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「怪盗 I の事件、やらせてください」 警視庁に戻るなり新一が言った言葉に、目暮は少々驚きながらも、君がいいなら と快く、むしろ願ってもいないとばかりにOKの返事を返した。そうして、それならばと怪盗 I の事件の本部となっているこの部屋の棚から怪盗 I の資料ファイルを取り出して新一へと手渡した。ありがとうございます と受け取って、椅子を借りて早速ファイルを開く新一を見ながら、いつもの新一の様子を知っている目暮は、自分の分のコーヒーを淹れようかと新一の座る場所とは少し離れたポットへと向かう。工藤君もいるかね と形式上で聞けば、いえ、今は という言葉が返されて、新一の集中力の高さを知っている目暮は、そうか と笑って一人分のカップを手にした。 そのうちにも、新一は資料の文字を追う目を止めることはしない。それらの資料に、怪盗 I 本人に繋がるようなものの写真や証言は書かれていなかった。なんといっても、怪盗 I は姿を見せない怪盗だったのだ。きっと、彼女の姿を見たのは自分が初めてだろう ――― 新一はそう思う。あれは、変装した姿ではなかった。キッドと同じようなものだろう。本人としての正装で出てくるときは、変装はしない。それならば、あの声、あのシルエット ――― 怪盗 I は、たしかに女性だ。しかも、自分たちとさほど年齢の変わらない。 「怪盗 I に興味を持ったかね?」 目暮が淹れたコーヒーを飲みながら言った言葉に、新一は思考に浸っていた頭をわずかに切り替えて、はい と言葉を返した。そうすれば、やはりな と目暮はいつものように笑う。工藤君が担当するのなら、百人力だな ――― そんな考えに、自然と頬が緩む。そんな目暮を放って、彼でなければ無理に近いスピードで、新一は資料を捲っていく。と、目に入った、一番初めの怪盗 I の事件の予告状に、新一は手を止めた。 「目暮警部、最初の予告状には名前がなかったんですか?」 「あぁ・・そうだった、なにもなくてな・・・ちょうど・・・どこだったか・・・あぁ、これだ」 新一の問いに、目暮は資料を覗き込んだ。そうして彼が指差したシンプルな予告状のある部分に、新一は小さな線を見つけた。細い、なにかの不注意でついてしまったような、黒の短い縦線。なんだ?と目を細めた新一の顔は見ずに、目暮は資料に近づけていた顔を離し、またコーヒーを口にした。 「それはこの予告状が警察に届いた際に警官が誤ってつけてしまったものだったんだが・・・呼ぶ名がないと困るんでな」 「これを、 I に見立てて怪盗 I と呼んだ・・・ということですか?」 新一が言えば、そうそう と目暮が言った。適当だな とは思うものの、やはりそういうものなのだろう。マスコミなどで考えれば、そんな小さなことが通称の元になることなどザラなことだ。そんなことを思いながら、最後の彼女の言葉を思い出す。「世間でいうところの」と、彼女が言った理由はこれか、と新一は止めていた手を動かし始めた。 今まで彼女が盗んだものは、骨董品、宝石、絵画 ――― これといった共通点はないように思える。価値にしたって、とても高価なものもあれば、そこまで値が張るわけでもないようなものもあったりと、様々だ。そもそも、彼女の狙いはなんだ?彼女のあの様子では、ただのコソドロというようには見えなかったけれど、それにしたって ――― 考えは尽きることはなく、また、その手は止まることがない。 「怪盗 I よ」 そう言った彼女は、まだ謎に包まれている。 名前と、
声と、 あとはシルエット |