To Shine
Thing necessary for team






「・・・・・・やっちった、なー」

ポツリと呟いた一言は、静かな1人部屋には嫌に響いた。どうせなら言葉にならずに消えてくれればよかったのに、なぜかしっかりとした声で出てしまったものだから今更かき消すこともできずに。さぁ、どうしたもんか。



「おーっす三上!」
「・・・・おぉ」

不破の騒ぎの翌朝。いつものように笑顔でテンションの高い朝の挨拶を交わし、いつものように席に座る。そんないつもと同じに、三上はわずかに眉をひそめた。なんだかんだと言ったところで、は最終的には他人思いのお人よしだということを、三上は知っていた。そのが、昨日の今日でいつもと変わらずにいるわけがない。自分が間違っていたとは思わなくても、多少気にはしているだろう。それが、という人間だ。そう考えて三上は、それでも予想範囲内だったの言動に、ひとつ溜め息をついた。

は、嘘が上手い。これは、三上が以前から思っていたことだった。嘘をつくというよりも、本当のことを言わないし、見せないし、わからせない、ということなのだろう。こちらから突きにいかない限り、最後までわからないことが多いのだ。何度それに騙されてきたことだろうと三上は思う。3年目となって、きっと一緒に居る時間が一番長い自分でさえも、きっとが言わないことで、自分がわかるのは全体の5分の1程度なのだろうということも、三上はわかっていた。今回は、ちょうどその20パーセント内のことだった。何しろ、自分はその現場に立ち会っていたのだから。


「んー?」
「お前が気にすることじゃねぇよ」
「何が?」
「とぼけてんな。これはお前だけの問題じゃねぇだろ」

三上の言葉に、くるくるとシャーペンを回していたは手の動きをとめて、いつもどおり盛り上がっているたちから視線を三上へと向けた。

「どっちにしろ、突き当たんなきゃいけねぇ問題だったからな。それは俺も、渋沢も思ってた。ふっかけたのがお前だったってだけの話だ」
「まぁなー・・でも、タイミングあんまよくなかったかもと思ってさ」
「そんなこともねぇだろ」
「・・・んー・・・ちょっと引っかかることあんだよな、俺」

言って、はまたシャーペンを回しだす。確かこれは、が考えごとをするときの癖。そんなことを思い出して、依然くるくると回るシャーペンに、三上も怪訝な顔をした。

「引っかかる?」
「・・・・や、大したことじゃねぇんだけどな」

少し考える仕草を見せてから、ひとつ笑ってペンを置いたに、これ以上言っても言わないことを今までの経験から理解して、三上は諦めたように小さく息を吐いた。三上はガタンと椅子を引いて足を組んで、に向けていた視線をたちへと向ける。

「まぁ、あの後俺もふっかけたし。気にすんな」
「・・・は?お前もやったの?」
「おぉ」

三上の言葉に、虚を突かれたように三上を見るに、三上は面倒くさそうにはき捨てた。その様子に、驚いていたの顔にはしだいに笑みが浮かんでいく。そうして、そのままガバっと三上の首に腕を回した。

「ってなんだよおまえ!」
「やっぱお前はうちの10番だな!」
「オイちょ、絞まってるっつーの!!」
「よし、今日は昼は焼きそばパンでも奢ってやる!」
「人の話聞いてんのか!?」

ざわめく教室の一角で噛みあわない会話が続く中、武蔵森学園にはHRを告げるチャイムが響いていた。



――― で、どうしたわけ、この盛り上がりは」
「・・・・さぁな」

その日の放課後、あきらかに士気をあげて練習に取り組む部員たちの姿に、と三上はわからないといったように呟いた。 ――― もちろん、表面上では、という話であって、この状態の原因なんて、わかっている。2人の隣でキーパーグローブをつけながら、まぁよかったじゃないか と渋沢が笑う。渋沢も当然、部内でなにが起きていたかはわかっていた。そんな渋沢の言葉に、と三上も小さく笑う。

「まぁ・・みんな、気持ちは同じってことか」
「・・だろーな」
「俺たちもがんばらないとな」

相変わらずの笑顔で言う渋沢に、それぞれが おう と言葉を返して、今日も武蔵森のサッカー部の練習が始まる。どうやら、この賭けは ――― 成功したようだ。







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