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To Shine
Various contacts
はぁ、と三上は朝からため息をついた。ここは三上が在籍する武蔵森の教室の1つだ。もともと朝はどうも不機嫌になる三上にしてみれば気分が盛り上がらないのはいつものことであるけれど、それにしたってこのクラスは朝から騒がしい ――― もとい、元気だと思う。 武蔵森は、男女共学である。しかし、実際は男子・女子と校舎は分かれているので、ほぼ別学に違いない。そのうえ全寮制という特色があるからか、基本的に、学校としてテンションが高い。そんなことをぼんやりした頭で考える三上の耳に、ガラ、と、教室の扉を開ける音が届く。 「おーっす!」 耳に届く、嫌というほどに毎日聞いている声。そうして、それに返す多くの声。ざわめく教室がより一層騒がしくなる。誰が入ってきたのかなどわざわざ確認するまでもなくて、三上はもう一つ息をついた。そうしている間にも、その声の主の足音は近くなる。 「よっス三上」 「おー」 三上に声をかけて、隣の席へと鞄を下ろしたに、三上もおざなりな返事を返す。そんないつもの三上と変わらない様子に、が面白そうに笑った。それがわかって、三上はへと視線を向ける。 「なんだよ」 「いーや、今日もテンション低いなぁと思っただけ」 「ほっとけ」 三上の言葉にはいはいと返して椅子に座ったの携帯が揺れる。おっと、と声を出してが携帯を手にすれば、ガガガ と直に置いていた机が立てていた音が消えた。少し指を動かしたが、んー と呟く。 「なぁ、今日英語あったっけ」 「あ?あー・・・いや、ねェな」 「んー・・じゃ、いっか」 了承したようにぽちぽちとボタンを打つに、どーした と三上が問えば、藤代が英和辞書貸してだって とが返す。なんでも、2学年全体に出ていた英語の課題をやるのを忘れていたらしい。提出期限は今日の放課後。もちろん部活を休むわけには行かないから、休み時間や授業中になんとかしようという考えにいたったのだろう。ちなみに、みんな課題やるために辞書は部屋に持って帰ってるだろうから、先輩に借りたほうが確実じゃないの と的確なアドバイスをしたのは笠井だった。うち終えたが、ロッカーにある辞書を取るために席を立つ。きっとSHRが終わってからすぐに取りに来るだろうと予測して。と、が教室の出入り口付近に差し掛かると、またもの携帯が鳴る。 「オイ、また藤代だぞ」 「あー、適当に返しといて」 ミニウィンドウに表示された名前に三上がに声をかければ、かえってきた返答に面倒くせェと思いながらも三上はの携帯を開いた。これも全寮制であり男子校のノリだからか、三上もサッカー部のレギュラー組の携帯くらいならだいたいは使いこなせる。それはにも藤代にも言えることだった。そうして開いた藤代からのメールに、三上は は?と眉を寄せる。そこに書かれていたのはあまりにも先ほどから飛んだ内容だった。 「どーした 三上」 「・・・よかったーありがとうございます。あ、あと先輩、去年のミスって誰でしたっけ」 「は?」 三上の棒読みに、が怪訝そうな顔をする。そうすれば、ぽいと今しがた三上が読んだまんまのメールの画面が表示された携帯がに手渡された。たしかに、そう書かれている。 「・・なんでこの話題?」 不思議そうに呟きながら、が指を動かした。去年のミス ――― それはつまり、文化祭で決まったミス・武蔵森のことだ。去年の文化祭といえば、いまから半年以上も前のことで、本当に今更の話題。そう思いながらも、名前を打ち込んで送信ボタンを押す。その様子に、三上が声をかけた。 「覚えてんのかよ?」 「まぁ。俺は準ミスの先輩のが好みだったけどなー」 「・・・・・・」 さらりと返すに、そういえば去年、ミスにエントリーされてる先輩で可愛い人がいるとか言ってたな、と三上はぼんやり思い返す。が別に硬派なわけではないことを三上は知っていた。日常生活や、テレビなんかでも、この子可愛いよな なんて言葉を聞くことはさほど珍しくはないし、女の子にやさしくするのは当たり前だと豪語するやつだ、知り合いの女子だって多かったような。そう思いながら、三上はまた息を吐いた。なんだよ というと、別に と返す三上のもとへ、クラスメートがよってくる。 「なになに、なんの話?」 「ミスの話ー。今年どうなんだろな」 「そりゃ去年のミスは強いだろ」 がクラスメートたちに話題を振れば、話は一気に膨れ上がる。そんな様子を、思いっきり男子校のノリだな なんて思いながら見ている三上のほうが、むしろ硬派かもしれない。 ――― 要は、あまり興味がないというだけの話だが。 「そーいや、B組の鈴木さん、髪型変えて可愛くなったんだってよー」 「え、マジ?もともと俺、鈴木さん好みなんだけど」 「だよなー、の好みっぽい顔じゃん!」 今度の体育のときにでも見てみよーぜ なんて話を進めるとに、他のクラスメートたちも賛同する。ホントにサッカーやってるときと同一人物かよ なんて何度も思ったようなことをまたも思う三上も、結局はその話題に参加させられてしまうのだ。 |