rhapsodie -- scherzo



「とりあえず、だ」

その場にあった雰囲気を切り替えるように、土方が口を開いた。その声に、と総悟が視線を向ける。その視線を受けながら、土方はの腕へと視線をやった。じわじわと広がり、気づけば大分大きいものになっているの着物の紅い染みに眉を寄せて、もう一度手当てをしなおさねェとな、と呟く。その言葉に、あぁ、とは今更に気づいたように腕へと目をやった。

「構わないよ、このくらい」
「こっちが構うんだよ。だいたいなァ、医者にゃ動かすなって言われてんだ」
「そういやそうでしたねィ」

着物の上から傷のある場所に触れたの言葉に聞く耳も持たず、土方が言う。素人の手には負えないと呼び寄せた顔馴染みの医師は、彼の容態を見てしばらくは安静にしてろと医者の口調で言い切った。を見つけたときの出血量から考えても、深手を負っていることは確実なのだ。けれど、ひでぇもんだ、と呟いた医師の言葉は、それだけに向けられたものではない。土方も沖田もちらりとだけみたの体には、古いものはもちろん、治りきっていない傷がそこら中に残っていた。

「大丈夫だよ、もう今更だ」

そんな彼等に向けて苦笑しながらが口にしたのは、紛れもない本心だった。まさに先ほど剣を交えたところだという、今更。既に体中には数え切れないほどの傷があるための、今更。もう傷があったところで支障はない、今更。いろいろな意味をこめての今更を口にすれば、総悟が少しだけ表情を変えた。満身創痍の中で交えたの剣の腕を思えば思うほど、治してもらわなくては困る、という思いが増す。総悟の中では、先ほど口にしたとの手合わせはもう決定事項であった。あの申し出の理由はそれだけではないけれど、彼と打ち合ってみたいという気持ちだって小さくはない。そのためには万全の状態になってもらわなくては意味がないのだ。

「このくらい、なんとでもなる。それに、そこまで手を煩わせるわけにも行かない。・・・あぁ、すまない、これはもう使えないかな」

そんな総悟の考えを知ってか知らずか、が申し訳なさそうに紅く染まった着物を見る。そうして、俺が着ていた服はそちらにあるのかな と土方に問いかける様子には、すぐにでもここを出て行こうとしているのがすぐに読み取れた。その様子に、ピクリ、と土方のこめかみが引きつた土方が、いつにも増して低い声で、だから、と呟く。そこで言葉を止めた土方に、なにかとが視線を向けたままでいれば、次の瞬間、土方の体が動いた。

「大人しくしてろっつってんだァァァア!」
「、ッ」

咄嗟に反応しようとして刀を握った腕を掴まれれば、走った痛みに思わずの眉が寄る。そのまま畳へと打ち付けられれば、着物に血を滲ませていた腕の傷だけではなく、全身にある傷がその衝撃に悲鳴を上げた。
← Back / Top / Next →