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To Shine
Various contacts
「帰ってくるのも久々だなー」 そう言って、は自宅の玄関のドアを開けた。ただいま というの声に、家の中から反応は返ってこない。も別段それを気にするでもなく、そのままに足を進めて玄関をしめた。今は土曜日の昼時。私立の進学中学校ということでも有名な武蔵森は、中間テスト3日前にさしあたり、全ての部活が部活休止期間に入っている。もいつもならば部活をしているところを、こうやって家に帰ってきていた。しかし、それでも土曜の昼。父は会社に行っているし、母は仕事上平日も土曜も関係ないだろう。弟もクラブへと行っている。つまり、今誰も家にいないのは当然のことだった。 それでも、両親はが帰ってくるということで遅くならないで帰ると言ってくれたし、弟もなんだかんだで寄り道はしないで帰ってくるのだと思う。ただし、それまでの時間、ただ家にいるのも暇だし、何よりサッカーをしていないということがにとっては不自然すぎた。きっと寮に残っているサッカー部の面々は、後でまた赤点だ追試だと嘆くことなど考えもしないでボールを蹴っているのだろう。そうして、寮にいないは、ならばと思って用具を手にして家を出た。 「あれ、?」 「お、久しぶりだな」 「どーも、ご無沙汰っス」 は自転車をこいで、少し遠いけれど昔から馴染みのあるフットサルコートへと出向いていた。武蔵森に入る前から、ちょくちょくこのフットサルコートへやってきていたは、常連としてこのフットサルコートへと来ている人の中には顔見知りも多くいる。けれど、混ぜてもらうにしたって、顔見知りではなくとも4人組のところへ入れたほうがいい。そう思いながら、は回りを見渡した。 「アンタ、1人?」 そんなとき、ふとかかった高くはないけれども低くもない声に、が振り返る。そうすればの前には、同い年くらいの少年4人がたっていた。整った顔の小柄な少年に、色黒で目つきの悪い少年、いかにもガタイのいい少年2人。ぱっと見た感じ、少しおかしな組み合わせにも見える。 「あぁ、そっちは4人?」 「そ。いつものメンバーが1人いなくてね。入らない?」 「喜んで」 願ってもないその申し出に、は笑顔を浮かべて頷いた。年代も同じだろうし、こんなにすぐ見つかるなんて運がいい。そうすれば、同じく彼らも顔を見合わせながらよし、と笑う。そうして、彼らのうちの1人、綺麗な顔をした少年が口を開いた。 「じゃぁよろしく。僕は翼」 「マサキ。」 「五助だ」 「俺は六助」 「俺は。よろしくー」 お互いに笑顔で自己紹介を済ませて、手ごろな相手とコートを探す。その中で、翼はチラリとへと視線を向けた。高い身長、しっかりとした身体。足にも綺麗に筋肉がついている。身長もあるから、鍛え始めてるんだろうな なんて思いながら、翼はすでに自分たちに馴染み始めたに面白そうだと小さく笑った。 「お疲れー」 空も赤くなってきたころ、かなりの数のゲームをこなしたたちが、自販機で買った缶ジュースを軽くぶつけ合う。一気に飲み干せば、何でもないのに笑いが起きた。これも、この数時間で慣れ親しんだ結果だった。 「いやー、やるなぁ、みんな」 楽しそうに笑って、が言う。フルコートじゃないとはいえ、スピードも読みも、一般中学生レベルじゃない。どこのチームだろうか。この感じだと、クラブチームの繋がりや、たまたま一緒にやっているというものではないだろう。どこかの、中学チームだ。それにしては、顔を見たことがない。これだけ個々の能力もあるのなら、大会でも上位に食い込んでくるだろうに、顔に見覚えがないのはおかしなことだとは思った。もしかしたら大会には出ていないのかもしれない。もし上位に進んでいたら、特に翼などは、その容姿なんかも相まってきっと有名なはずだ。リーダーシップも統率力も、並大抵のものじゃない。もしかしたら翼とはポジションかぶってるかな、とは思った。それはそれで、面白いとも思いながら。 「そういうこそ。やるじゃん」 こちらも楽しそうに、翼が言う。翼とて、そこそこの力はあるだろうと見込んでに声をかけたのだったが、その実力は予想以上もいいところだった。もしかしたら高校生かもしれないとも思ったけれど、自分たちとの絡みの様子や話題からして、きっと中3といったところだろう。クラブチームか、自分たちは中学大会にまだ出場していないためわからないが、強豪中学に所属しているのかもしれない。そんなことを思いながら、翼は隣に座るに声をかける。 「なぁ、ってポジションどこ?」 「んー? センターバック」 翼の言葉に、少し間を空けて、翼を正面から見てから挑戦的に笑ってみせる。そんなの様子に、翼もニッと笑った。そんなたちの外で、マサキたちが視線を交わす。 「翼は?」 「僕も、センターバックだよ」 わかっているように聞いたに、あえてはっきりと翼が返した。人にも寄るが、ライバルの存在というのは大きいものだ。きっといいライバルなのだろう相手に、と翼はお互い笑みを浮かべた。 その後は、もう1ゲームやってから、解散ということで、は翼たちとわかれた。また一緒にやろうなと約束をして、連絡先も交換して、帰路に着く。登録したアドレスを確認しようと携帯をみると、藤代からのメールが届いていた。どうして今日はサッカーしにグランドへ出てこなかったのか、というもので、その内容に、やっぱりサッカーしてたんだな と納得しながら、家に帰ってるんだ とメールを返す。全く、いつも赤点だ追試だで手伝ってくれと騒ぐうちの1人のくせに、またこの展開か と苦笑がもれた。 そのうちに家が目に入れば、弟の部屋と、リビングに明かりがついていた。少なくとも、弟はすでに帰ってきているのだろう。久しぶりだなぁ、と、は少し嬉しくなった。とて、中学生に変わりない。寮生活も3年目となり、普段の生活で寂しいなどと思うことはないが、こうして帰ってくれば、やはり家族は特別な存在に違いない。それに、両親にはセレクションに参加したいという意を伝えておかなければいけない。行けるかどうかは、それからだ。基本的にそういうことには喜んで賛成してくれる家族だけれど、どうだかなぁと思いながらは門を開けた。なんにせよ、とりあえず久々の自分の家のご飯が楽しみだ、と、は笑う。玄関までの数歩が、自ずと早足になった。 |