大きなテーブルを埋め尽くさんばかりの皿の数にナルトの目が輝く。

「すっげ〜。」

 サスケにとっても、本当に久しぶりだった。

 親が生きていた頃に、数回どこかで食べたことがある程度だ。

「こんなこと思っちゃいけないんだけどさ。」

「何だ。」

「へへっ、イルカ先生が風邪ひいてくれてちょっぴり良かったってばよ。」

「お前…。」

「ちょっぴりだけ、だって。」

「…まあ、どうせカカシが行ってんだしな。」

「でも、ちょっと心配。」

「何が?」

「カカシ先生に病人の世話なんて出来んのかな〜。」

「…ああ、無理っぽいな。」

「だろ、だろ。」

 アレコレ他愛もない話をしながらの食事。

 それが何よりも食事を美味しくしてくれているのだと二人は分かっていた。

 いつもの一人きりの食事の味気ないこと。

 ナルトのラーメン好きもイルカと食べられることや、店のマスターがナルトを認めてくれているというところが大きいと思われる。

 サスケにとっても自宅は両親の殺された場所だ。そんなところで一人で食事をして美味いわけがない。

「腹、いっぱいだってばよ〜。」

 食事の後、ごろんとナルトが窓の下に転がった。

 何でそんなところで転がるんだ…。

 サスケが小さく溜め息を付いた。

「ほらー、サスケ、サスケ〜。月がきれいだぞ。来て見ろってばよ〜。」

 ナルトに習い、窓の傍の板張りの廊下に頭を窓の方に向けて並んで転がると。なるほど、満月を少し越えた月が昇っていた。

「きれいだな。」

「だろ、だろ。俺んちのベッドも窓際においてあるんだ。こうして、見上げるといっつもきれいな月が見えるんだってばよ。」

「今夜は月が明るいから、星は余り見えないな。」

「本当だ。」

「…お前、そういや星読めなかったな。」

「う。」

「少し覚えておいた方がいいぞ。」

「う…ん。」

「ほら、あれ。分かるか?青い奴。」

「あー、えーとー。」

「………、致命的だな。」

 サスケがこれ見よがしに溜め息を付くと、プクンとナルトが膨れた。

「だってよ。そんなん、教えてくれる人いなかったし。」

「アカデミーの授業でやっただろ。」

「実際の空とは違うじゃんか。」

「ああ、まあな。」

 教科書に書いてある星図をそのまま覚えたって実際とはなかなかリンクしないものだ。

「仕方ないな、今度教えてやる。」

「え、本当?」

「ああ。里の外に出る任務があったときに、お前に迷子になられて支障をきたしても困るし。」

「う。」

「うちの屋根は、他の家より少し高いから。あそこから見れば結構良く見えるだろう…。」

「サンキュ、サスケ。」

 へへへと能天気に笑う。

 時々その能天気さが気に障る。

 サスケが好意を持っていることは分かっているだろうに。

 受け入れるでもなく、拒絶するでもない。

 ただいつもなんでもない顔をして隣にいる。

「ナルト…。」

「何だって、ば……ん。」

 ナルトの上にのしかかり、その体を押さえつけて深く唇を重ねた。

「や…サ…ス………ん……。」

 逃れようとするナルトを許さずに追いかけると、次第にナルトの抵抗が弱くなる。

 けれど、完全に受け入れたわけではない。

 決して抱き返してこない腕。

 されるがままで応えない唇。

 一人熱くなっている自分が空しくなって、そっと唇を離した。

「……ナルト、好きだ。」

 困ったように、ナルトの視線が彷徨う。

「ご、ごめん。…サスケ、…俺……まだ……。」

 『まだ』?

 どういう意味だと聞き返そうとして、はっと気付いた。

 里の大人から嫌われているナルト。たった一人で生きてきた。

 今まで、人を恋しく思わなかったはずはない。

 求めて、すがって。そのたびにはねつけられ辛い思いをしてきたのだろう。

 まだ、他人を信用しきれないのだ。

 サスケの想いに答えるのが、怖いのだ。

 受け入れて、答えて。けど、その後又裏切られるのではないかと怯えている。

 『仕方無い…か。』

 まだ自分はそこまでいっていないのか…。

「分かった。」

 チュッと小さく口付けて、自分の体を起すとそのままナルトの手を引いた。自分と一緒にナルトの体も起してやって。

「寝るか。」

「あ…うん。」

 あっさりと引いたサスケを不思議そうに見て、ナルトはくすぐったそうに笑った。

 サスケがナルトの葛藤に気付いたことが分かったのだろう。

 手を繋いだまま部屋の電気を消し、ベッドルームへと向かった。

 『ああ、…ダブルベッド』

 複雑な心境のサスケ。

 しかし全く気にしてない様子で、ナルトはベッドへ潜り込む。

 内心盛大な溜め息を付いて、サスケも毛布に包まった。

「お休み。」

「うん。お休み、サスケ。」

 今夜は眠れないんじゃないかとサスケは思ったが。

 昼間の疲れとナルトの規則正しい寝息に誘われて、ゆっくりと眠りに落ちていった。

 

 

 はあ、はあ、はあ…。

 荒い息をつきつつ、ナルトの目はせわしなく退路を探していた。

 『何で、こんなことになったんだってばよ。』

 走り続けたために、心臓が痛いほどに鼓動を繰り返す。

 恐ろしい形相で自分を追ってくる里の大人達。

 その中には、近所の顔見知りの者も居た。比較的、親切にしてくれる大人も居た。

 アカデミーの先生も、上忍や中忍の顔もあった。

 …そして、ナルト抹殺の指示を出しているのは…火影だった。

 一瞬でも足を止めたら殺される…。

 裏道を通り、森へと入った。

 木の間をすり抜け、藪の中を駆け抜ける。

 『ナルト。』

 『見つけた、こんなところに居たのか。』

 『イルカ先生!カカシ先生!!』

 助かった…。一瞬そう思った。

 けれど次の瞬間、二人から放たれたのは鋭い殺気

 『〜〜〜っ。』

 殺される!

 脱兎のごとく走り出した。

 『『待て!』』

 何で、何で、何で。

 いつも優しかったあの二人までもが、何で!!?

 助けて、誰か!

 俺は、まだ、死にたくない!

 けれど、里の皆の憎悪の理由も分かってしまうのだ。

 そうだ…俺が悪い…。俺じゃないけど、俺の中にいるアレが。この里に悲しみと憎しみをもたらした。

 絶望的な気持ちが心の中に広がる。

 自然と足が、ゆっくりになっていく。

 自分を追う者たちの声と気配が急速に近付いて来た。

 もう、終わり…かな。

 そう思ったとき。

 『ナルト、何をしている!こっちだ。』

 ぐいと引っ張られた腕。

 全てを諦めて、動きを止めてしまったナルトの体を抱きかかえ。庇うように木々の枝に飛び移りつつナルトを生かしてくれようとするのは…。

 『………サスケ…?』

 

 

 

 

 

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