何かが違う と新一は思った。前回は怪盗 I の捜査に来られなかったから、だから少し違和感があるだけなのかもしれないと自分でも思った。けれど、こうして時間が過ぎていくに連れてその違和感は少しずつ、確実に大きくなっていく。まず、今回の予告状はいつもと少し文面が違っていた。そんなもの微々たるものだといってしまえばそれで終わる。けれどどうだろう、彼女は今回のように、現金などの予告状に記されていたもの以外を盗んでいったことがあったか?家の中に、何かの痕跡を ―― それも、こんなにあからさまに鍵をこじ開けたような跡を ―― 残したことがあったか?誰かに向かって、攻撃するなんてことが、あったか?いや、そんなこと、一度だってなかった。そもそも、彼女がそんなことをするはずがない。『怪盗 I 』に投げられたナイフで少し切ってしまった頬の血を拭いながら、新一は思う。

今回の事件は、新一でなくとも荒いと思わせるようなものだった。強引にそこかしこの鍵をこじ開けられて、さらに追い詰めた新一たちにナイフなどを投げつけ、車で逃げ去る。それは、何の痕跡も残さずに いつの間にか目当てのものを盗んでいく怪盗 I を捕まえるための策をめぐらせていた捜査本部にとっては、まさに意表をつかれた形だった。

「怪盗 I も、とうとうこういった手に出たか・・」
「追い詰められてきたってことですかね?」
「しかし、いくらなんでも・・」

目暮と高木がそんな言葉を交わしているのを耳に留めながら、違う と新一は思う。あれは、怪盗 I じゃない。いつも、ふわりふわりと自分をかわしていく怪盗 I を思い返して、新一は拳を握る。現時点で証明できる証拠があるわけではない。けれど、今まで怪盗 I とは、それこそ何十回も対面してきたのだ。その違いがわからない新一ではない。くそ と小さく呟いた。怪盗 I ではないというのに、あの泥棒を捕まえ損ねてしまった。怪盗 I を語った、あの偽者を。あれだけの痕跡を残していれば、捕まえるのにさほど時間はかからないだろうが ――― それよりも と新一は思う。 彼女は、このことを知っているのだろうか?



はそんな現場の状況を建物の上から見ていた。の服装はどこにでもいる大学生のもので、決してスーツにシルクハット ―― 怪盗 I のスタイル ―― ではない。今日、は偶然 蘭と会っていた。そこで、新一は今日怪盗 I の事件に行った と聞いたのだ。今日を指定した予告状など、出していない。なんとなく予想はついたけれども、どういうことかを見に来てみれば、こういう事態が展開されていた。は大きなため息を着く。

「ホント、やめてほしいなぁ」

まったく と呟きながら、は踵を返す。勝手に人の名前を使われるなんて、最悪もいいところだ。こっちはやりたくてやっているわけじゃないというのに。もう1つため息をついてから、は踵を返した。家に帰ったら、早速パソコンを開いて場所を突き止めよう。そして、すぐに怪盗 I として警察に予告状を送らなければならない。こんなところで、汚名を着せられるわけにはいかない。まさかこんなことで、一応持っておけ と父に渡された発信機が役に立つときが来るとは思っていなかった。








辻強盗


一緒にしないで


戴けますか