To Shine
Thing necessary for team






「・・・・・・・不破?」

正面にいる不破に、はなんでいるんだ と言いたげな視線を向けた。すべてはその視線のとおりだろう。ここは武蔵森で、今は武蔵森のサッカー部の練習時間。その最中の紅白戦のキーパーとして、どうして桜上水の不破がいるんだ?つーかなに、みんなこの状況に対してなんも思わないわけか?驚いたように不破に視線をやるに、不破が、か と気づいたように声をかける。

「DFだったのか?」
「あぁ、まぁ。ってか何してんだ?」
「GKだが?」
「・・・いや、そうなんだけどさ」

そういうことを聞いてるんじゃなくて、といいかけて、はふぅとため息をついた。この前あったときから、どうもこの不破という少年は人とは観点が違うというか ――― ともかく、そんな少年だということを知っていた。だからこそ、何か理由があってきたんだろうなとは自分で自己完結させて、まぁいいか と小さく呟いた。
けれど、放っておくわけにもいかなくなったのはゲームが再開してからだった。誰かがボールに触るたび、不破からはスラスラとその人物のプレーの欠点が告げられる。言い方にこそ問題がある ――― というよりは、もう少しやりようがあるだろうとは思うけれども、これだけの短時間の間にそれほど見抜くなんて とは半ば感心していたのだが、言い過ぎたらしい不破に向かってチームメイトが騒ぎ出してしまえば黙認し続けるわけにもいかない。さて、どうしようか とは思う。放っておくのも手ではある。けれど、今は部活中だ。そう思って、後ろで起きていた騒ぎのほうに振り向いた。

「はいはい、ストップ!」

の声に、一瞬騒ぎが静まる。それほどに大きい声を出したわけではないが、よく通るの声は、喧騒の場にもしっかりと響いた。さらには武蔵森のDFの要、地位としてはキャプテンの渋沢や10番の三上と並びトップを張っている。そのの言葉に、武蔵森のメンバーは押し黙った。

「とりあえず、今はやめとけって」

軽く苦笑を浮かべて息を吐きながら言うに、武蔵森のメンバーは顔を見合わせ、に声を返してしぶしぶその場を離れようとした ――― はずだった。しかし、この状況はそれでは終わらない。不破が、口を開いたためだ。

、余計な手出しは無用だ」

いつもの調子で不破が言う。あのなぁ と苦笑したに対して、不破と揉めていた武蔵森メンバーは足を止めた。そうしてを慕う彼らの怒りを買った不破は、またも騒ぎの中心となる。その様子に、は今度こそため息をついた。反対のゴールから騒ぎの元へとやってきた渋沢に、なぁ と呼びかける。

「俺、もうこの騒ぎ流していい?」
「それはまずいだろう」

横に並んだ渋沢にやる気なさそうにが言えば、渋沢は苦笑して返す。まったく何をやってるんだ と呟く渋沢に、後は頼んだ とがひらひらと手を揺らす。そんなにもう一度軽く苦笑してから、渋沢は騒ぎの中に入っていった。

「何を騒いでる!」

まさに鶴の一声といったように、一気に静まったその騒ぎを前に、渋沢の次にキャプテン継ぐやつは大変だよな とは一人違うことを思った。




その後、渋沢が不破を連れて一時部活を抜けるといったこともあったが、無事に終わった部活の後、いつものように三上と今日の紅白戦がどうだこうだと話しながら練習をあがろうとしたのところに、藤代が走ってきた。1人でではない。何人もをつれて ――― というよりは、追われて、だ。

先輩!」
「・・・・お前何こんな引き連れてんだよ」

その人数に、呼ばれたも、横にいた三上も、怪訝そうな顔をする。そんな先輩2人に、なに言ってんスか!と藤代が言った。その表情には、幾分かの拗ねが見える。

「キャプテンが、不破のことの原因は俺だとか言ったからっスよ!」
「・・そりゃーお疲れ」
「でも先輩だって気づいてたんでしょ!?」
「まぁ、そうだけどな」

藤代の言葉に、バッとに視線が集まる。そんな視線に、いやいや と最初はおどけていたも、そのメンバー全員を見回して一つ息をつく。

「・・・お前ら、アイツの話はちゃんと聞いたか?」

驚いたような表情の藤代。ただ自分を見ている三上。他の全員には困惑の色が浮かんでいるのが、にはひしひしとわかった。それもそうだろう、これは突然だから。けれど、これじゃぁダメだ と思った。いい機会だと、思った。
ここで言わなければいけないと思った。

「アイツの言ったことは当たってる。そこが、弱点だって言うのは、俺も感じる。」
「・・・?」
「・・・・夏大まで、もう時間はないんだ。不破に言われたことに怒るよりも、指摘されたことを考えろ。それを埋める努力をしろ。」

夏大会。その重みは、わかっているはずだ。3年はもちろん、2年だって、1年だって。
第三者の立場から、的確なことを言ってくれた不破に、正直なところ、は感謝していた。 自分はもう3年目で、3年生で、もうこのチームの中核をになっていることはわかっていたから。だからこそ、どう転ぶかわからないこの賭けに出るキッカケが、なかなか掴めずにいたから。でも、言わずにこのままでいるというのが出来ないことは、感じていたから。だから、こうして言ってくれた不破に。きっかけを作ってくれた、不破に、感謝していたのだ。

「キツいこと言うようだけど・・・俺は、アイツと同じ意見。」

こんなこと、言いたくはないけれど。ここにいるみんなの気持ちも、わかるけれど。これからどうなってしまうかなんて、わからないけれど、でも。


「このままじゃ、全国なんて・・・行けねぇよ」


この武蔵森で、勝つためにやってきた。みんなの気持ちが同じだと、信じたい。みんな、ここで勝ちたいんだと。そう、思いたい。だからこその言葉を言って、はもう一度だけ呆けたような顔をするメンバーを見てから、視線をはずして首にかけていたタオルをするりととった。

「・・・・・お先。」

一言だけ言葉をかけて、はそのままグランドを離れていった。その後ろ姿は、彼らにとって、何故だか初めてみたようなの姿だった。東京都の強豪、武蔵森の4番の姿。

「・・・詳しいことは知らねぇけどな。俺もと同じ意見。」

そんなを横目で見ながら、部員たちには顔を向けないままで、三上は口を開いた。三上は今回の騒ぎとは直接関わってはいないけれど、なにがあったのかは既に察していた。彼らはその声に、無意識のうちに俯いていた顔をあげて三上を見る。それでも三上は、彼らを見ないままで言葉を続けた。


「渋沢の力だけで勝つのか?か?藤代か?・・違ぇだろ。武蔵森全体の力だろうが」


片手に持っていたボトルを近くのベンチに置いて、そのままに三上もグランドを出て行く。やはりその姿に被るのは、彼のプレイヤーナンバー、10番だった。
藤代は、その2人の姿に小さく目を細めた。眩しいまでの、思い。強い、気持ち。1つしか離れていないはずの先輩たちが、とても遠く感じた。あぁ、やっぱりあの人たちはすごい ――― そんなことを思いながら、藤代はその姿を見送った。

「・・・・・・そう・・・だよ、な」

その場の中から小さく聞こえただした声に、藤代は改めて確信する。やはり武蔵森は、あの人たちがいるから成り立っているんだ、と。そう思って、藤代はいつもよりも心なしか嬉しそうな笑顔を浮かべた。







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