俺はいつも、許されてこの腕の中に居るのだと思った。 4
そこからは実はあんまり良く覚えていない。
とにかく夢中だった。
ゾロを締め付け押さえつけながら服を脱がした。そして無理やり自分のソレを突きたてる。
「止めろっ。」
初めの頃、そういうゾロの声を聞いた気はするけど、その後はゾロの声の記憶がないから。多分途中からは声も上げずに耐えていたんだろうと思う。
全て埋め込んでから、ふと気付くと。ゾロの指が俺の腕に食い込まんばかりに立てられていた。
見下ろせば、月明かりでもそれと分かるくらいに白く血の気の引いた顔。
フッと身体の力が抜けた。
俺がゴムだから多分そんなに傷ついてはいないだろうけど、そんなのは何の言い訳にもならない事は分かっていた。
これ以上俺が無茶をする気がないと分かったのか、強張っていたゾロの身体からもゆるゆると力が抜けていく。
閉じられていた瞼がゆるりと開いて俺を見上げる。
「ルフィ。」
呼ばれてビクンと背筋が震えた。
どんな罵声を浴びせられるのか?
すっと動いたゾロの右手に、殴られる!と身体が強張り、ぎゅっと目を閉じた。…と。
ほわんとほっぺたが暖かくなる。
「…え?」
「何て、顔してんだ。」
苦し気だったけど、酷く優しい声。
ボロボロと涙が零れる。
「本当に、バカだなあ。お前は。」
手が俺の頭の後ろへ回り、ぐいと抱き寄せられた。
「…く。」
小さくゾロの声が漏れる。俺が動いたから痛かったのだろうけど、腕の力は弱まらなかった。
「何て顔をしてるんだ、まったく。これじゃ立場が逆だろう。」
「うん。ごめん。」
ゾロの腕の中で少し泣いて、気持ちの高まりが収まっていった。そして身体の高まりも収まってしまい、そっとゾロの中から出た。
「ごめん、本当に。」
ゾロと自分の服を直した。
ゾロは少し身体を庇うようにして上体を起し、辛そうに手すりに背中を預ける。
「………ゾロ……?」
「酒は…まだ、残ってたよな。」
「あ、うん。」
「2・3本持ってきてくれ。」
「分かった!」
大慌てでキッチンへと駆け込んだ。
良くゾロが飲んでいたのはどれだっけ?あれこれ眺めて比べて。見覚えのあるのを3本ほど引っつかんで外へと出た。
と、足元にいるはずのゾロがいない。
一瞬背筋がぞっとするが、カツンコツンと階段を上がる音がして。見るとゾロが船首の方へゆっくりと上がっていくところだった。慌てて追いかける。
「大丈夫か?」
「ああ。我慢できないほどじゃない。」
「ごめん。……俺…。」
ただでさえゾロの身体は生きるので精一杯なのに。チョッパーからそう聞かされていたのに。他の誰でもない、俺自身がさらに負担をかけてどうする!
いたたまれない思いの俺に何ごともなかったようにゾロが笑った。
「お前も飲むか?」
「え?……うん。」
顔も見たくないって言われるかと思ったのに。傍に寄るなって言われたっておかしくないのに。
…ここに…居ても…良いってこと?
それから、酒を飲みながらポツリポツリと二人で話したのは。ビビもアラバスタも関係ない。本当になんてこと無い話しだった。
ゾロほど酒に強くない俺は。元々空きっ腹だったことや、ゾロの隣にいられて安心したことで。いつの間にか眠ってしまっていた。
「ちょっとー。酒飲みながら見張りしないでくれる?」
ナミの声で、ぼんやりと目が覚めてきた。
「大丈夫だ。今はサンジがキッチンでログポースを見てる。」
すぐ傍でゾロの答える声がする。
「あっそ。どうでも良いけど、ラブラブね。」
「お前なぁ。」
呆れるゾロの声は、やっぱりすぐ傍で…。
あれ?頭の下が柔らかい。…え!?俺、ゾロの足を枕にしてる?
その上薄手の肌掛けも掛けられている。寝ている間にゾロがやってくれたのか?
