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君」

春の中学校総合体育大会。関東・全国へと続くものではない春のこの大会は、武蔵森が東京都を制した。こういった大会では、決勝戦が終わって、すぐに授賞式が行われる。無事に授賞式を終え、最後にロッカールームを出たに、声がかかった。聞いたことがあるような声に、は自分が向かう出口側とは反対側へと振り向く。

「榊監督」

やはり面識のあったその人は、ジュニアユースの監督であり、元日本リーガーとしてサッカー界にも名の知れている榊だった。とて、直接教わった経験があるわけではないが、今まで年代代表に呼ばれた経験などから面識はある。そうしてが挨拶をすれば、挨拶と、笑顔が返ってきた。

「優勝、おめでとう」
「ありがとうございます」

が素直に礼を述べる。その行為にはためらいも謙虚さも見られない。自分たちの努力の結果だと自負しているからだ。そうやってにこりと笑うに、榊は楽しそうな声を漏らして、自分の鞄から大きな封筒を取り出した。

「君に、渡したいものがあってね」

渡したいもの ――― それが意味しているのが封筒だということは、にも充分にわかった。けれど、日本サッカー協会と銘打たれた封筒の中身は、もちろんわからない。これは直接渡すほど、重要なものなのかと、そんな疑問を持ちながら、はその封筒を受け取った。

「これって・・・」
「7月にセレクションがある。DFを対象としたものだ」
「セレクション?」

言われた言葉に、が聞き返す。そんなことがあるなんて、初耳だった。つまり、一般応募のものではないということなのだろう。そんななかで、DFが対象のセレクションを持ち出してくるということは、このセレクションへの参加を促されているんだろうなと思いながら、は封筒に視線を向ける。

「セレクションの合格者は1人。選ばれた場合、ドイツのクラブユースへ2週間の期限付き移籍だ」
「・・、え・・」

言葉の内容に、が目を見開く。そういった目的のセレクションは、中学生の間ではなかなか開催されない。稀なものだと言えるだろう。ましてや、ドイツ。驚くの様子に、榊は探るように笑った。

「セレクションへの参加は君の自由だ。サッカー協会の補佐があるとはいえ、お金はかかるからね」

言葉を聞きながら、は、渡されたその厚い封筒を改めてまじまじと見つめた。そうして、封筒を持っている手が、汗ばんでいることに気づく。だってこれは、そう、まさに思ってもないサプライズなことに間違いなくて。

「セレクションは6月の下旬。ドイツへ行くのは7月の下旬だ。詳しいことはその書類に書いてある」

参加は強制じゃない、考えてみてくれ と言って、榊はポンとの肩を叩き、競技場内部への通路を戻っていった。その姿を見送りながら、少し、呆然とする。海外で、海外のサッカーに触れられる。それはすごく大きなチャンスだ。行ってみたい。行きたい。どれだけ通用するのか、本場のサッカーがどんなものなのか、知りたい。そう思って、はぎゅっと封筒を握った。

先輩!」
「・・、藤代?」

ふと、未だ見えなくなった榊のほうへと身体を向けていたに、後ろから声がかかる。少し意識が違うほうへといっていたため、気づくのが遅れたに、声をかけた藤代は不思議そうな顔をした。

「あー・・悪い、待たせた?」
「待ってますよ!ほら、早くいきましょ!」

苦笑するに、少し拗ねたように言ってから、藤代が軽く走りだす。本当に待たせているんだろう、三上あたりが さっさと呼んでこい、なんて藤代に言ったんだろうなと簡単に想像できて、は少し笑ってから、続けて走りだす。
封筒は、バックの中にしまいこんだ。







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