To Shine
Player number "10"






桐原に直接抗議をしにいった夜、は一人部屋である自分の部屋の開け放した窓から、外を見ていた。そんなの目に、ひとつの人影が映る。けれど、たった今、寮を出て行った人影 ――― 三上を、止める気はなかった。止めたところで聞かないだろうことはわかっていたし、三上がこの行動にでるのは当たり前だろうと思う。だってそう、自分でも同じことをしたはずだ。そう思って、三上を見送った。その人影が門を出て行くのを見届けてから、はその窓を閉じた。そうして考える。今までのこと、桐原が言っていたこと、それから、自分の気持ち。ひとしきり頭の中で整理してから、はそろそろ行くか と机の上に置いてあった団扇を手にとって、部屋を出た。向かうは、きっと ――― 三上が脱出口にした、あの場所。



大浴場の扉の前で、壁にもたれるようにしながら、は腰を降ろした。水場の近くだからだろうか、そこはなおさら湿度が高くて蒸し暑い感じがして、はぁ とため息をつきながらは団扇を仰ぐ。自分は、三上を行かせて何がしたかったんだろう。何をさせたかったんだろう。少なくとも、あいつが納得のいくように ――― それ以前に、監督は何を考えているんだろう。どうして、いきなりあんなことを。することがなくなってしまえば考えだけはぐるぐると進んでいって、さっき整理したはずの考えさえもまたばらけていって、意識せずに動かしている団扇から送られる風さえも少ししか感じない。その思考を止めたのは、にかかった声だった。

「・・・?」
「・・・・渋沢。」

驚いたように目を開いている渋沢の手に 本が納まっているのを目にして、は少し見開いた目を細めて小さく口元を吊り上げた。彼も三上を迎えるために、ここに来たのだろう。よ とが団扇をあげて渋沢を迎えれば、渋沢も理解したように苦笑を返した。そうして、渋沢はの隣に立ち壁に背を預け、口を開く。

「見ていたのか、
「まぁな。渋沢もお迎え組だろ?」

立っている渋沢を面白そうに見上げてからかうように言ったに、渋沢は たしかに と笑いかえした。渋沢もも、つまりはきっと水野のところへ行ったのだろう三上を迎えるために、ここに来たということはお互いわかりきっていた。けれど渋沢は、自分の横で床に腰を下ろしているにちらりと目をやってから、ところで と声をかけた。

「行ったのか?」
「・・・なんだ、キャプテンにはお見通し?」
「そうでもないがな。」

渋沢の質問に少しだけ間を空けて、は呟いた。桐原に直談判をしたことは まだ誰にも言ってはいない。だと言うのに やっぱりわかってしまうものかと思って、は自分のチームのキャプテンに小さく笑う。そんなに、渋沢も目を閉じながらやわらかく笑った。同じく桐原監督のところへ聞きに行こうと思っていただけにわかったというのも大きい。それで、と渋沢はに切り出した。

「監督は、なんて?」
「・・10番は竜也だ だとさ」
「・・・・」

の言葉に、渋沢はやはりか というように息を吐いた。渋沢とて、桐原がどういうつもりなのか 検討がついていないわけでは決してなかった。けれど、本当にそんなつもりなのか と思う気持ちがあるのは否めない。そうして黙った渋沢をちらりと見上げてから、だけど とが口を開いた。渋沢も、それにあわせて目線を下げる。

「俺は、三上以外の10番なんて認めない」
「・・俺もだ」

そのの言葉に、渋沢がゆっくり、けれどはっきりと頷いた。その同意に、はそっか と口元を上げる。それは、安堵感から来たものだったかもしれない。渋沢だって、三上がいなくちゃいけないと、そう思ってる。それを確認して、はゆっくりと立ち上がって、隣の渋沢へと顔を向ける。そうすれば渋沢も同じようにへと視線をやって、目を合わせた二人はお互いに笑みを浮かべた。

「俺たちにこんなに想われて、三上は幸せモンだよなぁ」
「全くだ。」

面白そうな笑い声が響くその廊下で、大浴場のドアが開いたのはそれから20分後のことだった。







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