「あんたさあ、ルフィの事。嫌いじゃないんでしょ?そろそろはっきりさせたら?」
「余計な世話だ。」
「まあね。他人の色恋沙汰ならちょっと位こじれた方が面白いんだけどさ。さすがの私も凹むのよ。」
「うん?」
「この、ノーテンキに落ち込んだ顔をされて愚痴られると。」
「そうか。悪かったな。」
「あんたに謝られてもねー。…大体あんた、ルフィの事どう思ってるの?」
ナミのストレートな質問に俺の方が焦る。聞きたいけど、聞きたくない。
「あんた。ちょっとはルフィのこと好きなんでしょ。」
「嫌いといった覚えはねーな。」
「だーかーらー。」
「…こいつが海賊王になった時に、世界一の剣豪になった俺が傍にいられたら良いと思ってるが。」
「仲間としては、上出来の答えね。」
「不満か?」
「ルフィが求めてるのはそういうんじゃないでしょ。こいつは仲間の誰かの気持ちや覚悟を疑ったりなんてしてないわ。」
「お前が船取って出て行ったときもな。」
「嫌なこと引き合いに出すわね。でも今のままじゃ、生殺しと一緒よ。キスされても嫌がらなかったって言うじゃない。でも恋人じゃない?仲間ですってさあ。…それじゃルフィもあんたの気持ちを量りかねちゃうわよ。」
「………。まあな。そろそろはっきりさせなきゃと思ってたところだ。」
「…なら、良いけど。」
「俺達のことより、お前はどうなんだ?」
逆にゾロが聞き返した。
「私?私がどうかした?」
「このところ随分とイライラしてるようだが。」
「…アラバスタが近いからよ。」
「……あいつは…どう見たってお前を特別扱いしてると思うけどな。」
「!!」
ナミが黙り込む。そして。
「あんた、ただ寝てるだけかと思ったら意外と見てんのね。」
「確かに元々女好きで、女には甘いんだろうが。その中でも、お前は別格だろ?」
「……ソウカシラ?」
「今だって、材料なんかロクに無い中で、何か作ろうとキッチンでうなってるぜ。俺達のためじゃない、お前らのために…だ。」
「そうね。大切にされてる。…それは、分かってるつもりよ。」
「男女差別の激しい奴だが。ビビとお前とをちゃんと区別はしてるだろう。」
「…そう?」
「自信ねーのか?」
「自信とかって言うんじゃないわ。別に恋人って訳じゃないし。」
「押そうが引こうが向こうはただひたすらにハートマーク飛ばして押し捲ってくるからな。…むしろ考える必要ねーんじゃねーの?」
「………。そうね。今、結論出すことでもないし。出そうったって出ないし。…ルフィを見習って『今、おいしいご飯が食べられればいい』ってとこで妥協しようかな…。…なんだか、いい匂いがしてきたし。見に行ってくるわ。」
じゃあねと、行ってしまった。
ナミの足音が充分遠のいてから。
「ナミはサンジが好きなのか?」
と、口に出してみた。
「何だ。起きてたのか。」
「気付いてたくせに。」
「好きって言うんじゃないんだろうがな。…サンジはあの通りだろ。優しく甘やかされりゃ、ちょいとはぐらつく。そんなんで良い気分になってたところで、ビビが仲間になった。サンジはビビにも優しい。じゃあ自分は何だ?女なら誰でも良いのかってところだろ。自分とサンジとの距離を測りかねてんだよ。」
それで、この頃イライラしてたのか。
よいしょ、と身体を起した。
もうすぐ夜が明けそうだ。あたりは大分明るくなっていた。
「………。…ま、俺も人の事は言えないがな。」
「ゾロ?」
「距離を測りかねてたっていう点では俺も一緒だ。お前の言う『好き』は俺の理解の外だった。」
「うん。」
「だからって、気持ち悪いとか船を降りるとかは思わなかったんだ、本当に。一緒に旅をしていきたいと思ってる。」
「…うん。」
俺が海賊王になる時に、傍に居たいと思ってくれる。それは大満足の答えじゃないけれど、かなり嬉しいことだった。
「キスたこともな、昨夜のアレも。…なんて事しやがるとは思うが…。」
「…ゾロ?」
「ただ…同じようにお前にしたいかって言うと、そんな気は今のところまったく起こらないんだ。」
「う…ん。」
小さくゾロが溜め息を付いた。
「ただ、なあ。」
「うん?」
「お前が……らしくないのを見るのはちょっとイヤだな。」
「俺?…らしくない?」
20060522UP
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